2023年後期の見通し:短期で浅い景気減速が予想される
〔要旨〕
- バンピーランディング:私たちの基本シナリオでは、インフレが引き続き低下し、金融引き締めが終わりに近づくにつれ、比較的短期の浅い景気減速が起こると予想している
- ハードランディング:米国の景気後退が他の国に波及する「ハードランディング」の可能性もある
- スムースランディング:金融政策が成長に与える影響が予想よりも小さく、世界経済が比較的無傷ですむ「スムーズ・ランディング」の可能性もある
基本シナリオ:バンピーランディング
下方シナリオ:ハードランディング
上方シナリオ:スムースランディング
結論
ロシアについて
今年も後半に差し掛かり、2023年後期の見通しをお伝えする時期となりました。多くの先進国の中央銀行が、過去数十年で最悪のインフレ抑制に力を注いでおり、異常な時期が続いています。これによりインフレには下方圧力がかかりましたが、他方でまた、グローバルな成長の相応の鈍化や、米国の地方銀行の破綻などの偶発的な金融サービス企業の破綻ももたらすことになりました。しかしこれらを背景に、多くの国で、特にサービス業を中心とした堅調な動きがみられています。
基本シナリオ:バンピーランディング
私たちの基本シナリオでは、インフレが引き続き低下し、金融引き締めが終わりに近づく中での、比較的短期で浅い景気減速を予想しています。
- 米国。私たちは、米国が深く、かつ広範な景気後退を回避する可能性が高いとの見方を維持しています。ただし、政策当局が「バンピー(でこぼこした)ランディング」を達成するにあたり、今年後半はいくぶん弱含みで推移すると予想していますが、それでも経済活動は比較的堅調に推移すると考えています。米国では、利上げが終了しつつあり、インフレは不完全ながらも大幅な低下を続けると考えています。2024年に入ると、経済の回復につれて、より前向きな成長展望が開けると予想しています。
- ユーロ圏と英国。私たちは、ユーロ圏と英国は、米国と同じようなパターンをたどる可能性が高いものの、それにはラグがあるとみています。2023年においても、欧州経済の勢いはさまざまな要因によって維持されてきましたが、私たちは、金融条件の引き締めが時間とともに与信の伸びを圧迫し、インフレ圧力を抑制する一方で、大幅な景気減速を引き起こすのではないかと予想しています。
- 中国。中国は、景気循環のサイクルの中で、多くの主要先進国とは著しく異なる位置にあり、「バンピーテイクオフ」をすると予想しています。新型コロナウイルスに関する規制の緩和は、不均衡ながら大幅な回復を促しました。経済活動の再開は、主にサービス業に寄与していますが、グローバル成長の勢いの鈍化により、製造業の活動は期待より弱含んでいます。しかしながら、中国はインフレが抑制され、成長見通しが堅調であることから、依然として明るい状況にあります。私たちは、中国人民銀行(PBoC)が緩和策を継続し、また一定の財政刺激策も実施されるのではないかと予想しています。
要するに、現在政策的にはピークに達し、ディスインフレの進行と、比較的短期でのグローバル経済の減速が起きている状況ですが、私たちは、市場はすぐにこの状況を過去のものとし、将来の景気回復を織り込み始めると考えています。
市場への示唆。このシナリオを「バンピーランディング」と呼ぶのは、引き続き一定の経済的なダメージが予想されるためです。その大きさは国ごとに異なり、一部の国では他国より大きなダメージとなる可能性があります。このような環境では短期的に、ある程度ディフェンシブな資産クラス、つまりハイクオリティ社債やストラクチャード・クレジット債、また特にテクノロジーセクター、消費財・サービスセクターのグロース株やクオリティ株などがよりアウトパフォームすると予想しています。また、中国をはじめとするアジア諸国の成長見通しから、アジア株も選好します。
しかし、市場はまもなく景気回復を織り込むようになり、そうなれば、より「リスクオン」の資産クラス、つまりハイ・イールド債やシクリカルな小型株などがよりアウトパフォームしていく可能性があると予想しています。
下方シナリオ:ハードランディング
私たちは、まず米国で景気後退が起こり、それが他の国にも波及してグローバルな成長がより大きな打撃を受ける「ハードランディング」となる、下方シナリオの可能性もあると考えています。
市場への示唆。このような環境では、非常にディフェンシブな資産クラスがアウトパフォームすると予想しています。これには、現金、ロング・デュレーションのソブリン債、生活必需品セクター、ヘルスケアセクターなどのディフェンシブな株式が含まれます。こうした環境では、金も良好なパフォーマンスを示すと予想します。
上方シナリオ:スムースランディング
私たちはまた、インフレがより急速に低下し、金融政策が成長に与える影響が予想よりも小さくなることで、グローバル経済が比較的無傷ですむ「スムースランディング」となる、上方シナリオの可能性もあると考えています。
市場への示唆。このシナリオでは、よりリスクの高い資産クラス、つまりハイ・イールド債、欧州および新興国市場、シクリカルな小型株、工業用コモディティなどがアウトパフォームすると予想しています。
結論
今後を展望すると、「バンピーランディング」のシナリオが最も可能性が高くなる兆候が見られます。しかし、中央銀行が積極的な引き締めを行う際には、大きなリスクが伴います。今後も偶発的な金融サービス企業の破綻が起こる可能性があり、商業用不動産セクターへのストレスの高まりなど、付随的なダメージが出る可能性があります。加えて、地政学的リスクも引き続き高い状況にあります。私たちは引き続き警戒を怠らず、経済データを注意深く観察し、必要に応じて見通しを再検討し、更新していきたいと考えています。
ロシアについて
上述のとおり、私たちは地政学的リスクを注意深く見守っていますが、先週末は、ロシアで発生した軍事的反乱(すぐに収まりましたが)のニュースにより、このリスクが前面に押し出されました。この事態が世界経済や市場に直接的にすぐに影響を及ぼすとは考えていませんが、一部の資産価格、特にコモディティ価格に影響を及ぼす可能性があるため、引き続き注視していきたいと考えています。こうしたリスクは念頭に置いておくに値するものの、それを理由にポートフォリオ配分を調整した方が良いとまでは、現時点では考えていません。
現状では、今後の展開を知る上で十分な情報がありません。注視すべき可能性としては:
- ロシアがウクライナの穀物輸出合意を延長しない可能性があり、それによってソフトコモディティ価格に一定のボラティリティが生じる可能性があります。
- ロシアは、国内または軍事面の優先事項への資金捻出のため、アジアでの原油販売を増やそうとする可能性がある一方、アジアの買い手は、不安定な情勢を背景に、より厳しい交渉を行うかもしれません。
- ロシア情勢の不安定化が戦争の早期終結につながる可能性もあり、その場合、欧州のリスク資産にとってプラスに働く可能性があります。
- あるいは、ロシア情勢の不安定化により地政学的リスクへの懸念が高まり、金や米国債といった「セーフヘーブン」となる資産クラスの価格が上昇する可能性もあります。
私たちは引き続き状況を注視し、アップデートを提供してまいります。
(執筆協力:アーナブ・ダス、ポール・ジャクソン、ブライアン・レヴィット、アシュリー・オアース、デイビッド・チャオ、木下智夫、アンドラス・ヴィグ)
Global Markets in Focusの次回号は米国の祝日(独立記念日)のため休刊とさせていただきます。
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MC2023-097