欧州バンクローン市場、月次アップデート 2023年8月
2023年7月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与するとともに、価格変動もプラスリターンとなり、月間トータル・リターンは+1.15%となりました
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index(以下「CS WELLI」または「指数」)の2023年7月のトータル・リターンは+1.15%となり、内訳は価格変動が+0.45%、金利収入が+0.69%でした1 。
7月のバンクローン市場は堅調に推移しました。7月末のCS WELLI平均価格は0.51ユーロ上昇して95.21ユーロとなり、年初来で上昇基調で推移しています。
上昇要因は以下の通りです。
ー インフレ率の低下:ユーロ圏の6月のインフレ率は5.5%(前月比0.6%低下)となり、欧州中央銀行(ECB)が目標とする2%に近づいています。同行は利上げを継続していますが(政策金利は現在3.75%)、政策金利はターミナル・レートに近い水準にあります。
ー マクロ経済拡大による下支え:ユーロ圏の2023年4-6月期の経済成長率は予想値(+0.2%)を上回る+0.3%となり、前四半期の水準を上回りました。
ー デフォルト率が低位で推移:直近12カ月のデフォルト率は1.5%と緩やかに上昇しているものの、過去平均である約3%を大きく下回っています3。
新規発行は引き続き見られますが、7月の欧州バンクローンの新規発行は33億ユーロとなり、先月に近い水準になりました。
負債比率や業績に問題のない企業がローンの新規発行を行ったことで、投資家の強い需要が喚起されました。典型的な新規発行ローンの平均スプレッドはEURIBOR+425bp〜500bp前後(OIDは数ポイントの水準)となっています。このため、新規発行ローンの平均利回りは9.2%と、ここ最近では最高水準の利回りで推移しています。
実際、バンクローンを引き受ける銀行は、リスク資産全体のボラティリティが低下していることもあり、特にバンクローン市場でのリスク選好度を高めつつあります。そのため、新規のレバレッジド・バイアウト(LBO)ローンの引受がいくつか公表され、また、他のLBO案件も足元で進行しています。
新規バンクローンの発行が低位に推移していることもあり、新規発行されるCLOからの需要は引き続き堅調です。7月のCLO新規発行額は5件で19億ユーロとなり、6月よりも若干増加しました。3件の新規案件が7月最終週にローンチされましたが、これは主に6月の発行額が少なかったことからくるペントアップ需要によるものと思われます。
新規CLOノート(AAA格)のスプレッドはEURIBOR+175~185bp前後となり、6月と比べ若干縮小しました。低格付けCLOノートのスプレッドも縮小しつつあるため、CLO裁定取引が成立する条件は改善しています。
今夏以降、CLOの条件改定案件が増えると予想されています。2023年下半期にノンコール期間が終了するため、マネジャーは2022年にEURIBOR+200bp以上の水準で発行されたCLOノート(AAA格)に対して、より低い調達コストでのリファイナンスや条件改定を行うと思われます。
8月は夏季休暇シーズンにあたり、ローンやCLOの新規発行が全体的に低調となるため、新規発行市場が活発化するのは9月以降になりそうです。
リターン:2023年7月
7月のCS WELLIのセクター別リターンでは、耐久消費財が+2.60%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いて小売の+2.02%、航空宇宙・防衛の+1.66%となりました。マイナスリターンとなったのはメディア・通信(電話)のみとなり、リターンは-0.21%でした1 。
7月のCS WELLIの格付別リターンでは、「CCC」格が+2.50%と最も高く、 「B」格が+1.25%、 「BB」格が最も低い+0.60%となりました1。
7月末におけるCS WELLI構成銘柄の平均価格は前月末比約0.51ユーロ上昇し、95.21ユーロとなりました1。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは5.39%となり、前月末比0.18%縮小しました1。
7月のクレディ・スイス欧州ハイ・イールド債券(Credit Suisse Western European High Yield)指数は+1.13%のリターンとなり、スプレッド・トゥ・ワーストは4.61%、イールド・トゥ・ワーストは7.84%となりました2。
ファンダメンタルズ
7月のユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI)は、前月比1ポイント低下して48.9となり、4月以降で約5ポイント低下しました。項目別では、新規受注が2.2ポイント低下して45.9、受注残は1.7ポイント低下して45.8、雇用は1.7ポイント低下して51.4、将来生産は1.7ポイント低下して55.3となりました。生産面では、製造業が1.2ポイント低下して42.9、サービス業が0.9ポイント低下して51.1となりました。雇用の伸びは依然として堅調であるものの鈍化が見られ、サービス業での雇用も減速しました。国別の総合PMIでは、ドイツが2.3ポイント低下して48.3、フランスが0.6ポイント低下して46.6、その他の国々は底堅く50.3となりました。フランスは製造業、サービス業とも低調である一方、ドイツとその他の国々では、ドイツの製造業新規受注指数が32.7となるなど製造業の落ち込みが見られ、サービス業との差が大きくなっています。PMIプレスリリースによると、企業からの回答で懸念材料として挙げられているのは、高インフレ、顧客の買い控え、需要低迷、在庫調整、金利上昇、賃金上昇などとなりました。
7月19日に発表された6月のユーロ圏消費者物価指数(改定値)は、5月から0.6%低下して、前年同月比で5.5%となりました。一方で6月のコア・インフレ率(改定値)は速報値の5.4%からやや上方改定され、前年同月比で5.5%の上昇となりました。7月のユーロ圏消費者物価指数(速報値)は、6月から0.2%低下して前年同月比で5.3%となりました。一方でコア・インフレ率(速報値)は、6月から0.1%上昇して前年同月比で5.6%となり、市場予想の5.4%を上回りました。
ユーロ圏GDP (速報値)は、2023年1-3月期が前期比横ばいとなった後、2023年4-6月期は0.3%のプラス成長となり、市場予想の0.2%をわずかに上回りました。インフレ圧力の緩和が需要回復に繋がったことは明らかであるものの、引き続き、金利上昇と景況感の悪化がユーロ圏全体の重石となっています。フランスとスペインは持続的にプラスの経済成長を示したものの、ドイツは停滞、イタリアは予想外のマイナス成長となりました。ユーロ圏の2023年4-6月期の経済成長率は前年同期比で0.6%増となり、2020-21年以降で最も低くなりました。
欧州中央銀行(ECB)は9回連続で利上げを行い、政策金利を0.25%引き上げて3.75%としました。ラガルドECB総裁は、9月の定例理事会では利上げあるいは休止の可能性があるとコメントしました。定例理事会の内容からは、ユーロ圏の経済成長の不確実さや、景気の減速がディスインフレにつながる可能性に留意していることが窺われました。
7月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は1.51%でした3。過去平均は年2.92%となりました3 。
脚注
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1
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2023年7月31日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。
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2
Credit Suisse Western European High Yield Indexはユーロ建て、2023年7月31日現在。
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3
Morningstar European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年7月1日から2023年7月31日までを対象に集計しています。
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