国債、マインド、業績:投資家が注目すべきポイント

〔要旨〕
- 米国債利回り:関税戦争のさなかで、米国の最大の脆弱性は、債務の水準とその外国保有比率が相対的に高いことだろう
- 欧州のマインド:欧州経済は、関税戦争からくる逆風に直面しているが、財政刺激策が強力な対抗策となるだろう
- 業績見通し:米国の決算シーズンが始まったが、市場にとっては第1四半期の決算実績よりも、フォワードガイダンスの方がより重要となるだろう
投資家が注目すべき6つのポイント
今後の展望
注目の日程
先週、米国が中国を除く全ての国々に対する「解放の日」相互関税の90日間一時停止を発表したことで、関税戦争に新たな局面が訪れました。金曜の夜、米国は中国に対する(電子機器と携帯電話を対象とする)関税政策の適用除外を発表しましたが、週末にかけて当局はそれをやや後退させた模様です。驚くことではありませんが、関税戦争の動向を受けて、株式と国債は週を通じて乱高下し、金は上昇を続けました1。
投資家は様々な懸念、中でも景気後退に対する懸念を抱いていますが、それも無理からぬことです。ボラティリティと不確実性だけが、今後の唯一の確実性と言えるかもしれません。今何に注目すべきか、顧客のみなさまから多くの質問を頂いています。以下では、今後数週間の間に注目すべきポイントを簡単にまとめました:
投資家が注目すべき6つのポイント
- 米国の消費者・企業のマインド:ミシガン大学消費者調査(速報値)における消費者マインドは、3月の57から4月は50.8に低下し、予想の54.5を大きく下回りました。これは2022年6月以降最も低い水準で、4ヵ月連続での消費者マインド低下となりました2。消費者マインドが3ヵ月間で20ポイント以上低下すると、景気後退が近づいていることの強力な示唆となるとの大まかな原則があります。消費者マインドは直近3ヵ月で20ポイントをやや上回って低下しており、懸念されます。加えて、ニューヨーク連銀の消費者期待調査によると、1年後の失業率が上昇するだろうと予想する回答者の割合は44.0%に上昇し、2020年4月以来の高水準となりました3。しかしまだ、「ソフトデータ」が実際に 「ハードデータ」となって現れたわけではありません。今後は、あらゆる主要調査(ミシガン大学消費者調査、ニューヨーク連銀消費者調査、コンファレンス・ボード調査など)における消費者マインドを注視していくだけでなく、それが実際にどのように行動に現れていくかを確認するため、(米国小売売上高などを含む)ハードデータにも注目したいと思います。また、企業のマインドとそれがハードデータに与える潜在的な影響にも注目したいと思います。チーフ・エグゼクティブという業界団体が新たに発表した調査結果によれば、CEOとビジネスオーナーの62%が今後6ヵ月以内に景気後退が起こると予想しており、これは3月の48%から上昇しました4。NFIB中小企業楽観指数も大幅に低下しましたが、長期の平均をわずかに下回る程度となっています5。
- 欧州の経済・企業のマインド:米国の関税戦争によって欧州経済には逆風が吹いています。しかし、財政刺激策という強力な対抗策があります。マインド調査の結果が、欧州、特にドイツの防衛・インフラ支出拡大計画に対する受け止めがいかに肯定的か、またそれが高関税の打撃をいかに和らげることができるかの感度を与えてくれるでしょう。私たちは、この地殻変動的な変化がマインドに大きく影響し、これらのソフトデータが、鉱工業生産指数や小売売上高などのハードデータの改善に変換されていく可能性が高いと予想しています。そうした展開が見られるまでには数ヵ月かかると思われますが、マインド指標にはごく近い将来に、その兆候が見られ始めるでしょう。
- 中国の経済データ:同様に、米国の関税によって中国経済も逆風に直面しています。しかし、中国も大幅な財政刺激策を実施しつつあり、これが強力な対抗策となるはずです。3月の中国の与信成長率の上昇など、経済回復の兆しである「グリーンシュート」が見られ始めていますが、政策当局がターゲットとしている重要分野の1つである国内消費を含め、より確固とした経済データの裏付けを見つけていきたいと考えています。
- 業績見通し:米国の決算シーズンが始まりました。業績内容が相場を押し上げ、投資家が関税政策にとらわれず、その先に目を向けることができると考える向きもあるようです。しかし、市場はいわば「バックミラー」のようなものである第1四半期の決算を気にする可能性は低く、今後に向けたガイダンスをより求める可能性が高いと考えられます。そして、それは市場にとってマイナスに作用する可能性があります。決算説明会でガイダンスに注目することは常に重要ですが、今回はかつてなく重要となるでしょう。企業がこのような不確実性の高い状況をどう乗り切ろうとしているのか、また経済見通しはどうかといった点についてそこで得られる示唆が、市場の動きを形成することになるでしょう。
- 米国の消費者インフレ期待:(3月の米国消費者物価指数(CPI)と米国生産者物価指数(PPI)がともに予想を下回るなど)実際のインフレ指標は低下したものの、米国の消費者インフレ期待はさらに上昇しました。特に5年先のインフレ期待は上昇を続けており、政策当局が気をもんでいる、長期のインフレ期待が「十分安定的に維持(アンカー)されている」というリトマス試験をパスしていないことを示唆しています6。消費者マインドの低下と相まって、この調査データは、消費者がスタグフレーション環境を見込んでいることを示唆しています。私たちは、政策変更によりこの運命がたやすく回避され得ることを念頭に置きつつ、こうした見通しを確かめるため、今後のソフトデータ及びハードデータを注意深く追っていきます。
- 米国債利回り:現在の関税戦争のさなかで米国の最大の脆弱性は、債務の水準とその外国保有比率が相対的に高いことでしょう。米国の債務返済コストは上昇し、昨年ついに、初めて国防予算の総額を上回るまでになりました。経済史家のニーアル・ファーガソンは、このようなシナリオは、大国にとって持続可能でないと主張しました。他国は、米国の高い債務水準が深刻な脆弱性をもたらすことを知っています;金利が上昇すれば、米国ははるかに多くの債務返済をすることにつながるためです。
米国、ひいては米国債を「セーフヘイブン」資産クラスとして信頼する国の数は減っているようです。その結果、「セーフヘイブン」資産クラスとしてより選好されるようになった金に、大きな買いが集まることとなりました。
諸外国は、関税戦争の武器として、米国の債務の脆弱性を利用し、米国債を売却して借入コストを上昇させることで、米国の関税に罰を与える方法を見出だそうとしているのかもしれません。米国債利回りが急騰したために、米国が多くの国に対して「解放の日」関税の90日間一時停止を導入せざるを得なくなったと囁く者もいます。米国債利回りが今後の関税戦争の行方を左右する可能性も大いにあるため、私たちは米国債利回りを注視していきたいと思います。スコット・ベッセント米財務長官が、米10年物国債利回りを引き下げるとの目標を掲げていたことを思い出してください。この目標は、最近阻まれています。
今後の展望
今後については、顧客のみなさまが、ご自身の投資の時間軸を思い起こされることが重要です。通常それは、平均的な景気後退や大統領任期よりもはるかに長い期間だと思われます。それはつまり、ご自身の投資ポリシーを維持し、十分な分散投資を行い、不確実性とボラティリティを活用する機会を見出そうとするということです。
注目の日程
公表日 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|
4月14日 |
ニューヨーク連銀米国消費者 |
米国のインフレに対する消費者期待を追跡 |
4月15日 |
英国失業率 |
労働市場の健全性を示す |
4月15日 |
ユーロ圏鉱工業生産指数 |
鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
4月15日 |
ユーロ圏ZEW景況感指数 |
今後6カ月間のユーロ圏の景況感を測定 |
4月15日 |
ニューヨーク連銀製造業景気指数 |
ニューヨーク州の一般的な景況感の相対的な |
4月15日 |
カナダCPI |
インフレの動向を追跡 |
4月15日 |
中国国内総生産 |
地域の経済活動を測定 |
4月15日 |
中国鉱工業生産指数 |
鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
4月15日 |
中国失業率 |
労働市場の健全性を示す |
4月16日 |
英国CPI |
インフレの動向を追跡 |
4月16日 |
ユーロ圏CPI |
インフレの動向を追跡 |
4月16日 |
米国小売売上高 |
小売業の健全性を示す |
4月16日 |
米国鉱工業生産指数 |
鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
4月16日 |
カナダ銀行金融政策決定 |
金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
4月16日 |
韓国銀行金融政策決定 |
金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
4月16日 |
オーストラリア失業率 |
労働市場の健全性を示す |
4月17日 |
イングランド銀行信用状況調査 |
信用状況の動向と進展に関する報告 |
4月17日 |
欧州中央銀行金融政策決定 |
金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
MC2025-041