グローバル・ビュー

在庫調整完了まであと一息

Invesco Mountain

要旨

東アジア地域での在庫調整が進展

中国での需要低迷は日本や韓国、台湾における在庫の積み上がりをもたらしました。これを受けた在庫調整は、エレクトロニクス分野から始まり、化学分野でもかなり進展してきたとみられます。その一方、鉄鋼などの金属分野での在庫調整は遅れ気味です。

2020年には鉱工業生産が緩やかに回復へ

国・地域別にみると、韓国における在庫調整にはあと数カ月かかるとみられるものの、中国での在庫調整は既に終了、日本や台湾における在庫調整の動きは最終段階に入りつつあると言って良いでしょう。在庫調整の終了は企業の価格決定力の回復を意味しており、収益強化は設備投資意欲に結びつくとみられます。特にエレクトロニクス分野ではこうした好循環が生じやすいと見込まれます。化学や金属、輸送機器の分野でも、在庫調整の完了が生産の追い風になるとみられます。2020年はこうしたメカニズムが作用して鉱工業生産が緩やかなペースで拡大し、日本をはじめとして韓国や台湾の景気をサポートする展開が見込まれます。
東アジア地域での在庫調整が進展
 東アジア地域では米中摩擦による中国での需要鈍化・輸入減少の余波により、2018年末頃以降、製造業の多くの業種で在庫が積み上がりました。これは、中国の需要急減によって、鉄鋼・化学などの素材や自動車などの輸送機器、さらにエレクトロニクスや機械といった様々な分野で売れ残った商品が積み上がるという、「意図せざる在庫増加」です。需要が戻ってきても生産がしばらくは回復しにくい現象をもたらしかねないという意味で、これはアジア経済のリスク要因であり、私は、在庫積み上がり問題が景気回復の障害となる可能性を今年6月から指摘してきました(当レポート6月5日号「在庫調整加速など3つのリスクが高まる」)。中国の需要の戻りが遅かったことから、在庫調整の時期はやや後ずれしたものの、足元でようやくその動きが本格化し、今後の生産回復に向けての条件が整いつつあります。以下では、東アジアの主要国・地域別、主要産業別に、在庫調整の現状と今後の製造業における生産回復への意味合いを整理してみました。
(図表1)東アジア各国・地域の鉱工業在庫伸び率(実質ベース)
アジアにおける在庫調整は、まず、米中摩擦によって最も大きな悪影響を被った中国において顕在化しました。鉱工業生産が年率6%程度の勢いで増加する中国においては、定常状態では在庫も前年比6%程度で増加します。2019年1-2月までは在庫は前年比で6%程度の増加を続けていましたが、3月に2.8%へと減速、その後は2~3%台での伸びを維持しています(図表1)。このことは、米中摩擦の不透明感によって先行きへの自信を弱めた企業が在庫調整に動いたのが3月であったことを示唆しています。最終需要の減速に在庫調整が重なって中国の輸入は低迷を続けています。中国の前年比でみた輸入は、4月以降、5月と7月の2カ月を除く毎月で減少する事態となりました。中国での需要の停滞は、東アジア各国・地域での在庫増加をもたらしました。特に、中国向けの輸出依存度が高い韓国と台湾では在庫の積み上がりによる影響は比較的大きなものとなりました。台湾で在庫が急増する一方、韓国では2018年初から在庫の伸びが高めであったにもかかわらず、さらに比較的高いペースで在庫が増加を続けました。日本でも、韓国や台湾ほどではありませんが、輸送機器と化学の分野では在庫が積み上がりました。
(図表2)東アジア地域の鉱工業在庫・生産の推移 ①
(図表2)東アジア地域の鉱工業在庫・生産の推移 ②
 積み上がった在庫の調整はエレクトロニクス分野から始まりました。エレクトロニクスの多くの分野では2019年1-3月期が需要の底であり、在庫調整が急速に進行した結果、4-6月期以降は生産が回復基調に転じました(図表2)。中国での5G(第5世代通信技術)基地局設置に伴う需要や、スマホ高機能化による需要、データセンターの投資活発化に伴う需要が足元までのエレクトロニクス生産をけん引しています。PCの世界出荷台数は4-6月期に、スマートフォンの世界出荷台数は7-9月期に前年同期比でプラスに転じており、在庫調整はエレクトロニクスの多くの分野で既に終了したと考えられます。これに少し遅れて、化学分野でも夏場に在庫調整が本格化しました。化学分野ではその性格上、生産計画を急に変更することは容易ではなく、減産を実施するにはある程度の時間を要します。中国における新規の生産設備が立ち上がって生産能力が増加する中、中国景気の減速による需要の低迷も重なり、コモディティ型の化学製品への需要は弱さが続いています。それでも、夏場からは韓国・台湾といった中国向け供給基地における化学分野での在庫調整の動きが本格化してきました(図表2)。化学分野では日本でのみ在庫の伸び率が依然として高水準ですが、これは化粧品などの在庫による面が大きく、韓国人訪日客の減少によるインバウンド需要の低迷が影響したものと考えられます。
 その一方、在庫調整が遅れているのが鉄鋼などの金属分野です。中国の固定資産投資が弱めで、金属を多く使うインフラ投資は既に大きな規模に達していることもあって伸び率は限定的です。鉄鋼など金属の分野では中国国内での投資が積極的に行われてきたこともあって、日本以外では在庫が高水準に積み上がる状態が改善されていません。化学分野と同様に、金属分野でも需給関係が緩んでおり、価格の落ち込みによる企業収益への悪影響が増幅されています。また、中国を始めとする地域で自動車販売台数が伸び悩んでいることで、韓国の輸送機器分野でも在庫の積み上がりが続いています。
 以上をまとめると、中国、日本、台湾では、直近までに在庫調整が着実に進んできたとみられることから、今後在庫調整による景気への悪影響が及ぶとみられるのは、金属、機械、輸送機器の3分野で過剰在庫がまだ残っているとみられる韓国のみであると判断できます
2020年には鉱工業生産が緩やかに回復へ
 中国での在庫調整は既に終了、日本や台湾における在庫調整の動きは最終段階に入りつつあると言って良いでしょう。在庫が適正水準まで削減されると、米中摩擦が激化して以降、緩んできた製品に対する需給関係がタイト化し、企業は米中摩擦の激化によって失った価格決定力を徐々に取り戻していき、収益にプラスに寄与すると予想されます。収益強化への道筋ができることで、企業は設備投資により積極的に取り組むという好循環がみられるでしょう。2020年において、こうした動きが最も強くみられるのはエレクトロニクス分野になると考えられます。特に、5G関連需要が中国やその他各国で増えていくほか、自動車に使われるエレクトロニクス製品・部品に対する需要等を背景に、エレクトロニクスの生産が着実に伸びるとみられます。化学や金属分野では、中国での需要の伸びが限定されることから、大きな需要の伸びは期待しにくい状況ですが、在庫調整が完了することで、需要の伸びに沿った生産の回復が見込めます。これら2分野(化学・金属)については中国の財政刺激策を含む政策動向が今後の需要を大きく左右するとみられます。
 輸送機器(自動車)分野については、中国での販売台数が増加に転じるかどうかが一つの鍵になります。中国においてメーカーが2019年に在庫圧縮に注力したことから、生産はある程度回復すると見込まれますが、それ以上のアップサイドがあるかどうかは、まだ具体策が公表されていない中国での自動車販売奨励策の行方に注目したいと思います。他方、機械分野については、不確実性の高まりに対応して2019年に設備投資を減らした企業によるペントアップ(繰り延べ)需要がある程度期待できます。総じて、2020年は鉱工業生産が底打ちしてある程度のペースで回復し、日本をはじめとして韓国や台湾の景気をサポートする展開が見込まれます
(図表3)東アジア地域の鉱工業生産増加率

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MC2019-146