グローバル・ビュー

日本の景気が市場の想定以上に下振れるリスク

Invesco Mountain

要旨

外出自粛によって日本の民間消費は12.2~16.6%減少

グローバル景気はリーマン・ショック時を上回る景気の悪化に直面しており、日本経済にも強い下押し圧力がかかっています。現在進行中の外出自粛による日本の民間消費減少率を試算してみると、影響が軽度にとどまるケースでも12.2%、影響が強く出るケースでは16.6%減少することがわかりました。

海外景気の急失速で日本の輸出や設備投資にも大きな打撃

一方、海外景気が急速に悪化している影響も日本経済の足を引っ張っています。日本の輸出や設備投資が、リーマン・ショック時並みに減少する可能性が強まっています。

4-6月期のGDP成長率には年率で17.2~42.4%ポイントの押し下げ圧力

以上の要因による4-6月期の日本のGDP成長率への下押し圧力を試算すると、「やや楽観シナリオ」でも年率で17.2%ポイント、「やや悲観シナリオ」では42.4%ポイントという試算結果となりました(下図参照)。「やや悲観シナリオ」は現在の市場での想定を大きく上回っていることから、日本の株価押し下げリスクとして注意していく必要があるでしょう。
(図表1)日本:コロナウイルス問題による4-6月期GDPの押し下げ幅についての試算
(図表1)FRBの総資産の推移
 ロックダウンや外出自粛の動きが世界的に拡大したことで、グローバル景気はこれまでにない速いスピードで悪化しています。こうしたなか、日本経済の先行きについては、1-3月期にマイナス成長を記録した後、緊急事態宣言が発出された4-6月期には前期比年率ベースでみた成長率がマイナス10%台後半にまで落ち込むという見方が一般的となっています。4月14日にIMFが公表した2020年通年でみた日本の経済成長率見通しはマイナス5.2%ですが、これは現在の市場の見方に近いと思われます。日本の株式市場では、こうした見方を前提にした株価が形成されていると考えられますが、この見方にリスクはないのでしょうか。実際には、短期的な景気見通しについての不確実性はかつてなく高まっており、これまでの分析手法を使って信頼度の高い経済予測をすることは困難です
 日本で現在進行している景気悪化には、①外出自粛によって民間消費が大きく落ち込んでいること、➁欧米をはじめとする世界の主要国での景気の急速に悪化に伴い、日本の輸出に大きな下押し圧力がかかっていること、➂先行きについての不透明感の強まりにより、企業の設備投資が悪影響を受けていること—という3つの特徴があります。以下では、これらの要因が日本の4-6月期のGDP成長率をどの程度下押しするかを検討したいと思います。
外出自粛によって日本の民間消費は12.2~16.6%減少
 まず、民間消費については、外出自粛の影響をみるため、家計調査とGDP統計の詳細データを用いて、消費全体を外出自粛でも減らない項目(消費全体の76.9%を占めます;食料費や住居費、自動車保険、帰属家賃などを含む)、外出自粛である程度減少する項目(同5.6%;茶わんなどの家事雑貨費、書籍費、身の回り用品費などを含む)、外出自粛で大きく減少する項目(同17.5%;被服・履物費、パック旅行費、外食費などを含む)の3つに分類しました。これらのそれぞれについて、外出自粛時の消費減少率についての前提を置き、ケース1(影響が小さめのケース)とケース2(影響が大きめのケース)の2つのケースについてベースラインからの民間消費の減少率について試算してみました。結果は図表2の通りですが、外出自粛による民間消費減少率はケース1では12.2%、ケース2では16.6%であり、かなり大幅な減少を覚悟する必要があります
海外景気の急失速で日本の輸出や設備投資にも大きな打撃
 次に、輸出や民間設備投資については、海外の景気が大きく悪化した際にこれらの需要項目がどう反応したかを知るうえで最も参考になるのが、リーマン・ショック時の経験でしょう。日本はリーマン・ショックの震源地ではなかったにもかかわらず、主要先進国の中ではその悪影響を最も強く受けた国でした。日本の場合、リーマン・ショック直前の四半期ベースでみたピーク(2018年1-3月期)からショック後のボトム(2019年1-3月期)をつけるまでのGDPの累積下落率は8.6%に達しました。これに対して、震源地である米国では下落率は4.0%にとどまりました(図表3)。日本のGDPが大きく落ち込んだのは、輸出の減少率が36.2%と、米国(13.8%)、ドイツ(18.3%)と比べてはるかに大きかったためです。日本は輸出のなかでも資本財や自動車関連の輸出を得意としていますが、グローバルに先行きが不透明になったことでこれらの需要がその他の消費財に比べて大きく減少し、日本全体の輸出の大幅な減少につながりました(図表4)。
(図表2)外出自粛による民間消費への影響についての試算
(図表3)リーマンショック時のGDP・輸出の落ち込み率についての主要国先進国比較、(図表4)日本の分野別実質輸出の推移
 リーマン・ショック当時のGDPの落ち込みを、直前のピークをつけた2018年1-3月期からの累積変化率でみると、ボトムをつけた2019年1-3月期までの1年間のGDPの落ち込みに最も寄与したのが輸出であったことがわかります(図表5)。輸出減少のGDPの落ち込みに対する寄与度は5.8%に達しました。現在の情勢に目を戻すと、今回のコロナウイルス感染拡大に伴う世界景気の悪化はリーマン・ショック時よりも深刻になると見込まれます。4月14日にIMF(国際通貨基金)が公表した最新の経済成長率見通しによると、予想される今年の成長率は、米国がマイナス5.9%、ユーロ圏はマイナス7.5%、中国が1.2%です。リーマン・ショック時との違いは、ロックダウンによる欧米の景気悪化が4-6月期に集中して起きる可能性が高い点です。リーマン・ショック時に1年程度を経て生じた変化と同様のマグニチュードの変化が、4-6月期という1四半期に生じるとすると、日本の輸出環境が4-6月期に急激に悪化してもおかしくありません。日本の設備投資についても、同様の状況になる可能性があります。日本ではリーマン・ショック時に設備投資が18.4%下落しました(図表6)。今回は、4-6月期だけで設備投資が同程度落ち込む可能性があります
(図表5)リーマンショック時における日本の実質GDPの累積変化率、(図表6)リーマンショック時における日本の実質GDPの主要項目別累積変化率
4-6月期のGDP成長率には年率で17.2%~42.4%ポイントの押し下げ圧力
 以上の考察を踏まえて、4-6月期のGDPが、民間消費、輸出、設備投資の落ち込みによってどの程度押し下げられるかを「やや楽観シナリオ」と「やや悲観シナリオ」に分けて試算してみたいと思います。まず、「やや楽観シナリオ」として、政府による緊急事態宣言の効力が5月6日で終了する場合を考えます(図表1および2)。この場合、4月中は上記のケース1の状況が続き、5月にはその影響が半減、続く6月には民間消費が正常化するとすると、4-6月期における民間消費の前期比変化率は-2.1%となります。一方、輸出および設備投資については、リーマン・ショック時の累積減少率の半分程度落ち込むと仮定します。これらの仮定を置く場合、「やや楽観シナリオ」では、民間消費、輸出、民間設備投資の落ち込みにより、4-6月期の実質GDPが前期比年率で17.2%ポイント押し下げられると試算されました。これは現時点で多くのエコノミストが想定している程度の落ち込み幅であると言えます。
 他方、「やや悲観シナリオ」では、政府による緊急事態宣言が延長され、5月中まで現状通りの外出自粛が続く場合を考えます。4~5月中はケース2の状況が続き、6月になってようやくその悪影響が半減されると仮定すると、4-6月期における民間消費の前期比変化率は-10.8%となります。一方、輸出・設備投資についても、リーマン・ショック時の累積下落率と同程度減少するとの前提をおきました。この「やや悲観シナリオ」の場合では、4-6月期の実質GDPが前期比年率で42.4%ポイント押し下げられるとの試算結果となりました
 実際の4-6月期の日本の成長率がこのどちらのシナリオに近くなるかは現時点では予断を許しませんが、①日本国内のコロナウイルスの新規感染者数が足元まで比較的高水準で推移していること、➁欧米景気についての金融市場の見通しが直近まで引き下られ続けていること―を踏まえると、「やや悲観シナリオ」が実現する可能性は徐々に高まっていると判断できます。日本の景気が短期的に想定以上に悪化する可能性は、今後の日本株式市場をみるうえでのリスク要因として要注意です

ご利用上のご注意

当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。

MC2020-054

そのほかの投資関連情報はこちらをご覧ください。https://www.invesco.com/jp/ja/institutional/insights.html