2022年の見通し:日本中小型株式 - 株価の追い風は止んだのか?
外部環境が変化する中では企業間格差に着目すべし
「格差」が話題です。テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の資産額は推定約2,500億ドル(約28.5兆円)とのことで、自らの納税のために持株を10.5億ドル(約1,200億円)も売却しなければいけないそうです。中国政府による「共同富裕」も格差是正のためのスローガンです。11月に英国で開催されたCOP26(気候変動枠組条約締約国会議)で議論がスムーズにまとまらなかったもの、ひとつには先進国と途上国との格差が障害となったと言えると思います。
一方で、私どもが日頃対峙する株式市場においての「格差」というのはいわゆる企業間格差のことです。これは『同じ業種内であっても、あるいは似たような製品・サービスを提供していても、個々の企業毎にファンダメンタルズは相応の差があり、それに準じた株価パフォーマンスに優劣が付くこと』と解されています。私たちのような個別銘柄を厳選するタイプの投資家は、この企業間格差に常日頃から注目をしています。ただ2021年の市場環境は、コロナ禍からの回復過程で景気も企業業績も上向き、財政・金融面の強力なサポートもあり市場全体が好調に推移する中、投資家の目線は比較的寛容で、個別よりは「塊り」(例えば巣籠り関連、リオープニング関連等)で判断される傾向が強かったと思います。しかし2022年は違う展開となるでしょう。外部環境が大きく変化する中で企業間格差が重視されると考えています。
もっとも日本株市場を取り巻く環境が悪いわけではありません。むしろこれまでの出遅れを取り戻すチャンスだと見ています。理由は単純です。日本では当初ワクチン接種に手間取ったこともあり、9月まで首都圏では緊急事態宣言が続きました。このため景気の回復時期が欧米諸国より、1-2四半期程度後ずれしています。加えて海外では一部で新型コロナウイルスの感染再拡大から再びロックダウンを強いられている地域もある中、国内のワクチン接種率が8割近い水準に達していることもあり、感染状況は極めて落ち着いています。年内にも3度目のワクチン接種が始まるほか、経口治療薬も承認される見込みです。止まっていたサービス消費も今後は戻って来ることでしょう。さらに諸外国ではコロナ対策の効果が剥落する中で、日本はこれから55.7兆円規模の経済対策による押上げ効果が期待出来ます。日本は2022年に向けて、G7の中では数少ない景気モメンタムが上向きの国となっているのです。
来年に向け、日本はG7の中で数少ない景気モメンタムが上向きの国に
景気モメンタムの強さ、物価の落ち着き、出遅れ感から日本株の魅力度は高い
今のところインフレや金利上昇懸念に関しても日本は蚊帳の外です。米国では当初一時的と考えられていた物価上昇が想定以上に続いていることから、米連邦準備制度理事会(FRB)はテーパリング(量的金融緩和政策の段階的な縮小)の加速を決めたほか、市場は既に2022年に3回程度の利上げを織り込んでいます。英国が利上げに踏み切ったほか、EU(欧州連合)もコロナ禍対応の緊急緩和策の終了を決定しました。これに対し日本は、①景気のモメンタムが来年に向けて上向きで、②物価は依然落ち着いており金融政策変更の可能性が低く、③出遅れによる相対的割安感が強い日本株市場は見直し買いも入り易い、と考えるべきでしょう。一方で世界的に見れば、景気や企業収益の拡大ペースは減速し、米国の金融緩和政策が転換する中で、投資家の目がより厳しくなるのは避けられないと考えられます。だからこそ、企業間格差がより重要になると思われるのです。
日本株に対する見直しという点では他にも明るい材料があります。日本では家計に1,992兆円もの金融資産あり現預金が1,072兆円も積み上がる一方、株式は210兆円、投資信託は89兆円(両方で約15%)と、比率では米国の半分程度しかありません。「貯蓄から投資へ」とかれこれ15年以上言われ続けながら未だに投資には後ろ向きにも見えます。その理由として「失われた20年で株式の成功体験がない」「過度なリスク回避の習性」などと、色々言われておりますが、ここに来て明るい変化が見られるのです。
個人投資家が2011年以来10年振りの買い越しに
日本証券業協会によると21年9月末の個人顧客口座数は2,876万に達し最高記録を更新中です。ネット証券の普及に伴い投資家層が若年層に拡大している影響に加え、成功体験の広がりという部分もあるのではないでしょうか。考えてみれば、東証株価指数は2012年、日経平均株価なら2008年が直近の安値です。これ以降市場に参入した投資家なら「株式は儲かるもの」という意識が少なからずあっても不思議ではありません。例えば、過去はいつも逆張りだったはずの個人投資家が、今年は上昇相場の中で買い越しとなっているのです。東京証券取引所が発表する投資家主体別売買動向によると、個人投資家は過去20年間2回しか買い越しとなった年がありません。リーマンショックの2008年と東日本大震災やタイの洪水でサプライチェーンが混乱した2011年で、いずれの年もTOPIXは二桁の下落率でした。一方で、今年の同指数は年初来でプラスです。逆張りだった個人投資家が2011年以来10年振り買い越しに転じているのです。
投資家の目線は厳しくなるが、それでも強者は残る。業績を伸ばせる企業とそうでない企業の差は拡大する
日本株の中でも中小型株はどう見るべきでしょう。昨年のこのレポートでも書きましたが中小型株の動向を予想する上では①金融緩和、②技術革新、③規制緩和の3つが重要です。
国内の金融緩和は維持されると思われますが、その一方で英国が利上げに踏み切り、米国も利上げが視野に入る中では、全体としてこれまでのようなプラス効果は期待できないと見るべきでしょう。テーマだけで人気化するケースは少なくなり、バリュエーションに対する見方もこれまでよりは厳しくなる可能性があると思います。規制緩和もさらに加速するという機運は少々減退しているように感じます。岸田総理は当初「小泉改革以降の新自由主義的な政策の転換」を掲げていましたが、金融所得課税の強化や自社株買いに関するガイドライン策定にも言及しました。総理が規制緩和に後ろ向きとは思いませんが、今のところこういった一連の発言は、内閣支持率の低下にはつながっていないことから、来年夏の参議院選挙に向けてリスク要因と認識しておく必要があるのかもしれません。事実、こういった要素が今年秋以降の中小型株の相対的出遅れに繋がっているとも考えています。
一方で、技術革新という観点では引き続き材料が豊富です。特にコロナ禍やESGに対する認識の広がりによって新しい動きが始まっています。テレワークが一般化したことで業務のデジタル化が進んだだけでなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)と呼ばれるビッグデータやAIを駆使した新たなビジネス、サービスが立ち上がっています。人手不足や効率化対策のためにビジネスのやり方自体も変化しています。また菅前首相が「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを公約したことで、多くの日本企業が同じ目標を掲げ始めました。Scope1と呼ばれる温室効果ガスの直接排出量削減のため、エネルギー、素材、資本財など企業は多くの設備投資や研究開発が必要となるでしょうし、Scope2と呼ばれる間接排出量削減には、再生可能エネルギーや蓄電池への需要を高めるでしょう。加えてS(社会)の観点では、日本企業の人的資本(ヒューマンキャピタル)への投資不足が問題になってきています。ヒトの生産性や能力、資質を高めるため、教育、訓練のほか情報収集や採用活動などが今後は活発化することが想定され、IT、AI技術を活用したこれまでとは違ったサービス、ビジネスが広がることでしょう。
2022年は全体として日本株が浮上するチャンスはありつつも、金融緩和という強力な追い風が徐々に止む中、規制緩和の強力な推進力がスピードダウンしていく可能性が高いと考えています。それでも、COP26やESGという大きなうねりがそれを一気に押し流す形で新たな技術革新、ビジネス、サービスも生まれています。業績を伸ばせる企業とそうでない企業の差が拡大し、2022年は全ての投資家が良い思いをするというわけにはいかないかもしれません。企業間格差がカギとなり、私ども投資家の目利き力の巧拙が問われる1年となりそうです。引き続き全力を挙げて企業間格差の発見に挑んでいきます。2022年のインベスコにぜひご期待頂ければと思います。
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