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Economic Transition Monitor:ネットゼロへの道筋 第1号 2021年12月

この度、ネットゼロへの道筋を定期的にモニタリングするためのレポート「Economic Transition Monitor」第1号をリリースしました。当レポートではCO2排出量の多い20カ国を『C20』と名付け、焦点を当てています(図1参照)。 2020年において、C20の国々によるCO2排出量は、世界全体の排出量の80%を占めています。COP26が終了した今、各国が設定したネットゼロ目標について考察します(すべての国が目標を設定しているわけではありません)。各国の目標達成の可能性を分析するために、 CO2排出量、一人当たりのCO2排出量、経済活動におけるCO2強度(Intensity)の最近の傾向を示しました(ネットゼロを達成するには、後者2つの指標をゼロにする必要があります)。また、当レポートでは生産に基づく排出量と消費に基づく排出量を区別していますが、前者データのみで分析することは他国で消費される財や原材料を供給源する国にとっては不公平になることが背景です。最近の傾向はあまり楽観的な状況とは言えませんが、意志があれば道は開けると考えます。また、特に発展途上国が「クリーン」な方法でその潜在能力を最大限に発揮するためには、テクノロジーが重要な役割を果たす見込みです。

主な結論
  • 残念ながら、世界全体の排出量は増え続けており、気温上昇を1.5℃以内に抑えられるかどうかは疑問が残ります。よって、気温上昇を1.5℃以内に制限することが課題です。
  • C20諸国のうち17カ国がネットゼロの目標年度を設定(法定化または公表)しています。
  • 目標年度を設定していない3カ国のうち、メキシコは目標年度について議論中です。
  • 最近の傾向から考察すると、イギリスのみが2050年にネットゼロ目標を達成する見込みです。
  • イギリス以外の国々のうち8カ国は、依然として一人当たりの排出量が増加しており、ネットゼロを達成するためにはその傾向を解消する必要があります。
  • 新たなテクノロジーは、経済活動におけるCO2強度の削減に不可欠です。世界が気候変動の最悪の結果を回避するためには、発展途上の国々と新たなテクノロジーを共有することが必要です。
  • 政府部門が気候変動対策を主導する一方、民間部門は資金を正しい方向に配分する重要な役割を担います。
テクノロジー開発への考察
  • 今後のレポートにおいて、重要なテクノロジー開発について考察します。
  • 当レポートでは、テクノロジー開発の大まかな潮流を紹介します。
  • 炭素回収、炭素除去、炭素貯蔵、代替エネルギー(水素・アンモニア)、エネルギー貯蔵(揚水発電など)、炭素追跡・計算のためのブロックチェーンに焦点を当てています。
図1 : 2020年における主要排出20カ国のCO2排出量(10億トン)とネットゼロの目標時期

 

イントロダクション

インベスコのEconomic Transition Monitor(ETM)の第1回目のレポートでは、ネットゼロ排出の達成、および気候変動による影響を抑制するための世界的な取り組みに関する進捗調査を目的とします。気温の上昇を1.5℃以内に抑制できるかどうかは現時点では疑問であり、気温上昇を出来る限り抑制する対策が課題となります。

当レポートは第一回目であるため、今回はCO2排出量の多い20カ国(世界の排出量の80%を占める)を取り上げていますが、調査対象国を今後拡大する予定です。また、今回のレポートは過去のデータと最近のトレンドの分析に限定していますが、今後の計画ではCO2排出量を予測していく予定です。

気候変動に対する目標を達成するために、政府は重要な役割を担いますが、民間セクターによるアクションも重要です。投資家は、変化を促す(そしてそこから利益を得る)ために資産を配分することができますが、同時に、政府に正しいことを行うよう圧力をかけることも可能です。政府が設定した目標の進捗のモニタリングを促すことも、当レポートの目的となっています。

図2は、課題の大きさを示しています。世界のCO2排出量は増え続けており(2020年はコロナウイルス感染拡大の影響でマイナス)、ネットゼロ排出の達成は程遠いように思われます。なお、当レポートでは、温室効果ガスの総排出量ではなくCO2排出量に焦点を当て、ネットゼロの達成はグロスのCO2排出量がゼロになることと仮定しています(ネットとグロスの差は大きくないことに加えて、ネット排出量の過去データは十分ではないため、正確な比較は不可能です)。

図2 –世界全体のCO2排出量と経済成長率への寄与

図2は、当レポートで取り上げているテーマを如実に表しています。排出量は、人口変化率と一人当たりGDPおよびGDP当たりのCO2強度の積として考えることができます。世界の排出量の増加には3つの要素があると考えます。

・ 人口増加 - 排出量増加に寄与しますが、人口増加が緩やかになると排出量は減少します。

・ GDP/人口成長率 - 平常時は排出量の増加に影響しますが、不況期(例:2009年、2020年)には減少する傾向があります。

・ GDP成長率におけるCO2強度 - 経済構造およびテクノロジー(例:クリーンエネルギー源)の変化により、排出量はマイナスになる傾向があります。

人口増加や一人当たりGDPの伸びよりも早くCO2排出量を削減できるかどうかが問題となりますが、それはテクノロジー革新に大きく依存すると考えます。

 

CO2排出量の多いC20グループについて

2020年時点における世界のCO2排出量の80%を20カ国が占めています(C20グループと呼ばれる国のメンバーについては図3を参照)。図3の国々は、2019年のCO2最大排出国20カ国です(コロナウイルス感染拡大によりデータに歪みが生じるため、2020年のデータは使用しておりません)。

図3 – 2020年における主要排出20カ国のCO2排出量(10億トン)

中国の排出量が圧倒的に多いのは、世界一の人口を有する国である点からと当然です。他の条件が同じであれば、人口が多い国ほど排出量も多くなります。もちろん、他の条件が異なる場合においては、排出量は一人当たりのGDP(消費活動に重要な影響を与える)や経済活動におけるCO2強度にも依存します(図4参照)。

図4 -- 2020年におけるCO2排出量の詳細

図4では、インドとアメリカの比較が参考になります。インドの人口は米国の4倍以上であるものの、一人当たりのGDPは約10分の1の規模です。両国の対GDPのCO2強度が同程度であることを踏まえると、2020年のインドのCO2排出量が米国の約半分であることは当然の結果です。

将来的にインドの発展が進む過程において、一人当たりのGDPが上昇することが予想されます。仮に、2020年にインドの一人当たりGDPが既に米国並みであったと仮定すると、同国は228億トンのCO2を排出したことになり、世界全体における排出量の71%の規模に匹敵します。

人口が増加し続け、新興国が発展して所得が増える中で、世界全体の排出量を減少させるには経済活動におけるCO2強度を下げることが必須になるため、テクノロジー革新に大きく頼らざるを得ないことも目下の課題となります。つまり、新興国については、先進国と同様の方法で発展することが許されないのです。そのためには、新たな技術への大規模な投資だけでなく、すべての国が最もされクリーンな方法で発展できるような技術共有や資金援助が必要になります。

当レポートの大部分は国別のセクションによって構成されていますが、その中ではC20グループの各国がネットゼロに向けてどのような進展を遂げているかを示す下記3つのチャートを掲載しています。

1990年以降のCO2排出量

1990年以降の一人当たりCO2排出量(ネットゼロ達成のためゼロ化の必要あり)

1990年以降の対GDPのCO2強度(同様にネットゼロ達成のためゼロ化の必要あり)

また、以下の2つのCO2排出量の指標を示しており、取り上げる価値がある内容です。

生産ベースの排出量 - 国内での経済活動の結果による排出量(通常使用されているデータ)。

消費ベースの排出量 - 経済活動において消費される財やサービスの生産に必要な排出量(貿易の流れを考慮した構成)。消費される財の原産地に関係なく、国民のライフスタイルによる選択に起因する排出量を測定。

この区分は、各国がエネルギーや重工業の生産を他国に委託している場合に重要な要素になります。例えば、中国の排出量は消費量ベースよりも生産量ベースの方が多く、米国の排出量は消費量ベースの方が多くなっています(図5参照)。事実として、米国が消費する商品の多くを中国が生産しています。米国での消費に起因する排出を中国に責任転嫁するのは公平な判断でしょうか?そうではなく、消費に基づくデータを用いて比較する方がより公平だと考えます(図6~8で同様のランキングを掲載しています)。

図5 – 1990年から2020年までの米国のCO2排出量(百万トン/年)

 

テクノロジー - 経済の転換を図る

様々な節電方法など、消費者は気候への影響を最小限に抑える取り組みを強いられつつありますが、実際には、よりクリーンで環境に優しい経済への移行において主役となるのは、行動の変化ではなくテクノロジーの発展である可能性が高いのです。そのようなテクノロジーの多くはすでに開発されており、より効率的で代替性の高い技術を設計するための研究が続けられていることから、私たちの日常生活や産業活動を大きく変える可能性を秘めています。当セクションでは、そのような変化をもたらす可能性のある有力なテクノロジーの候補を検討します。

CO2排出削減関連のテクノロジーの中で最もよく知られているのが、既存の燃料源から排出される温室効果ガスを大気中に放出する前にろ過し、排出強度を削減する炭素分離・回収技術です。この技術が広く普及することで、通常の炭化水素の消費による排出量への影響が大幅に減少し、化石燃料から劇的に脱却することを回避できる可能性があります。このような炭素回収技術はすでに存在し効果的に利用されているものの、炭素市場が活発でないことが最大の課題です。そのため、回収された炭素の量は飲料や肥料産業などの炭素使用者の需要をはるかに超えるため、将来の貯蔵能力の確保が重要になります。

また、大気中に存在する炭素を回収し、貯蔵・利用する炭素除去技術も開発が進んでいます。しかし、この技術も炭素回収と同様の問題を抱えています。

今日のエネルギー資源構成は、化石燃料と自然エネルギーが主流となっていますが、代替燃料へも関心も高まっています。水素エネルギーは、副産物として水、電気、熱が得られるクリーンな燃焼であることから、化石燃料の代替エネルギーとして注目されてきました。しかし、コストが高いという問題があります。

また、最近ではアンモニアをエネルギー資源として活用する可能性を探る研究も行われています。アンモニアは、水素やバイオ燃料に比べると既に大量に生産されていることから大規模な新たなインフラ投資が不要である点など、多くの利点があります。しかし、アンモニアを環境にやさしいエネルギー源として活用するためには、解決しなければならない様々な課題が残されています。

エネルギー貯蔵は、各種エネルギー源を活用する多くのテクノロジーにおいて重要な課題となっています。炭化水素は、輸送や燃焼が容易であるため、リアルタイムの需要に対応した柔軟なエネルギー生産が可能であるというユニークな利点があります。しかし、自然エネルギーの多くは、風や太陽光、水流といった外生的な要因に依存するため、電力系統での活用が困難です。このような代替エネルギーは生産が不安定である一方で、需要が高まる時期に使用されるため、蓄電に依存することになります。

そのような蓄電技術として実績があるのが揚水発電(PSH)です。 PSHは、エネルギー需要が比較的少ない時期を利用して、標高の低い貯水池から高い位置にある貯水池に水を汲み上げる、水力発電を巧みに活用した発電手段です。エネルギー需要が高まる時期には、発電機を通して水を放出し、送電網のエネルギー需要を補うのです。このようなシンプルなアプローチにより、PSHは全世界の蓄電池設置容量の94%を達成しています。

これらのテクノロジーは、産業や家庭のニーズを解決するための最新の科学的努力の一例です。例えば、炭素税や炭素クレジットのようなよく知られたアプローチを、炭素量の追跡・計算に用いられるブロックチェーンなどの新たなテクノロジーとミックスする例はさらに多く存在します。今後、このようなフロンティアテクノロジーについて、より詳しく紹介していく予定です。

進捗のギャップ:もっと努力する必要がある国は?
進捗のギャップ:もっと努力する必要がある国は?
進捗のギャップ:もっと努力する必要がある国は?(2)
進捗のギャップ:もっと努力する必要がある国は?(3)
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備考:グラフは2000年から2100年までの年次データを示しています。2020年以降の数値はすべて予測値です。数値は生産量ベースのCO2排出量でし。「目標ペース」、「実績ペース」、「人口増加率」の数値は年率換算値です。人口増加予測は、国際連合の中位出生率予測に基づいています。

出所:BP 「Statistical Review of World Energy 2021」、 国際連合、インベスコ。

参考データ:国別比較
図 6 -- 2019年のCO2排出量 (消費ベース、単位:10億トン)

CO2排出量は中国が最も多く、次いでアメリカ、インドとなっています。
2019年のデータを使用しています(2020年版は未発表で消費ベースのデータがないため)。

図 7 -- 2019年の1人あたりCO2排出量 (消費ベース、単位:トン)

一人当たりの排出量は、先進国やエネルギー生産国で最も多い傾向にあります。
新興国は所得が低いため一人当たりの排出量は少ないものの、今後先進国に追いつくことが予想されます。

図 8 -- 2019年のGDP*あたりのCO2排出量 (消費ベース、単位:kg)

新興国やコモディティ生産国に集約している傾向があります。
ネットゼロを達成するためには、CO2強度をゼロに近づける必要があります(国別編ではこれまでの進捗を掲載しています)。

当資料ご利用上のご注意

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