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グローバル経済の総括:米国の雇用、欧州の製造業、中国の信頼感

グローバル経済の総括:米国の雇用、欧州の製造業、中国の信頼感
〔要旨〕
  • 米国の雇用:8月の雇用統計は、米国経済が減速しつつあるものの、依然として非常に良好な状態にあることを示した
  • 欧州の製造業:ユーロ圏の製造業新規受注は、8月に過去最も低い範囲の水準に落ち込んだ
  • 中国の信頼感:中国でパンデミック後の経済再開がつまずく中、景気刺激策が信頼感の醸成に役立つ可能性
 
バンピー・ランディング:米国
バンピー・ランディング:ユーロ圏
同じくバンピー:英国
バンピー・テイクオフ:中国
バンピー・ロード:市場
 

注釈
2023年後期のグローバル市場見通しの基本シナリオでは、インフレが引き続き低下し、金融引き締めが終わりに近づく中での、比較的短期で浅い景気減速が起こり、その後回復に転じると予想しています。このシナリオでは、引き続き一定の経済的なダメージが予想されることから、これを「バンピー(でこぼこした)ランディング」と呼んでいます。

 

世界中の多くの地域で学校が再開され、実質的に夏は終わりを告げました。ここ数日、あるいは数週間をビーチで過ごした方々は、エミネムの歌詞にある「Snap back to reality(現実に引き戻される)」という表現が、特にぴったりだと感じられるかもしれません。現実に引き戻されるということは、関連ニュースや最新のデータに素早くキャッチアップする時が来たということです。またそれは、金融政策の「長く可変的なラグ」に鑑み、米国経済さえも「ソフトランディング」しそうにないと認識するということでもあります。今週の最新レポートは、「バンピー・ランディング バンピー・テイクオフ」というテーマでお送りします。

  • 多くの先進国は、中央銀行が景気後退を起こさずにインフレを抑え込もうとしているため、バンピー・ランディングの真っ只中にあります。今のところ、米国はユーロ圏や英国に比べて乱れは少ないものの、私は、米国経済でさえも真の意味でソフトランディングはできないだろうと考えています。
  • また、中国は何年にも渡るパンデミック関連規制を経て、経済成長を押し上げようとしていますが、それは非常にバンピーなテイクオフとなっています。

最新のデータをいくつか見てみましょう。

 

バンピー・ランディング:米国

8月の米雇用統計は、景気は減速しているものの、依然として非常に良好な状態にあることを示しました。雇用創出は堅調でしたが、過去2カ月間の非農業部門雇用者数の増加分は11万人下方修正されました。失業率は3.8%に上昇しました。私が最も重要だと考えるのは、賃金の伸びが緩やかになったことです。平均時給は前月比で0.2%増、前年同月比で4.3%増となりました。賃金の伸びはインフレ全般の強力な要因であり、パンデミック前の水準に近づいているのは心強いことです。求人数の減少が続いていることから、賃金の伸びは今後も低下していくでしょう。2022年3月に1,200万人でピークに達した米国の求人件数は、7月には880万人まで減少しました。求人件数が900万人を下回ったのは、2021年3月以来です2

米国経済はこれまで、米連邦準備制度理事会(FRB)の積極的な引き締めを比較的無傷で切り抜けてきましたが、周知のように与信条件が大幅に厳格化しており、私は今後、よりダメージが出てくるだろうと予想しています。例えば最近、米国のある高級家具メーカーが廃業することを発表しましたが、その主な理由は資金調達ができなかったためです。こうしたことは、今後増えるでしょう。
 

バンピー・ランディング:ユーロ圏

8月の購買担当者景気指数(PMI)は、ユーロ圏経済が米国よりも厳しい状況にあることを示しました。8月のS&PグローバルHCOB総合ユーロ圏PMIは46.7と、ほぼ3年ぶりの低水準に迫り、急激な落ち込みを示しました。サービス業PMIは7月の50.9から47.9に低下し、今年初めて縮小領域に入りました。最も懸念されるのは、サービス業と製造業両方の新規受注サブ指数です。いずれも低下し、製造業の新規受注は特に悪化しました。ドイツは特にプレッシャーにさらされており、パンデミックの期間を除けば、ドイツ全体の経済活動の落ち込みは2009年6月以来の大きさとなりました。

希望の光は、ユーロ圏経済への悪影響が強まり、特にこれと共にインフレが低下すれば、欧州中央銀行(ECB)による利上げがより早期に終了するかもしれない、ということです。最近のインフレ関連指標は、このシナリオ寄りとなっています。8月のコアインフレは鈍化し、消費者のインフレ期待は比較的よくアンカー(安定的に維持)されており、1年先のインフレ期待は3.4%に留まり、3年先のインフレ期待は2.4%までわずかに上昇しました4
 

同じくバンピー:英国

直近のPMI調査でも明らかなように、英国経済も利上げの悪影響を受けています5 。S&Pグローバル/CIPSのPMIは、7月の50.8から48.6に低下しました。サービス業PMIは7月の51.5から8月は49.5に低下しました。サービス業は7カ月ぶりの低水準、製造業は2020年5月以来の低水準となりました。イングランド銀行(BOE)が、FRBやECBさえも利上げを終了すると予想される時期以降もタカ派的な姿勢を維持する構えであることを考えると、これは問題であり、英国経済にさらなるダメージを与える可能性があります。しかし、特にこのところの急激なインフレの低下が続けば、それも変わる可能性があります。従って、英国経済の冷え込みが短期的にどの程度インフレのクールダウンにつながるかが重要であり、それがBOEのタカ派的姿勢の軟化につながる可能性があります。
 

バンピー・テイクオフ:中国

中国では、パンデミック後の経済再開は期待外れの状況となっています。米国と欧州の利上げがグローバルな財需要の重しとなり、ここでも金融政策のラグ効果の影響が出た形です。これは中国の製造業に影響を与え、不均衡な回復の一因となっています。サービス業の活動6 は、同様にプレッシャーにさらされてはいるものの、製造業よりは良い状況です。中国財新サービス業PMIは、7月の54.1から8月は51.8に低下しました。これはまだ拡大領域にはありますが、過去8カ月で最低の水準です。しかしユーロ圏で見られたのとは異なり、新規受注サブ指数は、今後の改善の可能性を示唆しています。

中国にとっての問題の1つは、不動産セクターです。しかし状況は改善に向かっているようです。中国政策当局は最近、住宅ローン金利の引き下げや頭金比率の引き下げなど、初回購入者に対する融資条件の緩和を含む、不動産セクターへの支援措置をいくつか発表しました。更に9月5日には、大手不動産デベロッパーのカントリー・ガーデン(碧桂園)がデフォルトを回避できたことが発表されました。カントリー・ガーデンは、猶予期間の終了直前にドル建て債の利払いを履行しました。

結局のところ、これは信頼感のゲームなのです。中国政策当局は、信頼感を高めるために十分な刺激策を提供しなければなりません。先週の株式取引にかかる税金の大幅な引き下げや、不動産セクター支援策などの措置は、信頼感の醸成に役立つ可能性があると私は考えていますが、更なる対応が必要です。
 

バンピー・ロード:市場

金融政策の不確実性が米10年債利回りを大幅に変動させ、8月のS&P500種指数のパフォーマンスに大きな影響を与えました。

S&P500種指数は8月全体では下落しましたが、米10年債利回りが月後半に低下したことで株価への圧力が弱まり、安値を大きく上回って終えました。10年債利回りの低下は、インフレが低下していることを示唆するデータにより後押しされ、FRBが利上げサイクルを終了するとの期待が高まりました。

結局のところ、経済がそうであるように、市場にとっても政策が重要なのです。FRBの利上げサイクルが終了したことが明らかになれば、リスク資産にとってプラスになるだけでなく、米ドル安をもたらし、それが新興国株式にとって特にプラスになる可能性があると私は予想しています。

また、新興国の中央銀行が既に緩和を始めていることも助けになります。中国だけでなく、ブラジルとチリも利下げを行っており、メキシコや台湾、韓国も間もなく追随する可能性があると予想する向きもあります。中国経済を支えるためにより的を絞った政策が展開されれば、中国株にとってプラスに働くと私は考えます。

金融政策に関してはファースト・ムーバーの様相を呈してきたカナダ銀行の9月6日会合を含め、金融・財政政策の動向を注意深く見守るべき時です。変化の兆しが見られており、それは投資機会につながる可能性があります。

 

1. 8月米雇用統計の出所:米労働統計局、2023年9月1日
2. 出所:求人労働異動調査、米労働統計局、2023年8月29日
3. ユーロ圏PMIデータの出所:S&Pグローバル、2023年9月5日
4. 出所:ECB、2023年9月5日
5. 英国のPMIデータの出所:S&Pグローバル/CIPS、2023年9月1日及び2023年9月5日
6. 中国PMIデータの出所:S&Pグローバル/財新メディア、2023年9月5日

 

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MC2023-138