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中央銀行にとって、0.75%は新たな0.25%

中央銀行にとって、0.75%は新たな0.25%
〔要旨〕
中央銀行は大幅な利上げを容認:欧州とカナダでは0.75%の利上げが実施され、市場は米連邦準備理事会(FRB)がこれに続くと予想
より小幅な利上げが望ましいのか?:今後、中央銀行は、より小幅な利上げを行うことで、各国経済に影響を与えるあらゆる要因を考慮して金融政策を調整しやすくなる可能性がある
 
中央銀行は0.75%の利上げを実施
財政刺激策により状況が複雑化
ポジティブなインフレ報告は重要か?
結論

 

私は、「オレンジは新しい黒です(人気ドラマのタイトル)」という表現には全く同意できませんが、「50歳は新しい30歳(寿命が延びたことで、今の50歳は昔の30歳程度の若さ、という意味の慣用句)」という表現は耳にしたことがあるだけでなく、受け入れられる年齢になっています(実際そうでしょう?)。今このタイミングに(少なくとも金融政策に関して)当てはまる新しい表現を思いついたので発表しますと、「0.75%は新しい0.25%」です。中央銀行は、大幅な利上げをまるでキャンディーでも配るかのように行っています。

残念ながら、この中央銀行の方法にはいくつか問題があると思います。最も重要なのは、利上げの影響が経済データに表われるまでに時間がかかることです。私は、中央銀行が0.75%の利上げを複数回行っていけば、ツールとしての金融政策の効果が鈍り、むしろ過剰となるリスクがある点を懸念しています。

 

中央銀行は0.75%の利上げを実施

欧州中央銀行(ECB): 欧州中央銀行(ECB)は8日、0.75%もの大幅な利上げを決定しただけでなく、今後も利上げを継続する意向を示しました。週末にさまざまなECB高官から非常にタカ派的な発言がなされたため、この姿勢はさらに強固になりました。特に印象的だったのは、利上げはインフレ期待を安定させるため、と説明したデギンドスECB副総裁のコメントです。これに対して私は、インフレ圧力の大部分はエネルギー価格から生じており、ECBの言動よりもロシア・ウクライナ紛争の状況がインフレ期待に大きな影響を与えているのではとの所感を持たざるを得ませんでした。いずれにせよ、ユーロ圏経済の脆弱(ぜいじゃく)性を考慮すれば、ECBは、大幅な利上げを行うことで大きなリスクを冒しているように見えます。

カナダ銀行(中央銀行): カナダ中銀(BOC)は、前年比インフレ率の大幅な改善が確認されているにもかかわらず、7月の1.0%の利上げに続き、7日も0.75%の利上げを決定しました。そしてECBと同様に、マックレムBOC総裁は、「政策委員会は政策金利のさらなる引き上げが必要と判断している」と述べ、今後も利上げを継続すると示唆しました 1 。その理由は利上げの「前倒し」の考え方にあります。ロジャースBOC上級副総裁は8日、「今利上げを前倒しで行うことによって、今後さらなる利上げの必要が生じ、経済がより大きく減速する状況を回避する狙いがある」と説明しました 2 。カナダがユーロ圏と全く異なる状況にあるのは事実であり、大幅な利上げにもより耐えられるであろうことは確かだと考えられます。しかし私は、遅れてやってくる利上げの影響が必要以上に経済に悪影響を与えることを懸念しています。これは「病気そのものよりも治療の方が悪影響を与えうる」ケースになるかもしれません。

米連邦準備理事会(FRB): 次に米国です。市場は、米連邦準備理事会(FRB)の発言もあいまって、FRBが9月に0.75%の利上げを行う可能性が高いと予想するようになりました。インフレが緩やかになり、長期的なインフレ期待がアンカーされてきている(一定の水準に維持されてきている)にもかかわらず、大幅利上げの期待は根強くあります。私は、米国経済は失業率が非常に低い水準にあり、依然として基本的に健全であると考えます。しかし、FRBはこれまでの引き締めの悪影響が経済に現れるには時間がかかることをあっさりと認めています。例えば住宅に関しては、住宅ローン金利の大幅な上昇の初期効果がようやく表れ始めたばかりです。

 

財政刺激策により状況が複雑化

もう一つの問題は、一部の国で金融引き締めと同時に財政刺激策を実施しようとしていることです。これは英国のトラス新首相が、エネルギー価格の高騰による家計への経済的圧迫を軽減するため、大規模な財政刺激策の実施を公言したことに見てとれます。またユーロ圏では、価格の上限設定から補助金、省エネルギー、配給制まで、国ごとにおのおので財政・規制措置を組み合わせた取り組みが行われており、中には消費者に課されるエネルギーへの付加価値税を引き下げるところもあります。こうしたことが、中央銀行にとって状況をはるかに複雑化させています。

私は、中央銀行がより小幅な利上げを行うことで、各国経済に影響を与える他のあらゆる要因を考慮して、金融政策を調整しやすくなる可能性があると考えます。

 

好ましいインフレ報告は重要か?

世界中が、9月13日に米国が公表するインフレ指標を待ちわびています。消費者物価指数(CPI)が予想以上に好ましい数値になるとの見方が、ここ数日の市場を活気づけています。9月12日にはニューヨーク連銀の消費者調査が公表され、消費者のインフレ期待が非常に大きく低下したことが明らかとなりました。1年先のインフレ予想(中央値)は7月の6.2%から8月は5.7%に、3年先のインフレ予想(中央値)は7月の3.2%から8月は2.8%に低下しています 3 。しかし、0.75%の利上げが既成事実化されている状況で、CPIが市場が予想するような良い数値であったとしても、本当にそこまで興奮するようなことなのだろうかと思わずにはいられません。私のある同僚が秀逸なたとえをしていましたが、朝シャワーを浴びてお湯が冷たすぎることに気づいた時、温度を調節するためにゆっくりとハンドルを回すのではなく、いきなり逆方向に全開にハンドルを回して、やけどをするようなものではないでしょうか。

最後に、思い出していただきたいのですが、2015年に、長年の超低金利政策を経て市場参加者がFRBの利上げ開始を待っていたとき、一部のエコノミストは、FRBが混乱を招かず徐々に引き締めプロセスを開始するため、0.125%の利上げから始めるのが適切と主張していました。現在、FRBは量的引き締めを強化する一方、0.75%の利上げを連続して実施しています。インフレ率が2015年当時と全く異なる水準にあるとはいえ、FRBと一部の中央銀行の対応が過剰ではないかと思わずにはいられません。

私の好きな90年代のシットコム(シチュエーションコメディ。米国のテレビ放送されるコメディドラマのタイプ)の言葉を借りれば、「まぬけな楽観主義者」と言われるかもしれませんが、私は、FRBが経済データを重視するとの姿勢を維持し、9月の利上げが0.5%にとどまる可能性がまだ十分にあると考えます。もしそうならなかった場合は、直後にFRBがタカ派的でない姿勢に転じることを望みます。短期間に多くの引き締めが行われ、米国経済は今のところよく持ちこたえているものの、FRBが現在のタカ派路線を継続した場合、悪影響が蓄積されていくことを懸念しています。

 

結論

中央銀行は「0.75%を新たな0.25% 」と考えているようですが、私はそのような考え方が変わることを願っています。ハードランディングを回避するには、データ重視と調整の考え方が重要だと私は考えます。言い換えれば、中央銀行による「前倒し(フロントローディング)」はもう十分で、0.25%ずつの利上げに戻るべき時なのかもしれません。これからは、「フロントローディング(前から入れる方式)」は食器洗い機だけで十分でしょう。

 

  1. 出所:カナダ銀行(中央銀行)、2022年9月7日
  2. 出所:カナダ銀行(中央銀行)、2022年9月8日
  3. 出所:ニューヨーク連邦準備銀行消費者調査、2022年9月12日

 

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MC2022-132