欧州バンクローン市場、月次アップデート 2023年5月
2023年4月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与し、価格変動もプラスリターンとなり、月間トータル・リターンは+1.20%となりました
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index(以下「CS WELLI」または「指数」)の2023年4月のトータル・リターンは+1.20%となり、内訳は価格変動が+0.62%、金利収入が+0.58%でした1 。
4月は、「高止まりするインフレに対する中央銀行の金融政策」、「金融セクターの混乱」、という2つの主要テーマが市場の注目を集めました。
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- インフレ:ユーロ圏の4月のインフレ率が6カ月ぶりに前月から0.1%上昇し、前年同月比+7.0%となったことを背景に、欧州中央銀行(ECB)は政策金利を3.25%まで引き上げました。一方、コアインフレ率は10カ月ぶりに前月から0.1%低下し、前年同月比+5.6%となりました。市場では、夏ころにはECBが政策金利をピークとなる3.75%まで引き上げ、その後にインフレの緩和とともに利下げに転じると予想しています。
- 金融セクターの混乱: 4月に米ファースト・リパブリック銀行が破綻し、その後、規制当局との合意により、 JPモルガンが同行を買収しました。破綻の原因は、融資の損失と預金の流出です。同行の破綻は米国金融史上2番目となる大きさでしたが、JPモルガンが買収したことにより、金融セクター全体への波及は回避されました。
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経済環境では困難な問題があるものの、最新の国際通貨基金(IMF)の予測では、ユーロ圏は景気後退を回避し、2023年に+0.8%、2024年に+1.4%のGDP成長率を維持するとしています。経済成長率がプラスで推移すると、一般的にはバンクローン市場にプラスの影響を与え、借り手の信用力が高まると考えられます。かかる環境下、4月の欧州バンクローン市場は上昇基調で推移しました。4月のCS WELLI平均価格は月間で約0.70ユーロ上昇し、94.10ユーロとなりました。年初来の同指数のトータルリターンは約4.8%となり、価格は91.56ユーロから94.10ユーロに上昇しました。
欧州バンクローン市場における4月の新規発行額は10億ユーロ程度で、新規発行は抑制された展開となりました。新規発行が限られているため、人気の高い発行体の新規発行スプレッドは縮小しました。バンクローンの恒常的な発行体として知られているTMFのローンは、当初想定されたスプレッドのEURIBOR+475bp(価格97.0-98.0のOID)に対してEURIBOR+450bp(価格98.5のOID)で値付けされました。
スポンサー主導のM&Aやバイアウト案件が限定的であることを背景に、新規発行のパイプラインは、既存の借り手による満期延長を目的とした借り換え案件が主です。しかしながら、新規発行案件は投資家に対して魅力的なリターンを提供しています。4月末現在でユーロ建てシングルB格の3カ月ローリングの平均スプレッドはEURIBOR+493.2bp、最終利回りは8.9%となり、3月末のEURIBOR+489bp、8.7%からやや上昇しました。
4月のCLOの新規発行額は12億ユーロとなり、3月の19億ユーロ、2月の38億ユーロに比べて、減少しました。CLOの発行が低水準となった背景には、CLOエクィティの裁定取引が容易でなかったことがあります。CLOノート(AAA格)のスプレッドは、2月にEURIBOR+165bp程度まで縮小してから約20~30bp拡大し、4月にはEURIBOR+185~195bpで新規発行されました。ここ数週間はバンクローン価格が幅広く上昇したことでCLOエクィティの裁定取引への重しとなり、CLOの新規発行が減少しました。
しかしながら、新規CLOの発行額が低水準であったとしても、需給面ではバンクローン価格の十分な下支えとなっています。現在の新規CLOの発行水準に対して、CLO組成に利用可能なバンクローンのプールの規模は緩やかに減少しています。4月末のCS WELLIの額面価格合計(市場規模)は3,990億ユーロとなり、ピークとなった2022年10月の4,170億ユーロから180億ユーロ程度減少しています1。
リターン:2023年4月
4月のCS WELLIのセクター別リターンでは、不動産が+1.99%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いて耐久消費財の+1.86%、ゲーム/レジャーの+1.50%となりました。今月は全てのセクターがプラスリターンとなりました1 。
4月のCS WELLIの格付別リターンでは、「CCC」格が+1.44%と最も高く、 「B」格が+1.29%、 「BB」格が最も低い+0.68%となりました1 。
4月末におけるCS WELLI構成銘柄の平均価格は前月末比約0.70ユーロ上昇し、94.10ユーロとなりました1。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは5.75%となり、前月末比0.22%縮小しました1 。
4月のクレディ・スイス欧州ハイ・イールド債券(Credit Suisse Western European High Yield)指数は+0.56%のリターンとなり、スプレッド・トゥ・ワーストは5.24%、イールド・トゥ・ワーストは8.04%となりました2。
ファンダメンタルズ
ECBは3月の定例理事会で政策金利を0.5%引き上げ、5月上旬にさらに0.25%の利上げを実施しました。足元での政策金利は3.25%となり、2008年以降のピークとなっています。市場関係者は5月以降のさらなる利上げを織り込んでおり、今年後半の政策金利は3.75%まで引き上げられ、2001年以来の過去最高水準に達すると予想しています。なお、現在の米国および英国の政策金利は、それぞれ5.25%、4.25%となっています。
ユーロ圏のインフレ率はECBの目標値である2%を依然として上回っています。4月のユーロ圏総合インフレ率は前年同月比7%となり(3月は6.9%)、6カ月ぶりに前月から上昇しました。一方で、コアインフレ率(エネルギー及び食品の価格を除く)は4月は5.6%となり(3月は5.7%)、10カ月ぶりに前月から低下しました。
4月のユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI)速報値は54.4となり、3月から0.7ポイント上昇し、予想値を上回りました。同指数の上昇を牽引したのはサービス業(56.6、1.6ポイント増)で、製造業は2月に景気拡大の目安となる50を上回った後、再び景気悪化の目安となる水準(48.5、1.8ポイント減)まで低下しました。国別ではドイツとフランスが牽引したものの、周辺国が不調であったため、PMIの伸びが一部相殺されました。英国はサービス業の改善により、コンセンサス予想を大きく上回る53.9に上昇しました。
PMIはユーロ圏(EA)経済の底堅さを示唆しているものの、業種による違いが大きくなりつつあります。例えば、製造業は引き続き低調なものの、サービス業では在庫解消が進み、消費が財からサービスへ移っていることを反映して、成長が加速しています。サービス業におけるインフレは徐々に緩和しているものの、価格上昇圧力が残っています。この状況は、4月にサービス業の価格が上昇した英国で目立っています。全体としてPMIは、エネルギー価格の低下に加えて、堅調な消費や、融資や金融の引き締めに対する経済の底堅さといった支援材料を示唆する一方で、ユーロ圏の経済成長が業種によって状況が違っていることを示しています。
PMIは2023年4-6月期に入り、ユーロ圏の経済成長のさらなる加速を示唆しています。インフレ率のデータがより重要であることからECBの金融引き締めは当面継続すると思われ、6月に0.25%(または0.5%)、7月にさらに0.25%の利上げを行う可能性があると思われます。
4月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.60%でした3。過去平均は年2.96%となりました3 。
脚注
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1
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2023年4月30日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。
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2
Credit Suisse Western European High Yield Indexはユーロ建て、2023年4月30日現在。
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3
Morningstar European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年6月1日から2023年4月30日までを対象に集計しています。
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