市場のムードは改善。それは持続するのか?
〔要旨〕
- 市場のムードは改善:米国、欧州、中国で前向きな内容のデータが発表されたことにより、ここ1カ月荒れ模様となった世界市場のムードは改善傾向に
- 今後どうなるのか?:銀行セクターのミニ危機は、利上げをより早期に停止させることで、中央銀行の過度な引き締めを防ぐ効果をもたらす可能性
- 中央銀行の動きに違いが出る可能性:ECBは今後、FRBよりもタカ派的な動きをする可能性
市場のムードは改善
今後どうなるのか?
何事もほどほどに?
この先の展開は?
米国では毎年3月に、「マーチ・マッドネス(3月の熱狂)」と呼ばれる大学バスケットボールのプレーオフに注目が集まります。大学でバスケットボールをプレーしたいと考えている娘を含め、長年バスケットボールに打ち込んできた3人の子供の母親として、マーチ・マッドネスは私たち家族にとって、1年の中でも重要なイベントです。
今年、3月を通してみられた市場の狂乱によって、この言葉はより大きな意味を持つようになりました。 月初に発生した銀行問題は、その後悪化していきました。米国では典型的な銀行の取り付け騒ぎが起こり、欧州では銀行ストレスが生じる中、市場は極端な「リスクオフ」環境となりました。私たちは、これらの問題が特定の銀行に関するものでシステミックではないと考え、また政策当局が積極的な引き締めにより生じるリスクを敏感に感じ取り、問題をくいとめるために迅速かつ効果的に動くことについて確信していると主張してきました。
市場のムードは改善
4月に入り、市場の狂乱は、少なくとも現時点では終わったかのように見えます。先週はVIX指数が20を下回り、クレジット・デフォルト・スワップのスプレッドがやや縮小し、利回りが大部分で上昇し、株価も上昇するなど、市場のムードは改善傾向となりました1。銀行セクターは、少なくとも一時的に問題が緩和され、安定しているように見えます。経済データが再び注目され、その多くが市場のムードに好影響を与えるものとなった中で、リスクオフの環境からの緩やかな巻き戻しが起きつつあります。
米国のインフレおよびインフレ期待の実質的な改善の兆しも見えてきています。
- 2月の個人消費支出(PCE)コア価格指数は前月比0.3%上昇し、コンセンサス予想をわずかに下回りました2 。
- しかも、住宅を除いた2月のPCEコアサービス価格指数は、前月比0.27%(年率3.3%)の上昇にとどまりました2 。この指標は最も持続的に高止まりしていたことから、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が最も懸念していたインフレのカテゴリに相当し、非常に重要な結果となりました。
- 最後に3月のミシガン大学消費者調査では、消費者の1年先の期待インフレ率が引き続き低下していることが示されました。2022年10月時点の1年先の期待インフレ率は5%でしたが、5ヵ月後には3.6%まで低下しました3 。
ユーロ圏においては、最近公表されたデータによると、エネルギー価格の下落に大きく助けられ、2月のヘッドラインインフレ率は大幅に低下しました4 。残念なことにコアインフレ率は上昇しましたが、これは欧州中央銀行(ECB)がFRBより遅れて引き締めを開始したことを考えれば、驚くには値しません4 。
世界の市場のムードは、中国のいくつかの良好なデータにも支えられています。中国のサービス業購買担当者景気指数(PMI)は58.2と非常に高く、2011年以来の高水準となりました5。これは今年、新型コロナウイルスに関連する規制の緩和に伴う「リベンジ生活」の広がりにより、中国で強い景気回復が見られるだろうとの私の見通しに沿うものです。また中国の不動産市場は、投資面だけでなく価格面でも堅調に回復しています6。このような動きは、中国だけでなく特にアジアにとってプラスとなるでしょう。
今後どうなるのか?
ここ数週間私は、銀行セクターのミニ危機は、利上げをより早期に停止させることで、中央銀行の過度な引き締めと幅広い景気後退を防ぐ効果をもたらすという、災い転じて福となす出来事かもしれないと考えるようになりました。今もその可能性があると楽観的にはみていますが、それでも、中央銀行当局から、インフレ対策に終始していた3月以前の考え方に戻りたいとの切望がいくらか感じられることも確かです。
直近のインフレ率、期待インフレ率が緩和していることから、FRBがもう1回利上げを行う可能性もあります。 ECBはさらに大きな引き締めを行う可能性があります。コアインフレ率は通常、ヘッドラインインフレ率にラグを伴って連動するため、最終的にはヘッドラインインフレ率の低下に追随すると予想されますが、当面ECBは、FRBよりもタカ派な動きをするかもしれません。
何事もほどほどに?
母親として私が子供たちに伝えたい知恵の1つは、「何事もほどほどに 」ということです。子供たちにとってはハロウィン後のキャンディの消費、(テレビ・スマホなどの)スクリーンタイム、夫にとってはビュッフェでの食事、私にとってはバスケットボールのママ友会での「レディース・ナイト」のお出かけなど、全てほどほどが良いのです。それは、現在の経済環境にも当てはまります。
市場が先走ることで「リスクオン」になり、金融環境が緩んで、中央銀行が「さらに引き締めが必要だ」と考えるような状況になるのは避けたいところです。反対に、銀行危機によって信用環境が厳しくなり、経済が深刻な不況に陥るようなことも避けなければなりません。ただほとんどの市場参加者は、中央銀行が利上げの手を緩めようと考える程度に信用環境が引き締まるのは、許容範囲と考えているように思います。 同様にほとんどの市場参加者は、最近の米個人消費データに見られるような消費鈍化の兆候や、コアインフレ率へのプレッシャーを和らげる労働市場環境の緩和は許容範囲でも、消費の極端な軟化や大量解雇により、経済が深刻な不況に陥ることは避けたいと考えるでしょう。言い換えれば、理想は「ゴルディロックス」環境、つまり暑すぎず寒すぎず、ほどほどの環境ということです。しかしそのためには、金融政策という回りくどい手法ではなく、外科的なツールを用いて繊細な調整を施す必要があるでしょう。OPECプラスは、原油減産という、こうした動きに水を差すようなサプライズ決定を行い、これにより直近の原油価格は上昇しました。
つまり経済のセミ(準)ソフトランディングまでは、長く曲がりくねっていて狭い道のりですが、確実にその道は存在し、中央銀行はどうにかしてそこに辿り着くことができる可能性があります。ただ、多くの企業による解雇のニュースがそこに影を落としています。
この先の展開は?
最近「リスクオン」心理が高まっていますが、私は、このような環境では十分に分散し、ディフェンシブなポジションをとることが理にかなうと考えています。 これまで何度も見てきたように、市場心理は急速に変化するものであり、また依然として大きな不確実性が存在しています。債券は数年来の低利回りを経て、高利回りとなっています。投資適格債は特に魅力的で、ポートフォリオの重要な構成要素になり得ます。株式では、テクノロジー、ヘルスケア、ユティリティなどの長期成長セクターやディフェンシブ・セクターがより良いパフォーマンスを示すと予想されます。新興国のアセットについても、私は普段は慎重に見ていますが、特に中国における経済再開を受け、アジア新興国市場には、選択的な機会があると考えています。
今後は、中国の堅調な経済再開の状況をさらによく確認するため、財新サービス業PMIを注視したいと思いますし、米国、英国、ユーロ圏のS&PグローバルPMIの確報値にも注目していきたいと思います。 また今週は米雇用統計が発表されますが、そこで私にとって最も重要なデータポイントは賃金の伸びです。今週が、経済と市場にとって良い(ただし、良すぎない)週であることを祈ります。
(執筆協力:木下智夫、ポール・ジャクソン、アーナブ・ダス)
1.出所:ブルームバーグ、2023年3月31日
2.出所:米国労働省労働統計局、2023年3月31日
3.出所:ミシガン大学サーヴェイ・オブ・コンシュマー、2023年3月31日
4.出所:ユーロスタット(Eurostat)。ユーロ圏は、ベルギー、ドイツ、エストニア、アイルランド、ギリシャ、
スペイン、クロアチア、イタリア、キプロス、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、
オーストリア、ポルトガル、スロベニア、スロバキア、フィンランドで構成されている。
5.出所:国家統計局、2023年3月31日
6.出所:CEICのデータに基づきインベスコが作成、2023年3月24日
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MC2023-048