グローバル・ビュー

米国大統領選挙の行方と金融市場

Invesco Mountain

要旨

バイデン氏がリードを維持

米国大統領選挙は終盤に入りました。獲得が予想される選挙人数を州別に見通すと、バイデン氏がトランプ氏をリードしている状況です。副大統領候補の選定やテレビ討論会が今後の鍵です。

黒人層や若年層による投票率の上昇が民主党に有利に働きやすい

私は、今回の米大統領選挙情勢を考えるうえで、トランプ政権下で実施された前回の中間選挙での投票率の変化から重要な示唆が得られると考えています。2018年の中間選挙では、黒人層や比較的若い世代の投票率が上昇し、中間選挙での民主党の躍進につながりました。これらの層の政治的意識がジョージ・フロイド事件をきっかけに直近でさらに高まっている点は、2020年選挙において民主党に有利に働くと考えられます。

バイデン氏当選の場合の政策や金融市場への影響は?

現時点で最も可能性が高いとみられるのが、民主党完勝シナリオ、すなわち、バイデン氏が大統領選挙で勝利し、上下両院でも民主党が多数党に選出されるシナリオです。バイデン氏が勝利すれば配当やキャピタルゲイン税への課税強化が実施され、株式市場にマイナスに作用するとの評価もあります。しかし、就任時点ではまだ景気が回復途上にあるとみられる点を踏まえると、就任後すぐに増税が実施されるとは限らず、過度に懸念する必要はないでしょう。米国株式市場では、①バイデン氏当選の場合に増税の可能性が高まること、②トランプ氏当選の場合は米中関係がさらに悪化する公算が大きいこと、という認識の下、どちらの候補が当選しても市場への影響には大差がないという見方が強まっています。一方、米国債券市場では、「大きな政府」を志向するバイデン氏の勝利が財政赤字拡大懸念を強め、長期金利の上昇材料となる可能性は否定できません。しかし、現状ではFRB(米連邦準備理事会)が量的緩和策によって長期金利の上昇を抑制していることから、選挙動向による影響は限定的であるとみられます。
バイデン氏がリードを維持
 米国大統領選挙戦は、11月3日の投票日まで3カ月弱となり、終盤に入りました。直近で実施された全国規模の主要世論調査では、バイデン氏がトランプ氏を6~10%ポイント程度リードしています。2016年の前回選挙では獲得投票数でトランプ氏を上回ったクリントン氏が敗北したことから明らかなように、米大統領選挙で重要なのは州ごとの結果です(原則として「総取り方式」で行われるため)。CNNによる最新の分析では、今回の大統領選挙でバイデン氏が有利とみられる州の選挙人数は268人と、大統領選挙に勝利するために必要な選挙人数(270人)まであと2人に迫っています(図表1)。
 仮にCNNの分析が正しいとすれば、バイデン氏は激戦州であるフロリダ州、オハイオ州、ジョージア州、ノースカロライナ州、ウィスコンシン州、アリゾナ州の6州のうち、1州でも追加で獲得すれば、大統領に選出されることになります。直近の世論調査では、これら6州のうち、オハイオ州を除く5州でバイデン氏がリードしていますので、現時点ではバイデン氏がかなり優勢であると言えるでしょう
 もちろん、実際の選挙まではまだ3カ月弱あり、その間には副大統領候補の指名や大統領候補によるテレビ討論会など選挙関連の重要イベントがあり、まだバイデン氏が確実に勝利を収める状況とは言えません。77歳と比較的高齢のバイデン氏にとっては、いつ大統領になってもおかしくない資質を有する副大統領候補を選ぶことが選挙戦での勝利の近道になるでしょうし、テレビ討論会でトランプ氏と少なくとも互角に闘ったという印象を有権者にもたらすことが重要になると思われます。
(図表1)2020年米大統領選挙の州別情勢(大統領選挙人数で比例配分した地図)
 
黒人層や若年層による投票率の上昇が民主党に有利に働きやすい
 2020年の大統領選挙では、投票率が選挙の結果を左右する大きな要素になるとみられます。2016年の前回大統領選挙を振り返ると、「大学を卒業していない白人有権者層」の投票率が上昇したことが、激戦州においてトランプ氏が勝利するうえで有利に働きました。また、オバマ氏が候補であった2012年選挙に比べて、黒人の投票率が低下したこともトランプ氏に有利に作用したとみられます。私は、今回の大統領選挙情勢を考えるうえで、トランプ政権下で実施された前回の中間選挙での投票率の変化から重要な示唆が得られると考えています。2018年中間選挙での投票率は53.4%と、2012年中間選挙時の41.9%から大きく上昇しました。上昇が最も顕著であったのは、年齢階層別では18-29歳であり、人種別では黒人でした。出口調査によって2018年選挙時の投票行動をみると、18-29歳有権者の民主党候補支持率は64%、黒人有権者の民主党候補支持率は90%でした。米国では今年5月25日に発生したジョージ・フロイド事件(黒人男性が警官の不適切な拘束方法によって死亡させられた事件)をきっかけに黒人や比較的若い世代の政治的意識が高まっていることを踏まえると、2020年選挙でもこれらの層の投票率は高水準になるとみられ、民主党候補に有利に働くと考えられます。
(図表2)米国連邦選挙における投票率
(図表3)2018年議会選挙における投票行動(出口調査等による)
バイデン氏当選の場合の政策や金融市場への影響は?
 直近の世論調査等によれば、2020年米国議会選挙では民主党が下院での過半数の議席を維持する勢いであるだけではなく、上院でも過半数を奪還する可能性が高まっています。それを踏まえて、大統領選挙の結果も含めた主要なシナリオごとに米国の政策の方向性を考えてみたいと思います。
 現時点で最も可能性が高いのが、民主党完勝シナリオ、すなわち、バイデン氏が大統領選挙で勝利し、上下両院でも民主党が多数党となるシナリオです(図表4の①)。このシナリオでは、バイデン氏がその公約通りに政策を実現できる可能性が高まります。バイデン政権はインフラや住宅、環境関連の投資支出に注力するなど、「大きな政府」を志向しています。一方、公約で示した配当・キャピタルゲインへの増税、高額所得者への所得税増税については、経済状況や財務長官の考え方次第ですが、就任時点ではコロナ危機が完全に終息してない可能性が高いことから、バイデン政権は早期の増税実施に対して慎重になる可能性があります。他方、外交政策面では対中強硬策の継続が見込まれるものの、議会とのコンセンサスをより重視する姿勢に変化すると考えられます。また、欧州や日本などの同盟国との協調を重視する外交が復活する公算が大きいと考えられます。
 一方、バイデン氏が当選するものの、上院では共和党が引き続き多数党を確保するシナリオ(③)では、共和党の反対により大規模な増税は実現せず、財政面での動きはインフラ投資支出など共和党がサポートできる範囲に限定されるとみられます。
 他方、トランプ氏が再選される場合は、民主党が下院での多数を維持する限り、大統領府と議会が別の政党に支配されるという「ねじれ」が続くことになります(シナリオ②)。このシナリオでは、トランプ大統領が主張する減税法案の成立は困難であり、財政面では両党が共に主張するインフラ投資の増加を目指す展開が予想されます。内政面での成果が上げにくい中、トランプ政権は外交面での対中強硬路線をさらに推進する可能性が高いとみられます。
 米国株式市場では、①バイデン氏当選の場合に増税の可能性が高まること、②トランプ氏当選の場合は米中関係がさらに悪化する公算が大きいこと、という認識の下、どちらの候補が当選しても市場への影響には大差がないという見方が強まっています。ただし、今後バイデン候補が支持率の点で現在のリードを保っていけば、住宅や金融、建設、環境関連の銘柄には資金が集まりやすい展開となるでしょう。その一方でバイデン氏当選の場合にはヘルスケア関連企業やテック企業への規制強化策導入の可能性が織り込まれていく可能性があり、注意が必要です。一方、米国債券市場では、「大きな政府」を志向するバイデン氏の勝利が財政赤字拡大懸念を強め、長期金利の上昇材料となる可能性は否定できません。しかし、現状ではFRB(米連邦準備理事会)が量的緩和策によって長期金利の上昇を抑制していることから、選挙動向による影響は限定的であるとみられます。
(図表4)2020年米国大統領・議会選挙結果別にみた政策シナリオ

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MC2020-117

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