マーケット・アップデート

欧州バンクローン市場、月次アップデート 2022年9月

欧州バンクローン市場、月次アップデート 2022年9月
2022年8月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与し、価格変動もプラスとなったことから、月間トータル・リターンは+1.91%となりました1
 

Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index(以下「CS WELLI」または「指数」)の2022年8月のトータル・リターンは+1.91%となり、内訳は価格変動が+1.47%、金利収入が+0.44%となりました。年初来のリターンは▲2.74%となっています1

金融市場は、引き続き次のようなマクロ上の試練に晒されています。(1)主として食料とエネルギー価格の高騰によってユーロ圏のインフレ率が過去最高を更新しており、8月には9.1%に達しました。(下記参照)。ウクライナ紛争により、小麦、食用油、肥料などの主要商品の輸出が減少し、世界の食料価格の大きな上昇圧力となりました。(2)インフレの上昇により、欧州中央銀行(ECB)に利上げの前倒し圧力が高まりました。(3)ノルドストリーム1(パイプライン)による欧州へのガス供給が停止しました。政府、産業界、消費者(特にドイツ)がガス消費削減に取り組んでいることから、ベースシナリオとしては冬期の需要に対して(タイトであるにせよ)まずまずのガス貯蔵量が確保されると思われますが、天候に左右される部分があります。

こうした試練にもかかわらず、 8月の欧州バンクローン市場は、2022年前半に発生した価格急落を取り戻し、平均価格は1.40ユーロ上昇して93.51ユーロとなりました1 。ディストレス比率(80未満の価格で取引されているバンクローンの割合)は7月の3.65%に対し、8月は3.41%と低下を続けています。また、デフォルト率も0.72%と、歴史的な低水準を維持しています4、5

投資テーマの観点では、食品セクターが最も堅調であり(仕入価格に正常化の兆しがあり、生産者はコスト上昇分を消費者価格へ転嫁しはじめました)、旅行・レジャーセクターも堅調でした(多くの業績指標がコロナ禍以前の水準を上回っています)。耐久消費財を主とする消費関連セクターは、インフレによるコスト増の大部分は消費者負担となることが嫌気され、パフォーマンスは低調となりました。

8月のバンクローンの新規発行額は例年並みの約7億ユーロとなりましたが、夏期休暇シーズンということもあって落ち着いた展開となりました。この結果、年初来の新規発行額は約260億ユーロとなり、前年同期比で約68%減少しました。年末までの新規発行は不透明感が残っています。新規発行予定額は約130億ユーロと比較的大きいものの、そのほとんどはウクライナ紛争以前に引き受けされたもので、アレンジャーや発行体は市場の混乱が収まるのを待っている状況です。

厳しい投資環境であったにもかかわらず、8月のCLO新規発行市場では19億ユーロのCLOが発行されました。これは、前年同月の発行額である16億ユーロを上回り、比較的堅調でした。なお、新規発行CLO(AAA格)のスプレッドはEURIBOR+200bp程度で高止まりしています。このスプレッドの水準では、額面よりも大幅に低い価格でポートフォリオを構築する能力があればCLOの裁定取引は不可能ではないものの、多くの運用会社にとってそれほど妙味があるものではなくなりました。

バンクローンの新規発行市場での取引が限定的な一方で、堅調なCLO発行を背景にCLOマネジャーは流通市場でローンを積極的に購入しており、ローン価格の下支えに寄与しています。

月末のCS WELLI の額面価格合計(市場規模)は約4,140億ユーロとなり、8月は前月比0.5%減、年初来で7.0%増加しました1

 

リターン

8月のCS WELLIのセクター別リターンは、全てのセクターがプラス・リターンとなりました。最も高いパフォ-マンスとなったセクターは、食品/タバコの+3.01%、続いて食品・製薬及びゲーム/レジャーの+2.67%となりました。最もパフォーマンスが低かったセクターは、耐久消費財の+0.79%、続いて航空宇宙・防衛の+1.22%、エネルギーの+1.28%でした 1

格付け別では、8月は「CCC」格が+2.55%と最も高く、「B」格が+2.12%1 、「BB」格が最も低い+1.36%となりました 1

8月末におけるCS WELLI構成銘柄の平均価格は、前月末比1.40ユーロ上昇し、93.51ユーロとなりました 1。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは5.95%で、前月末比▲0.55%縮小しました 1

8月のクレディ・スイス欧州ハイ・イールド債券(Credit Suisse Western European High Yield)指数は▲1.11%のリターン(年初来では▲12.09%)となり、スプレッド・トゥ・ワーストは5.83%となりました 3

ファンダメンタルズ

8月の欧州委員会景況感調査によれば、夏以降、ユーロ圏の景況感はさらに悪化すると予想されています。ユーロ圏の8月の総合購買担当者景気指数(PMI)の速報値は0.7ポイント低下し、49.2と18カ月ぶりの低水準となりました。2カ月連続で景況感の節目となる50を下回ったことから、2022年7ー9月期のGDP成長率がマイナスとなることが示唆されました。PMIが低下した背景には、ドイツ経済の弱含みが挙げられます。サービス業PMIでは、高止まりするインフレが需要の重しとなり、1ポイント低下して50.2と17カ月ぶりの低水準となりました。製造業PMIは、0.1ポイント低下して26カ月ぶりの低水準となる49.7となりました。両セクターにおける新規輸出受注は再び減少し、製造業における完成品(かつ未販売品)の在庫はこの25年間で最も早いペースで増加しました。明るい材料もいくつか見えており、仕入・生産価格は高止まりしているものの、価格上昇率が鈍化していることが挙げられます。製造業では供給の納期がやや短期化し、サプライチェーン逼迫の緩和が示唆されました。雇用の伸びは鈍化しているものの依然として堅調であり、1年後の両セクターの景況感見通しは改善しました。

8月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)の速報値は、前年同月比0.2%上昇して9.1%となり、予想値をやや上回りました。オランダ、ドイツ、イタリアで上昇し、フランスとスペインでは低下しました。総合インフレ率は、食品の他、エネルギー以外の工業製品によって上昇しました。コアインフレ率は4.0%から4.3%に上昇し、市場では年末までの総合インフレ率は10%前後で推移し、2023年には緩やかに低下すると予想されています。この見通しは、欧州連合(EU)及びおよび各加盟国がエネルギー市場に介入する可能性によって、不透明感が高まっています。

8月のインフレ率がさらに上昇したため、9月の欧州中央銀行(ECB)理事会では、インフレ抑制に関する議論が更に進むと思われます。8月末に行われた米ジャクソンホール会議では、シュナーベルECB理事とビルロワ仏中銀総裁が、タカ派的な発言を行いました。同理事は、足元の金融引き締め政策が十分でなければ、後でさらなる利上げを余儀なくされるリスクがあり、景気後退がより深刻化するだろうと発言しました。ECBは9月に0.75%、10月に0.5%、12月に0.25%の利上げを行うと予想されており、年末までに預金ファシリティ金利は1.5%になると見られています。また、今夏のガス・電気料金の記録的な高騰を受け、EUは電力市場への介入を検討しています。具体的には、ピーク使用時の節電要請、ガス発電以外の電力会社の利益に対する課税、エネルギー価格高騰が特に低所得者層に及ぼす影響の軽減策(地方財政導入の可能性)などです。また、中期的に電力価格とガス価格を切り離す改革も予定されています。欧州委員会は、9月9日に開催される緊急エネルギー関係閣僚会議に先立ち、これらの施策を提案しました。

特にドイツを中心にユーロ圏全体でエネルギー価格が上昇し、7月と8月のPMIが低下したことから、2022年7−9月期及び10−12月期のユーロ圏経済はマイナス成長となる可能性が高いと思われます。重要な点になりますが、ユーロ圏全体での実質的なガス配給制の実施(本稿執筆時点でノルドストリーム1のガス供給は停止されています)は回避されるだろうと考えています。もしこの見通しが外れた場合、経済の混乱は明らかにより大きな景気後退につながると思われます。

8月末現在、Morningstar/欧州レバレッジド・ローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.72%でした 4。過去平均は年3.08%です 4

指数のトータルリターン(%)

脚注

  • 1

    Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2022年8月31日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。

  • 2

    ストックス欧州600指数およびS&P500指数は、2022年8月31日現在。

  • 3

    Credit Suisse Western European High Yield Indexはユーロ建て、2022年8月31日現在。

  • 4

    Morningstar European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年6月1日から2022年8月31日までを対象に集計しています。

  • 5

    Pitchbook LCD (2022年8月31日付)を参照。

ご利用上のご注意

当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。

G2022-09-005

そのほかの投資関連情報はこちらをご覧ください。https://www.invesco.com/jp/ja/institutional/insights.html