日米欧の金融政策会合と今後の注目ポイント
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要旨
FOMC会合とECB理事会は景気悪化懸念を強める内容に
先週の欧米における金融政策会合で明らかになったのは、欧米の金融当局が少なくとも今年末までは高水準の政策金利を維持する見通しであることでした。これまでの累積的な利上げによる景気への悪影響がまだ十分には顕在化していないことや貸出鈍化の影響が顕在化する公算が大きいことを踏まえると、今後の欧米景気には、金融引き締めによるこれまで以上の下押し圧力が及ぶでしょう。
日銀は想定通り現状維持。年内の政策変更は考えにくい
4月27~28日に開催された日銀の金融政策決定会合では、当レポートの事前想定通り、イールドカーブコントロール(YCC)政策は修正されず、長短政策金利も据え置かれました。欧米景気についての不透明感が高まっている中、日銀は年内は政策変更に慎重なスタンスを崩さないと見込まれます。
日米欧の金融政策会合を受けての今後の注目点ポイント
今後のグローバル市場では、①欧米の景気見通しの悪化によるグローバル金融市場への影響、➁インフレの行方、➂米国連邦政府の債務上限を巡る動き―が特に注目されます。
FOMC会合とECB理事会は景気悪化懸念を強める内容に
5月2~3日のFOMC(米連邦公開市場委員会)会合では、25bp(=0.25%)の政策金利の引き上げが決定されるとともに、事実上の、条件付きでの今後の利上げ停止が打ち出されました。パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長は記者会見で中小銀行による貸出条件の厳格化とそれが景気に及ぼす悪影響について何度も言及しました。金融面での不確実性が高いことをふまえると、今後インフレ率の低下が想定よりも少々遅かったとしても、FRBはこれ以上の利上げに対して慎重にならざるを得ません。私は今回の5月会合での利上げが今次金融引き締めサイクルにおける最後の利上げとなった可能性が高いと判断しています。
それよりも重要性が高かったのが、パウエル議長が、年内の利下げが考えにくいことを表明した点です。FRBは今後、インフレがゆっくりと低下するシナリオを想定していますが、パウエル議長は、インフレがFRBのシナリオ通りの動きとなる場合には、年内に利下げを実施できないという考えを表明しました。金融機関による与信条件の厳格化が景気やインフレにどの程度の下方圧力をもたらすかにもよりますが、4月の雇用統計で平均賃金の前月比での伸び率が加速し、9カ月ぶりに0.5%を記録したことを踏まえると、インフレ率の低下ペースは緩慢なものになると予想されます。金融機関の与信条件が大きく厳格化し、明確な貸し渋りの状況となれば年内の利下げはありえますが、そうでない限りはFRBが年内に利下げを実施する可能性は低いでしょう。
一方、5月4日のECB(欧州中央銀行)理事会では25bp(=0.25%)の利上げが決定されましたが、ラガルド総裁は、今後も利上げを継続していくことを強く滲(にじ)ませる発言をしました。ユーロ圏は金融引き締めに取り組んだ時期が米国よりも遅かったこともあり、まだインフレの勢いが強いままです。ECBの当局者が注視するコアCPI上昇率(食品およびエネルギーを除くCPI上昇率)は、ピークであった3月の5.7%(前年同月比ベース、以下同様)から4月には5.6%にやや低下したものの、ECBが目標とする2%の水準からはまだ遠い状況です。ユーロ圏の失業率が3月に6.5%と、ユーロ圏設立以来の低水準となり、労働市場が非常にタイトであることを考えると、6月、7月の理事会において、それぞれ25bpずつの連続利上げを実施する公算が大きいと考えられます。ECBによる利下げは、コア消費者物価上昇率が3%に近づいた段階になるとみられますが、その時期はおそらく2024年の春ごろになると予想されます。
このように、先週の欧米の金融政策会合で明らかになったのは、欧米の金融当局が少なくとも今年末までは高水準の政策金利を維持する見通しであることでした。これまでの累積的な利上げによる景気への悪影響がまだ十分には顕在化していないことや貸出鈍化の影響が今後顕在化する公算が大きいことを踏まえると、今後の欧米景気には、金融引き締めによるこれまで以上の下押し圧力が及び、今年後半に成長率がゼロ%近辺まで低下するのは避けにくい情勢です。
日銀は想定通り現状維持。年内の政策変更は考えにくい
FOMC会合やECB理事会に先立つ4月27~28日に開催された日銀の金融政策決定会合では、当レポートの事前想定通り、イールドカーブコントロール(YCC)政策には修正はなく、長短政策金利も据え置かれました(「YCCの早期修正期待が残る理由」⦅4月13日号⦆)。ポイントは、展望レポートで示された日銀版コアコアCPI(生鮮食品およびエネルギーを除くCPI)の2024年度、2025年度における上昇率見通し(政策委員の中央値)が、それぞれ、1.7%、1.8%とされた点でした。日銀が見通す期間中には、インフレ率が2%には達しないという見通しですので、欧米景気の不透明感が強い中で、日銀には、インフレ見通しを低下させることになる利上げやYCC政策の修正を実施する余地はありませんでした。政策金利の引き上げは想定していない、とする金利についての従来のフォワード・ガイダンスが声明文から削除されたことは、コロナ禍による日本経済への悪影響が大きく和らいだ現状において、今後の政策の柔軟性を確保することを念頭に置いたものでした。
一方、今回の声明文では金融政策運営について、1年から1年半程度の時間をかけて多角的にレビューを行う方針が示されたことが注目されました。過去に日銀が「検証」を実施した際には金融政策の変更が実施されましたが、今回はレビュー期間が長いこともあり、具体的な政策変更は想定されていないようです。
私は、今回のレビューの実施が、植田新総裁の就任前後の国会答弁や記者会見において、2%インフレ目標が未だに達成されていない点について数多くの質問が投げかけられたことと関連していると思います。植田総裁はこれについて、外的なショックによる想定外の影響が出たものという趣旨の発言を繰り返してきましたが、今後、しっかりとレビューをすることで、「これまでの日銀の政策が適切ではなかったので2%のインフレが達成できなかった」わけではないことを明確にしたいのではないかと想像されます。私自身は、2%インフレが達成できなかった背景の一つが、欧米に比べて日本の労働市場の流動性が低い点にあり、これが、「労働市場が非常にタイトにもかかわらず賃金上昇が抑制される状況」をもたらしていると考えています。ただ、労働市場の流動性は法規制によって高めることができる可能性があります。日銀のレビューには、海外との比較をしたうえで、政府による政策の在り方にも一石を投じ、日本の政策議論を活性化させるような内容を期待したいと思います。
今後の日銀の政策運営については、年内にはYCC政策の修正や長短金利の利上げが実施されない、というこれまでの見方を維持したいと思います(詳しくは、「YCCの早期修正期待が残る理由」⦅4月13日号⦆をご参照ください)。先週のFOMC会合やECB理事会の開催を経て、今後の欧米景気が悪化に向かうという方向性が改めてクローズアップされることになりました。米国における貸し渋りリスクがこれまで以上に懸念される状況になってきた点も、日銀の政策変更を慎重化させることになると見込まれます。
日米欧の金融政策会合を受けての今後の注目点ポイント
日米ユーロ圏での金融政策決定会合を受けて、今後のグローバル市場では以下の3つのポイントが注目されます。第1が、欧米の景気見通しの悪化によるグローバル金融市場への影響です。FRBやECBがかなり高い政策金利を少なくとも年内は継続する可能性が高まる中、グローバル金融市場では、景気や企業業績の悪化に対する懸念が強まっています。中国当局によるゼロコロナ政策の撤廃によってサプライチェーンの問題が改善したことは製造業にとって朗報となりましたが、財分野での在庫調整・生産調整の動きは4-6月期中までは尾を引くと考えられますので、製造業企業の業況には当面、不透明感が残るとみられます。ただし、欧米が景気悪化に向かうというシナリオは既に多くの投資家が想定しており、欧米の経済成長率がゼロ成長近辺にまで落ち込むことも想定内と考えられます。それでも、これまでの累積的な金融引き締め措置や金融不安による貸し渋りの悪影響が想定以上に強く顕在化し、その結果として欧米経済が深めの景気後退に陥るリスクが意識されるような状況になれば、グローバルに株価が下落するリスクが高まります(その場合にはバリュー株はグロース株より厳しく評価される可能性が高くなります。景気の想定以上の悪化は長期金利の低下につながり、グロース株の下落はある程度は抑制されるとみられます)。また、米国の地方銀行がさらに破綻するリスクが残っていることにも注意が必要です。
第2がインフレの行方です。FRBが利上げを本当に打ち止めにするかどうかは、インフレ次第です。前述したように、FRBはインフレ率が今後ゆっくりと低下するシナリオを描いています。4月分の米コアCPI(食品・エネルギーを除くCPI)上昇率は前月比で0.4%とインフレ圧力の粘着性を印象付けるものであったものの、これは市場予想通りでしたし、家賃・帰属家賃以外のサービス価格が落ち着いていた点は今後のゆっくりとしたインフレ低下を示唆しています。ただし、米労働市場が直近でもまだタイトであったことを踏まえると、インフレ率が再び上振れる可能性がないわけではありません。インフレが上振れる場合には、FRBによる利上げ再開の可能性が意識され、景気への懸念がいっそう強まるでしょう。
第3は、米国政府の債務上限を巡る動きです。イエレン財務長官は米国の政府債務がデフォルトすることを防ぐには、6月1日までに債務上限を引き上げる必要があるとの書簡を議会に送付しました。米国下院では昨年の選挙後に共和党が多数派を奪還しましたが、マッカーシー議長は共和党のトランプ派の議員をまとめきれていない模様です。共和党は連邦支出の大幅な削減を求めていますが、バイデン政権がこれを認めると大統領選・議会選挙が実施される2024年の景気に下押し圧力をもたらしてしまうこともあって、民主党サイドは大幅な支出削減には乗り気ではありません。2024年の大統領選挙に向けての動きが活発化する中、与党民主党と野党共和党との対立は先鋭化しやすくなっており、米国国債がデフォルトするリスクが全くないわけではありません。グローバル金融市場で米国国債のデフォルトの可能性が強く意識される場合には、リスク・オフの動きから株価が一時的に大幅に下落するとともに、ドル安や円高につながるリスクが高まります。今後、グローバル金融市場では、今後数週間、この問題についての懸念が強まっていくと思われます。
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MC2023-067