スウェーデンの利下げによりECBとFRBへの期待が高まる
〔要旨〕
- スウェーデンの利下げ:各国の中央銀行がFRBによる利下げを待っているわけではないことを示すものであり、ECBが6月に利下げを行うことへの確信を示唆
- 経済の前向きな兆し:4月のユーロ圏サービス業PMIが11ヵ月ぶりの高水準を記録し、中国でもサービスセクターが力強さを見せている
- 消費者にのしかかるストレス:今決算シーズンでの企業コメントから、米国の低所得世帯が大きなストレスにさらされていることが示唆される
中央銀行ウォッチ:利下げ機運が高まる
紅海海運の混乱により遅延が生じコストが増加
欧州と英国に経済成長の明るい兆し
中国のサービスセクターはプラス成長
決算説明会で強調されたAI投資
米国の低所得層消費者が逆風にさらされている更なる兆候
米消費者のインフレ期待は高い
今後の展望
注目の日程
先週は、中央銀行による新たな利下げや、欧州と中国における経済の前向きな兆しなど、市場に好材料がもたらされました。しかしそれは、紅海での海運の混乱が拡大し、インフレに影響を及ぼす可能性があること、また米国の低所得層消費者へのストレスが増していることにより弱まりました。直近のニュースに関する主な気づきは以下のとおりです。
中央銀行ウォッチ:利下げ機運が高まる
先週スウェーデンのリクスバンク(中央銀行)が、現下のサイクルにおいて、欧米先進国の主要中央銀行として2番目に利下げを実施しました。リクスバンクが引き締めサイクル後に米連邦準備制度理事会(FRB)より先に利下げを実施するのは、今世紀初めてのことです。
従来の見方は、リクスバンクは欧州中央銀行(ECB)が6月に利下げを行うと確信しているため、ECBの「先回り」をすることはないだろう、というものでした。このことはまた、中央銀行が自国の状況に基づいて金融政策決定を行っていることを物語っています―利下げを行うタイミングが来ていると経済データから分かる時には、FRBの利下げを待つまでもないのです。
リクスバンクによる利下げは、スイス国立銀行による3月のサプライズ利下げに続くものとなりました。ドミノのうち2つが倒れたわけですが、私は4-6月期末までに更にいくつかドミノが倒れると予想しています。先週、イングランド銀行は主要政策金利を現行水準に維持することを決定しました。しかしベイリー総裁は、最初の利下げはそう遠くないかもしれず、市場が現在織り込んでいる以上の利下げを見通し期間中に行う可能性があることを示唆しました。
紅海海運の混乱により遅延が生じコストが増加
先週、大手海運会社のマースクは、紅海でのフーシ派による攻撃を避けるためのコストが増加しつつあると警告しました。マースクその他の海運会社は、昨年12月以降、フーシ派の攻撃を避けるために船舶を迂回せざるを得なくなっていましたが、現在そうした「リスクゾーン」は拡大しています。このため航海時間が長くなり、コストが上昇しています。マースクによると、この影響を受けるアジア―ヨーロッパ間航路の燃料費は、イスラエルとハマスの紛争開始以前と比べて1航海あたり40%も上昇しています1 。マースクはまた、そこから波及してボトルネックや船舶の団子状態が生じており、これにより極東から北ヨーロッパ及び地中海航路において、4-6月期中に業界全体で輸送能力が約15%から20%減少するだろうと警告しました1 。
マースクは世界貿易のベルウェザー(先行指標としての役割を担う企業)と見なされてきたため、物品のインフレへの影響を警戒したいところです。私たちは、ニューヨーク連銀グローバル・サプライチェーン圧力指数などの指標を注視していきます。
欧州と英国に経済成長の明るい兆し
ユーロ圏の成長に改善の兆しが見られます。先週、ユーロ圏の3月の小売売上高が前月比0.8%増となり、予想を上回ったことが分かりました2 。4月のユーロ圏サービス業購買担当者景気指数(PMI)は53.3と、11ヵ月ぶりの高水準を記録しました。これは前回よりも高く、かつ予想よりも高い値でした2 。
これは、ECBによる利下げがほぼ確実視される中で発表され、先週ストックス欧州600指数が好調なパフォーマンスを示し、史上最高値を更新した背景の一つともなっています3 。
英国の国内総生産は、2四半期続けて非常に小幅に縮小したのち、1-3月期は前期比0.6%増となりました4 。FTSE100種総合株価指数も先週、過去最高値を更新しました5 ―これは間違いなく、経済指標の改善やハト派的にみえるイングランド銀行の姿勢によっても後押しされたものでした。
中国のサービスセクターはプラス成長
中国のサービスセクターは力強さを見せています。例えば先週の5月の労働節休暇中、中国国内では2億9,500万もの移動がありましたが、これはパンデミック前より28%も高い水準です6 。4月の中国財新サービス業PMIは52.5となり、拡大領域に入りました7 。MSCI中国指数が2024年5月10日までの1ヵ月間で10.6%上昇するなど、このところ中国株のパフォーマンスが好調であることに、驚きはありません8 。
決算説明会で強調されたAI投資
一部の大手ハイテク企業の最近の決算説明会では、人工知能(AI)インフラに大規模な投資を行っていることが示されました。そして先週、マイクロソフトはウィスコンシン州南東部に新設するデータセンターへの33億ドルのAI投資を発表しました9 。これは、設備投資ブームを後押しする内容です。私は、これらの投資が長期的にもたらすであろう大きな効果(全要素生産性の向上を含む)に期待しています。
米国の低所得層消費者が逆風にさらされている更なる兆候
今回の決算シーズンで得られた気づきの中で最も大きいものの1つは、米国の「2つのスピード」あるいは分断される経済というテーマでしょう。富裕層が好調を維持する一方で、低所得者層は大きなストレスにさらされています。
クラフト、マクドナルド、コカ・コーラ、キャピタル・ワンなど様々な企業が、低所得者層にのしかかるストレスについて言及しました。そしてそれは、クレジットカード延滞率の上昇、低所得世帯の消費マインドの低下など、数々の公表データからも全体的に裏付けられています。最近では、タイソン・フーズのメラニー・ボールデン社長が、消費者、特に低所得者層がストレスにさらされている状況が見られると述べました。
米消費者のインフレ期待は高い
5月の米消費者インフレ期待(速報値)は、1年先のインフレ期待が3.1%から3.5%へと非常に大幅に上昇しました10 。これは2023年11月以来の高水準です。同調査では、消費者信頼感が4月の77.2から5月は67.4へと大きく低下したことも示されました10 。
ミシガン大学の消費者調査が、今年から電話調査からウェブ調査へ移行しつつあることに注目することが重要です。2024年1月から3月までは電話調査のみでした。4月から6月までは、電話と並行してウェブでの調査を増やすこととしています。7月には完全にウェブ調査のみとなります。なぜこれが重要なのでしょうか?この移行により、調査結果が影響を受けている可能性は十分にあると私は考えています。
このような調査方法の変化のため、ニューヨーク連銀消費者調査のような、他の消費者インフレ期待データを見るのが賢明でしょう。ニューヨーク連銀消費者調査はつい最近、ミシガン大学消費者調査の結果を裏付けるような最新の消費者調査結果を発表しました。この調査結果では、1年先のインフレ期待が3%から3.3%へと大幅に上昇しました(それでも12ヵ月前方移動平均の3.5%は下回っています)11 。朗報は、より長期のインフレ期待-3年先のインフレ期待-が2.9%から2.8%に低下したことです11 。そしてFRBがより懸念しているのは、より長期のインフレ期待の方です。
今後の展望
先週は全体として、良い週となりました。マーケット・ウォッチャーたちは、まるでロイヤルファミリーを待つ侍女のように、利下げを待ち望んでいます。私は、今週発表される最も重要なデータは米国の消費者物価指数(CPI)だと確信しています。これは、インフレが低下を続けているとの更なる確信を得たいFRBにとって、重要なデータとなるでしょう。もちろん、CPIのみではFRBの確信には至らないでしょう―確信を得る上で、FRBは更に多くのデータを必要とするでしょう―従って私は、FRBのドミノが倒れる最初の機会は、7-9月期に訪れるだろうと考えています。
注目の日程
公表日 |
指標等 |
内容 |
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5月14日 |
英国失業率 |
労働市場の健全性を示す |
5月14日 |
ドイツCPI |
インフレの動向を示す |
5月14日 |
ユーロ圏ZEW景況感 |
今後6カ月間の景況感を測定 |
5月14日 |
ドイツZEW景況感 |
今後6カ月間の景況感を測定 |
5月14日 |
米国NFIB中小企業楽観指数 |
米国の中小企業の健全性を示す |
5月14日 |
OPEC月次報告 |
世界の石油市場に影響を与える |
5月14日 |
米国生産者物価指数 |
生産者に対して支払われる |
5月14日 |
シュナーベルECB 専務理事講演 |
中央銀行の考え方について洞察を |
5月14日 |
パウエルFRB議長講演 | 中央銀行の考え方について洞察を |
5月15日 |
ユーロ圏雇用統計 |
労働市場の健全性を示す |
5月15日 |
ユーロ圏国内総生産 |
地域の経済活動を測定 |
5月15日 |
ユーロ圏鉱工業生産 |
鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
5月15日 |
米国CPI |
インフレの動向を示す |
5月15日 |
米国小売売上高 |
消費需要を測定 |
5月15日 |
日本国内総生産 |
地域の経済活動を測定 |
5月15日 |
オーストラリア雇用統計 |
労働市場の健全性を示す |
5月16日 |
日本鉱工業生産 |
鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
5月16日 |
イングランド銀行 |
英国の金融システムの安定性と リスク除去・軽減のための取り組み について論じる |
5月16日 |
ECB金融安定レビュー |
ユーロ圏の金融安定性に対する |
5月16日 |
米国建築許可件数と |
住宅市場の健全性を示す |
5月16日 |
フィラデルフィア連銀 |
米国北東部の製造業の状況を追う |
5月16日 |
米国鉱工業生産 |
鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
5月16日 |
FRBバランスシート |
中央銀行の資産・負債を表示 |
5月16日 |
韓国失業率 |
労働市場の健全性を示す |
5月16日 |
中国固定資産投資 |
資本投資への支出を測定 |
5月16日 |
中国鉱工業生産 |
鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
5月16日 |
中国小売売上高 |
消費需要を測定 |
5月16日 |
中国失業率 |
労働市場の健全性を示す |
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1.
出所:マースク、2024年5月6日
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2.
出所:S&Pグローバル/HCOB
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3.
出所:ブルームバーグ、2024年5月10日
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4.
出所:英国国家統計局
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5.
出所:ブルームバーグ
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6.
出所:中国文化観光省
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7.
出所:財新、2024年5月
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8.
出所:MSCI、2024年5月10日
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9.
出所:マイクロソフト、2024年5月8日
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10.
出所:ミシガン大学消費者調査、2024年5月10日
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11.
出所:ニューヨーク連銀、2024年5月13日
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MC2024-065