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統合ポートフォリオ管理のためのマクロアプローチ

統合ポートフォリオ管理のためのマクロアプローチ

目次:

I.インベスコのシステマティックおよびファクター投資

II.マクロ・ファクターの選択

III.マクロファクターフレームワークの使用例

IV.結論

I. インベスコのシステマティックおよびファクター投資

当社のシステマティックおよびファクター投資のリサーチ・チームは、マクロ経済の観点から資産クラスとスタイル・ファクターの配分を導く、シンプルなコンセプトでありながら実務的に応用できる強力なフレームワークを生み出しました。このフレームワークは、ポートフォリオ管理において一般的に利用されている2つのコンセプトに基づいています。第一に、経済は良い時、悪い時を繰り返しながら循環する傾向があること、そして第二に、分散投資が非常に重要であること、です。リスクあたりのポートフォリオのリターンを最大化しようとする投資家は、過去の相関関係や将来の経済状況の予測に基づき、完全には相関しない関係性を持つ資産の組み合わせに投資しようとしますが、どちらのアプローチにも留意すべき点があります。相関関係には安定性がなく、特に市場の大きな転換点では大きく変化すること、またこの転換点を事前に特定することが非常に難しいこともよく知られています。同様に、将来の経済状況を予測することは困難であり、またたとえ予測できたとしても、証券市場の反応は予想外のものとなることがあります。このような理由から、どの投資が分散効果を生むかを判断する能力を向上させる手法が役に立ちます。

共通の理解を構築するためには、まずは根本的なところから再考察することが必要です。投資とは、目先の消費を捨てて将来の消費に備えることです。経済的に厳しい状況下でも安全性の高い投資が望ましいのは、投資家はそのようなときにこそ消費のための資金繰りを投資に依存するからです。いわゆる「雨の日の資金」は、雨が降ったときに必要なものです。他の条件が同じであれば、サイクルを通じてボラティリティの高い投資は、魅力的ではありません。投資家が景気サイクルのタイミングを計ろうとするかどうかに関わらず、景気サイクルの変動に対して投資がどのような反応をするかをより的確に判断することが重要です。

ファクター投資は、過去数十年にわたって以下のような考え方に沿って発展してきました。まず、ベータ値を唯一のファクターとするCAPM(Capital Asset Pricing Model)から始まりました。CAPMの証券のリターンに対する説明力を向上させるために、サイズ、バリュー、クオリティ、モメンタムなどの「スタイル」ファクターが開発され、ポートフォリオのエクスポージャーをコントロールする能力が向上しました。これらのスタイル・ファクターは妥当な根拠に基づいており、事後的な実現リターンのみならず、事前の期待リターンをどのようにしてシステマティックに結び付けられるかを説明しています。スタイル・ファクターが証券の挙動を説明し続ける限り、資産運用業界での活用は恒久的なものになるでしょう。スタイル・ファクターへの分散は、資産クラスやセクターへの分散という伝統的なアプローチとは変わりなく、リスクとリターンのペイオフを改善するためにポートフォリオを構成する一般的な方法です。実際、マクロ・ファクターの枠組みは、経済状態変数とマクロ・ファクターの感応度との間に関連性があるため、伝統的な資産クラス配分よりも、さらに直接的にアセットアロケーションを決定する方法です。
このような背景から、明白な疑問が生まれます。これらの考え方を包括的に統合することで、何が得られるのでしょうか?その答えが当社が開発したマクロファクターのフレームワークです。

詳細を説明する前に、重要な目的を明確にしておきます。まず、アセットアロケーションや分析のためのポートフォリオレベルと、資産クラス、投資スタイル、経済レジームを超えた構成要素レベルの両方で有用なフレームワークを求めています。第二に、フレームワークはシンプルで透明性が高く、取引コストや流動性の制約などの要因があっても利益が得られるものでなければなりません。最後に、広く採用されたとしても、時間の経過とともに効果が持続するような、体系的で拡張可能性があるものでなければなりません。


II. マクロ・ファクターの選択

グロースとインフレは、マクロレベルの2つの重要なファクターですが、それには理由があります。この2つの経済変数は、投資家の関心事である将来の予想キャッシュフローと、その予想キャッシュフローの割引率(リスクの大きさ)に関連しています。プラス成長(拡大)は将来の潜在的なキャッシュフローを増やし、マイナス成長(後退)は潜在的なキャッシュフローをリスクにさらします。同様に、インフレ率の上昇は、潜在的なキャッシュフローの将来価値を減少させ、他の条件が同じであれば、その現在価値を低下させます。グロースとインフレの他に、どのような変数を追加すべきか疑問に思うかもしれません。証券価格の動きをできるだけ多く捉えることが目的であれば、もっとたくさんの変数を追加する必要があるかもしれません。

しかし、冒頭で述べたの2つの基本的なコンセプト、すなわちである景気循環性と分散投資の重要性を思い出すと、次に追加すべき最も現実的なマクロ・ファクターは、グロースやインフレが両方とも、あるいはどちらかが悪いときにうまく機能するもの、すなわち、ディフェンシブ・ファクターです。図1に示すように、ディフェンシブ・ファクターは、最初の2つのマクロ・ファクターを分散させる最も効率的な方法です。ディフェンシブ・ファクターはグロースとインフレへのエクスポージャーを効果的に分散させるだけでなく、経済サイクルに直観的に結びつけることができます。グロースが低いかマイナスで、インフレが上昇しているとき、当社のディフェンシブ・ファクターは損失を和らげるヘッジとなり得ます。これら3つのマクロ・ファクターは、客観的な統計的根拠によってさらに裏付けられています。例えば、幅広い資産クラスのリターンに対して行う主成分分析では、グロース、インフレ、ディフェンシブの妥当性が確認されており、我々の分析の頑健性、安定性を裏付けています。

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このフレームワークは、包括的なポートフォリオ管理にも応用できます。世界の株式60%、債券40%の基本的な市場加重ポートフォリオを見ると、2020年までの過去15年間、グロースのマクロ・ファクターがポートフォリオのボラティリティの大半を説明していることがわかります。この結果は、振り返ってみると明らかで、この期間は、インフレが低いか低下していたこと、前例のない財政・金融介入が複数回行われたこと、経済成長が全般的に良好であったことなどが分かっています。株式の60%はMSCI ACWIインデックスで、債券の40%はBloomberg Barclays US Agg Corporate 30%とBloomberg Barclays US corporate High Yield 10%で構成されています。

リスク管理の観点からは、全体のボラティリティの90%以上がグロースのマクロ・ファクターに起因しています。今後15年間が同じような状況になるかどうかは別として、世界の他の状態を考慮することは賢明なことです。このフレームワークを使えば、成長環境やインフレ環境のすべての反復を考慮し、時価加重の60/40ポートフォリオ以外の様々な投資スタイルにもこの考察を適用することができます。地域、セクター、バリュー、クオリティ、モメンタムなどのスタイル・ファクター、さらには不動産やコモディティなどの他の資産クラスについても考えることができます。それぞれの投資の3つのマクロ・ファクターに対する感度を知ることで、異なるマクロ経済環境下でどのようなパフォーマンスを発揮するか、また、ポートフォリオに対して分散効果を生むか、生まないかを知ることができます。

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III.マクロファクターフレームワークの使用例

アセットアロケーション
アセットアロケーションの選択肢を経済状態の変数や経済サイクルの段階に直接結びつけることで、アセットアロケーションをより詳細に評価し、ポートフォリオの配分における各決定の影響を考察することができます。例えば、株式の場合、クオリティや低ボラティリティに傾けることで、よりディフェンシブな投資を行うことができます。同時に、これによりインフレショックに対するポートフォリオの感応度が高まる可能性があることも認識しています。また、クレジット債は国債とは大きく異なる性格を持っており、前者はグロースに対する大きなエクスポージャーを提供する一方で、後者は非常にディフェンシブであることを示しています。このように、伝統的な資産クラスの配分は依然として重要ですが、マクロ・ファクターのエクスポージャーに関する情報は、資産クラス間および資産クラス内の配分をさらに精緻化し、マクロ経済ショックに対してより良く備えることにも役立ちます。図2は、検証期間中の主要なマクロ・ファクターに対する資産クラス、スタイル・ファクター等の投資の選択肢の感応度をプロットしたもので、この研究論文から得られた結果を詳細に示しております。

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ポートフォリオ全体を構成する各要素には固有の要素が含まれているため、全体をより良い状態にするために様々な要素を調整することができます。このように、マクロ・ファクターごとに投資対象を分類することで、資産クラスを問わず、投資サイクルの各ステージに十分に分散されたポートフォリオを構築することができます。

戦略の選択
上記のように資産を整理することで、目的に合わなくなった投資先を変更するタイミングを知ることができます。国債について考えてみましょう。歴史的に見ても、国債はポートフォリオの中で貴重なディフェンシブな役割を果たしており、利息収入に加えて価格上昇によって株式の下落の影響を和らげてきました。国債の利回りは過去40年間のほとんどで低下しています。国債の価格は非常に高く、何兆ドルもの国債がマイナスの利回りで取引されています。このような環境下で、過去数十年にわたって国債が持っていたディフェンシブな特性を期待できるでしょうか。私たちはそうは思いません。実際、COVID-19による2020年第1四半期の市場変動時の国債の反応を、世界金融危機時の市場の動きと比較してみると、証左となります(図3参照)。利回りを求めてクレジット債の比率を増やすと、ポートフォリオのグロースへのエクスポージャーが高まり、この選択はリスクが高いものとなります。シンプルな答えはありませんが、私たちは他の選択肢を考えるための実務的な回答を持っており、その中にはかなり大きな配分の変更を必要とするものもあります。

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戦術的オーバーレイ

他の条件が同じであれば、回転率や取引コストが高くなるため、戦略的アロケーションよりも戦術的アロケーションの方が、より高い精度とコントロールが求められます。景気循環を予測して利益を得ようとする戦術的オーバーレイは、よく知られた投資手法です。このマクロの枠組みは、経済的なショックを予測するという点では新しいものではありません。しかし、戦術的アロケーションは、上述したような問題に悩まされることが非常に多いのです。戦術的アロケーションでは資産クラスやセクターといった、より少ない投資の選択肢の間を移動することが行われます。私たちは、このフレームワークから、株式と債券への分散投資が特に効率的ではないことを理解しています。超低利回りの国債は、金利が高かった頃のようなリスク軽減効果がないかもしれませんし、クレジット債は株式と同様にグロース・ファクターに感応度を持ちます。また、戦術的な動きは、各主要マクロ・ファクターのポートフォリオへの影響を総合的に考慮せず、他のマクロ・ファクターにエクスポージャーをシフトさせることで、特定のマクロ・ファクターに対するエクスポージャーを不用意に増加させる可能性があります。インフレヘッジとしてTIPSを使用するか、コモディティを使用するかの選択は、グロースに対するエクスポージャーへの影響が大きく異なります。

各マクロ・ファクターを総合的に検討することで、戦術的オーバーレイの全体的な効果が高まる可能性があり、特に効率性の向上が売買回転率の減少につながる場合には有効です。このマクロのフレームワークは、タイミングを的中させるという課題が残っているものの、既存の戦術的なプロセスに適合させることができます。このマクロ・フレームワークが結果を改善するかどうかを判断するには、ケースバイケースの分析が必要です。

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IV.結論

この強化されたマクロ経済的フレームワークの新しい要素は、革命的とまではいかないものの、明らかに進化的なものです。景気サイクルと資産クラスのパフォーマンスの関係については、すでに多くの研究がなされています。しかし、私たちは常により良いものを作ることができます。投資家の中には、アセットアロケーションの考え方については過去10~15年間で一定の達成感を感じ、現状に満足されているかもしれません。多くのポートフォリオは、資産クラスのみで構成されています。ポートフォリオの構成要素は、アセットクラスのアロケーションが既に決定された状態で選択されたり、各構成要素がポートフォリオの他の部分に影響を与える複数の方法を考慮せずに選択されています。ファクター戦略も同様に、単独の戦略として設計されることが多く、ポートフォリオレベルでの影響をより広く考慮されていません。今回ご紹介したマクロ・フレームワークは、資産クラス、投資ファクター、セクターなどを全体的なモデルにまとめることで、より詳細な分析とコントロールを可能にします。このフレームワークは、マクロ経済や資産クラスを超えて、また資産クラス内で分解するための体系的な方法を提供し、それぞれに内在するリスクをより明確にします。

債券市場がかつてないほど割高になり、一部の株式のバリュエーションが幻想の域に達している今、次のサイクルが前回とどのように異なるかを検討するのは賢明なことだと思います。私たちは、任意の資産クラスの境界を取り払い、ポートフォリオを全体的に見て、グロースとインフレの可能性に関するショックへの感度を検討するマクロのフレームワークが有効であると考えています。このような視点でポートフォリオを分析することは啓発的であり、その結果得られる実行可能なオプションは、望ましくない結果を防ぐために重要なものとなるでしょう。ショック時にこそ、ポートフォリオの多様性やサイクルの変わり目に対する備えを真に知ることができるのです。


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