グローバル・ビュー

米国大統領・議会選挙の市場シナリオを考察

Invesco Global View

グローバル・ビュー動画解説

約2分でレポートのポイントを解説

要旨
米国大統領選挙は僅差の戦い

11月5日に実施が予定される米国大統領選挙・議会選挙まであと半年強となりました。大統領選挙戦については、各種の全国レベルの世論調査では、バイデン氏とトランプ氏がほぼ拮抗した状況にありますが、いわゆる「接戦8州」のうち、バイデン氏が優勢なのはペンシルバニア州とミネソタ州の2州だけであり、現時点ではトランプ候補が優勢であると評価できます。

上院では共和党、下院では大統領当選候補の政党が多数党となる公算

下院選挙については、過去多くの選挙戦で大統領選で勝利する党が下院選でも過半数を獲得することが多く、今回の選挙でもおそらく同様の結果になるとみられます。一方で、上院選挙は今回の改選議席数が多い民主党には厳しい選挙戦となっており、選挙後は民主党が多数党ではなくなる可能性が高い情勢となっています。

トランプ氏勝利の場合:株高、長期金利高の公算

トランプ氏が大統領選挙で勝利する場合には、共和党が上下両院で多数党になる公算が大きく、大型減税や国防費の増額が見込まれることで、株価にはプラスになると見込まれます(図表3)。一方、財政赤字の拡大や輸入関税率の引き上げが意識され、長期金利には上昇圧力がもたらされると考えられます。

バイデン氏勝利の場合:株価への影響は小さい。長期金利には低下圧力

バイデン氏が勝利する場合、上院で共和党が多数党の地位を奪還することで「ねじれ政治」が続くとみられます。財政支出の大幅な増加は考えにくいことから、長期金利にはある程度の低下圧力がもたらされるでしょう。株価への影響は小さいと見込まれます。

 

米大統領選挙は僅差の戦い

 11月5日に実施が予定される米国大統領選挙・議会選挙まであと半年強となりました。1月下旬から開始された共和党・民主党の両党による大統領候補選定のための予備選挙・党員集会の結果、本選挙はバイデン現大統領とトランプ前大統領が争う構図となりました。足元でのグローバル金融市場では、米国のインフレの高止まりとそれに伴うFRB(米連邦準備理事会)のタカ派化の可能性や中東での紛争拡大による地政学的リスクの高まりに関心が集まっていますが、ぞれぞれの陣営が副大統領候補を正式に選定し、選挙後の政策を掲げるとみられる夏以降は、選挙の行方が金融市場における大きなテーマに浮上すると予想されます。以下では、現時点での情勢を分析するとともに、選挙結果についての主要シナリオごとに金融市場へのインパクトを考察したいと思います。

 まず、大統領選挙の行方については、各種の全国レベルの世論調査では、バイデン氏とトランプ氏がほぼ拮抗した状況にあります。RCP(リアル・クリア・ポリテックス)が3月27日~4月18日にかけて実施された各種世論調査を集計したところ、トランプ氏に投票するとした人の割合が、44.5%と、バイデン氏に投票したいと答えた人の割合である44.2%を若干上回りました。ただ、これは有意な差とは言えず、接戦であると言えるでしょう。

 一方、実際の大統領選挙は、州(およびワシントンDC)ごとに決められた選挙人を何人獲得できるかで勝敗を決します。全体の選挙人数は538人であり、過半数の270人を獲得した大統領・副大統領候補のペアが選挙に勝利します。メーン州とネブラスカ州を除いて、各州において最も多くの得票をした候補が当該州の全ての選挙人を獲得する仕組みですので、州ごとの動きが重要になります。「カリフォルニア州は民主党」、「アラマバ州は共和党」、といったように勝敗の傾向がはっきりしている州が多いことから、実際の選挙においては、どちらの政党の候補が勝利しておかしくない、いわゆる「接戦州」での得票の行方が選挙結果全体を左右します。今秋の大統領選挙における接戦州は、ペンシルベニア州(選挙人数は19人、以下同様)、ノースカロライナ州(16人)、ジョージア州(16人)、ミシガン州(15人)、アリゾナ州(11人)、ミネソタ州(10人)、ウイスコンシン州(10人)、ネバダ州(6人)の8州です。これらの8州以外で両候補が比較的容易に獲得できるとみられる選挙人数は拮抗していますので、この8州における選挙結果が大統領選挙全体の結果を大きく左右すると見込まれます。直近の世論調査では、接戦州であるこれら8州(大統領選挙人は合わせて103人)のうち、バイデン氏が優勢なのはペンシルバニア州とミネソタ州の2州だけであることから、現時点ではトランプ候補が優勢であると評価できます

上院では共和党、下院では大統領当選候補の政党が多数党となる公算

 さて、大統領選挙後の政策の方向性を考える上では、上院・下院の議員選挙の行方が重要になります。各種世論調査によると、現在は共和党が僅差で多数派政党の座にある下院については、選挙においてどちらの政党が過半数の議席を獲得するかについては見通せない状況です。しかし、過去多くの選挙戦においては、大統領選で勝利する党が下院選でも過半数を獲得することが多く、11月の選挙でもおそらく同様の結果になるとみられます。これに対して、上院(議員定数100名)については、今回の選挙での改選議席(33議席)に議員の逝去に伴う補欠選挙(1議席)を合わせた34議席のうち、民主党の議席が23議席を占め、共和党が占める11議席を大きく上回っています。このため、現有議席ベースでは51議席対49議席という僅かな差で多数党である民主党には厳しい選挙戦となっており、選挙分析で定評のあるクック・ポリティカル・レポートの4月初め時点での調査では、選挙後は民主党が多数党ではなくなる可能性が高い情勢となっています(図表1)。

(図表1)米国上院議員選挙の情勢

トランプ氏勝利の場合:株高、長期金利高の公算

 ここで、トランプ氏が勝利する場合の政策やその金融市場にとっての意味合いについて考えてみたいと思います。先に触れたように、トランプ氏が大統領選挙で勝利する場合には、共和党が上下両院で多数党になる公算が大きいことから、トランプ大統領が掲げる政策が実施される可能性が高いと見込まれます

 現時点では、トランプ氏が掲げる政策の全体像が明らかになっているわけではありません。しかし、トランプ氏のこれまでの発言やトランプ前政権下の政府高官を中心に設立されたアメリカファースト政策研究所が掲げる経済政策をみると、財政政策面では拡張策、対外政策面では対中強硬策と輸入関税引き上げ策、環境政策面では化石燃料重視策が志向されています(図表2)。これらの政策から、トランプ氏の大統領選挙での勝利が金融市場に及ぼすインパクトを考えると、大型減税や国防費の増額が見込まれることが景気に対する前向きの見方を強めることで、株価にはプラスになると見込まれます(図表3)。一方、①財政赤字が拡大すること、➁中国その他からの輸入関税率を引き上げること、➂2026年5月に任期切れのパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の後任にハト派的な議長を選ぶ公算が大きいこと―でインフレ的な政策の実施が強く意識され、トランプ氏の選挙での勝利は長期金利に上昇圧力をもたらす可能性が高いと考えられます

(図表2)「アメリカファースト政策研究所(AFPI)」が提案する主要な経済政策
(図表3)米大統領選挙・議会選挙結果のシナリオ分析

バイデン氏勝利の場合:株価への影響は小さい。長期金利には低下圧力

 他方、バイデン氏が大統領選挙で勝利する場合、下院では民主党が過半数の議席を奪還する可能性が高いものの、上院については上述のように共和党が多数党の地位を奪還する公算が大きいとみられます。これは、「ねじれ政治」が継続することを意味しており、バイデン大統領が志向する財政支出の拡大策の実施は難しくなります。結果的に、トランプ氏再選シナリオに比べて財政赤字が抑制される公算が大きいと考えられます。このため、バイデン大統領の勝利は、共和党が上院での多数派の地位を奪還する状況下で、長期金利にある程度の低下圧力をもたらすでしょう。株価に対する影響は、選挙という大きなイベントが通過することによる安心感や長期金利の低下が株価上昇圧力をもたらす一方で、トランプ氏が再選されないことに伴う株価押し下げ圧力をもたらすとみられることから、これらの効果が相殺する形で株価への影響は小さいと見込まれます

 選挙戦はあと半年以上続き、その間に副大統領候補の選定や政策綱領の発表、正副大統領候補による討論会、トランプ氏が刑事被告人となっている裁判―などが行われる予定であり、これらの展開が選挙の行方を左右していくと見込まれます。

 

ご利用上のご注意

当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。

MC2024-057