2022年の見通し:日本株式 − ファンダメンタルズの改善を背景に、日本株の出遅れを取り戻す展開に期待
【要旨】
2021年の日本株式市場は、引き続き新型コロナウィルスに翻弄される展開に
2022年は、欧米に比して遅れていた経済回復や、引き続き好調な企業業績などに支えられ、日本株が出遅れを取り戻す展開に期待
中長期的にはコーポレートガバナンス改革が進展する中、アクティビストをはじめとした「モノ言う投資家」の動きがカタリストとなることで、さらなるガバナンスと企業価値向上を想定
2021年の日本株式市場は、引き続き新型コロナウィルスに翻弄される展開に
2021年の日本株式市場は、引き続き新型コロナウィルスに翻弄される展開となりました。年初の2月には日経平均株価指数と東証株価指数がともに30年ぶりの高値をつけるなど、好調なスタートを切りました。しかし夏にかけては、新型コロナウィルス感染再拡大に伴う経済再開の遅れや東京オリンピック・パラリンピックへの懸念などが重しとなり、主要先進国市場に比較すると日本株式市場は低調な動きとなりました。
その後9月初頭に、内閣支持率の低迷を受け、菅前総理は自民党総裁選への不出馬を表明しました。これにより、秋の衆議院選挙における与党自民党の大敗シナリオが後退し、実際10月末の衆議院選挙において、岸田文雄新首相は与党で絶対安定多数を獲得することになりました。岸田内閣に対しては一部の外国人投資家が期待したような構造改革に消極的との印象が生まれたことで失望売りも出ましたが、少なくとも政治の不安定化を避けることができたといえます。
2022年は、欧米に対して遅れていた経済の回復や、引き続き好調な企業業績などに支えられ、日本株が出遅れを取り戻す展開に期待
2022年に向けては、新型コロナウイルス変異株である「オミクロン」型の世界的な感染拡大や、欧米のインフレ・金利情勢、あるいは中国の景気動向等の懸念材料はあるものの、欧米に比して遅れていた日本経済の回復が期待できることや引き続き好調な企業業績に支えられることで、2022年は日本株が出遅れを取り返す展開になることを期待しています。
足元、国内では新型コロナウイルスワクチン接種率は総人口の8割に迫る水準にまで上昇し、新規感染者は大幅に減少しています。今後は経済活動の再開に伴い、これまで緊急事態宣言のもと抑え込まれてきた個人消費の回復を始め経済活動の活発化が期待されます。加えて、岸田首相は経済回復を最優先政策に掲げており、国の支出としては43.7兆円規模にのぼる大型経済対策を決定しました。他の欧米諸国の2022年の景気は2021年比鈍化が予想される中で、経済活動の再開に加えこれらの対策が奏功して経済回復が目に見えるものとなれば、日本株式への相対的な魅力度はさらに高まると考えられます。
日本企業はパンデミック後の世界的な設備投資再開による恩恵を享受できる立場にある
企業業績面では、国内産業の資本財比率が相対的に大きいことから、日本はパンデミック(世界的な大流行)後における世界的な設備投資再開による恩恵を享受できる立場にあると考えます。国内においても、コロナ禍でデジタルトランスフォーメーションやオートメーション化の動きが加速しているほか、人手不足対策や省人化あるいは生産性向上ニーズなどを背景に中長期的にも旺盛な設備投資需要が想定されます。このような状況は、デジタル化に強みのあるIT企業だけでなく、ファクトリー・オートメーションに強みのある企業に持続的な収益成長をもたらすはずです。同時に日本が遅れていた生産性の向上が期待できると考えています。
一方、気候変動などの環境問題は昨年から全世界的な主要なテーマとなりました。日本政府も2050年のカーボンニュートラルをコミットしたこともあり、政府・企業がこぞって環境関連やそのソリューションへの投資をしていくことが想定されます。これらの新しい分野での投資は、関連企業にとって大きな恩恵になるだけでなく、他の様々な企業にとっても収益を生み出す機会になるでしょう。
二度目のコーポレートガバナンス・コードの改訂や2022年春の東証の市場区分再編など、コーポレートガバナンス改革は引き続き進展
日本におけるもう一つの長期的な流れとして、コーポレートガバナンス改革が挙げられます。2021年は二度目のコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の改訂が行われ、2022年春には東証の市場区分再編が実施されます。具体的には、健全なガバナンスと十分な流動性を備えた企業が上場する「プライム市場」、プライム市場より条件が緩い「スタンダード市場」、そして成長企業が上場する「グロース市場」に再編されることになります。
日本企業の経営陣は東証一部上場に対し強いインセンティブを持っており、来年のプライム市場への移行を目指し、必要とされる条件であるガバナンスの改善が進展を見せています。例えば、プライム市場上場基準の一つである、独立社外取締役を3分の1以上選任している東証一部上場企業は2015年のわずか12%から、2021年の株主総会後では70%以上まで増加しています。
政策保有株式解消に関しても進展が見られています。プライム市場上場のガバナンス基準では流通株式比率を35%以上としていますが、この算出には政策保有株式は流通株から除外されます。東証一部の有価証券売却益は大きく増加しており、政策保有株式の解消が進んだことを示唆しています(図表1)。
既存事業・資産の売却、譲渡、撤退など、事業ポートフォリオの見直しが進む
事業ポートフォリオの見直しの動きも加速しています。昨年の Investment Outlook にて、2020年7月に経済産業省が取りまとめたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)を補完する形での資本効率の改善を目的とした「事業再編実務指針」について触れましたが、これに呼応する形で2021年に改訂されたCGコードでは、企業が株主に対して「取締役会によって決定された事業ポートフォリオに関する基本的な方針や事業ポートフォリオの見直しの状況についてわかりやすく示す」ことを求めています。日本企業の経営陣は収益性が低い既存事業の撤退または再編に躊躇しがちで、これは会社全体の資本効率を損なう悪しき慣習でした。しかしながら、コロナ禍で加速した事業再編の動きは、これらの政策の後押しもあり2021年も継続しています(図表2)。
アクティビストをはじめとした「モノ言う投資家」の動きがカタリストとなることで、さらなるガバナンスと企業価値向上に期待
2014年にスチュワードシップ・コードが、そして2015年にコーポレートガバナンス・コードが導入されてきてから、コーポレートガバナンス改革は徐々にではあるものの確実に進展していると主張してきました。そして、実際に日本企業が資本効率と収益性を高めるための取り組みを強化しています。日本でアクティビストの活動が再び増加していることは、選択と集中におけるビジネスのダイナミズムが動き始めていることを示唆していると考えています(図表3)。アクティビストはいうまでもなく、スチュワードシップ・コードで求められている「モノ言う投資家」の動きがカタリストとなり、日本企業のさらなるガバナンスと企業価値向上が期待できると考えています。
ガバナンスや資本効率を改善している企業がある一方、変化に取り残されたり、抵抗したりしている企業も存在し、今後企業間格差はますます広がってくると考えられます。徹底的な調査と厳密な評価を行うことで、将来の「勝ち組企業」を発掘できる機会は増えてきており、アクティブ・マネジャーが活躍できる余地が大きく広がっています。
2022年は、労働力不足とサプライチェーンの混乱によって高水準のインフレが継続してしまう懸念から、米国の連邦準備銀行を始め各国の中央銀行がより強い引き締めをせざるを得なくなることが、日本を含めた世界の株式市場における主要なリスクだと考えています。一方で、デフレは終わったものの引き続き低インフレ・低成長に苦しむ日本にとって、インフレは必ずしも悪いこととは限りません。この機会を捉えて賃金の上昇を伴う良いインフレに繋げることができれば経済サイクルが回りだす契機になり、むしろ日本株の出遅れを取り戻す一因となりえる可能性もあるのではないかと考えています。
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MC2021-208