市場はFRBのタカ派への転換に反応
〔要旨〕
米連邦準備理事会(FRB)は突然方向転換を図る:FRBは、「利上げ開始」からすぐにバランスシートの縮小を開始する用意がある模様
米10年国債利回りが大きく上昇:FRBの突然のタカ派への転換(およびオミクロン変異株に対する前向きな見通し)を受けて米10年国債利回りが上昇
先週、テクノロジー株は大幅に下落:FRBの金融政策の転換により、テクノロジー株への投資家心理が急速に悪化。しかし、テクノロジー株への過剰な反応には注意が必要だろう
FOMC議事要旨から判明した思いがけない事実
FRBは前回の金融政策の正常化のプロセスよりも早いタイミングでバランスシートの縮小を実施したい考えを示す。12月の米雇用統計が、金融引き締めの実施を後押しする可能性も
市場関係者は、2022年にFRBがより積極化すると予想
FRBのタカ派転換を受けて、米10年国債利回りは急速に上昇
株式市場への影響
FRBの方向転換を受けてテクノロジー株が大きく下落したものの、同セクターの成長性は依然として高く、概して債務水準が低いことから、過度な警戒は抑えた方がよいだろう
今週の注目点
①ラガルドECB総裁の講演、②パウエルFRB議長の再任指名公聴会、③米CPIとPPIの発表―などに注目
私は過去2年間、疫学者のようにふるまうことがありました。また、私は時々、私の子供たちの行動によって、一時の社会学者、心理学者、そして哲学者のようにふるまうことがあります。たとえば、私は、子供たちが重要な事柄(子供たちはそれを認識していました)で「時間の感覚を失い」、締め切りが迫っているときに突然「目覚める」傾向に、魅了されることがあります。それはまるで、彼らがリップ・ヴァン・ウィンクルのように、何年もの眠りの後に目覚め、周囲の世界の変化にショックを受けたかのようです。
先週、米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が公表されたとき、私は、私の子供たちのこと(そして、子供たちに頼まれて夜遅く、私が覚えているよりも多い頻度で厚紙や油性マーカーペンを買いに行った私のかわいそうな夫のこと)を考えずにはいられませんでした。議事要旨を読むと、FOMCメンバーは、状況が進展するのを注意深く見守っていたようにもかかわらず、雇用と金融政策の状況に突然驚いたように感じられました。たとえば、12月会合の参加者は、「現在の経済見通しは、前回の経済の正常化の開始時よりもインフレ率が高く、労働市場がひっ迫しており、はるかに力強い」と述べました。
FOMCの参加者はまた、米連邦準備理事会(FRB)のバランスシートの規模について「2014年10月末に終了した量的緩和政策第3弾(QE3)の終了時よりも、米ドルベースおよび名目国内総生産(GDP)の両方ではるかに大きい」と述べました。
そのような反応は、私の子供たちがテキストメッセージで書くように(しかし自分自身のことについては決して使わないのですが)、「ありえない」ことのように思います。
FOMC議事要旨から判明した思いがけない事実
FRBは前回の金融政策の正常化のプロセスよりも早いタイミングでバランスシートの縮小を実施したい考えを示す。12月の米雇用統計が、金融引き締めの実施を後押しする可能性も
議事要旨から得られた本当の驚きは、2022年にバランスシートの縮小を開始したいというFRBの要望でした。FRBは、「利上げ開始」の直後にこのプロセスを開始する準備ができている模様であり、これは、前回の金融政策の正常化期間中のバランスシート縮小のタイミングよりもはるかに早いものになります。
そして先週、FRBは、タカ派へと大きな転換しました。そして、私は、FRBが先週金曜日に発表された12月の米雇用統計がその転換を支えるだろうと考えます。12月の非農業部門雇用者数は市場予想を下回りましたが、失業率や賃金の伸びほど重要ではありません。失業率は3.9%と大幅に低下した一方、平均時給は前月比0.6%増加しており、市場予想をはるかに上回りました 1 。非農業部門雇用者数のわずかな伸びが、FRBの金融引き締めを一たん休止させることはないでしょう。その一方で、失業率の低下と、賃金の伸びの加速によって、FRBは2022年の引き締め実施についてさらに自信を持つようになるはずです。
市場関係者は、2022年にFRBがより積極化すると予想
FRBのタカ派転換を受けて、米10年国債利回りは急速に上昇
FOMC議事要旨が公表される数日前のFRB関係者の発言は、議事要旨の公表とともに、FRBが2022年により積極的な対応を取るという予想を後押ししました。フェデラル・ファンド(FF)金利先物は、3月の利上げ開始の可能性が高いことを示唆しています。米10年国債利回りは、FRBによるこの突然の転換(そしてオミクロン変異株についての前向きな認識)を受けて上昇(債券価格が下落)しました。本稿執筆時点(2022年1月10日時点)では、米10年国債利回りは、新型コロナの世界的な大流行(パンデミック)前の2020年1月以来の水準まで上昇しています。
株式市場への影響
FRBの方向転換を受けてテクノロジー株が大きく下落したものの、同セクターの成長性は依然として高く、概して債務水準が低いことから、過度な警戒は抑えた方がよいだろう
直近の米10年国債利回りの動向は、イールドカーブはもちろんのこと、債券市場にも影響を及ぼしています。そして、株式市場、特にテクノロジー株にも非常に大きな影響を及ぼしました。従来、株価バリュエーションの高い株式は、イールドカーブにおける長期金利の上昇に対してよりぜい弱であるとされています。デュレーションの長い株式(長期的にキャッシュフローの多くを配当として支払うと予想される株式)も、金利の上昇により将来のキャッシュフローが減少するため、長期的には金利の上昇に対してよりぜい弱になります。そして、デュレーションの長い株式の多くは、株価バリュエーションの高い株式でもあります。さらに、それらの代表的な株式は、先週大きな売りを浴びたテクノロジー株です。テクノロジー株に対する投資家心理が大きく変化しており、テクノロジーセクターは、もはや株式における「安全資産」ではなく、現在は非常にリスクが高いセクターとして認識されています。
ただし、テクノロジー株に対する過剰反応には注意が必要と考えます。株式全般、特にテクノロジー株は、よりタカ派化するFRBに適応するため、今後数カ月は軟調に推移すると見込まれます。しかし、私は、このセクターの成長性は依然として高いと考えます。そして、テクノロジーセクターは、他のセクターよりも平均して債務が少ないため、金利上昇環境に適した位置にあると考えられると指摘することができます 2 。十分な長期投資が可能な場合、テクノロジー株の弱さはチャンスをもたらす可能性があります。古い格言にもあるように、「人が貪欲なときは警戒し、人が警戒しているときは自ら貪欲になれ。」ということが必要でしょう。
今週の注目点
①ラガルドECB総裁の講演、②パウエルFRB議長の再任指名公聴会、③米CPIとPPIの発表―などに注目
今週、私が注目している重要なイベントは以下の通りです。
• 今週、欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁が講演を行います。私は、ECBが、少なくともまだ、現在の政策を転換することはないと考えます。現状、欧州経済は、新型コロナの変異ウイルスであるオミクロン株のまん延により、さらなる悪影響を受けてきました。12月のユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI、改定値)は、11月の55.4から53.3に低下しました 3 。12月の英国の総合PMIも、前月から大きく低下しました。IHSマークイットのヘイズ氏は、「2021年11月の生産拡大は残念ながら一時的なものだった。ユーロ圏全体で新型コロナの感染が再拡大する中、12月の成長は2021年3月以来の水準に減速した 3 。」と説明しました。さらに、米国と同様、ユーロ圏でもインフレ圧力が強まっています。12月のユーロ圏インフレ率(CPI、速報値)は5.0%となり、11月の4.9%から伸びが加速しました。また、コアインフレ率は2.7%でした 4 。しかし、私は、ECBがFRBほど金融引き締めに関心を持っているとは思いません。ECBは、コアインフレ率が2022年末までに2%未満に低下すると予想しています(ただし、リスクはより高水準のインフレに傾いていることを認めています)。つまり、ECBは、FRBよりも遅れて利上げに着手する可能性が高く、バランスシートをすぐに縮小することはありません。
• 今週、パウエルFRB議長は、自身の再任指名公聴会で証言します。パウエル議長の発言で市場は落ち着きを取り戻すかもしれなませんが、私は、パウエル議長がタカ派スタンスを放棄すると考えていません。パウエル議長は、FRBが金融政策の正常化を進める早い段階でバランスシートを縮小することに焦点を合わせているため、FRBが利上げに対して抵抗が少ないことを共有する可能性があります。それにより、利上げの開始時期が変わることはないかもしれませんが(私は、FRBが3月のFOMCで利上げを行わないと予想していますが)、2022年の利上げ回数が少なくなるという点で、FRBが政策ミスを犯す可能性があることを示唆しています。
• 今週、米国の消費者物価指数と生産者物価指数が発表されます(政策立案者だけでなく政治家もインフレに焦点を当てていることを考えると、この発表は重要な意味を持ちます)。
• 英国の国内総生産(GDP)成長率も発表されますが、オミクロン変異株のまん延に関連する圧力を示す可能性があります。
• 週の後半、米国の小売売上高が発表され、オミクロン変異株の感染拡大による圧力が示される可能性があります。
• 最後に、私は、アジアでの新型コロナの感染率を注意深く見守っています。これは、オミクロン変異株の感染力の強さを考えると、急速に上昇する可能性があります。オミクロン変異株による波は比較的短命だと考えますが、他の地域と同様に非常に大きな波になる可能性があり、国内経済、サプライチェーン、世界のインフレに悪影響を及ぼします。
まとめ
投資家は、株式、債券、暗号資産のボラティリティ、実際には、市場はFRBの正常化へのかじ取りに対応するため、すべての資産クラスのボラティリティに対応する必要があります。私たちは今までも、FRBの正常化によりもたらされたボラティリティを乗り越えてきており、これを視野に入れておく必要があると考えています。
- 出所:米国労働省、2022年1月7日
- 出所:ブルームバーグ、2022年1月7日
- 出所:IHSマークイット、2022年1月5日
- 出所:ユーロスタット、2022年1月7日
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