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欧州バンクローン市場、月次アップデート 2023年1月

欧州バンクローン市場、月次アップデート 2023年1月
2022年12月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与し、価格変動がマイナスとなったものの、月間トータル・リターンは+0.34%となりました1
 

Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index(以下「CS WELLI」または「指数」)の2022年12月のトータル・リターンは+0.34%となり、内訳は価格変動が-0.20%、金利収入が+0.54%でした。年初来のリターンは-3.28%となりました1

12月は、リスク資産のボラティリティが高まった1年を締めくくる月となりました。株式市場は金利が高止まりする環境下、企業利益の減少もあり、バリュエーションの低下圧力にさらされました。2022年のストックス欧州600指数は12.9%下落、S&P500指数は19.4%下落しました2。また、主要中央銀行が前例のないスピードで利上げを継続したため、債券市場は金利上昇を受けて軟調な展開となりました。CS WELLI ハイ・イールド債券指数は11.6%下落し3、欧州投資適格債券指数は約14%の下落となりました6

このような投資環境下で、 CS WELLIは2008 年の金融危機以来で最も低いパフォーマンスとなったものの、相対的には他の資産クラスを上回り、年間トータルリターンは-3.28%となりました1。バンクローン市場が相対的にアウトパフォームした理由は、以下の通りです。

(1)変動金利:バンクローン金利は、主としてEURIBOR3カ月物に信用スプレッドを上乗せした変動金利で決定されます。EURIBOR3カ月物は足元で約2.1%の水準に達しており(EURIBOR先物では、2023年を通して3%を超える見込み7 )、投資家のリターンに寄与しています。

(2)バンクローンの耐性:バンクローンは、元利金の支払いを優先的に受けられる仕組みになっているため、企業の資本構造の中では比較的「安全」な債務とされています。また、デフォルト率は年間0.42%とごく低水準にとどまっています4

2022年の欧州バンクローン市場およびリスク資産市場に影響を与えた主なテーマは以下の通りです。

・ エネルギー危機: ウクライナ紛争により、ロシアの欧州向け天然ガス輸出がほぼ停止し、天然ガス価格は8月をピークに約10倍に高騰しました。しかしながら、その後は正常化し、過去の平均価格の約3倍となっているものの、年初の価格からは低下しています。
<2023年の見通し>
欧州各国は、新たな天然ガスの供給拠点(主に浮遊式LNGターミナル)を確保したり、需要削減を行ったりすることにより、エネルギー危機の管理に努めています。一方で、2022年から2023年および2023年から2024年の冬季にガス不足となる可能性は一段と低くなっているものの、エネルギー価格の高止まりは、家計の可処分所得と企業の収益力にマイナスの影響を与えると思われます。

・ インフレ: ユーロ圏のインフレ率は10月に10.7%のピークに達した一方で、12月に9.2%に低下しました。インフレが高止まりしているのは、エネルギー及び食品価格が高騰していることなどが原因です。
<2023年の見通し>
欧州中央銀行(ECB)の金融政策はインフレ抑制に向けて機能しつつあるものの、依然としてインフレ率は高止まりしています(2023年通年で6%以上を予想)。2024年から2025年にかけて、同行の目標水準である約2%まで低下すると見られます。

・ 中央銀行の金融政策: ECBは2022年に預金ファシリティー金利を250bp引き上げ、足元で年2.0%まで利上げを行いました。米連邦準備制度理事会(FRB)は、フェデラル・ファンドレート(政策金利)を425bp引き上げ、同様に年4.375%まで利上げを行いました。
<2023年の見通し>
金融市場では、2023年のターミナルレート(政策金利の最終到達点)がユーロ圏で3.0%~3.5%、米国で5.0%~5.25%に達すると予想されています。

・ 景気後退: ユーロ圏と米国は2023年もプラスの経済成長を維持すると見られています。しかしながら、直近のGDP成長率(2022年7−9月期)はユーロ圏が+0.3%、米国が+3.2%となったものの、特に欧州の経済成長率は大きく鈍化しつつあります。
<2023年の見通し>
ユーロ圏は2022年10−12月期から2023年1ー3月期にかけてマイルドな景気後退に陥ると見られていますが、2023年4ー6月期には再びプラス成長に転じると予想されています。米国は 2023 年後半にかけて、わずかな景気後退が見込まれています。

2022年を通して、欧州バンクローン市場における新規発行は小規模なものとなりました。市場自体は特に問題なく機能しましたが、プライベート・エクイティ主導の資金調達は、不安定な市場環境を受けて大きく減少しました。2022年のバンクローン新規発行額は350億ユーロとなり、2021年の新規発行額と比べると、69%減少したことになります。

CLOの新規発行は引き続き活発であったものの、2021年と比べるとかなり低いペースとなりました。2022年のCLO新規発行額は約260億ユーロで、前年比約33%減少しました。新規発行CLO(AAA格)のスプレッドは年初はEURIBOR+80~100bpの水準で始まりましたが、その後EURIBOR+210~220bpの水準まで上昇しました。その結果、CLOマネジャーは今後の負債のリファイナンスに期待しつつCLOを積極的に発行しようとしましたが、CLO裁定取引が成立するのは依然として困難な状況となっています。

12月末のCS WELLI の額面価格合計(市場規模)は約3,980億ユーロとなり、年初来で2.9%増加しました1

 

リターン:2022年12月および2022年通期

12月のCS WELLIのセクター別リターンでは、食品・製薬が+1.56%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いて小売の+1.51%、耐久消費財の+1.10%となりました。12月にマイナスリターンとなったセクターでは、ゲーム/レジャーが-0.16%と最も低いパフォ-マンスとなり、続いて情報技術が-0.06%となりました1。2022年通期では、エネルギーが+3.90%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いて金融が+0.01%となりました。一方、マイナスリターンとなったセクターでは、耐久消費財が-11.93%と最も低いパフォ-マンスとなり、続いてゲーム/レジャーが-11.24%、不動産が-8.09%となりました1

格付け別では、12月は「BB」格が+0.56%と最も高く、「B」格が+0.38%、「CCC」格が最も低い-0.81%となりました1。 2022年通期では、「BB」格が+0.42%と最も高く、「B」格が-3.20%、「CCC」格が最も低い-20.94%となりました。

12月末におけるCS WELLI構成銘柄の平均価格は前月末比約0.01ユーロ下落、前年末比では7.14ユーロ下落し、91.56ユーロとなりました1。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは6.61%となり、前月末比0.18%拡大、前年末比では2.48%拡大しました1

12月のクレディ・スイス欧州ハイ・イールド債券(Credit Suisse Western European High Yield)指数は-0.33%のリターン(年初来では-11.64%)となり、スプレッド・トゥ・ワーストは5.37%となりました3

 

ファンダメンタルズ

ECBは12月に預金ファシリティー金利を予想通り50bp引き上げ、足元で2.0%まで利上げを行いました。今後も、50bp刻みでの「大幅な」利上げを行うことを示唆しています。また、同行は、2023年及び2024年のインフレ率予想値をそれぞれ+6.3%と+3.4%に上方修正しています(2022年9月時点では、+5.5%と+2.3%と予想)

欧州連合(EU)の12月のインフレ率は9.2%となり、11月の10.1%から低下しました。インフレ率が低下しており、インフレの圧力は和らぎつつあることが示唆される一方で、ECBのエコノミストは、インフレのピークは引き続き2023年前半に発生する可能性があると警告しています。

米国では依然としてインフレが高止まりしているものの、コアCPIは12月に7.1%となり、15カ月ぶりの水準まで低下しました(ピークは2022年6月の9.1%)。英国の11月のインフレ率も、売上鈍化を背景に、予想以上に低下しました(CPIは11.1%から10.7%に低下し、コアCPIは6.5%から6.3%に低下)。英国では、原油価格の下落によりCPIはピークとなった可能性が高いものの、2023年4月に電力・ガス料金が値上げされることから、2023年は年間を通じてインフレ率が高止まりする可能性が高いと見られています。

欧州全域のガス消費量は、季節平均を下回って推移しています。クリスマスと新年が通常よりも暖かかったため、ガス消費量は急激に減少しました。同時に、初の浮体式LNGターミナルが稼働を開始し、欧州へのガス流入量が増加しています。EUのガス貯蔵量は非常に高水準になっているため(ドイツは容量の90%超確保)、天然ガス価格はウクライナ紛争前の水準まで急落しています。2022年から2023年にかけての冬季にガス不足となる確率は劇的に低下しています。

欧州経済研究センター(ZEW)の12月のユーロ圏景況感指標は、エネルギー部門全体が安定化していること、今後数カ月でインフレ率が低下すると予想されていることなどを背景に、2022年2月以来の高い数値まで改善し、予想値を上回りました。

ユーロ圏の2022年7−9月期のGDP(前期比)は、4−6月期の+0.80%に続き、速報値の+0.20%から+0.30%に上方修正されました。プラス成長の主な要因は、総固定資本形成が+3.6%(4−6月期は+0.9%)、家計消費が+0.90%(同+1.0%)となったことです。ユーロ圏の主要国では、イタリアとドイツのGDP成長率はそれぞれ+0.50%、+0.40%となり、フランスとスペインはそれぞれ+0.20%となった一方で、オランダは-0.20%となりました。

11月のユーロ圏建設業購買担当者景気指数(PMI) は、10月の44.9から43.6に低下し、7カ月連続の低下、また2020年5月以降で最も大きい下落幅となりました。フランス(40.7)及びドイツ(41.5)が同指数低下の主要因となりました。また、イタリアは5カ月ぶりの上昇となりました。セクター別では、住宅及び土木工事が指数低下の主要因となりました。 

12月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.42%でした4。過去平均は年3.01%となりました4

指数のトータルリターン(%)

脚注

  • 1

    Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2022年12月31日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。

  • 2

    ストックス欧州600指数およびS&P500指数は、2022年12月31日現在。

  • 3

    Credit Suisse Western European High Yield Indexはユーロ建て、2022年12月31日現在。

  • 4

    Morningstar European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年6月1日から2022年12月31日までを対象に集計しています。

  • 5

    リフィニティブ社 「ストックス欧州600社 業績予想」(2022年12月31日時点)を参照。

  • 6

    IBOXX Euro Liquid Corporates index(2022年12月31日時点)を参照。

  • 7

    EURIBOR先物(2023年1月10日時点)を参照。

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