FRBの利上げに長い別れを告げる
〔要旨〕
- 米国:FRBは今週もう一度利上げを行い、最終的にこの長く過酷な利上げサイクルを終えると予想される
- 日本:日銀がイールドカーブ・コントロール政策を変更すると予想する向きが多いものの、私は、今回会合でそれが実現するかについては懐疑的
- 欧州と英国:これらの国々ではインフレ問題が継続しており、中央銀行がやるべきことはまだある
主要国はディスインフレの道のりを辿っている
中国の失業は経済への課題として立ちはだかる
企業決算
乗り物の旅を共にする
本レポートの読者の皆様は、私がバスケットボールに打ち込む子供の母親であることはご存知でしょう。実はこの夏は、高校最後の学年を迎える娘にとっての、最後の部活シーズンでした。長いシーズンでしたが、これを書いている今、私は最後の大会のためにペンシルベニア州ランカスターにいます。思い返せば何年も前、娘が中学生だった頃に、イリノイ州で最初のクラブトーナメントがありました。この週末は、そこから始まった長い時代の終わりを告げる、ほろ苦い週末となりました。一つの時代が終わり、娘が本当に成長していってしまうという寂しさと、長く過酷でお金のかかるシーズンが、怪我もなく(娘はシーズン初めに指を骨折しましたが、集中的な理学療法のおかげで手術を免れました)どうにか終わったという安堵感。様々な感情が入り混じり、波のように押し寄せます。私たち「チーム・ペアレンツ」は、これで私たちが「これをするのも最後」、「あれをするのも最後」だと、もう何カ月も前から感傷的になっていました。要するに、これは長い別れだったのです。
私は、米連邦準備制度理事会(FRB)に関しても、いくらか同じような感情を抱いています。今回の利上げサイクルは、長く過酷なものでした。これまでのところ金融面での大きな「怪我」は、地方銀行のミニ危機のみとなっています。しかし私たちは、利上げサイクルが長引くほど、「事故」や「怪我」が増える可能性が高まることを知っています。そして金融政策にはラグ効果があることから、利上げ後にも「怪我」が発生する可能性があります。要するに、私はFRBによる利上げサイクルの終了をずっと待ち続けており、ここ最近の数カ月を、FRBによる「長いお別れ」の期間と呼んでいます。FRBはそう言わないかもしれませんが、私は今週が、この引き締めサイクルで最後の利上げになると思います。私自身はそう思いますし、そうする必要があると考えています。なぜなら米国は、非常にはっきりとディスインフレになりつつあるからです。もし私が米国の利上げサイクルについて歌うカントリー歌手だったら、次の曲のタイトルを 「How can I miss you if you won’t go away?(去っていかないなら、どうすれば貴方を恋しく思えるだろうか?)」にするかもしれません。
主要国はディスインフレの道のりを辿っている
実際、欧米先進国は様々なディスインフレの段階にあります。例えば先週、カナダの消費者物価指数(CPI)は、6月に前年同月比2.8%上昇と2年以上ぶりに小さい上げ幅となり、カナダの財務相から「節目となる時(milestone moment)」と評されました。カナダのインフレ率は他のG7諸国よりも低くなっており、カナダ中銀(BOC)のインフレ率目標レンジの1─3%(インフレ目標は2%)からは2年以上にわたり外れていましたが、ようやくその範囲内に戻りました。カナダはコアCPIでも進展を見せたものの、コアCPIは依然として、BOCの目標レンジを上回る水準に留まりました1 。BOCも、そろそろ引き締めに別れを告げるのが適切ではないでしょうか。
他の主要国もディスインフレの道のりを辿っていますが、米国やカナダほどには進展していないため、中央銀行の引き締めサイクル終了までにはより時間がかかるかもしれません。ユーロ圏の6月のCPIは予想を下回ったものの、コアCPIは依然として頑強に高止まりしており、こうした傾向が共通のテーマとなっています。しかし、コアインフレはヘッドラインインフレに遅行して推移する傾向にあるため、これは想定内と言えるでしょう。今週は、欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行(BOE)の金融政策決定会合において利上げが予想されていますが、これらの中央銀行にとっては、それで終わりではないでしょう。引き締めを開始した時期や、それぞれの国でのインフレ問題の度合に鑑みれば、やるべきことはまだあります。
今週実質的に注目されるのは、日銀(BOJ)です。多くの人が、BOJのイールドカーブ・コントロール政策に何らかの変更が加えられるのではないかと予想しています。確かにその可能性はありますが、私は、今回の金融政策決定会合でそれが実現するかについては懐疑的です。
中国の失業は経済への課題として立ちはだかる
ストラテジストやエコノミストが、米国経済についてより楽観的になっているように見える一方で、中国経済についてはより悲観的になっているように見えます。私の見るところ、その大きな違いは、両国の雇用情勢にあります。米国では、若干緩みつつあるものの、労働市場は依然としてタイトとなっています。これがFRBによる景気減速の緩衝材となり、弱々しいものの雇用はしっかりしている景気減速の(グローバル金融危機後の、弱々しく雇用なき景気回復とは対照的な)状況を作り出しています。
中国では、失業率、特に若年層の失業率が著しく高まっています。このことは、特に消費者心理を圧迫するという点で問題になってきています。しかし私は、これにより財政刺激策が今年取られる可能性が高まり、そうなれば経済にプラスに働くと考えています。中国以外では、私はアジア新興国、特にインドとASEAN諸国を好感しています。人口動態がこれらの国々に有利となっており、力強い世帯形成により個人消費が後押しされています。
企業決算
もちろん、マーケット・コメンタリーとして決算シーズンに触れないわけにはいきません。現在決算シーズンの真っただ中に入っており、私は決算説明会で受けるガイダンスに細心の注意を払っています。この話題については、来週詳しく述べる予定です。
乗り物の旅を共にする
最後に、ご存じかと思いますが、私は映画「ジョーズ」やテレビ番組「シャーク・ウィーク」などサメ関連のトピックの愛好家です。しかし、今年はむしろラッコの夏だったということは、認めざるを得ません。ご存じない方のために説明すると、カリフォルニアのサンタクルーズ沖に、サーファーからサーフボードを横取りするラッコがいるのです。このラッコの行動を「恐怖に陥れる」などと表現する人もいますが、私は、現れてはチャンスをつかむのを恐れない、この勇敢な海の生き物のファンになりました。彼女は年齢(推定5歳)以上に賢く、捕獲して水族館に戻そうと何度も試みるも、逃れる術をすぐに身につけました。何より、サーフボードの上に乗るのを(そして時にはそれを噛むのを)本当に楽しんでいる様子がとてもかわいらしいのです。私たち投資家も、彼女を見習い、マーケットをよく学ぶ良い生徒となり、チャンスを活かしつつ、何より「乗り物の旅(ride)」を楽しめることを祈りましょう。
1.出所:カナダ統計局、2023年7月18日
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MC2023-112