グローバル・ビュー

当面のグローバル金融市場の焦点

Invesco Global View
要旨
4つの懸念材料が市場を揺るがす

グローバル金融市場では、5月3~4日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)の後も動揺が続いています。S&P500種指数は、5月11日に年初来の安値を更新し、年初来の下落率は17.4%に達しました。金融市場のボラティリティーが高止まっているのは、足元のグローバル金融市場において4つの懸念材料、すなわち(1)FRB金融政策のさらなるタカ派化への懸念、(2)米長期金利上昇への懸念、(3)中国の景気減速への懸念、(4)ロシア・ウクライナ戦争への懸念―を背景とする強い不透明感が意識されているためです。

各懸念材料の今後についてのメインシナリオ 

金融市場がこれらの材料を懸念する状況は年央くらいまでのタイムスパンでは変わりにくいと見込まれます。しかし、私は、今年後半中には、これら4つの材料への懸念が徐々に和らぐ可能性が大きいと考えています(図表2をご参照ください)。

見逃せない、グローバル市場のサポート要因

今後のグローバル市場で期待できるのは、こうした懸念が和らぐことにとどまりません。①オミクロン感染者の減少により、グローバル経済が経済再開に伴う恩恵を享受できること、➁経済再開や人手不足問題によって設備投資が加速すること、➂DX(デジタル・トランスフォーメーション)やGX(脱炭素化に向けてのグリーン・トランスフォーメーション)、国防費の増額といった構造的な要因によって投資の加速が見込まれること―にも注目したいと思います。

 

4つの懸念材料が市場を揺るがす

 グローバル金融市場では、5月3~4日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)の後も動揺が続いています。米国株式市場の主要株価指数であるS&P500種指数は、5月11日に年初来の安値を更新し、年初来の下落率は17.4%に達しました。FOMCでの決定内容やパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の記者会見がおおむね事前の市場予想に沿った内容であったにもかかわらず金融市場のボラティリティーが高止まっているのは、足元のグローバル金融市場において4つの懸念材料、すなわち(1)FRB金融政策のさらなるタカ派化への懸念、(2)米長期金利上昇への懸念、(3)中国の景気減速への懸念、(4)ロシア・ウクライナ戦争への懸念―を背景とする強い不透明感が意識されているためです(図表1)。以下では、これら4つの懸念材料のそれぞれについて具体的に考察するとともに、今後の株式・債券市場の見通しについて改めて考えてみたいと思います。

(図表1)足元のグローバル金融市場における4大懸念材料


 足元のグローバル市場における懸念材料として最も重要なのが、FRB金融政策のさらなるタカ派化への懸念です。米労働市場がこれまでの大方の想定を大きく上回ってタイト化し、4月の米消費者物価上昇率が前年同月比で8.3%へと上振れてきました。インフレ率が1980年代前半以降で最も高い水準を記録する中、FRBにとってインフレの抑制が最大の課題として浮上しています。市場がリスクとして強く意識しているのが、①中長期の期待インフレ率上昇、➁賃金物価スパイラルの発生、➂その他の要因―からインフレ上振れの長期化が視野に入り、FRBが引き締め策を現在市場で想定されている以上に強化するシナリオです。想定以上の金融引き締め措置が実施されれば、米国景気が大幅に悪化、場合によっては景気後退局面入りし、企業業績の悪化が避けられなくなります。こうした状況下では、景気敏感株などバリュー株が調整する可能性が高まります。昨年秋からの株価調整局面ではグロース株が大きく下落したのに対し、バリュー株は上下への変動を伴いながらもほぼ横ばい圏で推移してきましたが、これは経済のコロナ禍からの再開期待による株価へのプラス効果が、金融引き締めによる株価へのマイナス効果とほぼ打ち消しあう形になってきた面が強いと考えられます。しかし、引き締め強化による景気の大幅な悪化となると話は別であり、現在の市場ではFRBのさらなるタカ派化への懸念が暗い影を投げかけています

 第2の懸念材料が、米長期金利上昇への懸念です。米10年国債金利は昨秋以降ほぼ一本調子で上昇してきました。私は、長期金利上昇の背景には、FRBによる今後の政策金利引き上げが織り込まれた面もあるものの、FRBによるQT(量的引き締め)政策への織り込みが長期金利上昇をけん引したと考えています。長期金利上昇に伴うリスクとして意識されてきたのが、長期金利の利払い負担の上昇で企業業績が悪化するとともに、将来の企業収益を評価する際の想定割引率の上昇によってテック分野等のグロース株に悪影響が及ぶ点であり、実際にグロース株は過去数カ月間に大きな調整を経験することになりました

 第3の懸念材料が中国の景気減速への懸念です。上海ではロックダウンが継続的に実施されています。企業活動は徐々に正常化してきたものの、上海以外の大都市でのコロナ感染拡大とロックダウンの広がりへの懸念はなお強く、サービスを中心とする消費やサプライ・チェーンへの悪影響が懸念されています。金融市場では、中国におけるロックダウンの長期化が生産活動や企業マインドの悪化を通じて世界景気に悪影響を及ぼし、多国籍企業による中国関連の業績が低迷するリスクが強く意識されてきました。こうした中国関連リスクが強く意識されることで、グローバル株式市場では、景気敏感株などバリュー株を中心に悪影響が及ぶとともに、中国へのエクスポージャーが大きい企業の株価が調整する事態となっています

 第4の懸念材料が、ロシア・ウクライナ戦争への懸念です。2月のロシアによるウクライナ侵攻直後には市場が大きく動揺しましたが、原油価格の動きにも徐々に落ち着きがみられるようになってきました。グローバル金融市場では、今後のリスクとして、①エネルギーを含む商品市況上昇によるコスト高がもたらす民間消費の低迷と企業業績の悪化、➁ロシアからの天然ガス輸出停止による欧州経済への深刻な打撃—が引き続き強く意識されており、予断を許さない状況です。

 

各懸念材料の今後についてのメインシナリオ

 市場がこれらの材料を懸念する状況は年央くらいまでのタイムスパンでは変わりにくいと見込まれます。特に、米国の労働市場が極めてタイトな状況であることを踏まえると、米国のインフレ指標がすぐに落ち着くとは思えず、FRBの金融政策がさらにタカ派化する懸念は金融市場で続くと見込まれます。もっとも、4つの懸念材料のうち、米長期金利上昇への懸念はやや和らぐ公算が大きいと考えています。

 5月3~4日のFOMCにおいて今後実施されるQT政策の詳細が公表されましたが、過去のFRBスタッフによる推計を基にインベスコが試算してみると、公表されたQT政策が今後3年間継続される場合の米10年国債金利(実質金利)の押し上げ効果は83bp(ベーシスポイント)程度と算出されました。年初来の米10年実質金利の上昇幅は127bp(5月11日時点での計数)ですので、金融市場はQT政策実施による米長期金利へのインパクトは既にほぼ織り込まれたと考えられます。実質金利がQTの織り込みをかなり上回って上昇し続けている背景としては、債券価格が下落(債券利回りが上昇)し続ける中、投資家が債券への投資スタンスを消極化させている可能性が指摘できます。「パウエル議長が5月4日の記者会見において75bpの利上げに消極姿勢を示して、景気優先の考え方を示したことで実質金利が上がった」という見方ができるかもしれませんが、それですとブレイクイーブン・インフレ率(BEI:債券市場から算出される期待インフレ率)も上昇していたはずです。しかし実際にはBEIにはほとんど変化がありませんでしたので、その見方は妥当ではないように思われます。投資家の債券投資への消極姿勢が実質金利の過度の上振れの背景であるとすれば、利回りの上昇がストップする期間がある程度続けば、高金利にメリットを感じる債券投資が増加し、実質金利はやや低下する可能性があります

 一方、私は、今年後半中には、これら4つの材料への懸念が徐々に和らぐ可能性が大きいと考えています(図表2をご参照ください)。米国では、今年後半のどこかでインフレ率にピークアウト感が出てくると見込まれますが、実際にインフレ指標がピークアウトした証拠が示されれば、金融市場におけるFRBのさらなるタカ派化への懸念はやや和らぐとみられます。これは、株式市場全般における不透明感を弱める役割を果たすと見込まれます。また、インフレ率のピークアウトは市場における長期のインフレ期待を低下させることで、名目での長期金利の低下にもつながると見込まれます。10年の期待インフレ率(BEI)は足元で2.73%まで低下してきました(5月11日現在)が、これは歴史的には高い水準であることから、若干低下する公算が大きいと考えられます。長期金利の動きが落ち着いてくれば、グロース株にとっては追い風になると考えられます。中国の景気減速への懸念についても、足元で中国当局が実行している財政・金融両面からの景気支援策の効果が年後半には顕在化することで、市場での景気悪化懸念が和らぐと予想されます(この点については、当レポートの3月24日号「中国:1-2月の経済指標の評価と今後の展望」をご参照ください)。他方、ロシア・ウクライナ戦争の先行きについては予想が極めて困難ですが、ロシアによる西側諸国への天然ガス供給がストップしないという前提を置くなら、エネルギー価格は高止まるものの、そのさらなる上昇は回避できるという見方をメインシナリオとして考えて良いように思われます。

(図表2)金融市場における4大懸念材料についての今後のメインシナリオ

見逃せない、グローバル市場のサポート要因

 今後のグローバル市場で期待できるのは、これまでに指摘した懸念が和らぐことにとどまりません。私は、①オミクロン感染者の減少により、グローバル経済が経済再開に伴う恩恵を享受できること、➁経済再開や人手不足問題によって設備投資が加速すること、➂DX(デジタル・トランスフォーメーション)やGX(脱炭素化に向けてのグリーン・トランスフォーメーション)、国防費の増額といった構造的な要因によって投資の加速が見込まれること―もグローバル金融市場にポジティブなインパクトをもたらす公算が大きいと考えています(図表3)。

(図表3)金融市場において今後見込まれる、その他のポジティブ材料

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MC2022-060