グローバル・ビュー

無理をしなさそうな、今年の中国

Invesco Mountain

要旨

足元では在庫積み増しによる生産回復の動き

中国での経済活動が正常化に向けて動き始めました。3月分の経済統計では、小売売上など最終需要を示す指標はまだ低迷したままでしたが、鉱工業生産は大きく底打ちしました。ロックダウン解除に向けて企業が在庫を積み増したことがこの背景にあるみられます。

10-12月期までは6%成長軌道への回帰は困難か

もっとも、中国経済が今後すぐに6%の成長軌道に戻るとは考えられません。①欧米の需要減少による輸出への悪影響、➁比較的控えめな財政刺激策、➂製造業での設備投資の伸び悩み―が成長抑制要因になると見込まれます。

今年の景気対策は金融対応が軸になる見込み

今年の全人代で公表される財政刺激策の規模が昨年をやや上回る程度にとどまると私がみているのは、中国当局がコロナウイルス終息後の外部環境を見通して、これまでよりも保守的な財政運営を志向するとみているためです。5~6月中に開催されるとみられる全人代で発表される政策が注目されます。
(図表1)中国:主要月次統計の推移
足元では在庫積み増しによる生産回復の動き
 中国での経済活動が正常化に向けて動き始めました。新型コロナウイルスの感染例が最初に報告された武漢市において4月8日に移動制限が解除されたことは経済活動の正常化を象徴する出来事であったと言えます。グローバル金融市場では、コロナウイルス問題が概ね終息した中国の景気動向に再び注目が集まりつつあります。
 先週公表された1-3月期の中国の実質GDP成長率は前年同期比で-6.8%と、コロナウイルスによって中国の経済活動が大きく停滞した状況に陥ったことが改めて明確となりました。3月の最終需要を示す経済指標をみると、小売売上が前年同月比で-15.8%、都市部固定資産投資(単月データ)が-9.4%、輸出-6.6%と、いずれも前年の水準を大きく割りました(図表1)。大幅な減少を記録したのは、外出制限による悪影響によるものです。しかし、同時に公表された3月分の鉱工業生産は、前年同期比ベースでの伸び率が1-2月の-12.3%から-1.1%へと、予想を大きく上って上昇しました。分野ごとの動きをみると、エレクトロニクス分野と金属分野で生産の伸びがより大きく加速しました(図表2)。最終需要がまだ弱かったにもかかわらず鉱工業生産が急回復したのは、在庫積み増し需要が増加したためと思われます。上海市などの都市では3月半ばから段階的にロックダウンが解除されましたが、全国的な解除を視野に入れた企業がロックダウン解除後の需要増加を見込んで在庫を積み増したと考えられます。
(図表2)中国:鉱工業生産の主要分野別伸び率
10-12月期までは6%成長軌道への回帰は困難か
 中国では、4月以降に民間消費や設備投資が大幅に回復すると見込まれます。もっとも、私は、以下の3つの理由から、四半期ベースでのGDP成長率がコロナウイルス問題発生直前の6%程度の水準を回復するには10-12月期まで待つ必要があると考えます。第1に、4-6月期には欧米をはじめとする世界の主要国では短期的に需要が大きく減少すると見込まれます。グローバル経済危機最中の2019年前半において、中国の輸出は前年同期比で21.8%減少しました。今回の世界の景気の落ち込みペースはグローバル経済危機時を上回ると考えられることから、中国の輸出の急回復は見込めません。第2に、今年は財政政策の積極化が見込まれるものの、中国は過去数年間にわたって積極財政策を継続してきたことから、昨年を大きく上回る財政効果は期待できません(中国の過去数年間の財政状況については、当レポート2019年9月11日号「中国の追加策は控えめ。中期的な財政懸念が足かせに」をご参照ください)。第3に、今後は中国での製造業の設備投資が伸び悩むとみられます。中国での新規需要が世界経済の安定化に大きく貢献したリーマン・ショック時とは異なり、コロナウイルス問題の経験を経て、多くの製造企業は、今後、サプライチェーンの在り方を見直し、中国への依存度を引き下げていくとみられます。今後の景気がグローバルに後退局面に入る見込みであることを踏まえると、中国における製造業の設備投資は減速すると考えられます。
今年の景気対策は金融対応が軸になる見込み
 中国当局は、コロナウイルス問題の発生により、例年であれば3月5日から開催する全国人民代表大会(全人代)の開催を延期しており、今年の開催は5~6月にずれ込むとみられます。2020年の財政政策を発表する場である全人代の開催が年央にずれこんでも問題がないのは、コロナウイルス問題が深刻化する過程で、中国当局が、①貸出プライムレートの引き下げ、➁法定預金準備率の引き下げ、を軸とした金融面での緩和措置を次々と打ち出してきたからに他なりません
 私は今年の全人代において公表される財政刺激策の規模は、昨年をやや上回る程度にとどまると考えています。中国当局としては、景気浮揚のための強力な手段として、不動産市場の規制緩和策を打ち出すことは不可能ではありません。この手段を使えば、財政赤字を増やさずに景気を浮揚させることが可能です。しかし、中国の過去の経験を振り返ると、不動産規制の全国的な緩和策は多くの都市で不動産価格の高騰をもたしており、今実施すれば不動産バブルのリスクが生じます。また、米国の大統領選挙後に米中関係が再び悪化する可能性が高いことを踏まえると、外資系企業による中国での投資にがさらに減速する事態も想定できます。コロマウイルス問題が終息した後も中国景気に一定の下押し圧力がかかることが想定される中、中国当局としてはマクロ経済上のリスクはなるべく避け、これまでよりも保守的な財政運営を志向するとみられます最近の中国当局は短期的な成長ではなく、中長期的な産業競争力の強化に政策の重点を移しつつあります。全人代で公表される財政刺激策は、比較的小粒とみられるものの、その制約の中でどのような競争力強化策が打ち出されるかが注目されます。
※なお、次回の「グローバル・ビュー」の発行は、5月1日を予定しています。

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