台湾における選挙、日本市場の株高、中国のデフレ懸念
〔要旨〕
- 台湾:有権者は、中国との緊張緩和に資する可能性のある、現状維持への回帰を選択した
- 日本:マクロ環境の改善により、日経平均株価は最高値を更新した
- 中国:期待外れの消費者物価と生産者物価のデータが発表されたことにより、デフレサイクルへの懸念が高まった
台湾:選挙結果は中国との緊張緩和に資する可能性
日本:マクロ環境の改善により市場最高値を更新
中国:物価データによりデフレ懸念が高まる
結論:アジア全域で資金流入が拡大すると予想
今後の展望
注目の日程
先週は、台湾における選挙、日本株の最高値更新、中国の消費者物価と生産者物価に関する期待外れのデータなど、市場にインプリケーション(潜在的な影響)をもたらすいくつかの重要な動きがアジアで見られました。これらのニュースは、投資家にとってどのような意味を持つのでしょうか?
台湾:選挙結果は中国との緊張緩和に資する可能性
民進党の候補、頼清徳(ウィリアム・ライ)氏が台湾の次期総統に選出されました。しかし、民進党は国会では過半数を割り込みました。より独立支持派の候補が総統に当選した一方で、独立にそれほど積極的ではない国民党が国会で議席を増やしており、最終的な結果は「ねじれ」政府の様相を呈しています。
全体として、民進党は2016年と2020年の選挙に比べて勢いを失っており、台湾と中国の緊張緩和に道を開く可能性があります。頼氏もここ数カ月で発言をトーンダウンさせ、より融和的な発言ぶりに転じており、前任者により近い口調となってきたことは注目に値します。また、台湾が総統直接選挙制を導入して以降、選挙後に訪台している米政府代表団の構成がそうであるように、今回も訪台した米政府代表団が、現職ではなく元政府高官であったことにも注目すべきです。私たちはこれらのことが、中台関係をほぼ「現状維持」の状態に戻し、安定化させるだけでなく、中米関係を落ち着かせることにも資すると考えています。
「現状維持」を行う重要な理由の1つは、中国及び台湾の経済成長が阻害される可能性を回避したいとの願いからです。緊張の高まりは経済に大きな混乱をもたらしかねないため、そうした現実が、敵対関係の激化を抑制する可能性があります。
結果として私たちは、投資家の関心がファンダメンタルズに戻るにつれて、台湾関連の資産の政治的リスクプレミアムは薄れるだろうと考えています。特に、2023年に底を打った台湾の重要なテクノロジー・セクターは、ここ数カ月続いている、人工知能関連製品に後押しされたテクノロジー輸出の増加から恩恵を受ける可能性があると予想されます。
日本:マクロ環境の改善により市場最高値を更新
1月15日に日経平均株価はバブル崩壊後の最高値36,008.23円をつけ、34年ぶりに高値を更新した後、終値35,901.73円となりました1 。1月のわずか数週間で、日経平均株価の大きな上昇が見られました。
日本の株式は、緩やかな経済成長とインフレの減速により、米連邦準備制度理事会(FRB)が今年中に政策金利を大幅に引き下げる可能性が高いとの期待が高まっている、米国のマクロ環境に助けられています。これは、日本のマクロ環境改善の下地となりました。今年に入ってからの対米ドルでの円安も、日本の製造業に対する信頼感を高めています。
日本の政策当局が経済の構造改革に成功する可能性は、十分あると考えられます。ここ数年、財政刺激策は経済成長を着実に後押ししてきました。過去数十年のいつにも増して、日本が長期にわたり、着実な経済成長と健全なインフレ水準を達成する可能性が高まっているように思われます。
株価を支えているのは、1)日本経済が構造転換を遂げ、持続可能な水準の緩やかなインフレを伴う経済になること、2)日本の企業収益が健全なペースで上昇し続けること、への期待感です。海外投資家や日本の個人投資家による資金流入も、日本の株式市場を牽引しているようです。私たちは、こうした前向きな要因が、今年の日本の株価上昇を支える可能性が高いと考えています。
私たちは、日本における適正な「リフレ」-以前の「偽りの夜明け(インフレの夜明けだと思ったものの違ったという経験)」の時よりも、いくらか高い成長率とインフレがより持続的に維持されている―は、名目・実質GDP成長率の継続的な上昇に依存していることから、一定の円高及び債券利回り・株価上昇の状況と整合的だと考えています。これは、成長とインフレの両方を減速させるために早急な政策的引き締めの必要が生じた結果、債券利回りの上昇とリスク資産価格の下落が起きた欧米とは対照的です。日本では、日銀がリフレの妨げとならないよう、積極的な引き締めではなく、政策の正常化に向けて非常に緩やかな動きを続けると予想されます。
中国:物価データによりデフレ懸念が高まる
先週発表された中国の消費者物価と生産者物価のデータは、期待外れの内容となりました。12月の物価下落のペースは前月ほど大きくはありませんでしたが、経済がデフレサイクルに陥りつつあるのではとの懸念が生じています。中国の企業収益は弱含みで推移し、通年の売上高予想も引き下げられつつあります。しかしこれには、前向きなインプリケーションもあります:それは、更なる大幅な政策的刺激に拍車がかかり、中国関連の資産にとって強力な起爆剤となる可能性があるという点です。
結論:アジア全域で資金流入が拡大すると予想
まとめると私たちは、アジアには株式と債券の両分野の投資家にとって大きなポテンシャルがあると確信しており、この点を強調することが重要だと考えています。上述したように、日本、中国、台湾の株式にはそれぞれ異なる理由で可能性があると考えていますが、それ以上の機会もあります。私たちは、日銀は政策を正常化させ、FRBは緩和を行うと予想しており、欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行の緩和幅は縮小すると予想しています。これら全てが、主要通貨に対する米ドルの軟化を後押しすると考えられます。
このような背景により、世界的な回復及び新興国市場全体への資金流入が促進されると予想しています。新興国市場への資金流入については、インド(堅調なマクロパフォーマンスと地政学的ヘッジとしての役割により、最近の資金の主な流入先となってきました)以外のアジア新興国への資金流入も拡大し、現地株式への投資も堅調に進むと考えられます。これらの要因は、他のアジア諸国における魅力的なバリュエーション、地政学的安定化の予想、アジア最大の国々の継続的回復にも支えられ、グローバルなフローのリバランスを促進すると予想されます。
今後の展望
今後私は、政策的な金融引き締めが欧米先進国経済にどのようなラグ効果を及ぼすかに注目したいと思います。これはまさにバランシング・アクト(綱渡り)であり、中央銀行がインフレをうまくコントロールしているように見えても、金融政策が各国経済に与えたダメージについて気に掛ける必要があります。1月16日に発表されたエンパイア・ステイト製造業景気指数は、大幅に低下しました。これは外れ値に過ぎないかもしれませんが、他方で、警戒を怠ってはならないことを再認識させてくれます。だからこそ私は、FRBのベージュブックの定性的情報やイングランド銀行の与信条件調査、米国の小売売上高・鉱工業生産をつぶさに見ていきたいと考えています。
(執筆協力:デイビッド・チャオ、アーナブ・ダス、木下智夫)
注目の日程
公表日 |
指標等 |
内容 |
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1月17日 |
中国住宅価格 |
住宅セクターの健全性を示す |
1月17日 |
中国小売売上高 |
消費需要を測定 |
1月17日 |
中国GDP |
地域の経済活動を測定 |
1月17日 |
中国鉱工業生産 |
鉱工業セクターの健全性を示す |
1月17日 |
米国小売売上高 |
消費需要を測定 |
1月17日 |
米国鉱工業生産 |
鉱工業セクターの健全性を示す |
1月17日 |
FRBベージュブック |
FRB の 12 の各地区ごとに |
1月17日 |
ユーロ圏CPI |
インフレの動向を示す |
1月17日 |
英国CPI |
インフレの動向を示す |
1月18日 |
日本CPI |
インフレの動向を示す |
1月19日 |
イングランド銀行与信 |
英国における与信の需要と |
1月19日 |
米国ミシガン大学消費者信頼感(速報値) |
米国の消費者の経済と個人 |
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1.
出所:ブルームバーグ、2024年1月15日
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MC2024-007