フランス議会下院選挙は市場に何をもたらすか?
(本レポートは、クリスティーナ・フーパ―の7月2日時点(米国時間)での見解を反映したものです)
〔要旨〕
- フランス議会下院選挙:極右が過半数を獲得するシナリオ、極左が過半数を獲得するシナリオ、暫定の行政的な政権運営シナリオという3つの可能なシナリオの、投資への影響について
- 米連邦準備制度理事会:待ちに待ったFRBの利下げ開始を早める可能性がある2つの重要なデータが発表された
- 上半期の市場結果:大半のリスク資産にとって好調だった上半期の市場結果を振り返る
フランス議会下院選挙は市場に何をもたらすか?
上半期の好調を維持できるか?
FRBへの信頼が高まる可能性
フランス議会下院選挙 第1回投票結果
フランスの選挙の投資への影響
英国のレジーム・チェンジ
今後の注目点
注目の日程
米連邦準備制度理事会(FRB)の重要なデータとフランス議会下院選挙の第1回投票の結果を市場が吸収したため、2024年の下半期は素早いスタートを切りました。
フランス議会下院選挙は市場に何をもたらすか?
7月1日は2024年下半期の始まりであり、この「新半期の日」は公式な祝日ではないかもしれませんが、いくつかの新しいレジームの出発点のように感じられます。待ちに待ったFRBの利下げ開始を早める可能性があると思われる2つの重要なデータが先週発表されました。フランスでは6月30日に下院選挙の第1回投票が実施され、マリーヌ・ルペン氏が率いる国民連合(RN)(極右)とその連携会派の得票率が最多となりました。また、英国の有権者は、14年間続いた保守党政権から労働党政権への政権交代が起こると予想しています。(7月4日の選挙の結果、労働党は単独過半数を獲得し、政権交代が実現しました)
上半期の好調を維持できるか?
まず、今年最初の6ヵ月を振り返ってみましょう。ほとんどのリスク資産にとって好調な時期でした1。MSCIワールド・インデックスに代表されるように、世界の株式は上半期に2桁の上昇を記録しました。特に顕著だったのは米国で、S&P500指数はこの期間に約15%上昇しました2。他の主要株価指数も上昇したが、その上昇幅は小幅となりました。
債券のパフォーマンスはまちまちでした。日本国債を含め、一部の国債は上半期に損失を被りました3 。一方で、新興国債券は上昇し、米国のハイ・イールド債券も上昇しました4 。
コモディティ価格も、特にエネルギーと貴金属を中心に大きく上昇しました5。特に金価格は、中央銀行の継続的な需要に加え、投資家の地政学的リスクヘッジへの関心や財政赤字拡大への懸念に支えられ、上半期に上昇しました6。
ほとんどの投資家は、少なくともリスク資産に関しては、この市場環境の継続を望んでいますが、同時に多くの投資家はこの環境が続かないことを懸念しています。一方で、私はこの市場環境の主要な原動力であるFRBの緩和期待が依然として維持されていることを考えると、この市場環境は継続すると考えています。
FRBへの信頼が高まる可能性
先週は、FRBへの信頼を高め、利下げ開始が早まる可能性があると思われる2つの重要なデータが発表されました:6月のコア個人消費支出(PCE)と6月のミシガン大学消費者信頼感指数確報値のインフレ期待です。
コアPCEはFRBが推奨するインフレ指標です。コアPCEは現在、前年同期比2.6%まで低下し、FRBの目標である2%に近づいています7。さらに、コアPCEが2.6%まで低下し、FF金利がまだ5.3%を上回っている現在、金融政策は2007年9月以降のどの時期よりも引き締め的になっています8。
FRBは消費者インフレ期待にも細心の注意を払っています。一時的に上昇したミシガン大学消費者信頼感指数の1年先のインフレ期待は、6月の最終値では3.3%から3%に後退しました9。FRBの目標値には達していないものの、これは消費者のインフレ期待が十分に定着していることを示しており、心強いデータといえます。
FRBは金融政策を決定する際、モザイク状のデータを見ています。しかし、この2つのデータは間違いなくFRBにとってより重要であり、9月利下げの確率を大幅に高めると私は見ています。2022年6月、ジェイ・パウエルFRB議長が予想以上の利上げの理由として、ミシガン州の消費者インフレ期待と、もう一つのインフレ指標(FRBが好む指標ではありませんが)であるCPI(消費者物価指数)という2つのデータを指摘したことを思い出してください。このようなデータはFRBにとって重要な意味を持ち、当時FRBがタカ派寄りになるよう説得したように、ハト派寄りになるよう説得することができるでしょう。私の結論は:「金融政策の『レジーム・チェンジ』は近い」です。
フランス議会下院選挙 第1回投票結果
フランスでも「レジーム・チェンジ」が起こりそうです。6月30日に行われたフランス議会下院選挙の第1回投票では、マリーヌ・ルペン氏が率いる国民連合(RN)(極右)とその連携会派の得票率が最多(約34%)となり、極左連合の新人民戦線(NPF)が2番目(約29%)、マクロン大統領率いるアンサンブル(中道右派)は3番目(22%)の得票率となりました10。
第1回投票は、577選挙区のそれぞれで、どの候補者が決選投票に進むかを決めるものです。第1回投票で12.5%以上の票を得た候補者のみが決選投票に進む資格を得、過半数の票を得た候補者は自動的に当選となります。
イプソス調査による当初の議席予想に基づけば、RNは230-280議席を獲得し、過半数に必要な289議席にわずかに届かないと見られています。NPFは125-165議席、アンサンブルは70-100議席をそれぞれ獲得する見込みです。このような予想は不確かなものに過ぎないことに注意を促したいと思います。
特に、大統領自身が極右のRN政権誕生を阻止するよう選挙民に訴えている以上、どの政党が下院で過半数を獲得するか定かではありません。更に、ジャンリュック・メランション氏(NPFのリーダー)は、RNがリードする選挙区で3位に沈んだ候補者に対し、立候補の辞退を求めています。RNによる過半数獲得阻止のため、決選投票でこれら選挙区の票を中道派と左派候補に分散させず、非RNに統一させる戦略。
決選投票は7月7日日曜日に行われますが、結果がどうなるかは不透明です。 下記の表で私たちは、極右が過半数を獲得した場合、極左が過半数を獲得した場合に加え、テクノクラート政権樹立あるいは継続内閣のようなもの(少なくとも12カ月は次の選挙ができないため、新下院から政権発足させる必要がある)など一時的な行政的解決策が取られた場合、という3つの可能なシナリオを考えました。
フランスの選挙の投資への影響
極右政権も極左政権も、既に膨らんでいる財政赤字を拡大する可能性が高く、欧州連合(EU)との関係悪化も危惧されます。私たちは、この最後に挙げた暫定の行政的な政権運営シナリオが最も可能性が高いと考えており、かつ金融市場にとって最も安心な結果と考えています。しかし、もし継続政権やテクノクラート政権が、強力なRNに阻まれたり、NFPに気を遣って思うように動けなくなった場合、マクロン大統領は1年後に国民議会を解散し、再び総選挙を行うかもしれません。不透明感はすぐには拭い去られないかもしれませんが、今は、7月7日の決選投票に注目が集まっています。
- 暫定の行政的な政権運営シナリオ:このシナリオは、市場が最も好意的に受け止めるシナリオでしょう。このシナリオは最も継続性が高くかつ安定し、不確実性が最小となる可能性が高いため、フランス株は上昇する可能性が高いでしょう。また最も親EUとなると考えられるため、ユーロと欧州株も上昇する可能性が高いでしょう。また、最も財政健全性を意識する政権となる可能性が高いことから、フランス国債のドイツ国債に対する利回りスプレッドは縮小する可能性が高いでしょう。同様に、このシナリオではEUプロジェクトにとってのダメージが最も小さくなり、周辺国の国債のスプレッドも縮小する可能性が高いと考えられます。
- 極右が過半数を獲得するシナリオ:ルペン氏が足元、一定の安心感を与えることに成功したことに鑑みれば、このシナリオは市場に好感を持って受け止められることはないにせよ、極左が過半数となるシナリオほど否定的には捉えられないでしょう。しかし、強力なEUが損なわれる可能性が高いことから、ユーロが低下する可能性が高いでしょう。政治的不確実性が高まれば、フランス株や欧州株にとってマイナスとなる可能性が高く、フランス国債や周辺国の国債のドイツ国債に対する利回りスプレッドが拡大する可能性があります。
- 極左が過半数を獲得するシナリオ:このシナリオは、市場から最も否定的に受け止められるでしょう。おそらく財政的には最も気前よく支出を行うため、フランス国債の売りにつながるでしょう。またEUの強固さも損なわれ、ユーロの低下につながり得るでしょう。 政治的な不確実性が高まれば、フランス株や欧州株、ユーロにとってマイナスとなる可能性が高く、フランス国債や周辺国の国債のドイツ国債に対する利回りスプレッドが拡大し得るでしょう。
選挙がどのような結果になろうとも、欧州株を保有する考え方に変わりはありません。欧州株のバリュエーションは低水準であり、景気循環的なエクスポージャーが高いため、世界経済が再加速したときに恩恵を受けると予想されます11。とはいえ、フランスの選挙があるため、これらの銘柄はごく近いうちに大きなボラティリティに見舞われる可能性があります。
英国のレジーム・チェンジ
確実に言えることは、英国でレジーム・チェンジが起こるということです。英国の有権者は7月4日に投票に行き、14年間続いた保守党の支配から労働党政権を誕生させると予想されています。世論調査によれば、次期首相は有権者から強い信任を受け、これまでの2人の首相(リシ・スナク氏とリズ・トラス氏)とは異なり、安定と確実性をもたらす政治を行うことができるでしょう。選挙が終われば、投資家はファンダメンタルズに再注目する機会を得られるはずです。
今後の展望
米国は連休となりますが、重要なデータが多数発表されます。米国、ユーロ圏、英国、日本の購買担当者景況指数が発表され、これらの経済の方向性を知ることができます。さらに、ユーロ圏のインフレ率も重要です。インフレ率が予想より高くなる懸念がありますが、私は問題だとは思いません。ディスインフレの旅は不完全なものであり、途中で期待はずれのデータも出てくるでしょう。欧州中央銀行が利下げを急ぐことはないでしょう。そして今週は、米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(通常はFRB高官の考えを知るのに役立ちます)と、いくつかの重要な米国の労働統計データが発表されます。私は、これらはFRBが第3四半期末までに利下げを開始する、さらなる理由を与えるとみています。
上述したように、年後半に入ると、環境が変化し、リスク資産の支援材料にならなくなるのではないかという投資家の懸念が出てきます。上半期の力強い上昇の後、比較的短期間の調整期間があっても不思議ではありませんが、世界的にリスク資産を支援する環境が続くと私は考えています。上半期との違いは、市場が中小型株や上半期にそれほど好調でなかった株式市場にまで拡大することかもしれません。
注目の日程
公表日 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|
7月1日 |
英国全国住宅価格指数 |
住宅市場の健全性を示す |
7月1日 |
ドイツ消費者物価指数 |
インフレの動向を示す |
7月1日 |
米ISM製造業購買担当者景気指数 |
製造業の健全性を示す |
7月2日 |
ユーロ圏消費者物価指数 |
インフレの動向を示す |
7月2日 |
ユーロ圏失業率 |
雇用市場の健全性を示す |
7月2日 |
米国求人・離職率調査
|
求人、雇用、離職に関するデータを示す |
7月2日 |
日本サービス業購買担当者 |
サービス業の健全性を示す |
7月3日 |
ユーロ圏購買担当者景気指数 |
製造業とサービス業の景気の健全性を |
7月3日 |
英国購買担当者景気指数 |
製造業とサービス業の景気の健全性を |
7月3日 |
ユーロ圏生産者物価指数 |
財・サービスの生産者に支払われる |
7月3日 |
米国サービス部門購買担当者 |
サービス部門の景気の健全性を示す |
7月3日 |
米ISM非製造業購買担当者景気指数 |
非製造業部門の景気の健全性を示す |
7月3日 |
米連邦公開市場委員会(FOMC) |
中央銀行の意思決定プロセスについて |
7月4日 |
イングランド銀行信用状況調査 |
イングランド銀行の信用状況調査 |
7月5日 |
ドイツ鉱工業生産 |
産業部門の健全性を示す |
7月5日 |
米雇用統計 |
雇用市場の健全性を示す |
7月5日 |
カナダ雇用統計 |
雇用市場の健全性を示す |
-
1.
出所:MSCI、2024年1月1日から6月30日までのMSCIワールド・インデックスのリターンは11.6%
-
2.
出所:S&Pグローバル、2024年1月1日から6月30日までのS&P 500指数のトータル・リターンは15.29%
-
3.
出所:S&Pグローバル、 1月1日から2024年6月30日までのS&P日本国債インデックスのリターンは-3.12%
-
4.
出所:S&Pグローバル、ブルームバーグ、2024年1月1日から6月30日までのJPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス・グローバル・ダイバーシファイド・コンポジットのリターンは2.34%。同期間のS&P 米国ハイ・イールド社債インデックスのリターンは 2.72%
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5.
出所:S&Pグローバル、2024年1月1日から6月30日までのS&P GSCIエネルギー指数のリターンは16.47%、S&P GSCI貴金属指数のリターンは13.48%
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6.
出所:S&Pグローバル、1月1日から2024年6月30日までのS&P GSCI金指数のリターンは12.66%
-
7.
出所:米国経済分析局、2024年6月28日
-
8.
出所:ブルームバーグ、2024年6月28日
-
9.
出所:ミシガン大学、2024年6月28日
-
10.
出所:ブルームバーグ、2024年6月30日
-
11.
出所:MSCI、2024年5月31日現在のMSCI ヨーロッパ・インデックスの株価収益率(PER)は14.92。これはMSCIワールド・インデックスのPER 21.70より低い水準
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MC2024-088