FRBに続きタカ派に転換する欧州の中央銀行
〔要旨〕
インフレへの懸念が広がる:欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、インフレ率が予想よりも高く、持続的であるとし、ECBのタカ派色が強まる
行動を起こす各国中央銀行:イングランド銀行は、2021年12月に続いて再び0.25%の利上げを実施
多くの経済指標の公表を待つ:中央銀行の政策が公表されたデータにどのように左右されるかについて金融市場参加者が織り込むことで、金融市場のボラティリティが高まる見込み
市場はどのように反応したか?
各中央銀行のタカ派色の強まりを受け、ドイツ、イタリア、米国、日本など多くの市場で10年国債利回りが上昇
今後に予想されること
イングランド銀行、米連邦準備理事会(FRB)、ECB、カナダ中央銀行の金融引き締め政策は続くものの、引き締めの程度は中銀によって異なる模様
今週の注目イベント
①米国消費者物価指数(CPI)、②ミシガン大学の消費者期待インフレ率、③FRBの金融政策報告書、④ECB当局者からの発言—に注目が集まる見込み
FRBに続き、ECBがタカ派に転換。イングランド銀行は2021年12月に続き利上げを実施するなど、中央銀行のタカ派色への強まりが確認される。米国ではは力強い雇用統計が発表されたことも、FRBの3月利上げを促す要因に
先週、欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁の発言により、世界中でため息声が聞こえました。先週開催されたECB理事会後の記者会見で、ラガルド総裁は、ユーロ圏においてインフレ率が予想よりも高く、持続的であり、上振れリスクが存在していることを認めており、ECBのタカ派への転換が明らかになりました。ラガルド議長はまた、2022年に利上げする可能性は低いと述べましたが、市場関係者はECBが2022年半ばに最初の利上げを実施すると予想し始めました。
米連邦準備理事会(FRB)のように、ECBはインフレへの懸念を明らかにしています。ECBがインフレを懸念する理由として、以下が考えられます。2022年1月のユーロ圏消費者物価指数(速報値)は前年同月比+5.1% 1 となっており、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)のさなかだった2021年1月の+0.9% 1 と比較すると、非常に大きな上昇幅を記録しました。
2021年12月に0.25%の利上げを実施したイングランド銀行(BOE)は、先週、再び0.25%の利上げを行いました。また、BOEの金融政策委員会のメンバー9人のうち、4人が0.5%の利上げを主張していたことも、市場関係者に驚きを与えました。サマーキャンプでうるしにかぶれたかのように、インフレへの懸念が中央銀行の間で広がっています。
一方、先週金曜日に発表された1月の米国雇用統計は、FRBが金融政策を引き締めるために迅速に行動する可能性があることを示す結果となりました。非農業部門雇用者数の伸びは力強いだけでなく(12月の数値も上方修正されました)、平均賃金の伸びも上昇し、さらに重要なことには、市場予想を上回る伸びを示しました。この雇用統計は、FRBが2022年3月に利上げを実施し、さらには利上げ幅が0.50%になるとの見方をも強めました。
市場はどのように反応したか?
ドイツ、イタリア、米国、日本など多くの市場で10年国債利回りが上昇
先週、これらのイベントに、世界の債券市場は大きく反応しました。ドイツの10年国債利回りは0.20%に上昇しましたが、これは過去数年で最も高い水準です 2 。イタリアの10年国債利回りも大きく上昇し、米10年国債利回りは1.9%を上回りました 2 。日本銀行が金融引き締めを行う段階にはほど遠いにもかかわらず、米国と欧州の債券利回りの上昇を受け、日本の10年国債利回りは2016年1月以降、初めて0.2%近辺まで上昇しました 2 。
今後の中央銀行の行動は?
BOE、FRB、ECB、カナダ中央銀行の金融引き締め政策は続くものの、引き締めの程度は中銀によって異なる模様
BOE、FRB、ECB、そしてカナダ中央銀行は、程度の差こそあれ金融政策の正常化への道をたどっていますが、共通点は、過去数カ月でタカ派姿勢が強まったことです。それらの中央銀行は今後、どのような道を進むのでしょうか。
第一に、私は、上記の各国中央銀行がタカ派的な発言をする機会が増すと予想しています。中央銀行は自身の発言を頼りに難題に取り組んできましたが、これまでのところは、これはある程度うまくいっています。中央銀行の実際の金融引き締めに関しては、そのペースが、主にデータ、つまりインフレとインフレ期待により決定されると考えられます。一部の中央銀行については、自国経済のぜい弱性への懸念が残っています。私は、ECBとカナダ銀行はぜい弱性に対してより敏感であると考えます。
経済データは総じて予想よりも強く(インフレの上振れを示唆しています)、米欧の中央銀行の政策は予想よりもタカ派である(より引き締め的である)であるものの、状況はより複雑で、国によって異なることを認識することが重要です。
例えば、今回の米国の雇用統計を見ると、力強い景気回復が確認される中、多くの求人や高い賃金、一時給付金に魅了され、労働者が仕事に就き始めていることが示唆されています。これは、平均時給、労働参加率、雇用率に反映されています。人々が職場復帰を続けるのであれば、それは経済回復をより長く持続させ、賃金の伸びへの上押し圧力を取り除く一助となるかもしれません。
ユーロ圏と英国を含む欧州でも、雇用市場が改善を示しています。欧州ではほとんどの企業が雇用者を増やしたり減らしたりすることが難しいため、ユーロ圏の失業率は、英国、さらには米国よりもはるかに粘着性が強い傾向があります。ECBは、主にこの理由から、FRBほどの引き締めを行うことができない、または行う必要がないというのが市場関係者の見方となっています。しかし、ユーロ圏で失業率の低下とともに労働市場が引き締まる状況が続く場合、市場ではECBがよりタカ派に進むことが織り込まれる可能性があります。
一方、BOEは、将来の金融政策についてさまざまなメッセージを送りました。ベイリーBOE総裁は、インフレによって実質可処分所得、つまり物価上昇分を差し引いた「手取り給与」が損なわれることを指摘し、インフレ圧力のさらなる強まりを回避するために賃金の抑制を求めました。また、同総裁は、今回の会合で0.5%の利上げを主張したメンバーが9人中4人だったことからBOEが予想よりもタカ派とみなされたものの、緩やかな利上げが適切として、さらなる利上げについて慎重な姿勢を示しました。
FRB、BOE、ECBが注目を集める中、カナダ中央銀行をレーダーから外してはいけません。カナダ銀行のマックレム総裁は、インフレ率は2022年前半まで高い水準が続くと述べましたが、後半には大きく低下すると予想されています。パンデミック、サプライチェーンおよび労働市場の問題によって引き起こされた不確実性を認めながら、彼は引き続き、利上げの可能性を示唆しました。
現在のインフレの原因、すなわち過度に緩和的な金融政策、大規模な財政支援、パンデミックによる経済の変化などへの見解がどうであれ、インフレがほとんどの中央銀行が予想していたよりも大きく、長期にわたる懸念であることは明らかです。そして、個別の中央銀行によって程度は異なるものの、タカ派スタンスに転換しているのです。
市場参加者が中央銀行の行動にとってさまざまなデータの公表が何を意味するのか、そして「中央銀行の発言」(古代ギリシャ語よりも解読が難しい場合があることは確かです)の評価に力を注ぐ状況下、私は、金融市場でのボラティリティが高まると考えます。そして、金融政策が引き締めの終わりに近づいているか、さらに良いことに、より緩和的になっている国々では、株式市場では追い風を受けると予想されます。2022年の中国人民銀行は金融緩和を続けており、直近、中国の株式市場が好調なパフォーマンスを示していることは偶然ではありません 3 。
今週の注目イベント
①米国消費者物価指数(CPI)、②ミシガン大学の消費者期待インフレ率、③FRBの金融政策報告書、④ECB当局者からの発言—に注目が集まる見込み
今週は、米国やインフレに注目が集まると予想されます。私は、中央銀行ウォッチャーたちが、米国消費者物価指数(CPI)、ミシガン大学の消費者期待インフレ率、FRBの金融政策報告書(パウエル議長の議会証言に先立ち、年2回米国議会に提出)、およびECB当局者からのさまざまな発言に特に注目していると考えています。
私は、今週発表される経済指標は、市場予想内の結果になると考えています。米国の消費者物価指数は前月よりも大幅に上昇すると想定されているため、予想を上回らない限り、市場に動揺が走ることはないと考えます。本リポートの読者は、インベスコではインフレが2022年半ばにピークに達すると予想していることをご存じのことと思います。そのため、CPIのコンセンサス予想である前年比7.3%の上昇に動揺することはないでしょう。さらに重要なのは、2月のミシガン大学の消費者期待インフレ率(速報値)です。ニューヨーク連邦銀行が公表する今後1年および3年の消費者期待インフレ率は、2021年12月も高水準でしたが、ピークに達したようです。ミシガン大学のデータからも同じことを確認したいと思います(ニューヨーク連銀調査の1月の期待インフレ率は、来週月曜日公表されます)。また、FRBの金融政策報告書からは常に興味深い洞察を得ることができます。
もちろん、中央銀行のタカ派転換により金融政策への予想が再調整されており、株式と債券の価格が大きく変動する状況が続いています。私たちは、FRBや他の中央銀行が、インフレに関する新しい現実に合致するように政策をどのように調整しなければならないと感じているのか、そして、政策が市場の動向をどれほど長く支配するのかに注目しています。インフレ圧力が弱まるか、少なくともインフレ期待がよりしっかりとアンカーされていることが示されるまで、まだまだ道のりは長そうです。
- 出所:ユーロスタット(欧州連合統計局)、2022年2月2日
- 出所:ブルームバーグ、各金利は2022年1月31日から2月4日の週に記録された水準
- 出所:中国株式は、上海総合指数、香港ハンセン指数。上海総指数は、上海証券取引所に上場する人民元建てのA株と米ドル建てのB株で構成されている中国を代表する株価指数。香港ハンセン指数は、香港証券取引所に上場する代表的な銘柄で構成される株価指数。過去の実績は将来のリターンを保証するものではありません。インデックスに直接投資することはできません。
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MC2022-018