グローバル・ビュー

米国株ラリーの背景と当面の注目点

Invesco Mountain
要旨
足元の米株高は業績の回復と積極財政への期待を反映

米国市場では、株式市場が過熱しているのではないかという懸念が一部で強まりつつあります。私は、足元での米国での株価上昇は、①直近での企業業績の予想外の回復、➁ワクチンの普及に伴う業績回復期待、➂バイデン政権による積極的財政策—を反映した部分が大きいと考えます。S&P500種指数の上昇率を1年先までの予想EPSとPER要因に分解してみると、米国株の過去数カ月間における上昇は、予想EPS、つまり業績見通しの上方修正によってけん引されたものでした。この意味では、株式市場は過熱していないとの見方が可能です。

1.9兆ドル規模の追加策が成立すれば株価のさらなる押し上げ材料に

金融市場では、追加対策の規模について、予算決議成立前の段階では1兆ドル程度の規模の法案成立が想定していたとみられますが、2月5日における予算決議の成立を受けて、より大規模なパッケージを想定されつつあります。現時点の株価には1.9兆ドル規模の対策の立法化はまだ織り込まれていないと考えられますが、今後、1.9兆ドル規模の法案が成立する可能性が高まる場合は、株価がさらに押し上げられる公算が大きいと言えます。

今後も業績改善が株価の支えに。追加景気対策や長期金利の動きに留意

米国市場では、これまでの株価上昇ペースが速かったことから、高値警戒感が存在しているのは事実であり、今後、短期的に株価の振れが大きくなりやすい点には注意が必要です。ただし、何らかの理由で株価が一時的に下落したとしても、追加的財政パッケージへの期待が高まる点や、労働コストの抑制で当面は業績が上振れしやすい点が株価をサポートする役割を果たすと考えられます。その一方で、米長期金利の急速な上昇は、株式市場での悲観論をもたらしやすいことから、リスク要因として注意が必要です。

足元の米株高は業績の回復と積極財政への期待を反映

 米国市場では、株式市場が過熱しているのではないかという懸念が一部で強まりつつあります。景気がコロナ禍からまだ回復していない中で、S&P500種指数の上昇率は、コロナ前の最高値を付けた2020年2月19日から直近(2月9日)までで15.5%を記録しました。同時期におけるNASDAQ総合指数の上昇率は42.7%に達しました。ゲームストップ株が個人投資家の売買がけん引する形で1月下旬に急騰したことも、市場の過熱に対する懸念を強めることになりました。

 米国株式市場は過熱しているのでしょうか。足元で生じているグローバル市場での株式ラリーは、規模や存在感の面で圧倒的である米国株式市場の動きが主導しているとみられることから、この問いは日本や欧州その他の市場の今後を考える上でも重要です。歴史を振り返れば、株式ラリーが過熱によるものかどうか、言い換えれば、株価がバブルかどうかは、往々にして事後的にしか明らかになりません。株価を測る物差しの一つであるPER(株価収益率)をみると、S&P500種指数の1年先までの業績予想を反映したPERは、2月8日時点では23.0倍(ブルームバーグ調べ)と、過去の長期レンジの上限付近にあり、その面からは株価は割安とは言えません。一方、FRB(米連邦準備理事会)が今後2~3年は事実上のゼロ金利政策を据え置き、企業の資金調達コストが今後中期的に抑制される可能性が高いことを踏まえると、株価は割高とは言えないでしょう。

 私は、足元での米国での株価上昇は、①直近での企業業績の予想外の回復、➁ワクチンの普及に伴う業績回復期待、➂バイデン政権による積極的財政策—を反映した部分が大きいと考えます。2020年10-12月期の企業業績は、これまでの公表分をみる限り、市場見通しを大きく上回っています(①)。2月5日時点でのRefinitivの調べによるとS&P500種指数採用銘柄の10-12月期利益は、これまでに公表された286社のうち83.6%で事前予想を上回っていました。これは、長期的な平均値である63.5%を大きく上回る水準でした。平均すると、利益は事前予想を17.7%上回っていました。ワクチンについては、ブルームバーグの調べによると、米国での直近までのワクチン接種回数は4314万回に達し、人口の10%が1回目のワクチン接種を、3%が2回目のワクチン接種を行いました(➁)。トランプ政権下で想定されていた接種ペースよりも遅れているとは言え、比較的順調に接種が進んでいる点が、景気回復と業績回復期待につながったと考えられます。

 ところで、株価は定義上、EPS×PERで表すことができます(PER=株価÷EPSであるため)が、この関係を使い、業績見通しの上方修正が株価にどのように効いたかをみるために、S&P500種指数の2019年末からの騰落率を、1年先までの予想EPS(ブルームバーグ調べによるボトムアップベース)の変化による寄与分と予想PERの変化による寄与分に分解してみました(図表1)。S&P500種指数、NASDAQ総合指数の両方について、昨年の年央にかけてはPERの上昇が株価の上昇に大きく寄与したものの、それ以降は予想EPSが株価上昇をけん引してきたことがわかります。つまり、米国株の過去数カ月間における上昇は、業績見通しの上方修正によってけん引されたものであり、その意味では株式市場は過熱していないとの見方が可能です

 一方、ワクチンの普及を背景とした景気回復に対する期待感の高まりは、昨年11月以降のバリュー株の上昇につながってきました(図表2)。ここで重要なのは、グロース株が売られてバリュー株が買われる形でバリュー株が上昇したのではなく、バリュー株もグロース株が共に上昇してきた点です。グロース株の中で存在感が大きかったのがテクノロジー銘柄ですが、コロナ禍でデジタルトランスフォーメーションに向けての需要が社会全体で拡大したことを反映して、テクノロジー銘柄の業績好調が続く見通しである点が、グロース株の上昇をもたらしたとみてよいでしょう。S&P500種指数採用銘柄中のIT業種のEPS増益率は、2020年に10.8%を確保する見通しですが、2021年についても14.5%という比較的高めの水準が見込まれます(Refinitiv調べ)。

 今後については、これから半年程度の間はワクチンに普及によってこれまで出遅れていたバリュー株の業績回復が目立つとみられ、それがバリュー株による対グロース株でのアウトパフォームにつながるとみられます。しかし、景気回復に伴う業績の循環的な回復のめどが立ち、株価に織り込まれた後は、再びグロース株への注目度が増すとみられます。この点を踏まえると、現段階ではグロース株を持たざるリスクも合わせて意識すべきでしょう

(図表1)米国株価上昇率の推移
(図表2)S&P500種指数
1.9兆ドル規模の追加策が成立すれば株価のさらなる押し上げ材料に

 バイデン米大統領が提案した1.9兆ドル規模の追加経済対策が成立に向けて大きく前進したことも米株上昇につながりました(上記の➂の要因)。追加経済対策を巡っては、バイデン政権は当初超党派による成立を目指したものの、歳出規模がGDPの9%程度という大規模な歳出法案に賛成することは多くの共和党議員にとって困難でした。このため、バイデン政権は、予算調整(Budget Reconciliation)プロセスを活用し、上院において野党共和党による議事妨害(Filibuster)を回避しながら法案成立を図るという議会戦略に切り替えました。予算調整プロセスにおいては、まず予算決議(Budget Resolution)を両院で成立させ、予算決議で示された金額の範囲内で予算調整法を成立させることで、追加経済対策を実施することができます。民主党は、1.9兆ドルの経済対策を盛り込んだ予算決議案を2月5日に両院で成立させ、このプロセスを前進させることができました。

 市場は、追加対策の規模については、予算決議成立前の段階では1兆ドル程度の規模のものの成立を想定していたとみられますが、予算決議の成立を受けて、より大規模なパッケージを想定しつつあると考えられます。民主党は、現行プログラムでの失業保険の追加給付が期限を迎える3月14日までに追加策を成立させたい意向です。今後、共和党の上院議員が結束して追加策に反対する公算が大きいことを踏まえると、予算調整法を成立させるには上院民主党内で1人も離反者を出さずに賛成する必要がありますが、これはそう簡単ではありません。このため、現時点の株価には1.9兆ドル規模の対策の立法化はまだ織り込まれていないと考えられます。その意味では、今後、1.9兆ドル規模の法案が実際に成立する可能性が高まる場合は、株価がさらに押し上られる公算が大きいと言えます

 

今後も業績改善が株価の支えに。追加景気対策や長期金利の動きに留意

 米国市場では、これまでの株価上昇ペースが速かったことから、高値警戒感が存在しているのは事実であり、今後、短期的に株価の振れが大きくなりやすい点には注意が必要です。S&P500種指数は1月下旬にいったん4%程度調整し、再び回復しましたが、米国において個人投資家の存在感が強まっていることを踏まえると、今後同程度かそれを上回る程度で株価が調整する可能性は否定できません。

 ただし、先に述べたように、追加的財政パッケージが成立するとの期待が高まることが株価には押し上げ圧力となります。また、企業業績についても、景気回復の初期段階では、労働コストが抑制されやすく、企業の利益が上振れしやすい(当レポートの1月27日号「米国企業の国内収益が予想外の早さで改善」をご参照ください)ことも業績改善に向けての追い風になるでしょう。Refinitivの集計によれば、S&P500種指数採用銘柄の2022年におけるEPS増益率は15.5%と、2021年の23.6%からは低下するものの、なお高い水準が見込まれています。何らかの理由で株価が一時的に下落したとしても、業績面でのしっかりとした改善の動きが株価をサポートすると考えられます

 マクロ的なリスクとしては、米長期金利の上昇に要注意です。私は、米10年国債利回りが今年末に1%台半ばにまで上昇する公算が大きいと見込んでおり(当レポート1月20日号「米長期金利を左右する4つの注目ポイント」をご参照ください)、長期金利が景気回復を反映してゆっくりと上昇するのであれば株式市場への悪影響は及びにくいと考えています。しかし、長期金利が急速に上昇する場合は、市場でのリスクオフ的な悲観論をもたらしやすいことから、株価に悪影響が及ぶ可能性が高まります

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