欧州バンクローン市場、月次アップデート 2023年3月
2023年2月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与するとともに、価格変動もプラスとなり、月間トータル・リターンは+0.79%となりました
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index(以下「CS WELLI」または「指数」)の2023年2月のトータル・リターンは+0.79%となり、内訳は価格変動が+0.24%、金利収入が+0.55%でした。
2月のユーロ圏の総合インフレ率(前年同月比8.5%)は高止まりし、コアインフレ率(前年同月比5.3%)は加速しました。さらに、失業率は6.7%と過去最低に近い水準となり、景気や雇用に関する経済指標は引き続き堅調なものとなりました。天然ガス価格(欧州TTF)は更に安定して足元で約48ユーロ(1メガワット時)前後となり、2023年に約30%下落しました。
金融市場では、インフレ抑制のため欧州中央銀行(ECB)が、2023年末には4%程度まで中銀預金金利を引き上げ、より長く維持することを織り込んでいます。このため、債券市場は下落した一方で、変動金利のために金利上昇が投資家のインカムに反映されるバンクローン市場は底堅く推移しました。
欧州バンクローン市場における新規発行は、2月も引き続き低調なものとなりました。ロシアによるウクライナ侵攻前(2022年2月)には56億ユーロの新規発行が見られましたが、2月の新規発行は21億ユーロに留まりました。新規発行ローンは、タックインM&A案件や借換案件の小規模なものがほとんどでした。景気後退懸念や資本市場のボラティリティが高まっていることなどを背景に、過去半年から1年は、レバレッジド・バイアウト(LBO )の新規案件がほとんど見られないことから、ローンの新規発行額は今後数カ月、低水準にとどまると思われます。こうした状況にも関わらず、新規発行ローンに対する需要は非常に旺盛です。新規案件は、足元でEURIBOR+500bp前後で建値され、価格は96〜97ユーロで推移しています。新規発行ローンのイールド・トゥ・マチュリティ(3カ月ローリング平均)は過去10年間で最も高い水準となる年8.5%程度となっており、投資家に非常に魅力的なリターンを提供しています。
2月のCLOの新規発行は大きく増加しました。CLOノート(AAA格)のスプレッドは、年初のEURIBOR+210bpからEURIBOR+170bps前後の水準まで縮小し、CLO裁定取引のサポート要因となりました。2月に発行されたInvesco€CLO9(AAA格)のスプレッドはEURIBOR+165bpsとなり、2023年に出された再投資ディールの中で最もタイトなものでした。2月は合計で9件のCLOが発行され、発行総額は約34億ユーロとなりました。2月の発行総額は1月の10億ユーロを大きく上回りましたが、前年同月の51億ユーロには達しておりません。
新規発行ローンのパイプラインが限られているため、CLOマネジャーはバンクローンの流通市場でCLOのポートフォリオを構築する傾向が強まっています。このため、バンクローン価格に需給面からの上昇圧力がかかり、特にCLOマネジャーが通常選好する高格付のローンにその傾向が顕著となっています。
このような状況のもとで、バンクローン市場は二分化しています。足元では、高格付のBB格は平均で98.55ユーロ程度(B格は95.07ユーロ程度)で取引される一方で、CCC格は73.22ユーロ程度で取引されています。昨年の2月には、BB格は98.35ユーロ程度、B格は93.9ユーロ程度、CCC格は86.5ユーロ程度で取引されていました。
2月末のCS WELLIの額面価格合計(市場規模)は約4,020億ユーロとなりました1 。
リターン:2023年2月
2月のCS WELLIのセクター別リターンでは、不動産が+2.13%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いて金属/鉱業の+1.81%、耐久消費財の+1.75%となりました。また、食品・製薬が-0.24%と最も低いパフォ-マンスとなり、続いて小売が-0.16%となりました1 。
2月のCS WELLIの格付別リターンでは、「CCC」格が+1.82%と最も高く、「B」格が+0.88%、「BB」格が最も低い+0.30%となりました1 。
2月末におけるCS WELLI構成銘柄の平均価格は前月末比約0.27ユーロ上昇し、93.88ユーロとなりました1 。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは5.74%となり、前月末比0.08%縮小しました1 。
2月のクレディ・スイス欧州ハイ・イールド債券(Credit Suisse Western European High Yield)指数は-0.09%のリターンとなり、スプレッド・トゥ・ワーストは4.57%、イールド・トゥ・ワーストは7.75%となりました3 。
ファンダメンタルズ
2月のユーロ圏の総合インフレ率は高止まりし、コアインフレ率は加速しました。ユーロ圏消費者物価指数(HICP)の速報値(前年同月比)は、予想値より0.2%高い8.5%となり、サプライズを与えました。コアHICP(前年同月比)も1月の5.3%から5.6%に上昇し、予想値から0.3%高くなりました。特にコアHICPの上昇は、欧州中央銀行(ECB)が利上げを開始して以来、最も大きく上振れしました。HICPでは、コア以外の品目がインフレ上昇要因となりました。エネルギーは前年同月比で約14%の価格上昇となった一方、食品は前年同月比で15%の価格上昇となりました。食品の価格上昇は、エネルギーの価格上昇よりもHICPの上昇に寄与しました。
ECBの政策金利のターミナルレートの期待値は、予想を上回るインフレ率の上昇を受けて、約3.5%から4%に上昇しました。ECBは、3月と5月にそれぞれ0.5%、6月と7月には0.25%ずつ利上げを行うと見られています。
2月のECB定例理事会の議事録によると、多くの理事がインフレ抑制のために金融引き締めを継続する必要があることを認めました。一方で、借入コストの行き過ぎに注意を要する水準まで政策金利が近付いているため、3月の定例理事会での方向性をどのように伝えるのかについては意見が分かれました。複数の理事は、インフレ率を目標値に戻すためには政策金利を引き上げ、しばらく高い水準で維持する必要があるとの見解を示しました。
ユーロ圏の1月の失業者数は4万3千人増加しました。失業率はこの3カ月は6.7%で安定しており、10月に最低値となった6.6%をわずかに上回る水準となっています。また、失業者数はウクライナ紛争前より13万3千人減少しており、エネルギー価格高騰や利上げに対して労働市場は抵抗力を示しています。一方で、総合購買担当者景気指数(PMI)は雇用市場の減速を示唆しています。
ラガルドECB総裁は、3月以降の追加利上げがおそらく必要であるとの見解を示し、雇用市場のデータも良好であることから、タカ派が増える可能性を示唆しています。
ユーロ圏総合PMIは、2月が52.0(予想は52.3)となりました(1月は50.3)。2月のPMIは民間部門の企業活動の拡大を示唆しており、昨年6月以降で最も高い数値となっています。サービス業が2月のPMIの急上昇の要因となった一方で、製造業は8カ月連続で下落した後、安定的に推移しました。新規輸出売上は12カ月連続で減少し、受注残も引き続き減少しましたが、新規受注は2022年5月以来で初めて増加しました。求人は引き続き堅調で、ビジネスの景況感は1年ぶりの高水準となっています。投入コストのインフレは2年ぶりの低水準となったものの、財やサービスの価格は大きく上昇しました。
2月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.23%でした4 。過去平均は年2.98%となりました4 。
脚注
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1
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2023年2月28日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。
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2
ストックス欧州600指数およびS&P500指数は、2023年2月28日現在。
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3
Credit Suisse Western European High Yield Indexはユーロ建て、2023年2月28日現在。
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4
Morningstar European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年6月1日から2023年2月28日までを対象に集計しています。
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