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インフレデータの朗報に債務上限懸念が影を落とす

インフレデータの朗報に債務上限懸念が影を落とす
〔要旨〕
  • 米国のインフレについて朗報:4月のCPI、PPIはともに、堅調なディスインフレのトレンドが続いていることを確認
  • ディスインフレが利上げのブレーキとなる可能性:米国では現在、FFレートがインフレ率を上回る水準にあり、歴史的に見てこれは、政策金利引き上げの終わりを示唆
  • 投資家は依然として警戒:債務上限に関するXデーが迫り、銀行関連の懸念も残っていることから、投資家は今後の展開を懸念

 

米国のインフレについて朗報
ディスインフレが利上げのブレーキとなる可能性
投資家は依然として警戒
米国債務上限のXデーが迫る
投資家にとって何を意味するか?

 

先週の日曜日は母の日でした。私を含む多くの母親たちは、朝寝坊してベッドで朝食を出してもらい、一日中祝われ、甘やかされることを楽しみにする日です。しかし、現実は少し違いました。私は朝6時に起きて、娘を車で2時間かけてバスケットボールの大会に送り、夫は家に残って母を教会に連れて行きました。やっと帰宅した頃には皆すっかり疲れ果て、お祝いの夕食に出かけることもできませんでした。しかし、テレビコマーシャルで見る「絵に描いたような」母の日ではなくとも、私にとっては感謝で一杯の日となりました。 一日の大半を娘と共に過ごし、母に会い、3人の子供のうち2人からは、とても素敵なメッセージと心のこもったプレゼントを貰いました。(3人目の偏屈な大学生の息子は、4年次に借りるアパートのクイーンサイズのマットレスの値段はどれがちょうどいいかと尋ねるテキストメッセージを送ってきましたが、真夜中を過ぎてから、素敵なメッセージをくれました)。すべての母親または母親の役割を担っている方々が、完璧でなくても素敵な一日を過ごされたことを願います。

さて、マクロ経済/市場の状況について見ていきましょう、これも私に言わせれば、「完璧ではないものの、まだ良い」部類に入ります。

 

米国のインフレについて朗報

先週は、5月上旬の米連邦準備制度理事会(FRB)による事実上の条件付き一時停止後、明らかに重要性を増した米国のインフレデータについて、朗報がありました。

4月の消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)のデータからはともに、強いディスインフレのトレンドが続いていることが確認されました。米国のヘッドラインCPIは前年同月比4.9%上昇、コアCPIは同5.5%上昇となりました。 ヘッドラインCPIは、2022年6月の同9.1%上昇のピークから過去1年で大幅に低下しました1 。コアCPIにはより粘着性がありますが、通常はヘッドラインCPIに従って推移します。
 

ディスインフレが利上げのブレーキとなる可能性

ここで重要なのは、ヘッドラインCPIが低下を続け、5月上旬にフェデラルファンド・レート(FFレート)が0.25%引き上げられたことから、現在、FFレートがインフレ率を上回る水準にあることです。歴史的に見て、これは政策金利引き上げの終わりを示しています。私は大胆な宣言をします:インフレはほとんど過ぎ去り、FRBが再び利上げを行うことはないでしょう。(実際、他の地域の中央銀行関係者からも、引き締めがまもなく終了することを示唆する発言が出ています。例えば、欧州中央銀行(ECB)のデギンドス副総裁は、「我々は今、金融政策引き締めの道のりのホームストレート(ゴールライン手前の直線)に入った」と述べました2 )。

もちろん、すべてのFRBメンバーがこれに同意しているわけではありません。先週ボウマンFRB理事は、「私の見解では、直近のCPIと雇用統計は、インフレが低下の道のりにあるという整合的な証拠とはなっていない」3 )と述べ、引き締めを継続する意向を示したようです。しかし私は、彼女のコメントを割り引いて考えています。FRBには、市場をけん制し、先走らせないようにしたいという思いがあります。しかしいざとなれば、FRBは再び利上げを行うことはないでしょう。それが、歴史が示していることです。
 

投資家は依然として警戒

しかし、引き締めサイクルが終わり、経済が回復しているように見えるのに、なぜ投資家はこれほどまで不安にさいなまれているのでしょうか。それには、いくつか理由があると考えます:

  1. 地方銀行は引き続き懸念材料であり、特に先週パックウエスト・バンコープが預金減少を明らかにした後、それが強まりました。いくつかの地方銀行と大手グローバル銀行(クレディ・スイス)はプレッシャーを受け、中央銀行の支援や預金保険への要請を伴いながら買収されねばなりませんでした。しかし、こうした懸念は一部の米地方銀行に限られており、その株価にも反映されています。与信条件の厳格化や、地方銀行による商業用不動産ローンの割合が大きいことを考えると、商業用不動産も懸念材料となります。2024年、2025年に多くの債務が満期を迎えることは事実ですが、その時点までに金利環境は大きく変わるとみています。私は、大部分の債務が借り換えの必要に迫られる頃には、長期金利は大幅に低下していると予想しています。救いは、銀行の貸出条件の引き締めが、貸出、建設その他の活動の低下に反映される可能性が高いことであり、それがさらにインフレを鈍化させることです。
  2. 市場はFRBがもたらしたダメージについて懸念し始めており、失業保険申請件数の急増をみると、労働市場の弱体化が進む可能性があると考えています。こうした懸念は、5月のミシガン大学消費者調査における消費者信頼感指数(速報値)が大幅に低下したことで悪化しました。消費者信頼感指数は、4月の63.5から5月は57.7(速報値)へと大幅に低下し、予想を大きく下回りました4 。市場は、経済状況の急速な悪化を反映しているとして、否定的な反応を示しました。しかし私は、消費者信頼感の低下は、米国の債務上限協議の膠着状態が大きく影響していると考えています。同様の状況は2011年にも起こり、当時、債務上限問題で消費者信頼感が、2011年の6月から8月にかけて71.5から55.8まで低下しました5。しかし当時、消費者信頼感の弱さが短期間続いたに過ぎなかったことは朗報でした。消費者信頼感はすぐに債務上限問題前の水準まで回復しました。一方、労働市場について言えば、失業保険申請件数の急増と求人数の減少は、賃金の伸びや全体的な成長を抑え、インフレを抑制するために、まさにFRBが求めていたものです。
     

米国債務上限のXデーが迫る

そして、現在の米国の債務上限問題は、何の解決策も見出せないまま、債務不履行に陥る日であるXデーに向かって突進しています。

今回、市場に何が起こるかについては、2011年を参考にすべきでしょう。当時は、格付け会社が米国債の格付けを見直し、S&Pが最終的に米国債を格下げしたため、米国株式もグローバル株式(除く米国)も、予想されたXデーのかなり前から大幅に悪化し始めました。例えば、2011年7月1日から9月30日の間に、S&P500種指数は15.1%下落し、MSCIエマージング・マーケット指数は23.1%下落しました6。しかし、これらの指数は数カ月で回復したことを強調しておく必要があるでしょう。

今日、交渉に実質的な進展が見られない場合、近々、株式市場の大幅な売りが始まると予想されます。民主党、共和党ともに極端な金融不安を避けたいとの強い思いがあることは明らかであり 、最終的には米国が債務不履行に陥ったり、社会保障制度その他の重要なプログラムへの支払いを遅らせたりすることはないと考えられますが、2011年に比べて政治的に厳しい状況にあります。従って市場は、引き続き緊張を強いられることになるでしょう。

このように待望の引き締めの終了は、完全には程遠いものです。しかし、早すぎる目覚ましで始まったものの、ハグと温かい祝福で終わった母の日を思い出し、私はそれを見守っていきたいと思います。
 

投資家にとって何を意味するか?

戦術的な資産配分を行う投資家にとっては、短期的にはディフェンシブなポジションを取るべき時だと考えます。

  • 私は、株式については情報技術、ヘルスケア、生活必需品セクターを選好します。情報技術セクターは、金利低下により最も恩恵を受けることから、最も前向きに捉えています。
  • 債券については、投資適格社債と地方債を選好します。
  • コモディティについては、金をオーバーウェイトし、原油をアンダーウェイトします。2011年の債務上限問題時のパフォーマンスを振り返ると、2011年7月から9月にかけて、米国の投資適格社債は3%上昇し、金は9.2%上昇しました7

戦略的な資産配分を行う投資家にとっては、長期的なポジションを維持しつつ、株価が下落した際には、株式、特にグローバル株式(除く米国)へのエクスポージャーの追加を検討し、将来に備えるべき時期かもしれません。

しかし、この波乱の時期は比較的短期間に終わるであろうと認識する必要があります。債務上限問題が解決し、銀行のミニ危機が収束すれば、株価は景気回復を織り込み始め、よりリスクオンの環境に移行することになると考えられます。

 

1.出所:米労働統計局、2023年5月10日
2.出所:ブルームバーグニュース、“ECB Tightening Path Is in 'Home Stretch,' Guindos Tells Sole”、2023年5月13日
3.出所:FRB、“The Evolving Nature of Banking, Bank Culture, and Bank Runs”、 2023年5月12日
4.出所:ミシガン大学消費者調査、2023年5月12日
5.出所:ミシガン大学、2011年9月1日
6.出所:ブルームバーグ
7.出所:ブルームバーグ、金のスポット価格は1トロイオンスあたりの米ドル建て価格。債券は、米国および米国以外の事業体、公共機関、金融機関を発行体として公に発行される米ドル建て証券を含む、投資適格、固定金利、課税対象の社債市場を評価するブルームバーグ米国社債インデックスに基づく。

 

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MC2023-070