2020年の日本市場を読む
要旨
内外需の緩やかな回復と株価上昇を見込む
日本市場についての2020年のメインシナリオは、日本経済が緩やかに回復するという見方が柱となります。日本市場・金融市場を見通すうえでのカタリストについては図表1の通りですが、全体としてポジティブなカタリストによる効果がネガティブなカタリストによる効果をやや上回る姿を想定しています。日本株は現時点で景気や業績の回復をある程度織り込む動きとなっていますが、今後、振れを伴いながらも、実際の景気の回復に合わせて緩やかな上昇基調で推移すると予想します。
2020年に注意すべきリスク
2020年の重要なリスクとしては、①米中交渉決裂のリスク、➁民主党の米大統領指名選でウォーレン上院議員(あるいはサンダース上院議員)が選ばれるリスク、➂秋の大統領選挙に伴う政策の不確実性リスク、④合意なきブレグジット(英国の欧州連合からの離脱)リスク、➄FRBが「平均インフレ率」を目標にすることでハト派化するリスク、⑥中国景気減速リスク―が挙げられます。これらのリスクが顕在化する場合、金融市場の動揺が米長期金利の低下を通じて円高ドル安をもたらす公算が大きい点に注意が必要です。
内外需の緩やかな回復と株価上昇を見込む
日本市場についての2020年のメインシナリオは、日本経済が緩やかに回復するという見方が柱となります。日本市場・金融市場を見通すうえでのカタリストについては図表1の通りですが、全体としてポジティブなカタリストによる効果がネガティブなカタリストによる効果をやや上回る姿を想定しています。日本株は現時点で景気や業績の回復をある程度織り込む動きとなっていますが、今後、振れを伴いながらも、実際の景気の回復に合わせて緩やかな上昇基調で推移すると予想します。このメインシナリオを掲げる上でベースにしたのが、(1)2020年の日本の民間消費が底堅く推移する、(2)グローバル景気が新興国を軸に緩やかな上昇基調を辿る―という見方です。(2)については、通商問題をめぐる米中対話が最近進展していることや足元での景気回復を示唆する経済指標が増えていることが足元での楽観的な見方を強めつつあります。
その一方、(1)は内需関連株の先行きを見通す上での鍵となります。消費税引き上げによって消費者の購買力が損なわれることは避けようがなく、今後、短期的には消費の回復に力強さは望めません。また、今年10-12月期には駆け込み需要の反動が強く出るとみられ、経済はマイナス成長に落ち込むとみられます。しかし、2014年4月に実施された前回の消費税引き上げ時とは異なり、人々が最も頻繁に購入する食品への消費税率は据え置かれているうえ、ポイント還元や幼児教育無償化などの形で政府がショックを緩和する政策を採用しています。また、2019年度補正予算や2020年度予算において、政府が更なる消費下支え策を導入する可能性も高まっています。労働市場のタイト化が続くことで、2020年の賃金の伸びがある程度の伸びを維持するとみられることも踏まえると、年明け以降には民間消費が改善傾向で推移すると予想されます。
消費税引き上げに伴う実際の影響については、税率引き上げ前月の駆け込み需要は大方の事前の想定を上回りました。9月の小売販売額は実質ベースで前年同月比9.0%増加し、前回(2014年3月)の8.3%を上回りました。もっとも、増税直前の3カ月の動きをみると、実質ベースの小売売上は前回ほどは伸びませんでした(図表2)。GDP統計でみた7-9月期の実質民間消費の伸び率は前期比年率で1.4%と、前回(2014年1-3月期)の伸び率の同8.1%に比べ、今回の駆け込み需要は控えめであったと言えます。駆け込み需要が小規模であったことで、足元の民間消費が弱めとの見方も一部で存在していますが、これは正しい見方とは言えません。なぜなら、(1) そもそも2019年7-9月期の民間消費の前期比年率伸び率(1.4%)は潜在成長力を上回る、高めの水準であった、(2)2019年4-6月期の民間消費の伸び率が前期比年率で2.4%とかなり上振れたことから、7-9月期はその反動で下振れしやすかった、(3) 経済産業省の第三次産業活動指数でみると、実質ベースでみたサービス消費(広義対個人サービス活動指数)の前年同期比伸び率は7月に2.1%、 8月に0.8%、9月に2.3%と、前回増税前と比べてかなり高かった(図表2参照)、(4)今回は消費税率の引き上げ幅が2%ポイントと、前回の3%ポイントに比べて小さかった—ためです。
これらの諸点を踏まえると、足元の民間消費の基調は決して弱くないと判断できます。増税直後である10月以降の民間消費の状況については現時点では部分的にしか明らかになっておらず、今後の統計の公表を待つ必要がありますが、月次売上を公表している一部企業の売上データを見る限りは、大方の想定から大きく外れるような動きにはなっていないほか、軽減税率が適用される食品分野の売り上げは比較的好調の模様です。
他方、債券市場においては2020年には大きな変化がないとみられます。景気回復のペースはあくまで緩やかなものにとどまることから、インフレ率はやや上向くものの、日本銀行の金融政策を変更させるほどのインパクトをもたらさないでしょう。日本銀行は、10年国債利回りを0%程度に維持するという誘導目標を据え置くと予想されます。
2020年に注意すべきリスク
以上で触れたメインシナリオ通りに2020年の日本景気が回復しないリスクとしては、今年と同様、海外経済・金融市場のリスクに注意が必要でしょう。 2020年に入っても、金融市場は依然として大きな不確実性に直面し続けるとみられます。当レポート11月6日号「FRBが2020年に利下げするリスク」で指摘したリスクがそのまま日本市場のリスクとなります。すなわち、①米中交渉決裂のリスク、➁民主党の2020年大統領選挙予備選挙で・党員集会でウォーレン上院議員(あるいはサンダース上院議員)が指名を獲得するリスク、➂2020年秋の大統領選挙に伴う政策の不確実性リスク、④合意なきブレグジット(英国の欧州連合からの離脱)リスク、➄FRBが「平均インフレ率」を目標にすることでハト派化するリスク、⑥中国景気減速リスク―が挙げられます。これらのうち、➄を除くリスクは、日本経済・金融市場に直接的な悪影響を及ぼす可能性が高いと考えられます。また、これらのリスクが顕在化する場合、➄を含めて、米国の利下げで日米金利差が縮小し、円高ドル安の動きが生じる公算が大きい点にも注意が必要です。
日米金利差が縮小することで円高のリスクが生じるのは、足元までのドル円レートが日米の長期金利差に沿った動きを続けているためです(図表3)。日米長期金利差の縮小が円高ドル安につながる構図は今年3月以降継続しています。日本の長期金利の動きはイールドカーブコントロール政策の下で振幅が限定されるため、米国の長期金利の低下につながるような諸リスクに引き続き留意したいと思います。
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MC2019-134