グローバル・ビュー

中国の財政出動は昨年並み。それでも財政は大幅に悪化

Invesco Mountain

要旨

今年の財政出動は昨年を若干上回る規模にとどまる

中国全人代で公表された中央・地方政府の2020年の財政赤字はGDP比で「3.6%以上」と、2019年の2.8%を上回る4年ぶりの高水準となりました。しかし、前年比の歳出増・減税額のGDP比は4.5%と、4.4%であった2019年並みにとどまります。

広義の財政赤字は大きく悪化し、GDP比で10%超に

それでも、2%程度の実質成長率の下で歳入が低迷することから、GDP比でみた広義の財政赤字は2019年の5.8%から2020年には10.8%へと大きく悪化します。

中国が無理な財政出動を避ける3つの理由

中国が無理な財政出動をしない背景には、①コロナウイルスによる経済面での悪影響が甚大であること、➁財政の持続可能性に配慮したこと、➂米中関係の中期的な悪化が今後の潜在成長率に悪影響を及ぼす見通しであること―があります。ただし、今後、就業者目標の達成度合い次第では、追加策の実施が視野に入るでしょう。
(図表1)中国:広義の財政政策による景気刺激効果
今年の財政出動は昨年を若干上回る規模ににとどまる
 5月22日から中国で開催中の全国人民代表大会(全人代)において、中国当局が公表した財政出動パッケージの規模は、昨年を若干上回る水準にとどまりました。これは、当レポートの4月22日号「無理をしなさそうな、今年の中国」で見通した通りの結果ですが、金融市場の一部では中国がかなり大規模に財政出動をするのではという見方もあったことから、中国やその他地域の主要株式市場では株価下落の材料となりました。
 公表された中国政府部門(中央政府と地方政府を含む)の2020年の財政赤字はGDP比で「3.6%以上」と、2019年の2.8%を上回る4年ぶりの高水準となりました。しかし、前年比でみた歳出増・減税額のGDP比をみることで、財政出動の規模を計算すると、2019年の財政出動規模がGDP比で4.4%であったのに対して、2020年の規模は4.5%であるとの試算結果となりました(図表1)。今年の財政出動は規模としては大きいものの、今年の中国経済がコロナウイルス問題で危機的状況に陥ったことを踏まえると、小粒であるとの評価ができそうです
 具体的にみると、2019年の財政出動パッケージは、政府歳出の増加と地方政府性基金支出の増加、減税・料金引き下げ等による企業の負担軽減額の増加という主要3項目のそれぞれがバランスよく実施されたのに対し、2020年は地方政府性基金による支出額の増加が財政出動の8割を占めています。2020年の政府歳出の増加額が抑制されるのは、コロナウイルス問題による成長率の低下や税徴収等の猶予措置に伴って歳入の伸びが抑制され、公表される赤字額を大幅に増加させることなく政府歳出を増額することが難しいためであると考えられます。中国当局は2020年の成長率目標を設定していませんが、「3.6%以上」という財政赤字のGDP比見通しと、予算上の財政赤字増加額が3.76兆元であることを合わせると、中国当局の想定する2020年の名目GDP成長率は「5.4%以下」であり、GDPデフレータの伸び率が消費者物価上昇率目標(3.5%程度)と同程度あると仮定するなら、当局の想定する今年の実質GDP成長率は2%程度と考えられます
 一方、2019年に米中摩擦が激化する際に実施された減税・料金引き下げ等の企業負担軽減策は2.36兆元という大規模なものでした。中国当局は2020年も一時的な措置を含めて2.5兆元を計上しましたが、前年比での増加額は0.14兆元(2.5兆元-2.36兆元)にとどまるため、景気刺激効果は限定的です。これらの事情により、今年の財政出動は地方政府性基金の支出増加を主体とする内容になりました。
広義の財政収支は大きく悪化
 2020年の財政出動の規模は小粒であるとはいえ、GDP比でみた広義の財政赤字は2019年の5.8%から2020年には10.8%へと大きく悪化します(図表2)。中国では、これまでは大規模な財政出動を実施しても、①高成長が継続する中、歳入が高い伸び率を維持してきたこと、②GDP成長率が高めであったこと―からGDP比でみた財政赤字はそれほど高まりませんでした。しかし、2020年については、この2つの要素が共に満たされないことで、財政が一気に悪化する事態となります。
(図表2)中国の財政政策
中国が無理な財政出動を避ける3つの理由
 中国当局が今年、従来の延長線上での成長率を目標とせず、景気刺激策の規模を昨年よりも若干上回る程度にとどめて経済成長率の低下を容認するのは、次に挙げる3つの理由を背景にしたものです。第1に、コロナウイルスによる経済面での悪影響があまりにも大きい点が挙げられます。1-3月期の経済成長率は前年同期比でマイナス6.8%に沈みました。財政政策の活用によって今年通年での成長率を過去の延長線上にまで押し上げることは現実的ではない上、無理な方法で成長率を引き上げれば経済に歪みをもたらすリスクがあったと言えます。
 第2に、財政の持続可能性の観点から例年を大きく上回る財政出動を実施することは困難でした。中国当局はリーマンショック以来、積極的な財政政策を1年も欠かさずに継続してきたことから、これまでの出動規模を大幅に上回る財政パッケージを実施する余力がなかったと言えます。振り返ってみると、リーマンショック以降の数年間では、シャドーバンキングの拡大が中国の景気を支える重要な役割を果たしました。しかし、シャドーバンキングの拡大によって金融面でのシステムリスクが看過できない水準に高まり、中国当局は金融面での緩和を抑え、財政出動を軸とした景気対策に重心を移してきました。このため、財政面では今回公表された規模を大幅に上回る財政パッケージを実施する余力は残されていませんでした。今年の景気対策としては貸出プライムレートや法定準備預金率(RRR)の引き下げなど、今後実施されるとみられる金融面での措置も重要であると考えられます
 第3に、米中関係が中期的な悪化が今後の中国の成長率に悪影響を及ぼす可能性が高まっていることも挙げられます。米中関係は昨年大きく悪化し、双方が追加関税を課し合う事態となりましたが、今年はコロナウイルス感染が米国で極めて大きな問題となったことから関係はさらに悪化しました。米国議会における中国への警戒感が強まっている現状を踏まえると、今年11月の米大統領選でトランプ候補とバイデン候補のどちらが勝利しても、来年以降の米中関係の悪化は回避できそうにありません。これは、中国にとっては、①米国やその同盟国の企業による対内直接投資の停滞と海外への工場移転、②追加関税や輸入規制の強化、国内投資の停滞に伴う輸出の伸び悩み、③米国による中国向けハイテク技術の輸出制限—等によって今後の成長率がこれまでのトレンド以上に落ち込む可能性が高いことを示唆しています。米中摩擦の激化によって今後の成長率が予期せずに悪化する局面も想定される中、中国当局としては、将来の財政出動の可能性を視野に入れ、これまで以上に財政の健全性を維持する必要を認識しているのではないでしょうか
 中国では、ロックダウン解除後も民間消費が前年比で大幅に落ち込む状況が続いており、今後の景気回復ペースが当局が想定するペースを下回るリスクがあります。このリスクが顕在化する場合、今年の新規就業者数を900万人以上にするという、中国政府が全人代で掲げた目標の達成が危うくなります。この就業者目標は各種目標の中でも重要とみられることから、今後、失業問題が深刻化して就業者の伸びが限定されるような状況が生じる場合には、追加的な対策の実施が視野に入ると思われます
(図表3)中国政府部門による債券発行額

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