中国、FRBのドットプロット、その他3月の注目点
〔要旨〕
- 中国への視線:中国の全国人民代表大会が今週開幕し、成長目標がどうなるか注目される
- 「ドットプロット」:FRBの3月のドットプロットでは、平均的な2024年の利下げ予想回数が2回にとどまるとの噂がある
- 日銀:日銀関係者は、同行が金融政策の正常化に向けてより辛抱強く取り組むことを示唆
1. ディスインフレは続くと見込まれる
2. 日本株は引き続き堅調に推移
3. 今週、中国の全国人民代表大会で何が行われるか?
4. FRBの「ドットプロット」で何が示されるか?
5. タカ派的な 「Fedspeak」に見えるかすかな希望
今週の見通し
お悔み
注目の日程
先週私はアジアとの往復のため、多くの時間を機内で過ごしました。長時間機内にいると、4万フィート上空からの景色を眺めることで少し違った視点を持つことができます。結局のところ上空からは、木々だけでなく森全体を見ることができるのです。私たちが3月に注目している5つの観点―ディスインフレ、中国、日本株、米連邦準備制度理事会(FRB)の次のドットプロット(FOMCメンバーによる金利予測分布図)及びタカ派的発言-については、以下のとおりです。
1. ディスインフレは続くと見込まれる
私たちは依然として「D(ディスインフレ)トレイン」に乗っています。私は、不完全な形であってもディスインフレは3月も続くだろうと確信しています。S&Pグローバル米購買担当者景気指数(PMI)速報値において、財・サービスの産出価格サブインデックスが52.9と比較的低く、2020年6月以来2番目に低い数値となったことには勇気づけられました1 。S&Pグローバルによれば、この数値は、消費者インフレ率が2%水準で推移していることを概ね示唆しており、それは周知のとおりFRBの目標値でもあります2 。
英国とユーロ圏の最近のデータは、インフレがより粘着的であることを示唆していますが、これらの国々はおしなべてインフレに関して正しい方向に向かっていると考えられます。2月のユーロ圏インフレ率予想の速報値は前年同月比で2.6%上昇し、1月の2.8%上昇から低下しました。食品、エネルギー、アルコール、タバコを除くコア指数は3.1%上昇し、1月の3.3%上昇から低下しました3 。
ユーロ圏の製造業PMI調査では、投入コストと産出コストが共に引き続き低下しました4 。世界の大半におけるインフレ懸念の原因の一つとして、フーシ派による紅海航路への攻撃がありましたが、それさえも落ち着いて来たように見えます。太平洋横断航路の運賃は先週、連続的に4.6%下落し、2月初旬のピークからは15%下落しました5 。
2. 日本株は引き続き堅調に推移
日銀関係者から最近、同行が金融政策の正常化に向けてより辛抱強く取り組むことを示唆するメッセージが発せられています。高田審議委員は、マイナス金利からの脱却やイールドカーブ・コントロールを含め、日銀が超金融緩和政策の変更を検討する必要があるとの見解を示しましたが、その後発言を修正し、日銀がマイナス金利を3月に終了させるべきかについて、自身の判断はまだ定まっていないとしました。
より重要なのは、植田総裁が先週のG20財務相・中央銀行総裁会議において、「持続可能で安定したインフレ目標の達成が見通せる状況にはまだない」と発言したことです6 。植田総裁は、このことを確認するため、今後データを見ていくと述べました。ほとんどのアナリストは日銀が4月にマイナス金利を解除すると予想していますが、私は、日銀は日付ではなくデータに依拠して決定を行うだろうと予想しています。つまり、日銀は金融引き締めについて辛抱強く、慎重になるだろうということです。これは日本株にとって大きな支えとなる可能性があります。
3. 今週、中国の全国人民代表大会で何が行われるか?
中国の全国人民代表大会(全人代)が今週開幕します。これは年次の重要会議であり、その年の政府の成長目標を設定し、しばしばハイレベルの政策を発表する場となります。
昨年後半に公表した私たちの2024年市場見通しで既に述べましたが、今年の中国株のパフォーマンスにとっては、景気刺激政策が重要な要因となるでしょう(もちろんそれは経済成長にとっても重要な要因となります)。今のところ、私は前向きに考えています。先週、中央政治局は声明を発表し、「積極的な財政政策を適度に強化し、質と効率を向上させるとともに、慎重な金融政策を柔軟かつ適度に、的を絞って効果的に行うべきである」とし、景気刺激策をより積極的に行う意向を示しました7 。
1月22日に開催された国務院の常務会議では、資本市場を安定させ、市場の信認を向上させるという方針が示され、その後金利の引き下げから空売り規制の強化、住宅向け不動産プロジェクトに対する資金支援に至るまで、的を絞った政策的支援が相次いで発表されました8 。これにより市場の信頼感が高まったと見られ、2月5日から3月1日にかけて上海総合指数は14%近く上昇しました9 。
全人代では、今年の成長率目標を5%と確認し、経済・市場に対する政策的支援が打ち出されるでしょう。そうなれば、中国株への更なる支えとなります。
4. FRBの「ドットプロット」で何が示されるか?
次回のFRB会合は3月後半に予定されています。この会合でFRBによる利下げは行われないと予想されていますが、だからといって会合の重要性に変わりはありません。3月の会合は、FRBが新しい「ドットプロット」(2024年末のFF金利の予想値を含む経済予測サマリー)を発表する年4回の会合の1つだからです。
3月のドットプロットでは、平均的な2024年の利下げ予想回数が2回にとどまると噂されて(あるいは単にそうした懸念が表明されて)います。そうなれば、現在のような市場の熱狂は確実に沈静化するでしょうが、米国株にとってわずかでも一息つけるタイミングだと考えれば、悪いことではないかもしれません。
しかし私は、2021年12月にFRBが、2022年末の平均FF金利が0.9%になるとの予想を示すドットプロットを発表したことを思い出さずにはいられません10 。この予想は(皮肉の意味で)ほんのわずかに外れ、2022年末の実際のFF金利は4.33%でした11 。
5. タカ派的な 「Fedspeak」に見えるかすかな希望
「3月はライオンのようにやって来て、子羊のように出て行く」と言われます。FRBについてもそうなるかもしれません。このところタカ派的な「Fedspeak(FRB関係者の発言)」が続いていますが、先日、今後の展開を予感させるかすかな希望が見えました。
シカゴ連銀のグールスビー総裁は、この水準のFF金利は非常に引き締め的だと思うと述べ、ダラス連銀のローガン総裁は、量的引き締めの水準を緩和するのが適切だと思うと述べました。先週の本レポートで述べたように、私は、ほとんどのFRB参加者はタカ派的な発言を続けると予想しつつ、おそらく5月に前向きなサプライズがあるだろうと楽観的に見ています。
今週の見通し
決算シーズンは事実上終わったため、私は、市場の動きは金融政策予想に影響を与える要因、特にデータや中央銀行関係者の発言、そして来週開催されるいくつかの中央銀行会合によって益々大きく左右されるだろうと予想しています。すなわち、金曜の米雇用統計で発表される米国の平均時給を始め、中国の全人代や英国の予算案など、全てを綿密に注視する必要があるということです。
また、今週はカナダ銀行(中央銀行)と欧州中央銀行(ECB)という2つの主要中央銀行の会合が予定されている点も見逃せません。ECBに注目する向きがほとんどでしょうが、私は、近年金融政策の決定においてしばしば先陣を切ってきたカナダ銀行に注目しており、彼らが何を考え、どう動くかを注視しています。
お悔み
この週末に急逝した、友人で同僚のマーク・ジュリアーノ氏を偲ばずに今週のレポートを終えることはできません。マークは、インベスコ入社以前の28年間、FBIで国に尽くした偉大な人物で、インベスコではチーフ・アドミニストレイティブ・オフィサー(CAO)を務め、エグゼクティブ・リーダーシップ・チームの一員でした。彼はインベスコ・ファミリーの重要な一員であり、知的で思慮深いリーダーでした。彼の死を心より悼み、彼のご家族に対しお悔やみ申し上げます。
注目の日程:
公表日 |
指標等 |
内容 |
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3月4日 |
中国財新サービス業PMI |
サービス業の経済の健全性を示す |
3月4日 |
日本サービス業PMI |
サービス業の経済の健全性を示す |
3月4日 |
日銀植田総裁発言 |
中央銀行の意思決定プロセスについて |
3月5日 |
ユーロ圏S&Pグローバル |
製造業とサービス業の経済の健全性を示す |
3月5日 |
英国S&Pグローバル |
製造業とサービス業の経済の健全性を示す |
3月5日 |
ユーロ圏生産者物価指数 |
生産者に対して支払われる モノ・サービスの価格変化を測定 |
3月5日 |
米国サービス業PMI |
サービス業の経済の健全性を示す |
3月5日 |
カナダ銀行金融政策決定 |
金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
3月5日 |
米国雇用動態調査 |
求人、雇用、離職に関するデータを収集 |
3月5日 |
FRBベージュブック |
FRBの12の各地区ごとに現在の経済状況に |
3月6-7日 |
パウエルFRB議長による |
FRBの金融政策と経済目標を米議会に報告 |
3月7日
|
欧州中央銀行金融政策決定 |
金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
3月8日 |
ドイツ鉱工業生産 |
鉱工業セクターの健全性を示す |
3月8日 |
ユーロ圏国内総生産 |
地域の経済活動を測定 |
3月8日 |
米国雇用統計 |
労働市場の健全性を示す |
3月8日 |
カナダ雇用統計 |
労働市場の健全性を示す |
3月8日 |
中国CPI |
インフレの動向を示す |
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1.
出所:S&Pグローバル、2024年2月23日
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2.
出所:S&Pグローバル、“US inflation descent outpacing that of Europe according to flash PMIs”、2024年2月24日
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3.
出所:ユーロスタット、2024年3月1日
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4.
出所:S&Pグローバル/HCOB、2024年3月1日
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5.
出所:ブルームバーグ(Drewryを引用)、2024年2月28日
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6.
出所:ブルームバーグ、” BOJ’s Ueda Keeps Market Players Guessing Over Rate Hike Timing “、2024年2月29日
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7.
出所:サウス・チャイナ・モーニング・ポスト、”’Two sessions’ 2024: China signals more fiscal pump-priming as economic doubts linger”、2024年2月29日
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8.
出所:新華社、2024年1月22日
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9.
出所:ブルームバーグ、2024年3月1日
-
10.
出所:米連邦準備制度理事会、2021年12月15日
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11.
出所:米連邦準備制度理事会、2022年12月31日
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MC2024-029