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グローバル市場:待機を余儀なくされる状況下で

グローバル市場:待機を余儀なくされる状況下で
〔要旨〕
より多くの情報を求めて:現在投資家は、中央銀行の方針変更、企業の決算報告、ウクライナに関する直近のニュースを始め、さまざまな情報を待っている状況に
今、重要なこと:待機状況下では、投資家は、長期的な投資計画を維持し、過剰に反応せず、思い込みにとらわれないことが肝要
 
投資家に示唆されることは?
結論

 

15年ほど前に、快適とは言い難いフライトを経験しました。天候が悪く、ニューヨークへの着陸許可が下りなかったため、近辺を旋回しながら空中で待機する状況が続きました。機長は、燃料が少ないと管制官が先に着陸させてくれるとのポジティブな意味合いで、燃料が残り少ないことを乗客にアナウンスしましたが、私を含め乗客の不安はかえってあおられることとなりました。過剰に反応した乗客もいたことから、機内はよりひどい状況になりました。何時間も上空で嫌な汗をかいた後、ようやく着陸許可が下りたと思ったら、ニューヨークの天候が回復しないためワシントン・ダレス空港に着陸するとのアナウンスでした。もちろんうれしくはありませんでしたが、燃料切れよりははるかにましだと思いました。

このエピソードをお話した理由は、現在私たちが陥っている市場の状況とよく似ていると思ったからです。実際、投資家は、ある種の待機状態に置かれているといっていいのではないでしょうか。

 

  1. 市場関係者は、米連邦準備理事会(FRB)を始めとした中央銀行がいつ政策方向の転換を行うか、注視しつつ待ち構えています。それはすなわち、より「良い」インフレデータを待っているとも言えます。急激な利上げを受けて世界経済が減速しつつあることは明らかであり、市場関係者は皆、インフレ率の有意な低下を示すデータが出てくるのを待ち構えています。そのような兆しを早く見たいと思うあまり、景気減速の兆候を示すデータ(例えば先週公表された米ISMの製造業新規受注や8月の米雇用動態調査(JOLTS))に過剰に反応してしまう向きもあるでしょう。しかし、FRBや他の中央銀行が注視しているのはあくまでインフレデータです。
  2. 市場関係者はまた、欧米先進国の労働市場が「よりタイトでなくなる」のを待っています。9月の米雇用統計では、失業率が低下し、市場予想をやや上回る結果となりました。また残念ながら、労働参加率も低下しました。従って、(平均時給の伸びが緩やかになるなど)ある程度の進展はみられるものの、FRBが利上げはもう十分と判断する材料には至らないように思えます。英国やユーロ圏でも状況は似通っており、失業率は非常に低水準で推移しています。しかし、労働参加率が上昇しつつあるユーロ圏よりも、これが米国同様に低迷している英国の方が、状況はより深刻です。つまり、英国・ユーロ圏ともに深刻なエネルギーインフレの問題を抱えているものの、英国は米国同様に賃金インフレや一般的なインフレの問題を依然として抱える一方、ユーロ圏では賃金インフレの問題ははるかに小さくなっています。
  3. 世界的な景気後退に突入するかどうか、皆がそれを見定めようとしていますが、より多くの兆候がその方向を指し示しているように見受けられます。これに関し、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事は先週、「景気後退のリスクが高まっている…金融引き締めを過度に、急速に、しかも他国と並んで同時期に行えば、多くの経済が、長引く景気後退に陥る恐れがある 1 」との警告を発しました。世界貿易機関(WTO)も先週、同様の警告を発しました。しかし、中央銀行が十分迅速に政策転換を行えば、そうした命運を回避できる可能性は常にあると考えています。
  4. インフレ抑制は早期に行うべしとの中央銀行の考え方に異論はありませんが、現在は異例の金融引き締め環境下にあり、世界的に何かが「壊れる」のを待っているような感覚があります。直近では、政府の減税策をきっかけに英国債が大きく売られ、国債利回りが急上昇した英国が、まさにそうした危機に近づいているように見えます。イングランド銀行は、長期の英国債の緊急購入プログラムを始めとした、いくつかの介入措置に踏み切りました。
  5. 世界的な金融引き締めにより、企業の売上高や利益がどれだけ負の影響を受けたか確認する上で、決算シーズンに注目が集まっています。決算シーズンは今後数週間続き、2022年7-9月期の結果が明らかになります。また、10-12月期への示唆も待たれるところです。
  6. ロシア・ウクライナ紛争の行方についても注目が集まっています。直近でバイデン米大統領は、世界はキューバ・ミサイル危機以来、最も「核のアルマゲドン(世界最終戦争)」に近づいていると発言しました。こうした状況下で多くの人々が事態の沈静化を見守り、待ち望んでいます。しかし、核の脅威とまではいかなくても、ウクライナがクリミアとロシアを結ぶ橋の破壊に成功したと見られることに対して、現在ロシアは民間インフラを標的にして再びキーウを砲撃するなど報復を行っており、これにより東部戦線にとどまらず、再びウクライナのより広範囲が巻き込まれ、長く激しい戦いに引き戻される可能性が示唆されています。
  7. 欧州ではこの冬がどれほど厳しいものとなり、欧州諸国がエネルギーにまつわる大規模な停止を行わずに乗り切れるかどうかについても、今後注視すべき点です。
  8. 中国共産党大会の内容とその後の動向にも注目が集まります。10月9日から第19期中央委員会第7回全体会議(7中全会)が始まっていますが、16日には、共産党幹部の人事を決める5年に一度の党大会が開かれます。ここで習近平国家主席が異例の3期目の当選を果たし、今後5年間の重要政策の青写真を示すと予想されています。政策的なサプライズは特に予想されませんが、短期的な成長安定と新型コロナウイルスの感染の抑えこみを行いつつ、新たな経済モデルである「共同富裕」の基盤を築くことに重点が置かれるとみています。

 

投資家に示唆されることは?

では、投資家は待機期間中に何をすべきでしょうか。もちろん、待つことです。そして過剰に反応しないことです。米ISMの製造業新規受注が、好不況の境目とされる50を下回ったからといって、FRBをはじめとする中央銀行がすぐに金融政策を方向転換すると考えたり、逆に9月の米雇用統計で、FRBにとって十分なスピードで経済が減速していると示唆されなかったからといって、FRBがいつまでも積極的な姿勢を続けると考えたりするべきではないでしょう。要するに私は、長期的な投資計画を維持し続けることこそが重要だと考えています。

もっと投資されてもいいと思われる分野に、配当株があります。配当金によって「待つ報酬」が得られるため、そこへの投資は理にかなっていると思うからです。配当金の支払いは、「待機状態」に陥っているときには、ポートフォリオの重要な構成要素になり得ます。そして、十分すぎる現金を保有している投資家は、難しいかもしれませんが、景気回復に備えてポジション変更の準備に入るべき時だと私は考えています。

 

結論

目的地から遠く離れた着陸を余儀なくされたフライトの話に戻ります。家から200マイル以上離れた場所に着陸するとは誰も想像できませんでしたが、それでも何とかなるものです。その夕方、私はレンタカーを借りて、米軍関係者と乗り合わせ、ニューヨーク近郊まで車で戻ることになりました。道中、彼女から、地政学に関する見方や軍隊生活の苦労、将来の野心的な計画までさまざまな話を聞き、私たちは多くの興味深い話題で盛り上がりました。この車中の旅で多くを学べたことに、今では感謝さえしています。過剰に反応せず、長期的な目標を見据えていれば、今後の数カ月間で、私たちは多くを学ぶことができるかもしれません。

 

  1. 出所:バロンズ、“IMF chief urges action as global recession risks rise”、2022年10月6日

 

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MC2022-146