柔軟な政策運営の方向性を打ち出したFRB
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要旨
FRBは金融システムの安定性とインフレ抑制の両立を模索
今回の会合での決定は、①インフレ抑制を目指しつつ、➁金融システムの安定性を確保する―という2つの狙いを両立させようとする、バランスの取れたものであったと考えられます。FRBの金利政策は、これまでの「データに依存する」という形から、「データだけではなく、金融システムへの懸念という問題が及ぼすインパクトにも依存する」という形に変化したことになります。
金融市場は株安と金利低下、ドル安で反応
FOMCの決定に対して、グローバル金融市場の反応は、株安、米金利低下、ドル安となりましたが、こうした反応は、一時的なものにとどまる公算が大きいとみられます。
FRBの姿勢は、長い目で見れば市場に安心感をもたらそう
グローバル金融市場では、直近でのSVBやクレディ・スイス銀行の経営問題を受けて、経営問題が他の銀行に伝播するという懸念が依然として残っていることから、今後少なくとも1~2カ月の間は市場のボラティリティーが大きくなる展開が想定されます。ただ、今回のFRBの当面の方針が明らかになったことで、FRBの方針を巡って相場が動揺する可能性は低下したと考えてよいでしょう。総じて、今回の決定は、FRBが政策の柔軟性を確保することが可能な、バランスの取れた政策であり、長い目で見れば市場に安心感をもたらす、と私は考えています。
FRBは金融システムの安定性とインフレ抑制の両立を模索
3月21-22日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、政策金利であるフェデラル・ファンズ(FF)レートの誘導目標を従来よりも25bp(=0.25%)引き上げ、4.75~5.00%に設定することが決定されました。今回の会合での決定は、①インフレ抑制を目指しつつ、➁金融システムの安定性を確保する―という2つの狙いを両立させようとする、バランスの取れたものであったと考えられます。今回の会合後の記者会見でパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長が強調したのは、シリコンバレー銀行(以下ではSVBと記します)など一部の金融機関の破綻は経営などに問題があったことによる特殊なケースであり、金融システムの安定性は損なわれていないという点でした。金融機関に対する規制監督当局でもあるFRBがそうしたメッセージを発信することで金融市場の懸念を静めようとするのは当然のことと言えます。
その一方、インフレ抑制という課題については、「SVBの破綻を含む過去2週間の出来事が、金融・信用環境の引き締まりを通じて利上げと同様の金融引き締め効果をもたらす可能性がある」というロジックが前面に打ち出されました。インフレ圧力が期待したほど低下していない中、SVB問題が表面化する前の段階では、50bpの利上げが適切であるとの見方が台頭していましたが、直近の信用不安問題がある程度の引き締め効果をもたらすことを勘案して、今回はFFレートの引き上げ幅が25bpに抑制されました。また、今後の金融政策についてのフォワード・ガイダンスでは、FF金利誘導目標の「継続的な利上げが適切である」との従来の文言が削除され、代わりに、「いくらかの追加的な利上げが適切となるかもしれない」との文言が追加されました。パウエル議長は、記者会見において、この新しい文言のうち、「いくらかの」と「かもしれない」という言葉が重要であるとしましたが、これは、現在のSVBなどがもたらす問題が経済や金融環境に及ぼす程度が不透明であるためであるとし、仮にその問題による影響が限定的であれば、インフレ対応を強化することになる一方、逆にその問題が重大な問題になる場合には、それ自体が引き締め効果をもたらすことで、金融政策による引き締めはそれほど必要なくなるかもしれない、と説明しています。この発言を踏まえると、FRBの金利政策は、これまでの「データに依存する」という形から、「データだけではなく、金融システムへの懸念という問題が及ぼすインパクトにも依存する」という形に変化したことになります。
FOMC参加者による見通しでは、2023年末時点でのFF金利見通しが従来と同様の5.1%(目標レンジの中間値、参加者の中央値ベース)に据え置かれた一方、2024年末時点の見通しは、従来の4.1%から4.3%へと引き上げられました(図表1)。これは、2023~24年についてのコアPCEデフレーター見通しが引き上げられたことを反映していると考えられます。パウエル議長は、記者会見において、インフレが緩やかに低下するという現在の想定の下で、FOMC参加者は年内の利下げを想定していないと述べ、今年の後半に利下げを見込む金利先物市場の想定とFRBの想定が乖離した状況が続くことになりました(図表2)。
金融市場は株安と金利低下、ドル安で反応
FOMCの決定に対して、グローバル金融市場の反応は、株安、米金利低下、ドル安となりました。株安となったのは、イエレン財務長官が米議会において、金融機関の預金を全額保護する案を検討していないと発言したことで銀行株が大きく売られ、それが他のセクターにも波及したことによる面がありました。これに加えて、パウエル議長が年内の利下げに対して否定的な発言をしたことで、不動産など金利敏感株が売られたことによる影響も大きかったと考えられます。年内に高めの金利水準が維持されることで、2024年に想定されている景気回復に遅れが出るという警戒感が強まったことも株安の背景にあったと考えられます。FOMC参加者の見通し(中央値)では、2024年10-12月期の実質GDP成長率見通しが、従来の1.6%から1.2%へと幾分大きく引き下げられました。債券市場では、米中長期債の利回りが低下しましたが、これは、フォワード・ガイダンスが変更され、短期的な利上げについての見通しが下方修正されたことが大きかったと考えられます。米国金利の低下は、円やユーロといった主要通貨に対するドル安の動きをもたらしました。
FRBの姿勢は、長い目で見れば市場に安心感をもたらそう
グローバル金融市場では、直近でのSVBやクレディ・スイス銀行の経営問題を受けて、経営問題が他の銀行に伝播するという懸念が依然として残っていることから、今後少なくとも1~2カ月の間は市場のボラティリティーが大きくなる展開が想定されます。ただ、今回のFRBの当面の方針が明らかになったことで、FRBの方針を巡って相場が動揺する可能性は低下したと考えてよいでしょう。
仮に、FRBによる今回の決定が、金融システムの安定性の確保だけを重視し、年内の大幅な利下げを示すものになったとすれば、米銀の信用問題が早期に解決して再びインフレ問題に集中して取り組むことにともなってFRBのタカ派化が金融市場に動揺をもたらす可能性がありました。逆に、FRBがインフレ問題に傾斜し、25bpを超える利上げを実施していたなら、金融市場はFRBによる行き過ぎた引き締めに対する懸念を強め、株価が調整するリスクがありました。今回の決定は、FRBが政策の柔軟性を確保することが可能な、バランスの取れた政策であったと評価できます。
2月の米国インフレ指標はコアCPI(食品・エネルギーを除く消費者物価指数)の前月比上昇率こそ市場予想よりもやや上振れたものの、PPI(生産者物価)ではやや落ち着く動きがみられたうえ、平均時給についても労働市場が比較的タイトな分野での上昇率の落ち着きが目立ちました。今後、金融システムの安定性に対する懸念が落ち着けば、インフレの落ち着きとともに、FRBが利上げを打ち止めにするという見方が強まり、株式市場が一時的な上昇局面に入ると言う見方を維持したいと思います。今後は、個別金融機関に経営問題が波及しないかや、景気指標、インフレ指標、FRB高官の発言に引き続き注目したいと思います。
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MC2023-037