市場で見られるいくつかの「明るい兆し」
〔要旨〕
中央銀行:中央銀行の発言がすでに金融引き締めをもたらしており、米連邦準備理事会(FRB)などの中央銀行は、予想されるほど引き締める必要がない可能性が存在
欧州の未来:仏大統領選でルペン氏が勝利した場合、市場の極端な反応を受けて同氏が表明している政策綱領のうち、大きな変化を伴うものを和らげざるをえなくなる可能性も
中国の都市封鎖:中国の都市封鎖により原油需要は減退しつつあり、原油価格の下落に向けて世界があらゆる助けを必要としている時に、原油価格に下押し圧力がもたらされている
世界の債券の「メルトアップ」
中央銀行は大きな声で発言しながらも、実際にとる行動を小規模にすることを好む模様
欧州の未来
4月後半に決選投票が行われる仏大統領選に大きな注目が集まる
中国での新型コロナウイルスの感染拡大
財政・金融刺激策に支援され、中国経済は2022年後半に再び成長が加速すると予想
需要の先送りや抑制であり、破壊ではない
米国の需要はタイトな労働市場とより健全な家計のバランスシートによって強力に支えられており、需要の抑制の成功が米国経済をソフトランディングに導くカギとなるだろう
今後の注目ポイント
ドイツのZEW景況感指数、ミシガン大学消費者調査に注目
先週、私は、クライアントの方々にプレゼンテーションを行ったり、ビジネススクールの学生たちに講演したりする機会を得ました。そこでの質問や会話から、私の頭には、いくつかの問題の中で見出す「明るい兆候」が浮かび上がってきました。本リポートでは、市場で見出すことができるいくつかの「明るい兆し」について取り上げようと思います。
世界の債券の「メルトアップ」
中央銀行は大きな声で発言しながらも、実際にとる行動を小規模にすることを好む模様
問題:先進国国債の利回りは上昇(債券価格は下落)基調にあり、特に長期債で上昇しています。最近の中央銀行によるタカ派的な発言が大きな影響を及ぼしており、先週公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨のほか、米連邦準備理事会(FRB)のブレイナード理事による発言が大きなインパクトをもたらしています。ブレイナードFRB理事は「ハト派」として知られてきましたが、インフレにより「タカ派」に転じたようであり、「急速なペース」でバランスシートの縮小を実施することを表明したことに注目が集まりました。
FOMC議事要旨からは、バランスシートの縮小に関するFRBの計画に関する詳細を得ることができました。例えば、償還される債券を再投資せずに保有残高を減らすことでバランスシートを圧縮する月間の額の上限は950億米ドルとするとされました。また、バランスシートの縮小(保有債券の償還金を再投資しないことによる縮小)が「かなり進んだ」時点で、住宅ローン担保証券(MBS)の一部売却を開始する可能性についても話し合われたことが明らかになりました。FRBだけではありません。カナダ銀行(中央銀行)が間もなく量的金融引き締め(QT)を開始すると広く予想されており、イングランド銀行はすでにQTを開始しています。しかし、FRBによるQTの大きな前進は、5月のFOMCから始まると予想される0.5%の利上げという市場の予想の高まりとともに、特に大きな影響を及ぼしているようです。
この問題に関する明るい兆候:私は、中央銀行の発言が、すでに金融引き締めをもたらしているという事実は明るい兆候であると考えます。FRB(そしておそらく他の中央銀行)は、多くの人が予想するほどの引き締めを実施する必要はないかもしれません。以前お伝えしたように、私は、中央銀行が大きな声で発言しながらも、実際にとる行動を小規模にすることを好むと考えています。FRBは、米国債市場で見られる一時的な逆イールド化を元に戻そうにしています。これは、10年国債と2年国債の逆イールドの発生に注目が集まっていることを考えると、一部の投資家を安心させるかもしれません(本リポート執筆時点では、同金利差は約0.25%となっています) 1 。
欧州の未来
4月後半に決選投票が行われる仏大統領選に大きな注目が集まる
問題:先週、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、ロシアによるウクライナ侵攻で生じた破壊の状況を確認するため、ウクライナを訪問しました。フォンデアライエン委員長はロシア軍の行動を強く非難し、ウクライナのEUへの加盟申請を迅速に処理することを約束しました。また、フォンデアライエン委員長は、ウクライナのゼレンスキー大統領に対してウクライナへの支援を確約し、「ロシアは経済面、金融面、技術面で衰退する一方、ウクライナは欧州の未来に向かって進んでいる。これが、私に見えるものだ。」と語りました 2 。さて、欧州の未来はどうなるのでしょうか。メルケル氏がドイツの首相から退いた今、フランスのマクロン大統領が欧州の「事実上」の指導者として浮上していることを考えると、欧州の未来の一部は、現在行われているフランス大統領選挙に左右されるでしょう。
マクロン大統領の対立候補者であるルペン氏の支持率が上昇したことで、市場の懸念が最近高まっています。先週、フランス国債とドイツ国債の利回り差が拡大しました 3 。フランス国債の金利上昇は、指導者交代の可能性に対する市場の懸念を示しています。4月10日にフランス大統領選挙が行われ、予想通り、マクロン仏大統領が得票率で首位となり、ルペン氏が続きました。両名は、前回の大統領選(2017年)と同様、今月後半に行われる決選投票に臨みます。
世論調査によるルペン氏の支持率上昇は、極右の候補者であるエリック・ゼムール氏の人気が低下したことが背景にあります。ロシアのウクライナ侵攻により、親プーチン的な姿勢を見せていたゼムール氏の人気は低迷しました。また、ルペン氏は、不満を抱く多くの有権者の最重要事項であるインフレ(米国の中間選挙にも通じる話です)など、国内問題に焦点を当てることができました。概して、マクロン大統領は接戦の末勝利を収めると示唆されていますが、独仏国債の利回り格差が拡大し、ボラティリティが増加すると予想されます。
この問題に関する明るい兆候:私の同僚は、「ルペン氏が勝利した場合、最初、同氏はフランスを大きく異なる道へと導く(より孤立主義的で、より断固とした姿勢を示し、反EU・米国的で、財政拡大的である)と見込まれる。新大統領として直面する現実を受けて、同氏のアプローチは和らぐと考えられるが、当初はフランスや他のユーロ圏周縁国の資産への悪影響という形で金融市場が否定的に反応することが懸念される。」と考えています。しかし、1980年代初頭のフランスのミッテラン大統領と同じように、金融市場の反応を受け、ルペン大統領は、同氏が表明している政策綱領のうち、大きな変化を伴うものを和らげざるをえなくなる可能性があります。
中国での新型コロナウイルスの感染拡大
財政・金融刺激策に支援され、中国経済は2022年後半に再び成長が加速すると予想
問題:現在、世界中で新型コロナウイルスの感染拡大の波が発生していますが、非常に厳しい都市封鎖(ロックダウン)を実施していることから、投資家の懸念は中国に集中しているようです。経済的観点からこの問題を考えると、明らかに短期的なサプライチェーンの混乱を招き、経済に逆風をもたらす可能性があります。しかし、以前にも触れたとおり、財政・金融刺激策によって、2022年後半における中国の経済成長の再加速がサポートされると考えます。
この問題に関する明るい兆候:中国のロックダウンにより短期的な原油需要は減退しつつあり、原油価格の下落に向けて世界があらゆる助けを必要としている時に、原油価格に下押し圧力がもたらされています。
需要の先送りや抑制であり、破壊ではない
米国の需要はタイトな労働市場とより健全な家計のバランスシートによって強力に支えられており、需要の抑制が米国経済をソフトランディングに導くカギとなるだろう
今週発表される重要な経済指標の1つは、米国消費者物価指数(CPI)であり、市場予想は前年比8.4%増となっています 4 。そして、フランスやイタリアのCPIについても同様の状況が予想されます。しかし、私は、高インフレにも明るい兆候があると考えます。物価の上昇は、需要の減少をもたらす可能性があるため、さらなる物価上昇という問題を解決する方法になります。また、FRBや他の中央銀行も金融引き締めを通じて需要の減退に貢献しています。例えば、米国の住宅ローン金利はわずか数週間で大幅に上昇しました。これは、住宅市場の過熱を冷やすのに役立つはずです。
このような状況は、いわゆる「需要の破壊」であり、先進国を景気後退に陥らせるのではないかとの懸念があります。需要の破壊は印象的な言葉です。ただし、私は、これまでに米国で見られていることは、需要の破壊ではなく、「需要の抑制」や「需要の先送り」であると考えます。例えば、一部の消費者は可能な限り運転を減らすとともに、コストを削減するために一部の必需品をノーブランドに変えるなどしており、需要の抑制が見られます。また、自動車の購入を来年に延期するなど、消費者がすぐには必要のない「高額商品」の購入を見送るなど、需要の先送りが見られます。ただし、原材料価格が大幅に下落した場合には、消費者はただちに購入モードに戻るでしょう。需要は、タイトな労働市場とより健全な家計のバランスシートによって強力に支えられているため、完全には破壊されていません。私は、米国経済を「ソフトランディング」に導けるかどうかは、需要の破壊ではなく、需要の抑制ができるかどうかに大きく依存すると考えています。
今後の注目ポイント
ドイツのZEW景況感指数、ミシガン大学消費者調査に注目
今週は、ドイツのZEW景況感指数に注目します。ドイツはロシア産エネルギーへの制裁という大きな圧力にさらされています。これは、ドイツがロシアのエネルギー輸入に大きく依存していることを考えると、大きな負担となるでしょう。短期的な悲観論が景況感に反映されるのではないかと考えており、設備投資の削減など、短期的にはさらなる経済活動の減退を示す可能性があります。他には、ミシガン大学の消費者調査から、米国の消費者の見方や、長期インフレ期待に注目しています。
- 出所:ブルームバーグ
- 出所:ロイター、“EU chief promises speeded up process for Ukraine to seek membership”、2022年4月8日
- 出所:ロイター、“French government bond yields extend rise, peripheral spreads widen”、2022年4月6日
- 出所:ブルームバーグ
ご利用上のご注意
当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。
MC2022-045