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世界経済:非常に悪い?あるいは非常に不思議?

世界経済:非常に悪い?あるいは非常に不思議?
〔要旨〕
最悪の材料は何か?:ロシア・ウクライナ紛争、原油価格、英国とユーロ圏の景気後退リスクなどが、世界経済における悪材料のリストの上位に
最悪の材料の対極にあるものは何か?:米国の雇用環境や関税の引き下げ、中国における新型コロナウイルスのロックダウンの緩和など
 
最悪の材料は何か?

ロシア・ウクライナ紛争の硬直や原油価格の大幅な上昇、ウクライナ危機の英国・ユーロ圏経済への悪影響などが世界経済に対する悪材料に

最悪の材料の対極にあるものは何か?

米国の賃金の伸びの鈍化、米・独・英の市場による期待インフレの低下、中国のロックダウンの緩和、米国の関税引き下げ、中国の規制緩和などが好ましい材料に

まとめ

金融環境が引き締まる中、今後は、しっかりとした選択眼と識別が投資において必要に

今後の注目点

①米消費者物価指数、②ミシガン大学消費者調査(速報値)、③中央銀行の動向―に注目

 

現在の世界経済はそれほどまでにひどい状況なのでしょうか?

先週は、最高経営責任者(CEO)の一人が米国経済について「非常に悪い予感がする」と語ったことが話題になったように、米国の各企業のCEOから米国経済に対する悲観的な声が聞かれました。10代の息子がいる私は、「スーパーバッド(非常に悪い)」という言葉は非常になじみのある言葉です。彼らにとって、「スーパーバッド」は史上最高の映画の一つなのです。しかし、経済と結びつけて考えてほしい言葉ではありません。

では、世界経済は最悪の状況なのでしょうか?個人的には、そうではないと考えます。私は、金融関係者や顧客から「どうしたらいいのかわからない」「異常な環境だ」との言葉をよく聞いており、“非常に不思議な"状況と表現するのが適切だと考えています。ある人は、"現在の環境では安心できない"とはっきりと言っていました。私は、世界経済には非常にポジティブな面もあれば、非常に悲観的な面もあると考えています。そして、投資家心理は非常に悲観的ですが、それには驚きを感じ得ません。本稿では、世界経済のどの面が好調で、何がそうでないのか、見ていきましょう。

 

最悪の材料は何か?
ロシア・ウクライナ紛争の硬直や原油価格の大幅な上昇、ウクライナ危機の英国・ユーロ圏経済への悪影響などが世界経済に対する悪材料に

1. ロシア・ウクライナ紛争:ロシアは、キーウを再び攻撃し、被害が拡大しています。この紛争はやや悪化しており、ますます硬直化しています。これは、世界にとって、食糧不足の可能性だけでなく、一部エネルギーの不足によりサプライチェーンの混乱とコスト上昇を招くという点で、悪いニュースです。また、エネルギーが遮断されるリスクは、依然として欧州経済にとって大きな脅威となっています。

2. 原油価格:原油価格は過去5週間で大きく上昇しました。エネルギー価格は経済全体に影響を及ぼし、その影響から多くの物価が上昇するという性質を持っています。米国では、1ガロン当たりの全国平均のガソリン価格が4.85米ドルまで上昇し、2021年初の価格の約2倍になりました 1 。エネルギー価格の上昇が続く間は、中央銀行の目標インフレ率である2%前後に低下する可能性は極めて低いと見込まれます。

3. 英国とユーロ圏で高まる景気後退リスク:英国やユーロ圏の経済はロシア・ウクライナ紛争の影響を大きく受けています。その影響から同地域の景気は低迷しており、景気後退のリスクも高まっています。また、各中央銀行は、特にインフレのいくつかの重要な要因を解決できないため、インフレの高進を抑制するためにより微妙なバランスを取った行動が要求されます。

 

最悪の材料の対極にあるものは何か?
米国の賃金の伸びの鈍化、米・独・英の市場による期待インフレの低下、中国のロックダウンの緩和、米国の関税引き下げ、中国の規制緩和などが好ましい材料に

1. 米国の雇用情勢:先週金曜日、公表された5月の米雇用統計において米国の力強い雇用の伸びが確認されたことから、株価は「良いニュースは悪いニュース」との反応を示しました。しかし、私は今、雇用統計で最も重要なのは賃金の伸びだと考えています。この面では、賃金の伸びが減速するという好ましい結果となりました。平均時給は前月比0.3%上昇し、予想の0.4%を下回りました 2 。したがって4月と同様、5月も賃金の伸びは比較的抑制されたことになります。このことは、インフレの中でもより「粘着性のある」賃金がそれほど問題とはならない可能性を示唆しています。

これまでのところ、米連邦準備理事会(FRB)が画策した景気減速のうち、雇用に関する点は計画通りに進んでいます。先週発表された4月の米雇用動態調査(JOLTS)では、求人数は減少しているものの、解雇は増えていない(むしろ減少している)ことが明らかになりました。私は、解雇はほとんどなく、求人が大幅に減少し、賃金上昇圧力が緩和される状況が続くことを期待しています 3 。これが、米国経済がソフトランディングする方法だと私は考えています。

2. 米・ドイツ・英では市場によるインフレ期待が低下基調に 4 エネルギー価格の高騰にもかかわらず、インフレがまもなく緩やかになり始めるという見通しを後押しするような指標も確認されています。また、欧米の主要中央銀行は、インフレ対策についてある程度の強気な発言をすることで、信頼性を維持してきたと考えます。2022年初にFRBが金融政策をタカ派に転換して以降に見られるように、実際の利上げをあまり行わずとも、その発言によって金融環境が引き締まり、ある程度の効果が得られているのです。そしてそのことが、インフレ期待形成への一助となりました。したがって、FRBや他の中央銀行からの強硬な発言を恐れる必要はないと私は考えています。

3. 中国の厳格な行動制限(ロックダウン)の緩和:中国では、新型コロナウイルスの感染拡大によるロックダウンを受けて、ここ数カ月に発表された経済指標は非常に失望的な内容でした。しかし、主要都市での行動制限の緩和により、その状況は改善と転じるはずです。先週、上海ではフェンスが撤去され、広場が解放、公共交通機関が再開されました。会社員は職場に戻り、通常の状態に戻りつつあります。これは、インフレの大きな原因となっていたサプライチェーンの混乱を改善するのに役立つはずです。すでに先週、購買担当者景気指数(PMI)の若干の改善が確認されましたが、特に財政刺激策が効果を発揮するにつれて、改善が続くと考えます。景気回復の勢いが増すのには少し時間がかかるかもしれませんが、中国経済には非常に明るい材料がそろっています(もちろん、景気の下押しリスクとして石油需要の増加によるエネルギー価格の上昇の可能性はあるものの、経済再開の恩恵はデメリットをはるかに上回ると考えます)。

4. 関税の引き下げ:先週末、レモンド米商務長官は、バイデン政権がトランプ前政権による関税の一部撤廃を検討していることを明らかにしました。また、バイデン政権は6月6日、東南アジアの一部の国からの太陽光パネルに対する関税を免除すると発表しました 5 。エネルギー価格の高騰から、エネルギー産業関連の関税撤廃に重点を置いているようですが、私は、インフレを抑制するために、小さくとも可能であるどのような方法も模索しているので、これだけにとどまらない可能性があると楽観視しています。また、このことは、グローバリゼーションの小さな勝利でもあるでしょう。

5. 中国における規制緩和の兆し:中国企業に対する中国当局の調査が終了しつつあるとの報告があり、中国の全般的な規制環境が改善しつつある可能性が示唆されています。これは、中国の政策担当者がここ数カ月、企業ビジネスに対してより友好的になると伝えてきたことを裏付けるものであり、中国経済にとってもプラスになるはずです。

 

まとめ
金融環境が引き締まる中、今後は、しっかりとした選択眼と識別が投資において必要に

さて、重要なポイントは何でしょうか。世界経済には、低迷している部分もあれば、そうでない部分もあります。また、このような環境から利益を得ている企業もあれば、そうでない企業もあります。例えば、一部のCEOからは非常に悲観的な見解が聞かれる一方で、より前向きな意見や見解も聞かれています。例えば、先週、ヒューレット・パッカードは市場予想を上回る売上高を発表し、本年度以降の業績見通しを上方修正しました。また、デルタ航空のバスティアンCEOは「旅行需要はけた外れだ」と述べました 6 。これは他の航空会社からも聞かれることで、航空各社は、エネルギー価格の上昇を予測しながらもうまく管理しているようです。また、相手先商標製品メーカー(OEM)のフォックスコンは、2022年後半にサプライチェーン環境が改善されると予想しています 7

超金融緩和政策による「満ち潮」によってすべての船が水面にただようような時代が続きましたが、これからは、この環境下で成果を収めると見込まれる産業や企業に焦点を当てるような、選択と識別が必要な時代が到来したと考えています。

 

今後の注目点

今後、私が注目する3つのイベントは以下の通りです。

1. 4月の米国消費者物価指数(CPI)は重要な経済指標の発表となります。金融引き締めがすでに米国経済を冷やし始めており、4月のコアCPIの前月比伸び率は緩やかなものと予想しています。

2. ミシガン大学消費者調査(速報値)が発表されます。私は特に消費者によるインフレ期待に注目していますが、エネルギー価格の上昇にもかかわらず緩やかに低下したという結果になると期待しています。

3. 中央銀行の動向。欧州中央銀行(ECB)、オーストラリア準備銀行(RBA)、インド準備銀行(RBI)が間もなく金融政策決定会合を開く予定となっており、引き締めモードに入っています。私は、現状の厳しい環境下でのインフレと各国経済に関する見通しに関心を持っています。

 

  1. 出所:米国自動車協会、2022年6月6日現在
  2. 出所:米国労働省労働統計局、2022年6月3日
  3. 出所:JOLTS Summary for April 2022, released on June 1, 2022, by the US Bureau of Labor Statistics
  4. 出所:ブルームバーグ、2022年6月3日現在
  5. 出所:ロイター、2022年6月6日
  6. 出所:ロイター、“Delta, United Airlines sound bullish on post-pandemic spending”、2022年6月1日
  7. 出所:ロイター、“Foxconn predicts more stable supply chain in the second half of 2022”、2022年5月31日

 

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MC2022-078