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中央銀行はジャクソンホールで台本に忠実に演じた

中央銀行はジャクソンホールで台本に忠実に演じた
〔要旨〕
  • FRB:パウエル議長は、概ねタカ派的なメッセージを発した。しかし私は、これらの発言は主に見せかけだけで、FRBが再び利上げに踏み切るとは考えていない
  • ECB:ラガルド総裁は、中央銀行は、より条件付きの表現で予測を語り、予測誤差についてよりしっかりした説明を行う必要があると述べた
  • 過大か過小か?:ある連銀のインタビューでは、FRBによる引き締め不足は過剰な引き締めよりも悪いとの見方が示唆された。しかし、経済の不確実性がこれほどまで高い状況では、私はそれは間違いだと考えている
 
FRBは自らをインフレの「ターミネーター」としてキャスティングする
ECBが、変化する世界経済を「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のように見通す
「レッドカーペット 」インタビューから見えてくるもの
その他のニュース: 印紙税についての発表により中国株が上昇
 

先週待ちに待った、ジャクソンホールでのカンザスシティー連銀主催の経済シンポジウムが開催されました。エコノミストやマーケット・ウォッチャーにとっては、ポルトガルのシントラ会議(ECBフォーラム)のように「必見」のイベントの1つです。私は、脚本家の卵の長男にこう説明しました:「華やかな、スターが勢ぞろいする授賞式のようなものよ。ただし、映画製作者じゃなくエコノミストにとってのだけどね。」この例えをもう少し推し進め、ジャクソンホールでのシンポジウムを、以下のとおり映画になぞらえつつ振り返ってみました:

 

FRBは自らをインフレの「ターミネーター」としてキャスティングする

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、予想されていた台本に忠実に、概ねタカ派的なメッセージを発しました。私は、FRBが再び利上げに踏み切るとは考えていませんが、パウエル議長の立場では厳しい姿勢で発言せざるを得ず、実際そのように発言したと捉えています。彼は、インフレの「ターミネーター」としてのイメージを打ち出そうとしたと言ってもいいでしょう。

パウエル議長は冒頭で、これからするスピーチは昨年より長い(2022年のスピーチのほぼ2倍)が、伝えるメッセージは同じだと述べました:「昨年のジャクソンホールのシンポジウムで、私は簡潔で、直接的なメッセージを伝えた。今年の私のスピーチは少し長くなるが、メッセージは同じだ:FRBの役目はインフレ率を目標の2%まで低下させることであり、私たちは、そうするつもりだ… 1

パウエル議長は、「インフレはピークから低下したが...依然として高すぎる」とし、FRBは、「経済が期待通り冷え込んでいっていない可能性を示す兆候に注意を払っている」と明言しました1。パウエル議長はまた、個人消費は堅調であり、住宅部門は回復の兆しを見せていると述べましたが、こうした傾向は、「更なる金融引き締めを正当化する可能性がある」と述べました1。バックミラーに映るものを更なる引き締めの根拠とするこの考え方は、普通なら心配になるところですが、私はこれは、金融環境の尚早な緩和を牽制するための威嚇だと確信しています。最終的に彼は、「金融引き締めが経済活動、特にインフレに影響を与えるラグの長さについての不確実性」があることを認めました。その場合、辛抱強くならねばならないでしょう。

またパウエル議長は、FRBによる更なる引き締めをもたらしうる指標も示しました:

  • トレンドを上回る成長が持続していることを示す、より多くの証拠
  • 労働市場の緩和が止まったという証拠

そして最後に、FRBが慎重であるべき理由として次のように締めくくりました:「私たちは曇り空の下で、星を頼りに航海しているようなものだ1。」
 

ECBが、変化する世界経済を「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のように見通す

欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、今回の会議のテーマ、「世界経済における構造的シフト」に焦点を当てたスピーチを行いました。ラガルド総裁は、経済に影響を与える3つのシフト(労働市場、気候変動、エネルギーセクターと地政学)があることを踏まえた上で、将来どうなるかについて考察しました。 (地政学が将来に与える影響については、日銀の植田総裁もテーマとして取り上げ、「地政学的要因がより長期的に日本経済に与える影響については、当然ながら非常に不透明だ」と指摘しました2 )。

ただし、ラガルド総裁はいくつかのポジティブなトレンドについても取り上げました。特に、パンデミックによるデジタル化の加速からリモートワーク実施の能力が向上し、それにより労働市場がより柔軟化に寄与するとともに、労働力人口の増加をもたらすだろうと指摘しました。また、人工知能(AI)やその他の技術革新が大きな雇用喪失を引き起こすのでは、との懸念に対処しつつ、AIの発展は役に立つはずだと主張しました。ラガルド総裁は、先進国の雇用の4分の1以上がAIによって容易に「自動化」され得るスキルに依存しており、消滅の危機に瀕している、との懸念される調査結果が出ていることを認めました。しかし同時に、過去10年間にほとんどの欧州諸国で、より多くAIに関わる仕事での雇用が増加しているとのECBの調査結果を挙げ、AI革命が必ずしも雇用の減少につながるわけではない、と反論しました。

ラガルド総裁はまた、今後の金融政策策定における3つの主要な原則:明確さ、柔軟性、謙虚さにも焦点を当てました。彼女が強調した謙虚さ、特に予測に関する謙虚さは、イングランド銀行による経済予測の見直しの取り組みとも重なり、私は特に適切だと考えています。総裁は、「不確実な経済状況下では、単純なルールや中間目標に基づいて政策を策定すべきではない…それはすなわち、古いデータで推定されたモデルのみに頼りつつ、ポイント予測に基づいて政策の微調整を行うという対応ではいけないということだ。同時に、直近のデータに集中しすぎて『バックミラーを見ながら運転する』落とし穴に陥ることも避けねばならない。それでは金融政策が、安定化させる取り組みではなく、むしろ反応的な取り組みになってしまう可能性が高いからだ3 と説明しました。

ラガルド総裁が、中央銀行による直近の予測の精度が低ければ、家計の中央銀行予測への信頼が低下することを示した調査結果に言及したことは、インパクトがあったと私は考えています。これに対し、ラガルド総裁は2つの潜在的な解決策:予測はより条件付きの言い方で述べることと、予測誤差についてよりしっかりした説明を行うこと、を提示しました。またECBが、ECBのインフレ見通しの予測誤差の主な要因を公表し始めたこと、そして今後もそうする予定であることを強調しました。

この会議では、「高い不安(High Anxiety)」(1970年代のメル・ブルックスの映画で、それほど評価は高くなかった)というテーマで重要な学びが得られました。多くの講演者が、貿易障壁や産業政策によるサプライチェーンの変化など、いくつかの構造的変化が高インフレ環境を招き、ひいてはより長期の金利上昇につながる可能性に対し、懸念を表明しました。ラガルド総裁は、「新たな環境は、パンデミック前よりも大きな相対的価格ショックの舞台を整える」と述べました。イングランド銀行のブロードベント副総裁は、英国の高インフレの原因に言及し、特に今後の賃金の伸びへの懸念を表明しました。ブロードベント副総裁は、金融政策は今後しばらくの間、「抑制的な領域にとどまらざるを得ないだろう4」と述べました。言い換えれば、金利がより高い状態がより長く続くだろうということです。
 

「レッドカーペット 」インタビューから見えてくるもの

レッドカーペットの授賞式といえば、会場でのインタビューが欠かせませんが、ジャクソンホールでの会合もまた然りです。特に私の注意を引いたのは、次のインタビューでした: クリーブランド連銀のメスター総裁が、「私はソフトランディングを基本ケースとしている… 5」と語り、FRBが引き締め不足に陥る方が、過剰な引き締めよりも悪いとの考え方に寄っているようでした。私は、これは間違いだと考えています:今は決して、「甘い生活」ではありません。私が見るところ、米国はソフトランディングではなく、バンピーランディングに陥る可能性があるとの証拠が増えつつあります。

その証拠の1つは、 S&Pグローバルが先週発表した8月の米購買担当者景気指数(PMI)速報値で、米製造業PMIが47と、7月の49から更に縮小領域に落ち込んだということです。更に心配なのは、米サービス業PMIです。8月のPMIは50.4と依然として拡大域にはあるものの、7月の52.3を大きく下回り、新規受注が2月以来初めて減少するなど、6カ月ぶりの低水準となりました6

私は現状、特にこれだけ不確実性がある状況においては、FRBにとって、過剰な引き締めは引き締め不足よりも大きなリスクとなると考えています。実際、先週のメイシーズの決算報告は、将来の予測不可能性を思い起こさせるものでした: 「目下進行しているマクロ経済面でのプレッシャーと、これがいつ和らぐかの不確実性に鑑み、弊社は消費者に対して慎重なアプローチをとり続けていく… 7」。

これは米国特有の問題ではありません。他の先進国も、同様の問題を抱えています。S&Pグローバルが発表した8月のPMI速報値によると、ユーロ圏と英国の企業活動は落ち込んでいます。しかしこれは、サービス業PMIが54.3と非常に堅調だった日本のPMI速報値とは対照的です8。これは、欧米先進国における金融引き締めの負の影響、及びそのラグ効果を思い起こさせます。これにより、中央銀行が「正しいことをする」(1989年のスパイク・リー監督の米映画)こと、そしてそれぞれの利上げサイクルの終了が促されることを望みます。
 

その他のニュース:印紙税についての発表により中国株が上昇

先週、中国が行った重要な発表に触れないわけにはいかないでしょう。株式取引にかかる税金、印紙税を引き下げるというものでした。当然のごとく、中国・香港の株価はこのニュースに好反応を示しました。過去数十年の間にこのようなことが行われたのは稀ですが、その際株価は大きく上昇しました。以前にも申し上げたように、中国株を取り巻く心理がネガティブなため、いかなる政策的支援も株価に好影響を与える可能性があります。これが、中国経済及び市場を支援する政策的取り組みの「始まり(インセプション)」になることを期待したいところです。

 

1.出所: FRB、パウエル議長講演記録、2023年8月25日
2.出所: ロイター、“BOJ Ueda says China's slowdown adds to economic uncertainty”、2023年8月28日
3.出所: ECB、ラガルド総裁講演記録、2023年8月25日
4.出所: イングランド銀行、ブロードベント副総裁講演記録、2023年8月26日
5.出所: FXStreet、“Fed’s Mester: Undertightening would be worse than overtightening”、2023年8月25日
6.出所: S&Pグローバル、2023年8月23日。購買担当者景気指数は0から100の間で測定される。50を上回れば景気拡大、それ以下は景気縮小を示す。
7.出所: メイシーズ第2四半期決算プレスリリース、2023年8月22日
8.出所: S&Pグローバル、2023年8月23日

 

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MC2023-134