2022年年央グローバル市場見通し:これからどこに向かうのか?
〔要旨〕
基本シナリオ:世界的なインフレ率の上昇と成長率の鈍化を見込んでいるものの、景気後退は生じない
ロシアによるエネルギー供給停止シナリオ:世界的なインフレ率の上昇と成長率の低下、そして景気後退のリスクが高まる
ロシア・ウクライナ紛争の戦況改善シナリオ:世界の成長率が上昇し、インフレ率が低下する一方で、主要先進国の大半で金融政策の引き締めが強化される
ロシア・ウクライナ紛争は、インフレ圧力の悪化やコモディティ・エネルギー価格の高騰をもたらしており、経済成長の下押し圧力となっている
今回の投資環境の見通しでは、世界的なインフレ率の上昇と金融政策の相違を背景とした経済および地政学的なリスク・バランスを評価
インフレ率の上昇と成長率の鈍化が見られる中、景気サイクルの後期に位置している
2022年後半には、主要先進国の経済成長は大幅に減速すると見込む
金融政策の大幅な転換
2021年末とは対照的に、金融政策に関する見通しは大きく変化。FRB、イングランド銀行の急速な引き締めペースを見込む。そして欧州中央銀行さえもがある程度の金融引き締めを実施する見通し
半年に一度、インベスコでは最も経験豊かな投資専門家やソートリーダーチームのメンバーが集結し、市場環境や経済動向に関する見通しを策定しています。私たちは、特定の展望を示すのではなく、フレームワークを示すことに意義があると考えています。私たちは、フレームワークにおいて、最も可能性が高いと思われるマクロ経済シナリオ(いわゆる「基本シナリオ」)と、顧客が想定しうる2つのリスクシナリオを策定しており、各シナリオが実現した場合の資産クラスへの影響も併せて提示しています。
世界の多くの地域では新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を乗り越えつつありますが、経済や政策に及ぼしたその著しい影響は、新たな不確実性が出現した現在もなお、依然として注目されています。パンデミック下での財政や金融政策の担当者の働きにより、ほとんどの経済圏で数十年も続いていた低インフレ局面が終わりを迎えました。そして、ロシアのウクライナ侵攻によりインフレ圧力がさらに高まり、同時にエネルギーなどのコモディティ価格が高騰したことで、経済成長にも下押し圧力がかかりました。主要中央銀行が金融引き締めに転じ、かなり引き締めに積極的な中央銀行もある中で、市場はこれらの事態に対処しています。インベスコの2022年年央見通しでは、世界的なインフレ率の上昇と金融政策の相違を背景とした経済および地政学的リスクの均衡を評価しています。
現在、景気サイクルのどこにいるのか?
インフレの高進と成長鈍化により、多くの先進国では景気サイクルが後期に
新型コロナウイルスのパンデミックに起因する要因が引き続き景気サイクルの分析を難しくしていますが、インフレ率の上昇と経済成長の鈍化が確認されていることから、現在、私たちは景気サイクルの後期にいると見込まれます。そして、2022年後半には、主要先進国の経済成長は大幅に減速する可能性が高いとみています。
米連邦準備理事会(FRB)などの欧米の主要中央銀行は、景気を冷やしてインフレを抑制するために金融政策の引き締めを図りつつも、景気後退をもたらすほどには引き締めないという、バランスのとれた対応を目指しています。
各国経済の方向性
米国、ユーロ圏、英国は景気減速が続く。中国は一時的な減速後の再加速を見込む
大規模な財政支援策と非常に緩和的な金融政策の実施後、グローバル経済は、重要な困難に直面しており、パンデミック後に見られた成長率の上振れ局面からの減速を続けると考えられます。
欧米先進国経済は、2022年後半にオミクロン変異株による感染拡大後の経済再開による恩恵を受けると見込んでいます。これは、金利上昇とインフレによる需要の冷え込みという逆風に対して、一定の穴埋めをするのに役立つはずです。
ユーロ圏と英国は、エネルギー価格の上昇および供給抑制の可能性という課題を抱えています。市場が地政学的リスクプレミアを評価する中で、この影響は2022年半ばに最も大きくなると見込まれます。
カナダ経済は、エネルギーやコモディティ価格の上昇の恩恵から、他の西欧先進国よりも好調に推移していますが、カナダ銀行(中央銀行)の金融引き締め政策により、他国と同様に景気減速が予想されます。
中国経済は、主に新型コロナ関連の要因により一時的に成長が鈍化しているとみています。ただし、2022年の後半には金融・財政政策に下支えされて再加速し、その後は潜在成長率並みに戻ると予想しています。
インフレ期待は上昇しているものの、主に短期の予想が上昇
長期的なインフレ期待は適度にアンカーされている
現在、米国のインフレ率はFRBの「コンフォートゾーン(容認範囲)」を大きく上回っており、米国、英国、カナダそしてユーロ圏の短期の期待インフレ率は高い水準にあります。一方で、長期のインフレ期待は比較的アンカーされている(安定的に維持されている)と見込まれます。
過去、米国では、1980年と1991年の景気後退期前の期待インフレ率は、1年先と5-10年先の期間ともに上昇していました 1 。一方、現在の長期の期待インフレ率はそれほど上昇していない状況です。
金融政策の大きな転換
インフレの高進により、2022年は金融引き締めの予想が大幅に上昇
2021年末と異なり、欧米の各主要中央銀行の金融政策に対する予想は、急速な引き締めペースを示しています。しかし、利上げ幅は、実体経済の健全性に左右されます。
欧米先進国の多くですでに金融環境がタイト化しており、マネーサプライの伸びが鈍化しています。例えば、米国では住宅ローン金利が年初から2%以上上昇しています 2 。
世界的にさまざまな成長への逆風が吹いているにもかかわらず、政策担当者はインフレへの対応に注力しています。FRBについては、市場の予想の通り、引き締めサイクルが続くとみています。その結果、イールドカーブ全体が年末までにフラット化すると予想されます。すでに一部の主要先進国では金融環境が大幅にタイト化し、購買意欲が減退しているため、需要の冷え込みにつながると見込まれます。
減速する欧米先進国経済
エネルギー価格の高騰を踏まえると、米国よりもユーロ圏の方が景気後退の可能性が高い
欧米先進国の多くは、すでに大幅な景気減速の兆候を示しています。例えば、米国とユーロ圏の購買担当者景気指数(PMI、米国はISM指数)は5月から6月にかけて低下しました。金融政策によるコントロールが困難なエネルギー価格の高騰を考慮すると、米国よりもユーロ圏の方が景気後退の可能性が高いと考えています。
金融引き締めの積極化は米国の景気後退の可能性を高めますが、私たちは、FRBは依然として米国経済を「ソフトランディング」に導くことができると考えています。その要因としては、労働市場がタイトで、レイオフ(一時解雇)を行うよりも削減可能な求人数が多いことや、FRBがデータに基づいた政策運用を実行すると表明していることなどがあります。
中国経済は2022年後半に再加速する公算
新型コロナの感染状況の落ち着きと政策支援の効果により、景気減速は緩やかになると見込まれる
中国での新型コロナウイルス対策の厳格化は、経済成長に対する新たな課題をもたらしています。2022年前半の中国景気は落ち込むと見込まれるものの、財政・金融支援策により、後半には回復すると予想しています。これは、多くの欧米先進国が景気刺激策を終了しているのとは対照的です。
資産クラスへの影響
基本シナリオでは、リスク選好度を中立、ディフェンシブな株式への小幅なオーバーウエイト
私たちの基本シナリオでは、ベンチマークに対するリスク選好度を中立とします。世界的な景気減速が予想される中、債券と株式間のリターンのばらつきが小さいと見込むと同時に、ある程度のプラスのリターンを見込んでいます。このような環境下では、債券に対して株式を若干オーバーウエイトとし、株式のエクスポージャーではディフェンシブセクター、優良株、ボラティリティの低い株式を選好します。また、米国を米国以外の先進国市場に対してオーバーウエイトとする一方、先進国市場と新興国市場への資産配分は中立とします。債券では、投資適格社債を選好し、デュレーションは中立とします。また、投資適格社債と地方債に投資機会が存在するとみています。オルタナティブ資産では、エネルギー、バリューアッド不動産、コアプラス・インフラを選好します。
2つのリスクシナリオ
今回の投資環境の見通しでは、以下のテールリスク・シナリオを想定しました。
1. ロシアによるエネルギー供給停止シナリオ
ロシアによるエネルギー供給停止のシナリオでは、ベンチマーク対比でリスク資産をアンダーウエイトとし、エネルギー以外のシクリカル・セクターをアンダーウエイト
ロシアによるエネルギー供給の停止や欧州のロシア産エネルギーの輸入禁止を受け、世界ではエネルギーショックが起こり、欧州を中心にインフレ率が大幅に上昇します。その結果、欧州ではスタグフレーションが発生、全世界で実質所得が減少し、世界の経済成長率が低下すると想定しています。
アセットクラスへの影響としては、「リスクオフ」の環境を想定し、ベンチマークと比較してリスク資産をアンダーウエイトとします。経済成長に対するマイナスの影響を考慮し、エネルギーを除くシクリカル・セクターをアンダーウエイトとします。国・地域別配分では、米国を米国以外の先進国市場に対してオーバーウエイト、また、先進国市場を新興国市場に対してオーバーウエイトとします。このシナリオで生じるエネルギーショックは経済成長にマイナスの影響を与える可能性があり、インフレ率の上昇にもかかわらず、債券利回りの上昇幅は限定的となる可能性があります。このシナリオでは、投資適格社債が相対的に魅力的な投資機会を提供する可能性があります。オルタナティブ資産では、コア不動産を選好します。概して、このシナリオでは、より流動性が高く、よりディフェンシブな資産を選好します。
2. ロシア・ウクライナ紛争の戦況改善シナリオ
ロシア・ウクライナ紛争の戦況改善シナリオでは、ベンチマーク対比でリスク資産をオーバーウエイトとし、よりリスクの高い、デュレーションの短いクレジット資産を選好
敵対関係が想定外に緩和されることで、ロシア産エネルギーの供給停止や禁輸のリスクはほぼ解消し、エネルギー価格やその他の主要コモディティに対する現在の地政学的なリスクプレミアムが低下します。これにより、景気後退の懸念が緩和することから、世界の経済成長率が上昇し、世界的に中央銀行が金融引き締めを行う余地が拡大すると想定しています。
このシナリオでは、ベンチマークに対してリスク資産をオーバーウエイトとします。経済成長の加速により債券利回りの上昇が予想されるため、よりリスクの高い、デュレーションの短いクレジット資産を選好します。オルタナティブ資産では、レバレッジド・バイアウトなど、よりリスクの高いサブアセットクラスを選好します。概して、このシナリオでは、よりリスクの高い市場を選好します。
- 出所:ミシガン大学消費者調査
- 出所:Today’s Mortgage Rates & Trends – June 15, 2022: Rates continue to surge
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MC2022-094