グローバル・ビュー

「新しい生活様式」の経済的インパクト

Invesco Mountain

要旨

中国4月分統計が示唆するロックダウン緩和後の消費者行動

中国の4月分統計では、小売売上や宿泊・飲食・旅客交通関連のサービス需要が不振であったことがわかりましたが、これは多くの国がロックダウン・外出自粛措置緩和後に直面する状況を示唆していると考えられます。

「社会的距離の確保」と「換気」が鍵に

今後の「新しい生活様式」の下で鍵になるのが、「社会的距離の確保」と「換気」に対する企業や消費者のニーズの強まりです。短期的にはこれらのニーズを満たす施設は限定されるとみられるものの、今後は新規の設備投資などによってこうしたニーズを満たす施設(屋外施設を含む)が増加していくとみられます。消費者も、自家用車で屋外施設に外出するなど、新しい形での消費を増やしていく展開が予想されます。海外等への長距離移動を伴う旅行の回復度合いにもよりますが、今後1年後位には消費性向がコロナ前の水準に戻ると考えて良いのではないでしょうか。金融市場でも、「社会的距離の確保」と「換気」という新しいニーズに応えることができる企業の評価が上昇していくと考えられます。 
(図表1)中国:サービス業生産指数の推移
中国4月分統計が示唆するロックダウン緩和後の消費者行動
 欧米の先進国の多くではロックダウン措置が相次いで緩和されており、経済活動が再開し始めました。日本も例外ではなく、5月14日からは日本のGDPの50%程度を占める39県において緊急事態宣言が解除されました。早期のロックダウン措置緩和が感染拡大の長期化をもたらし、今後の景気の回復ペースを遅らせてしまう可能性が高い点という見方については当レポートの前週号「景気回復の緩慢化が視野に―ロックダウン早期解除の波紋」(2020年5月13日発行)でふれた通りですが、以下では、コロナウイルスとの闘いが長期化することが、消費者・企業行動やグローバル経済に対してどのようなインパクトをもたらすかについて考えてみたいと思います。
 ロックダウンや外出自粛措置の緩和で人々のコロナ以前の生活に戻るわけではなく、感染リスクを最大限に抑制するような生活様式への転換が生じつつあります。日本政府は、これを「新しい生活様式」として受け入れる必要性を呼びかけていますが、他の国々でも同様の事態が起きています。新しい生活様式の下で人々の経済活動がどう変わるかについて一つの示唆を得られるのが、ロックダウン解除後の中国の経済統計です。中国では、上海市などの主要諸都市において3月中旬ごろにはロックダウン措置が緩和されはじめ、感染が最もまん延した武漢市でも4月8日にはロックダウン措置が緩和され、新しいルールを守ったうえでの商店での買い物やレストランでの食事が可能になりました。
 4月の中国の鉱工業生産は前年比で3.9%と、昨年12月以来初めてプラスの伸びに転じたほか、都市部固定資産投資や輸出も前年比でプラスを記録しました。しかし、小売売上の4月の伸び率は-7.5%とマイナス圏にとどまり、モノの消費が依然として不振であったことがわかりました(図表2)。サービス消費については、それ自体としてのデータは存在しませんが、企業向けを含めたサービス業全体の生産指数の4月における前年同月比伸び率は-4.5%と、前年割れが続きました(図表1)。4月のサービス業生産指数伸び率を主要分野別にみると、運輸・倉庫・郵便業が-5.0%と低迷したほか、宿泊・飲食業は-33.7%と大幅に減少しました。ロックダウン措置が緩和されても、人々のリスク回避的な行動は継続しており、宿泊や飲食等のサービス消費が前年の水準を大幅に下回っていたことがわかります。一方、日次の統計により旅客交通量(航空機乗客数、高速道路通行台数、鉄道乗車数の3つを合わせたベース)をみると、5月中旬の段階でも、前年比での伸び率は-50%程度にとどまっています(図表3)。これらの結果は、今後多くの先進国においてロックダウン・外出自粛措置が緩和されたとしても、「新しい生活様式」の下で、小売、宿泊、飲食、旅客交通の需要が少なくともしばらくは低迷する可能性が高いことを示唆していると言えるでしょう。
(図表2)中国:小売売上の推移
「社会的距離の確保」と「換気」が鍵に
 「新しい生活様式」のインパクトが大きいのは、感染リスク抑制のため企業・消費者が行動を変化させ、経済の様々な面に影響を及ぼすためです。中国の経験からは、特に悪影響が大きいのは小売、宿泊、飲食、旅客交通の各産業であることがわかりますが、これらの産業では、需要の落ち込みに対して手をこまねいてみているわけではなく、「新しい生活様式」に合わせた対応を実施することで需要の獲得を目指す新たな動きが出てくると思われます。消費者もそうした供給サイドの変化に対して、消費パターンを徐々に変えていくことが想定されます。こうした行動変化は、コロナウイルスに有効なワクチンがほとんどの人々に接種されるか、有効な治療薬が素早く入手可能になるまで継続する可能性が高いと考えられます。
 「新しい生活様式」によって生じるとみられる具体的な変化は図表4にまとめた通りですが、小売などの店舗やサービス提供施設、オフィス、長距離旅客輸送など全ての施設に共通して生じるとみられるのが、「社会的距離の確保」と「換気」に対するニーズが強まるとみられる点です新規の設備投資などによってユーザーが満足する水準でこれらのニーズに応えることができる施設はコロナ時代を生き残ることができるとみられますが、全ての企業が必要な対応を行う資金力があるわけではなく、業界内での統廃合の動きが強まるとみられます
(図表4)「新しい生活様式」がもたらす変化—「社会的距離」と「換気」が課題に
 こうした動きは不動産市場にも変化をもたらすとみられます。商業用不動産市場では、安全面での懸念に加えて、オンラインでの購買が増加することもあり、商業用施設におけるテナントの単位面積当たりの収益性は低下し、賃料には下押し圧力がかかるとみられます。オフィス市場では、①景気の悪化と②シフト制による在宅勤務を常態化させる動きによる賃料下落圧力と、社会的距離確保のため従業員1人あたりのオフィススペースを増加させる動きによる賃料上昇圧力が共に生じるとみられます。当初は賃料下落圧力が上回って賃料が下落する可能性が高いとみられますが、事態が正常化するのに合わせて賃料が上昇に転じると考えられます。その一方、頻繁にオフィス内の空気を換気できる設備が整ったオフィスの賃料とそうでないオフィスの賃料の格差が広がることも想定できます。
 こうした中で民間消費は短期的には低迷する可能性が高いと考えられます。消費者は、感染リスクを強く意識し、短期的には、外食や旅行、スポーツ観戦等のサービス消費を減らすとみられます。自宅で過ごす時間が増加することに伴い、家具や家電製品、室内装飾品に対しては新たな需要が生じるとみられますが、こうした需要はサービス消費の減少分を補うには十分ではないでしょう。もっとも、時間の経過とともに、消費者の安全ニーズを満たす施設(屋外施設を含む)が増えてきます。消費者も新しい生活様式に慣れ、自家用車で屋外施設に外出するなど、新しい形での消費を増やしていく展開が予想されます。海外等への長距離移動を伴う旅行の回復度合いにもよりますが、今後1年後位には消費性向がコロナ前の水準に戻ると考えて良いのではないでしょうか。その後は、消費が所得の増加に合わせて拡大するという本来のトレンドに戻っていくと考えられます。金融市場でも、「社会的距離の確保」と「換気」という新しいニーズに応えることができる企業の評価が上昇していくと考えられます

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