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大いなる断絶:投資家は意見の相違の中に投資機会を見いだせるか?

大いなる断絶:投資家は意見の相違の中に投資機会を見いだせるか?
〔要旨〕
断絶が山積みの状況に:今日の市場環境では、さまざまな問題に対する不確実性をもたらす断絶が非常に多く存在
断絶は必ずしも否定的なものではない:相反する期待感の隔たりが解消されれば、それは投資のチャンスとなる
 
現在みられる5つの断絶

①景気後退、②インフレ、③米国の消費者、④欧州の金融政策、⑤投資家心理—の中に見られる断絶について考察

今週の注目ポイント

米連邦公開市場委員会(FOMC)と決算発表に注目

 

最近、コミュニケーションや合意の相違を表す「断絶」という言葉をよく耳にするようになりました。個人的にも、そう思うことがありました。私は、娘と2つのバスケットボールのトーナメントに9日間立て続けに参加し、帰宅したところですが、そこで、私の考える「きれいな家」と、1週間以上留守番をしていた夫と10代の息子2人が考える「きれいな家」との間に、大きな断絶があることに気がつきました。

しかし、断絶は必ずしも不快なものではありません。市場では、多くの投資家が断絶を歓迎しています。なぜなら、相反する期待感の隔たりが解消されれば、それは投資機会となるためです。そのとき、現実を見越した投資行動をとることで、投資家は戦術的な利益を得ることができるかもしれません。

 

現在みられる5つの断絶

①景気後退、②インフレ、③米国の消費者、④欧州の金融政策、⑤投資家心理—の中に見られる断絶について考察

現在の市場環境では、さまざまな問題に対する不確実性をもたらす断絶が非常に多く存在します。ここでは、そのうちの5つを取り上げます。
 

1.景気後退
米国国債市場ではすべての長短金利において逆イールドが発生しているわけではないことや、米失業率が低水準にある一方で多くのエコノミストが米国の景気後退を予想しているなど、大きな差が見られる

米国は景気後退入りするのでしょうか?その問いには、間違いなく見解の相違があります。例えば、米2年国債利回りが10年国債利回りを上回っており(逆イールドの発生)、米国が景気後退入りすることを示唆しています。一方、米3カ月国債利回りと米10年国債利回りは反転していないため、少なくとも現時点では、景気後退を示唆しているわけではありません。また、BBB格スプレッドは急速に上昇すると景気後退を示唆する傾向がありますが、ここ数週間をみると、200ベーシスポイントを下回る水準まで低下しています 1 。さらに、米国の失業率は非常に低い水準にありますが、フィナンシャル・タイムズとシカゴ大学のイニシアチブ・オン・グローバル・マーケッツ(IGM)が6月に行った共同調査では、70%近くのエコノミストが、米国は今後1年間に景気後退に陥ると予測していることが明らかになりました 2 。各地区連銀の景気後退予測でさえも異なる状況です。例えば、アトランタ地区連銀の経済予測モデル「GDPナウ」は、2四半期連続で米国内総生産(GDP)がマイナス成長に陥るとしており、テクニカル・リセッション(2四半期連続のマイナス成長)入りの可能性が見られます 3 。一方、セントルイス地区連銀による「リアルGDPナウ」とニューヨーク連銀による週次経済活動指数(WEI)は、経済成長は減速しているものの、まだ比較的底堅いことを示唆しています 4

2.インフレ
米消費者は高インフレを一時的と考えているもよう

米国のインフレについても見解の相違があるようです。最近のミシガン大学の消費者調査だけでなく、ニューヨーク連銀の調査でも、米国の消費者による長期的なインフレ期待が大幅に改善されたことが明らかになりました。しかし、これは消費者物価指数が予想を上回った後に出されたものであり、一部の人々に混乱を招きました。この場合、この相違はおそらく時間的なずれに関連しており、消費者は高インフレを比較的一時的なものと考えているようです。

3.米国の消費者
米消費者心理が悪化している一方で、消費者の金融面での健全性が保たれていた、との指摘も存在

米国の消費者に関しては、間違いなく隔たりがあります。当期の決算を発表した多くの金融関連企業では、消費者心理が悪化しているにもかかわらず、米国の消費者は金融面での健全性を保っていると指摘しました。例えば、消費者金融サービス大手のシンクロニー・ファイナンシャルの決算報告では、「消費にせよ、信用にせよ、あらゆる側面から見て、現時点でも消費者は本当に強い 5 」としています。また、金融大手のバンク・オブ・アメリカは、「米国の消費者は依然としてかなり回復力がある」と報告しました 6 。ミシガン大学の消費者信頼感指数が6月に過去最低の50を記録した 7 ことを考えると、米国の消費者の断絶はグランドキャニオンのように広いようです。

4.欧州の金融政策
欧州経済が陰りを見せる中、ECBは0.50%の利上げを実施。その一方で、金融の安定性を保つと期待される新たな政策を打ち出す

先週、欧州中央銀行(ECB)が0.50%の利上げに踏み切り、市場を驚かせたことが最大の断絶となったようです。私は、欧州経済が陰りを見せ始めていることから、ECBはインフレ対策と景気後退の回避という相反する利害を考慮し、より慎重に行動すると予想していました。しかし、ECBのラガルド総裁は、「エネルギーや食品価格の継続的な圧力と、価格連鎖におけるパイプラインの圧力により、インフレは当面、好ましくないほど高い水準にとどまると予想している。・・・われわれが提供できる、そして提供しなければならない最も重要なことは、中期的にインフレ率を2%まで低下させることだ 8 」と述べました。欧州のインフレは需要よりもコモディティ価格に大きく左右されているため、ECBのコントロールの及ばないところですが、景気後退が起きるかどうかは間違いなくECBの行動に左右されます。ユーロ圏の総合購買担当者景気指数(PMI)が6月の52から7月に49.4に低下し、好不況の分かれ目となる50を下回ったことは特筆すべき点です 9 。S&Pグローバルのエコノミストのクリス・ウィリアムソンは、「ユーロ圏の企業活動は7月に縮小に転じ、先行指標も今後数カ月間の悪化を示唆しており、7-9月期に縮小する可能性が高い」と指摘しています 10 。さらに、イタリア首相のドラギ氏が辞任し、ユーロ圏第3の経済大国であるイタリアに指導者の空白ができたことも、不確実性を高めています。

また、ECBは利上げに加え、新たな政策を打ち出しました。ECBは、市場の細分化(フラグメンテーション)を防ぐツールである伝達保護措置(Transmission Protection Instrument)を導入しましたが、私募証券を含むなど、その対象を驚くほど広く定めたことは、金融の安定にプラスに働くと考えられます。さらに、ECBはパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の再投資の延長と、その再投資に関する柔軟性を発表しましたが、これは必要があればストレス下にある特定のユーロ圏の国への支援に的を絞って使用できることになっており、これも支援材料となるでしょう。

5.投資家心理
米国のファンド・マネジャーに関する調査から、株式の配分の大幅な低下や高水準の現金比率が明らかに

私は、バンク・オブ・アメリカが実施した直近のファンドマネジャー調査に、さらにより大きな断絶が見られたように考えます。バンク・オブ・アメリカは、この調査結果を「投資家の悲観的な見方 11 」と位置付けています。その主な内容は、株式の配分が2008年の世界金融危機以来の水準に低下していること、ポートフォリオに含まれる現金比率が過去20年以上の水準に上昇していることです。私は1995年後半に金融業界に入ったため、さまざまな市場環境を直接目にする機会がありました。それを踏まえると、私は現在の市場環境は、不確実性と逆風に満ちているとはいえ、世界金融危機のようなものでは全くないと安心して言うことができます。投資家が、株価が急落する前であった年初よりも悲観的になっているのは、皮肉なことです。以前から申し上げているように、私は、世界の株式市場はさらに下落する可能性があるとみていますが、同時に、すでにチャンスが訪れつつあるとも考えています。私は、今年後半のどこかでこの溝は埋まると考えており、それは、株式に適切なエクスポージャーを持つ分散されたポートフォリオを維持している人々にとって有益であると期待しています。
 

要するに、投資家は断絶を探し、それを利用することで利益を得ることができると考えます。そして、この不確実で悲観的な環境では、断絶に事欠きません。

 

今週の注目ポイント

今週は、米連邦公開市場委員会(FOMC)と決算発表が主な注目ポイントとなります。(ミシガン大学とニューヨーク連銀の調査による)消費者による長期インフレ期待の大幅な低下は、カナダ中銀に続いてFRBに対して1%の利上げを求める圧力を弱めたことから、市場にとって歓迎すべきニュースでした。重要なのは、FRBの将来に関するメッセージ、特に今年後半にあまり積極的でない引き締め路線に移行する可能性です。FRBはデータに非常に依存した政策運営を実施していることから、これは比較的早く起こる可能性があると私は考えています。インフレ期待の低下とインフレのピークについてだけではありません。7月の米国のサービス業購買担当者景気指数(PMI、速報値)は約2年ぶりの低水準となり、景気は急速に悪化しています 12

今週は決算、特に大手ハイテク企業の決算が多く予定されており、重要な週となりそうです。決算はさえないが、懸念されるほど悪くないという、これまでと同じ流れが続くと見込まれます。ただし、これらの企業の中には例外もありそうです。すでに決算を発表したハイテク企業の今期の利益成長率が1.4%であることは注目に値すると思います 13 。興味深いことに、「買い」の評価が最も高いセクターはテクノロジー・セクターとなっています 14

 

  1. ICE Bank of America BBB US Corporate Index Option-Adjusted Spread、セントルイス連邦銀行経済データ(FRED)、2022年7月22日
  2. 出所:フィナンシャル・タイムズ、“Economists warn US set for recession”、2022年6月13日
  3. 出所:アトランタ連邦銀行、2022年7月8日
  4. 出所:セントルイス連邦銀行、ニューヨーク連邦銀行、2022年7月7日
  5. 出所:Brian Doubles、Synchrony President and CEO、Synchrony earnings call、2022年7月19日
  6. 出所:Brian Moynihan、Bank of America CEO、Bank of America earnings call、2022年7月18日
  7. 出所:ミシガン大学消費者調査、2022年6月24日
  8. 出所:欧州中央銀行(ECB)、2022年7月21日
  9. 出所:S&P Global Composite Euro Area、2022年7月21日
  10. 出所:S&P Global Flash Eurozone PMI Press Release、2022年7月22日
  11. Bank of America Fund Manager Survey、2022年7月19日
  12. 出所:S&P PMI、2022年7月22日
  13. FactSet Earnings Insight、2022年7月22日
  14. FactSet Earnings Insight、2022年7月22日

 

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MC2022-102