待ちのゲーム:市場はFRBからの明確な情報を待ち望んでいる
〔要旨〕
- インフレ:1月の米CPIと米PPIの数値はともに予想を上回ったが、これは懸念材料にはならないと考えられる
- 景気減速:日本と英国の直近のGDP統計によると、両国は2023年後半、テクニカルには景気後退に陥っていた
- ボラティリティ:最近の米小型株のボラティリティは、FRBの利下げ開始タイミングや利下げ幅をめぐる市場の混乱と不透明感を浮き彫りにしている
欧米先進国では不完全ながらもディスインフレが継続
小売・鉱工業需要は冷え込みつつある
依然として、FRBは今年4-6月期に利下げを行うと予想される
米小型株はデータやFRB関係者の発言によって混乱し、ボラティリティが非常に高まっている
金融政策の変更は待ちのゲーム
注目の日程
先週はデータと市場の面でせわしない週となりました。予想を上回る米国のインフレデータが市場を動揺させ、景気減速の兆しがより明確になり、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ動向についての先行き不透明感が、特に小型株に影響を及ぼしました。先週の主なポイントは以下の通りです。
欧米先進国では不完全ながらもディスインフレが継続
1月の米消費者物価指数(CPI)と米生産者物価指数(PPI)はともに予想を上回りましたが、私はこれは懸念材料とはならないと考えています。
特にCPIの結果については、公表日に株式が売られたことからも分かるように、市場の大きな懸念要因となりました。しかし私は、こうした反応はCPIの内容そのものの反映というより、FRBの政策をめぐる混乱した状態の反映ではないかと考えています(今週は様々な経済データに対して過剰な反応が見られました)。CPIの数値は決して高くはありませんでしたが、期待されたほど低下してもいませんでした。私はこの結果に動揺していません。予想よりも進捗は遅いかもしれませんが、あるべき方向に向かって進捗していると考えられます。
実際、米国CPIを構成するほぼあらゆる要素が、あるべき方向に動いています。そして、住居費の占める割合は依然として高いものの、緩和しつつあります。住居費はコアCPI指数の42%を占めており、コアCPI全体に大きな影響を与えます1。住居費のインフレの大きな構成要素であるオーナー相当家賃が、住宅コストを正しく反映していない可能性があることは言うまでもありません。FRBが注目しているインフレ指標の一つは個人消費支出(PCE)、特にコアPCEですが、この数値は低下してきており、ディスインフレのシナリオをより強く裏付けている点も重要です。(PPIの一部の構成要素はPCEにも影響を与えますが、私は1月のPPIの数値が予想を上回ったことが、⦅今後発表予定の⦆1月のPCEに大きな影響を与えるとは考えていません。
注目すべきもう1つの指標は、消費者のインフレ期待です。先週発表されたミシガン大学消費者調査によると、より長期(5年先)のインフレ期待は、2.9%とよくアンカー(安定的に維持)されています2。
一方英国のCPIについて、1月の数値は予想を下回りました。サービスインフレは依然として高止まりしているものの、これは驚くには値しません。パンデミック期間中やその後の消費者行動の性質に鑑みれば、インフレ上昇・下降の場合共に、財価格が先行し、その後にサービス価格が続くのが常です。CPIの数値は、予想を上回った英国の賃金データ(米国CPIと共に市場の動揺を招いた)の後に発表されたため、市場を落ち着かせたようです。
私は、インフレは減量に似ていると思います。どんなに毎日忠実にダイエットに取り組んでいても、大抵の場合、減量への道のりは平坦ではありません。ある週は体重が大きく減ったと思ったら、別の週には全く進歩がないばかりか逆に増えていたりします。しかし、たとえ減量への道のりが不完全だったとしても、自身のニーズに合った長期的な計画を守ることで、ゴールに到達する可能性が高くなります。ただ1つ違うのは、金融政策には長いタイムラグがあるため、最初の利下げが行われてから長い時間をかけて、不完全ではあっても目標に向かった軌道に乗っていく可能性が高いだろうという点です。
小売・鉱工業需要は冷え込みつつある
1月のNFIB中小企業楽観指数は89.9で、2023年5月以来の低水準となりました3 。特に、販売期待のサブ指数が大幅に低下しました。この調査は変動が大きいものの、景気低迷の予兆を示している可能性があります。
米小売売上高と鉱工業生産も予想を下回りました。1月の小売売上高が大幅に減少しただけでなく、11月と12月の小売売上高も下方修正されました。恐らく、種々の雇用削減のニュースが報じられたことで、消費がより抑制されたと考えられます。FRBは利下げに踏み切る前に景気の減速を確認したいと考えていることから、FRBにより早期の利下げを促す意味で、これは間違いなく良いニュースと言えます。
他の国々では、既に景気が減速しています。日本と英国の直近の国内総生産(GDP)統計によれば、両国は、2023年後半はテクニカルには景気後退に陥っていました。
もちろん、景気減速が深刻な状況に陥らないよう警戒することは必要です。私は、「何事もほどほどに」が一番だと思っています。私はほとんどの人達よりも、バンピーな(でこぼこした)着地に対して心の準備ができていると自負していますが、だからと言って今年、景気後退が起きるとは限りません。私は、ひびが大きくなり過ぎないか目を光らせています。
依然として、FRBは今年4-6月期に利下げを行うと予想される
いかなるデータやFRB関係者の発言を踏まえても、FRBが今年4-6月期に利下げを開始するだろうとの私の予想に変わりはありません。確かに最近、FRB関係者のタカ派的な発言が多く聞かれるようになりましたが、私は、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーは、自分達の発言を金融環境抑制のツールとして活用し、市場が先走るのを防ごうとしていると考えています。
私は、むしろ元FOMCメンバーで、今は金融環境をコントロールする責任を負わず、政策対応に関する自身の見方をシンプルに共有できる人物に耳を傾けるのが、実は最も有益だと考えています。前セントルイス連銀総裁のブラード氏の発言は、これまでFRBが本当は何を考え、何を計画しているか知る上で良い材料となってきました。先週、ブラード前総裁は全米企業エコノミスト協会で講演し、現在の状況は今利下げを開始すべきだということを示唆していると主張し、非常にハト派的なスタンスを示しました。彼は、「利下げを始めるべきだと思う。より早く開始する方が、より遅く開始するより賢明だろう…7-9月期に入った時、政策金利がその時の経済情勢からみて高過ぎるようなことになるのが心配だ。ならば今、利下げを行うべきではないか」と述べました4。
米小型株はデータやFRB関係者の発言によって混乱し、ボラティリティが非常に高まっている
米国株全般について最近ボラティリティが高まっていますが、米小型株のボラティリティはとりわけ高くなっています。先週の全ての取引日で、ラッセル2000種指数に少なくとも1%の値動きがありました5。最も大きく動いたのは先週火曜日で、1月のCPIデータの発表後、同指数は4%近く下落しました5。先週は同指数の上昇も見られ、木曜日には米小売売上高の低迷にも後押しされて2.5%近く上昇しました5。
ここ数カ月、米小型株はFRBの政策に関する予想に大きく左右されてきました。小型株は歴史的に景気サイクルにより大きく左右されてきたため、経済データやFRB関係者の発言(金利予想への影響要因)により敏感に反応する傾向があります。ここ数日の乱高下は、FRBの利下げ開始タイミングや利下げ幅をめぐる市場の混乱と不透明感を浮き彫りにしました。しかし経済見通し次第では、非常に大きなミスプライシングの機会ともなり得ます。
金融政策の変更は待ちのゲーム
結論として先週は、金融政策が依然、市場を左右する重要な要因であることを思い知らされる週となりました。すなわち私たちは皆、FRB その他中央銀行が利下げを行う時期の決定を待っているということです。待っている間、十分な利回りが期待できるポートフォリオの構成銘柄を確保することで、より強固な利益を生む環境の活用が可能となります。これには投資適格社債、ハイイールド債、地方債、そしてもちろん有配株が含まれます。
注目の日程:
公表日 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|
2月20日 |
イングランド銀行ベイリー |
中央銀行の意思決定プロセスに |
2月20日 |
カナダCPI |
インフレの動向を示す |
2月20日 |
オーストラリア賃金価格指数 |
労働価格の変化を測定 |
2月21日 |
FOMC議事要旨 |
中央銀行の意思決定プロセスに |
2月22日 |
ドイツPMI |
製造業とサービス業の経済の |
2月22日 |
ユーロ圏PMI |
製造業とサービス業の経済の |
2月22日 |
ユーロ圏CPI |
インフレの動向を示す |
2月22日 |
カナダ小売売上高 |
消費需要を測定 |
2月22日 |
米国S&PグローバルPMI |
製造業とサービス業の経済の |
2月22日 |
米国住宅販売成約 |
住宅セクターの健全性を示す |
2月22日 |
英国消費者信頼感
|
英国の消費者の家計と経済に |
2月23日 |
ドイツ国内総生産 |
地域の経済活動を測定 |
2月23日 |
ドイツIfo景況感指数 |
現在のドイツの景況感を評価し、 |
-
1.
出所:米労働統計局、 “Measuring Price Change in the CPI: Rent and Rental Equivalence”、2024年2月9日、ボストン連銀、“Forecasting CPI Shelter under Falling Market-Rent Growth”
-
2.
出所:ミシガン大学消費者調査、2024年2月16日
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3.
出所:NFIB中小企業楽観指数、2024年2月13日
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4.
出所:ウォール・ストリート・ジャーナル、“Former St. Louis Fed President James Bullard Says March Rate Cut Would Be Wise”、2024年2月17日
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5.
出所:ブルームバーグL.P.、2024年2月16日
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MC2024-025