グローバル・ビュー

米国:消費者信用が足元で減少に転じた

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要旨
金融市場では高金利政策の長期化への懸念が続く

FRB(米連邦準備理事会)による高金利政策の長期化への懸念が、なお、グローバル金融市場における資産価格に下押し圧力をもたらしています。今後も、実際に米国景気が悪化し、インフレの落ち着きが視野に入るまでの間は同様の要因が株式・債券市場のボラティリティーを高める展開が見込まれます。

消費者信用が足元で減少に転じた

コロナ禍の一時期を除いて長期的な増加傾向を維持してきた家計による消費者信用を通じた借入れが2023年8月に減少に転じました。今後は政策金利の引き上げとそれ伴う金融機関の貸出態度の厳格化によって消費者信用にはさらに減少圧力がかかり、米国経済に減速圧力をもたらすと見込まれます。

超過貯蓄の枯渇時期は後ずれする可能性

消費者信用の減少とあわせて家計の消費性向の低下をもたらすとみられるのが、コロナ禍での家計の超過貯蓄の枯渇です。もっとも、その時期についてはこれまでの想定よりもやや後ずれする可能性が高いと考えられます。今後のグローバル金融市場をみるうえでは、米国の消費動向とともに、米国の消費者信用や家計の超過貯蓄の動きにも注意したいと思います。

 

金融市場では高金利政策の長期化への懸念が続く

 FRB(米連邦準備理事会)による高金利政策の長期化への懸念が、なお、グローバル金融市場における資産価格に下押し圧力をもたらしています。金融先物市場が織り込む2024年末のFFレートは、直近(10月24日)時点で4.66%と、FOMC参加者による想定である5.1%(中央値ベース)を下回っています。金融市場では、今年後半以降、景気指標が上振れればFRBのタカ派化が織り込まれ、米長期金利の上昇と株価の下落を呼ぶというパターンが繰り返されてきましたが、この傾向は9月以降、さらに強まっています。10月に入ってからは、好調な景気指標の公表が長期金利高・株安要因になる一方、イスラエル・ガザをめぐる情勢の緊迫化が長期金利安・株安要因、ここ数日の主要米企業の業績の改善が株高要因になる形で相場が動き、これらの要因が織り込まれる形で全体としては長期金利高・株安の傾向が続いてきました。今後も、実際に米国景気が悪化し、インフレの落ち着きが視野に入るまでの間は同様の要因が株式・債券市場のボラティリティーを高める展開が見込まれます
 

消費者信用は足元で減少に転じた

 上記の懸念をもたらしているのが、米国経済が多くのエコノミストの予想を覆して好調を維持していることである点は当レポートの9月14日号(「米国景気の強さの背景を考える」)および10月5日号(「米国景気の強さの背景を考える(2)」)で議論した通りです。これらのレポートでは、米国景気を支えてきた諸要因によるサポート力が今後近いうちに低下する見方をご紹介しました。一方で、金融引き締めが米国の家計にもたらす向かい風が強まってきたことが直近の統計で明らかになってきました具体的には、コロナ禍の一時期を除いて長期的な増加傾向を維持してきた家計による消費者信用を通じた借入れが2023年8月に減少に転じました(図表1)。消費者信用(住宅ローンは含まれません)の残高は2023年8月末時点で約5兆ドルと、2022年の民間消費額(17.5兆ドル)の3割弱に相当します。消費者信用残高全体の約4分の1を占めるリボルビングローンは、クレジットカードで借り入れる際の代表的なローン形態ですが、依然として増加基調が続いています。これに対して、全体の約4分の3を占めるリボルビングローン以外のローン(自動車ローンなどが含まれます)は2022年後半から伸びが大きく鈍化し、直近で減少に転じました。FRBによる利上げを受けてローン金利が大きく上昇したこと(図表2をご参照ください)に加え、金融機関が貸出態度を厳格化させたことが、消費者信用の減少をもたらしたと考えられます。

(図表1)米国:消費者信用残高の推移
(図表2)米国:消費者向けローン金利の推移

 2022年においては、消費者信用の増加が、米国家計の消費性向のコロナ前比での大幅な上昇を支えました。しかし、2023年に入ると、消費者信用の減速が、家計の消費性向を押し下げることになりました(図表3)。今後は政策金利の引き上げとそれ伴う金融機関の貸出態度の厳格化によって消費者信用にはさらに減少圧力がかかり、米国経済に減速圧力をもたらすと見込まれます

 この減少圧力の悪影響を比較的強く受けるとみられるのが低所得層です。米国の失業率は9月に3.8%という低水準にあり、米国の労働市場は所得階層にかかわらず仕事に就きやすい環境にあると言えますが、インフレやローン金利の上昇によって低所得層の消費者クレジットの返済負担は増しており、それが、リボルビングローンの足元での増加につながっている面があるとみられます。また、ミシガン大学の消費者信頼感指数を所得階層別にみると、過去1年間の消費者マインドは所得上位3分の1の層では大きく改善したのに対し、所得下位3分の1の層ではほとんど改善がみられませんでした(図表4)。

(図表3)米国:消費性向の推移
(図表4)米国:ミシガン大学消費者信頼感指数の推移

超過貯蓄の枯渇時期は後ずれする可能性

 以上のように、消費者信用の減少が、今後、家計の消費性向の低下につながるとみられます。これとあわせて消費性向の低下をもたらすとみられるのが、コロナ禍での家計の超過貯蓄の枯渇です。もっとも、その時期についてはこれまでの想定よりもややあとずれする可能性が高いと考えられます。金融市場では、超過貯蓄は枯渇寸前であると言う見方が強かったのですが、9月28日に米商務省がGDP統計を大きく改訂したことで(基準年も2012年から2017年に変更されました)、家計貯蓄や消費についてのデータも合わせて遡及改訂されました。新しいデータに依拠して、家計の超過貯蓄の年間民間消費額に対する比率を算出すると、2023年9月時点で5.7%でした。これを踏まえると、超過貯蓄はまだしばらくの間、相対的な消費性向の高さをサポートする可能性があります(図表5)。この点は、家計の可処分所得自体が、実質総賃金のしっかりした伸びで堅調に増加しつづけるリスクと合わせて、米国景気が想定外に強さを維持し、その結果として、インフレ圧力とFRBのタカ派的な政策をもたらすリスクを高めると言えるでしょう。今後のグローバル金融市場をみるうえでは、米国の消費動向とともに、米国の消費者信用や家計の超過貯蓄の動きにも注意したいと思います。

(図表5)米国家計の消費性向(消費/可処分所得)と超過貯蓄の推移

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