欧州バンクローン市場、月次アップデート 2023年4月
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2023年3月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与したものの、価格変動がマイナスとなったため、月間トータル・リターンは+0.02%となりました
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index(以下「CS WELLI」または「指数」)の2023年3月のトータル・リターンは+0.02%となり、内訳は価格変動が-0.61%、金利収入が+0.63%でした。
当月は銀行セクターが大きく動揺しました。米国ではシリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行が破綻して連邦預金保険公社(FDIC)の管理下となり、規制当局が預金を保証する事態となりました。一方、欧州では経営不振に陥ったスイスのクレディ・スイスがUBSに買収されたことで金融不安が拡大する懸念から、リスクオフの動きが広がりました。全体としては、欧米で3つの銀行が破綻し、銀行預金が大規模に流出したことや金融システムに対する信頼性が揺らいだことなどを背景に、金融市場は一時的に急落しました。
しかしながら、マクロ環境に概ね改善が見られるなかで、欧州バンクローン市場は、SVBやシグネチャー銀行、あるいはどの銀行に対しても直接的なエクスポージャーがないことから、底堅く推移しました。クレディ・スイスはUBSの一部として事業を継続しており、バンクローン発行体との銀行取引に問題は発生しませんでした。
金融市場のボラティリティが高まったため、欧州バンクローン市場における3月の新規発行額は抑制が継続し、直近数カ月の平均的な発行額とほぼ同水準の22億ユーロとなりました。ロシアによるウクライナ侵攻後の2022年3月と比較すると5倍増ですが、ウクライナ紛争以前の新規発行額との比較ではかなりの低水準となっています。一方、新規発行のスプレッドは、引き続きEURIBOR+500bp前後(価格95〜97近辺)の魅力的な水準となりました。また、直近3カ月の新規発行案件の平均利回りは8.7%となっています。
3月もCLOの新規発行が継続しました。バンクローンの新規発行のパイプラインが限られているため、需給面からバンクローンの価格を下支えしました。新規CLOは約20億ユーロ発行され、CLOノート(AAA格)のスプレッドは、年初来最低となった2月のEURIBOR+165pからEURIBOR+180bps以上の水準まで拡大しました。銀行セクターで懸念が浮上した際にCLOノートの価格が下落しましたが、その後に戻りが見られました。しかしながら、スプレッドは拡大したままであることから、新規発行時のCLO裁定取引は依然として成立しにくい状況が続いています。こういった状況で新規発行は主に月前半に行われました。
3月末のCS WELLIの額面価格合計(市場規模)は約4,010億ユーロとなりました1 。

リターン:2023年3月
3月のCS WELLIのセクター別リターンでは、金属/鉱業が+1.34%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いてエネルギーの+0.54%、食品・製薬の+0.51%となりました。また、航空宇宙・防衛が-0.84%と最も低いパフォ-マンスとなり、続いて情報技術の-0.36%、化学の-0.16%となりました1 。
3月のCS WELLIの格付別リターンでは、「CCC」格が+0.65%と最も高く、「BB」格が+0.25%、「B」格が最も低い-0.12%となりました1。
3月末におけるCS WELLI構成銘柄の平均価格は前月末比約0.47ユーロ下落し、93.41ユーロとなりました1。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは5.97%となり、前月末比0.23%拡大しました1。
3月のクレディ・スイス欧州ハイ・イールド債券(Credit Suisse Western European High Yield)指数は+0.16%のリターンとなり、スプレッド・トゥ・ワーストは5.20%、イールド・トゥ・ワーストは7.97%となりました3。
ファンダメンタルズ
欧州中央銀行(ECB)は、(金融不安が浮上していましたが)、3月16日に行われた定例理事会でガイダンスに従い政策金利を0.5%引き上げました。足元の政策金利は、2008年以降最高となる3.0%となっています。ラガルドECB総裁は、この利上げは「大多数」5 に支持されたと述べました。全体としては今回の理事会の内容はハト派的であり、さらなる利上げを見込むという同行の従来のガイダンスが削除されて、今後は「データに依拠して」利上げの要否を判断するとされました5 。同行のインフレ率予想値も、エネルギー価格の下落を背景に下方修正され、2023年の5.3%から2024年には2.9%に低下し、2025年には2.1%に低下するとされました。一方で、2023年のコアインフレは+4.6%に上方修正され、依然としてユーロ圏の物価上昇圧力が当面残ることを見込んでいるようです5 。
銀行の信用不安に関しては、ECBの声明では「足元の金融市場の状況を注視する」5 としながらも、「ユーロ圏の銀行セクターは堅固な資本と流動性を備え、金融不安に対する抵抗力がある」5 ことを強調しました。また、2008年の世界金融危機とは比較にならず、「足元の銀行セクターは当時よりもはるかに強固である」と述べています。
市場コンセンサスでは、少なくとも5月に0.5%、6月に0.25%の利上げが行われ、政策金利は3.75%から4.0%に達すると想定されています。
3月のユーロ圏総合PMIは2ポイント上昇し54.0となり、ウクライナ紛争によるガス・電力価格の高騰前の2022年春以来の高水準となりました。ここ数カ月PMIが回復基調であるのは、2022年9月以降、ガスと電力価格が急激に低下していることが背景です。PMIと同様に、ドイツのIFOおよびイタリアのISTATによる景況感関連指数も良好でした。これらの指標はしばしば実際と逆行するような内容を示唆することがあり、その短期的な動きには注意を払う必要がありますが、全体としては各国の景況感は過度に悲観していた状況から回復していることを示しています。フランスでは、ウクライナ紛争をめぐる影響がドイツなど他の国よりも小さかったため、景況感はここ数カ月間ほとんど変わっていません。また、これまでのところ、銀行セクターに対する懸念は、欧州の景況感にほとんど影響を与えていないようです。
3月のユーロ圏総合インフレ率は6.9%と2月の8.5%から大きく低下し、ウクライナ紛争勃発以来、最低水準となりました。コアインフレ率は5.7%(2月は5.6%)と前月から小幅上昇しました。しかしながら、財価格のインフレは減速の兆しが見られて2022年1月以来初めて低下し、サプライチェーンの混乱の緩和やエネルギー価格下落の影響が出始めたようです。一方、賃金の上昇を背景に、サービス価格のインフレはさらに上昇し、コアインフレ全体の上昇を牽引しました。
3月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.44%でした4。過去平均は年2.97%となりました4。

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