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悲観論ではなく、現実論に基づく市場の見方

悲観論ではなく、現実論に基づく市場の見方
〔要旨〕
  • 米国のインフレ:米国経済は引き続き底堅く、インフレ率は低下基調を続けているが、私たちが望んでいるよりもペースは緩慢
  • 私たちの見通し:2023年は市場が持続的に回復する道筋を描くと見ているものの、必ずしも直線的な道筋とはならないとの見方を維持
  • インカムゲインの可能性:リスク回避志向の強い投資家は、インカム重視によりポートフォリオのボラティリティを抑制できる可能性
     

1. 中央銀行が今年、タカ派的なスタンスになりすぎはしないか?

2. 2023年に企業収益は劇的に悪化するか?

3. 地政学的リスクは今年の株式市場を脱線させるか?

投資家への示唆

私はここ数週間、さまざまな顧客グループにプレゼンをして回りましたが、その中で聞こえてくる悲観的な声の大きさに驚かされました。確かに前途は多難ですが、私は悲観論によって、目の前にあるキャピタルゲインやインカムゲインのポテンシャルが覆い隠されることがあってはならないと考えています。

投資家による悲観的な見方は、主に次の3つの問いに関わるようです。

1. 中央銀行が今年、タカ派的なスタンスになりすぎはしないか?

私は、悲観論より現実論による方が適切ではないかと考えます。先週発表された米消費者物価指数(CPI)では、ヘッドラインCPI、コアCPIの両方が事前の市場予想コンセンサスを上回りました。しかしこの数値は依然、予想よりはしつこいものの、インフレ自体は低下傾向であることを示しています。先週発表された米生産者物価指数でも同様のことが示されました。

明るい材料としては、経済成長に関するデータについてもいくつか予想を上回るものが出てきています。1月の米小売売上高は事前予想をはるかに上回り、前月比1.7%増との予想に対して同3.0%増となりました。自動車を除いたものでは同2.3%増となり、事前の市場予想コンセンサス同0.7%増を大幅に上回りました1

私が先週のデータから得た重要なポイントは、米国経済は依然として非常に回復力があり、インフレの低下基調が続いているものの、そのペースは私たちが望んでいるより緩慢であるという点です。米連邦準備理事会(FRB)は「一時停止」ボタンを押す前に、さらに若干の利上げを行う必要があると考えるかもしれません。そして私は、今年中に利下げが行われる可能性は極めて低いと考えます。先週行われた一連の「Fedspeak(FRB関係者の発言)」はこの結論の信ぴょう性を高めるものでしたが、私がみるところ、過剰にタカ派的な内容だったのではないかと思います。

  • ブラード・セントルイス連銀総裁は、「米国経済はこれまで考えられていたよりも速いペースで成長しており、労働市場のパフォーマンスは堅調で、失業率は長期的な自然水準を下回っている…成長率と労働市場が堅調な中でも、政策金利の引き上げを継続することによりインフレ期待を低く抑え、2023年内にディスインフレ傾向を定着させることができる」 2 と説明しました。

  • ボウマンFRB理事も先週、「2%のインフレ目標到達までの道のりはまだ遠い。これに関しはるかに多くの進展が見られるまでは、政策金利を引き上げ続けなければならないと考えている」と話しました3

FRBだけでなく他の中央銀行からも、タカ派的な発言がなされました。先週、英国の1月のインフレ率が予想以上に鈍化し、6カ月ぶりの低水準になったというデータが発表されましたが、これに対してハント英財務相は、「インフレ率の低下は喜ばしいが、戦いはまだ終わりからほど遠い」 4 とコメントしました。
 

そして、欧州中央銀行によるバレンタインデーのツイートがこちらです。

「バラは赤い
スミレは青い
私たちは道を踏み外さず
インフレ率を2%に戻す。」

同じ中央銀行が、2年前のバレンタインデーにツイートした内容は以下です。

「バラは赤い
スミレは青い
私たちは良好な金融環境を維持する
危機が去るまで。」

「危機が去るまで」です。

私が思うに中央銀行は、一時停止ボタンを押す準備が整うまで、タカ派的なレトリックを続けるのではないでしょうか。それがタカ派的になり過ぎない限りは、問題ないと考えます。今後発表されるデータ次第ではありますが、私は、FRBが必要とするのはおそらくあと2回の利上げのみではないかと考えています。カナダ銀行は、利上げを一時停止させるというかなり勇気ある決定を下しましたが、カナダの1月のインフレ率のデータでは、労働市場が非常に好調であるにもかかわらず、インフレが低下しつつあることが確認されました。「おどし」が有効な手段となりうることから現在FRBは強気な発言を行っていますが、私はそのことに動揺していませんし、米国も1-2カ月後にはカナダに続くのではないかとみています。私は現実的であり、過度に悲観はしていません。
 

2. 2023年に企業収益は劇的に悪化するか?

インフレが利益率にダメージを与えると同時に、投資家が金融政策の企業収益への影響がラグをもって表れるのを待っていることから、悲観論のもう一つの源泉は企業収益にあります。2022年10-12月期の決算説明会では、「逆風」という言葉を数え切れないほど耳にしました。ある英国の医療機器メーカーは、「2023年もマクロ経済の逆風に直面するだろう」 5 と述べ、別の米国の建材メーカーは、「インフレ圧力が引き続き逆風となる」 6 と述べました。

これまでにインフレによる深刻な逆風にさらされてきたことからすれば、大幅な金融引き締めサイクルによるマクロ経済の逆風が起きるのも、現実的に考えて当然だと思われます。しかし多くの企業は高い耐性を発揮し、既に一定期間、こうした逆風に巧みに対応してきました。例えばS&P 500種構成企業の収益は今後圧迫されると予想されますが、それほど大幅にではありません。アナリスト予測によれば、2023年1-3月期は収益が5.4%減、売上高が1.9%増、同4-6月期のコンセンサス予想では、収益は3.4%減、売上高は0.1%減7 、同7-9月期には収益が3.3%増、売上高が1.4%増と回復し7 、同10-12月期については収益が9.7%増、売上高が3.4%増まで回復すると見込まれています7 。もちろん、まだ利上げの累積的な影響が顕在化していないことから、これらは下方修正される可能性があることをお断りしておきます。しかし私は、収益悪化の多くは既に株価に織り込まれていると考えています。
 

3. 地政学的リスクは今年の株式市場を脱線させるか?

この問いに関しては、深刻な不安がつきまといます。私は地政学の専門家ではありませんが、地政学リスクは常に存在し、ある時は十分予期される中で起こり、またある時は不意を突く形で起こります。

過去100年の間にさまざまな危機、紛争、悲劇があったにもかかわらず、株式市場が長期にわたって信じられないほどの回復力を示してきたことには驚かされます。一市民としての私は、現下の状況を心配し、毎日のヘッドラインニュースを注意深く見守りつつ、世界中の緊張が早期に緩和されることを望んでいます。他方投資家としての私は、歴史を振り返りつつ、市場が長期的にどのように反応してきたかを分析することしかできません。私は長期の投資家が、潜在的な地政学的脅威を避けるために株式その他のリスク資産から手を引くことは、潜在的なキャピタルゲイン、インカムゲインの機会を失うことにつながりかねず、誤りだと考えています。

私は、今日の投資家の悲観論の大きな源泉は、昨年がほとんどの資産クラスでひどい状況だったことから今年も何か悪いことが起こるのではと考えてしまう、直近バイアス(直近に起こった事象が評価を左右する傾向)に起因するのではないかと考えます。私たちの予想では、2023年は市場が持続的に回復する道筋を描くと見ていますが、それは必ずしも直線的な道筋とはならないと考えています。経済が弱含み、収益が圧迫されれば、株式市場の直近の上昇分の一部が失われる可能性があります。しかし私たちは、それは比較的一時的なつまづきにすぎず、逆に買いの機会になりうると考えています。
 

投資家への示唆

私は、悲観論に対抗する鍵は、十分に分散されたポートフォリオを維持しつつ、長期の目標に集中することだと考えています。株式市場のここ数カ月の上昇分が今後大きく減退する可能性もありますが、私はそれは比較的一時的なものであり、従って長期の時間軸で構える投資家にとっては、買いの機会となる可能性があると考えています。

ボラティリティが高く相対的な期待リターンが低い時期は、投資家はインカムゲインを重視することで利益を得られる可能性が高くなると考えています。インカムゲインを得る上での投資先も、投資適格債、新興国債券、地方債、ハイイールド債、配当付き株式、不動産投資信託など分散すべきだと私は考えています。実際、昨年の積極的な引き締め政策により経験した痛みは、2023年に既に何らかの利益を生んでいます。過去13カ月間、ほとんどのサブアセットクラスの債券の利回りが大きく上昇しました。例えば、ICE BofA AAA米国コーポレート・インデックスの2021年末時点の実効利回りは2.06%でしたが、2023年2月16日時点では4.68%と拡大しました8 。投資家が株式への投資を放棄すべきとは思いませんが、よりリスク回避志向の強い投資家は、インカム重視によりポートフォリオのボラティリティを抑えられるかもしれません。

今週は悲観論に焦点を当てましたが、今朝の通勤時にも、このテーマに沿った場面に出くわしました。地下鉄に向かう途中で私は、道行く人の足を止めて非常に重要な情報を伝えようとしている様子の女性がいることに気づきました。近づくにつれ彼女が、「世界の終わりは近いわよ!」と囁いていることに気づきました。最初に思ったのは、「わあ、みんな私が思うより悲観的なのね」ということでしたが、次に思ったのは、「どうりで"Keep calm and carry on (平静を保ち、普段の生活を続けよ)"のキャッチフレーズの入ったTシャツやマグカップを作って大儲けする商才にたけた人がいるわけだ」ということでした。そして、私の方は本能的に「何も心配ないよ」と伝えたい気持ちになったのですが、彼女の方は、まだ頭が完全に起きていない無防備な通勤客にこの情報を伝えるのを楽しんでいるようでした。この出来事から、私は地下鉄に向かって走りつつ、投資においても人生においても、回復力と忍耐力が重要な要素であることを改めて認識したのです。
 

1.出所:米国勢調査局、2023年2月15日
2.出所:米セントルイス連銀、2023年2月16日
3.出所:ロイター、“More Fed policymakers point to higher rates in inflation fight”、2023年2月17日
4.出所:ロイター、“Slowdown in UK inflation eases pressure on Bank of England”、2023年2月15日
5.出所:Smith & Nephew 収支報告、2023年2月21日
6.出所:Louisiana Pacific 収支報告、2023年2月21日
7.出所:ファクトセット業績見通し、2023年2月17日
8.出所:バンクオブアメリカ・メリルリンチ
 

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MC2023-023