グローバル・ビュー
一部新興国市場は「売られ過ぎ」の領域に
要旨
対新興国通貨ではドル独歩高の是正は進まず
2月下旬以降に進行したドル独歩高是正の動きは対先進国通貨では進んだものの、新興国通貨はいっそうの下落に直面しています。今週に入ってからも、原油価格の下落や世界景気への懸念の強まりによって新興国通貨安が継続しています。
一部新興国市場は「売られ過ぎ」の領域に
年初来でみた新興国通貨の対ドルでの下落率は、ブラジルレアルで13.2%、ロシアルーブルで13.1%に達しました。新興国景気に逆風が強まっていることで、新興国の株式市場でも下落の動きが強まってきています。ブラジルやロシア、タイなど一部新興国でのドルベース株価指数は年初来20%超下落しており、中長期のスタンスで投資する投資家には投資機会が訪れています。
政策対応に注目
米国では3月9日から財政政策対応の動きが表面化してきました。今後、日米欧での政策対応が強化される可能性が高いと考えられます。また、中国の財政政策やロシア・OPEC間の協調減産を巡る新たな動きが見られれば金融市場安定化材料となりえます。
対新興国通貨ではドル独歩高の是正は進まず
「逆オイルショック」と欧米でのコロナウィルス感染拡大という新たな現実は、週明けからのグローバル金融市場に大きな調整を迫りました。株式・債券・為替市場の動きの背景については、弊社で昨日発行した緊急レポート「グローバル金融市場に激震」で触れた通りですが、本稿では、金融市場の動揺がとりわけ大きかった新興国市場について考察してみたいと思います。新興国といっても国・経済によって多様ですが、新型コロナウィルス問題が深刻化する過程で、①中国からの訪問者減少、➁中国景気の減速見通しの強まりとそれに伴う輸出減少・資源価格の下落、➂当該新興国における新型肺炎の拡大―などを通じた悪影響が多くの新興国に及びました(図表2)。特に、欧米での感染拡大が限定的であった2月21日までは、ドルの独歩高が進行する中で、これらの悪影響が及ぶとみられた国・経済の通貨は大きく売られる展開となりました(図表1を参照)。
2月24日以降は米国内での感染が拡大し、米国だけがコロナウィルス問題に無傷ではいられないとの認識が広がり、対先進国通貨ではドル高が是正に向かいました。FRB(米連邦準備理事会)が緊急利下げを実施したこともドル安材料となりました。しかし、資金が戻ったのは先進国だけであり、 欧米での需要減速に伴う輸出減速やドル建て債務返済負担の高まりという脆弱性が認知されやすい新興国からはさらに資金流出が続きました。こうした状況下、(1)先週末にサウジアラビアが原油の増産を決めたことで原油価格が大幅に下落したこと、(2)欧州での感染拡大が世界景気の見通しに影を落とすとの認識が広まったこと―をきっかけに資源国を中心とする新興国の通貨が対ドルでさらに下落する事態となっています。
一部新興国市場は「売られ過ぎ」の領域に
こうした一連の動きの結果として、年初来でみた新興国通貨の対ドルでの下落率は、ブラジルレアルで13.2%、ロシアルーブルで13.1%、南アフリカランドで12.2%に達しました。こうした中、年初以降、既に下落していた多くの主要新興国通貨が対ドルでさらに下落しました(図表1)。また、新興国景気に逆風が強まっていることで、新興国の株式市場でも下落の動きが強まってきています。通貨安と株安が重なったことで、主要新興国のドル建てでみた株価指数は、ロシア・RTS指数(年初来の3月10日までの下落率は38.6%)、 ブラジル・ボベスパ指数(30.8%)において30%を超えており、南アフリカ・TOP40指数(23.5%)、タイ・SET指数(23.3%)、インドネシア・ジャカルタ総合指数(19.9%)も大き下落しました。いずれコロナウィルス問題が終息することを前提とし、経済的ファンダメンタルズ(基礎的条件)を踏まえると、これら新興国資産は「売られ過ぎ」の領域に入っていると考えられます(図表3)。投資スタンスが中長期の投資家にとっては投資機会が訪れていると言えるでしょう。
金融市場では欧米市場の動揺に注目が集まりがちですが、新興国通貨の下落により多くの新興国で事業展開を行っている日米欧企業の自国通貨建てでの利益が損なわれるため、短期的に業績へのマイナス影響が顕在化する可能性にも注意を払う必要があると考えられます。
政策対応に注目
金融市場を左右する材料として今後短期的に注目されるのは、各国の財政・金融当局による政策対応です。米国では、トランプ政権がコロナウィルスの感染拡大で打撃を受けた産業への救済措置を含む対策を検討中と発表し、そのニュースは3月10日に金融市場が落ち着きを取り戻す材料となりました。ただ、大統領選挙を控えて党派的な対立が深まりやすくなっていることから、大規模な対策が実施されると楽観的に考えるべきではないでしょう。米国の場合、注目されるのはやはりFRBによる金融緩和策の動きです。3月17-18日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)会合で追加利下げが実施される公算が大きく、今後株価動向等によっては、25bp(ベーシスポイント)ではなく、50bpの利下げも想定できます。
欧州ではEU(欧州連合)による厳しい財政ルールが存在することから財政面での政策には限界がありますが、新型コロナウィルスの感染拡大で公衆衛生上の危機を迎える中、各国の合意によって比較的大きな規模の対策が実施されるならば、株価へのプラス材料になるとみられます。3月12日に開催されるECB(欧州中央銀行)会合で利下げが打ち出されるかどうかは別にして、長期資金供給オペを充実するなど一定の措置が採られる可能性が高いとみられます。
日本については、財政面では既に大規模な経済対策の実施が決まっていることから景気対策の必要性は小さいものの、感染問題の深刻化で悪影響を受ける個人や企業に対する措置が導入される可能性が高いとみられます。日本銀行は3月17-18日の会合において、企業の資金繰りを支援するオペレーションの拡充や株式ETFの購入額を増やす等の措置を決める可能性が高いと考えられます。
中国の政策対応も忘れるわけにはいきません。本来、中国は3月5日開催予定であった全国人民代表大会(全人代)で2020年の財政政策を発表するはずでしたが、全人代の延期に伴って財政刺激策の公表も遅れています。ただ、1-3月期の景気が大幅な減速を余儀なくされることが確実な中、早期に政策を公表・実施する必要性が高まってきました。中国の習近平主席は3月10日にコロナウィルス問題が発生して初めて武漢を訪れましたが、国のトップが最も問題が深刻化した地域を訪れたことは、全人代が早期に北京で開催されることを示唆している可能性があります。中国から大型の経済政策パッケージが公表されば、世界の金融市場安定化に向けての大きな材料になるとみられます。
最後に、ロシアとOPEC(石油輸出国機構)が再び合意する可能性についても触れたいと思います。サウジアラビアが増産姿勢を打ち出したのは、そもそもロシアがOPECと減産で合意できなかったことを受けてのものでした。多くの関係者にとり、一連の出来事が原油価格の大幅な下落につながり、産油国の金融市場を揺るがしたことは想定外であったと思われます。今後、市場の安定化を目指してロシアとOPECが再び合意することがあれば、原油市場安定への期待が高まり、リスク資産に対してグローバルにプラス効果をもたらすとみられ、注目されます。
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