グローバル・ビュー
V字、U字、それともL字型?米国株価動向が鍵に
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要旨
コロナウィルス問題終息後の景気パターンはV字型ではなさそう
感染問題がグローバルに拡大したことで、感染終了後の世界経済がV字型回復に向かうとの希望は消え、景気のパターンはU字型かL字型になるという見方が大勢となってきました。景気パターンがどうなるかは、今後の金融市場の動きを左右しかねない問題です。
株価下落による負の資産効果で感染終息後の景気に影響が及ぶリスクには要注意
当社の試算では、S&P500株価指数が前年同期比で10%上昇(下落)する場合には、民間消費が0.42%増加(減少)する結果となりました。感染終息後に株価の戻りが遅い場合には、景気の回復が緩慢となるリスクがあります。
感染終息後に、新興国の景気回復が遅れるリスクも
新興国通貨が大幅に下落する場合、状況が改善しても通貨がすぐには戻らないことが多かったという過去の経験則を踏まえると、コロナウィルス感染問題が終息しても、これまでの新興国通貨下落が景気回復の妨げになるリスクがあります。

コロナウィルス問題終息後の景気パターンはV字型ではなさそう
コロナウィルスの感染問題が拡大し、景気への短期的な悪影響が深刻化する中、グローバル金融市場における投資家の多くが関心を寄せているのが、コロナウィルス問題がいつ終息するか、そして、終息した後に景気がどのように回復するか、という問題です。感染問題が中国およびその近隣地域で猛威を振るっている間は、終息までの期間は比較的短く、その後の景気回復はV字型になるという見方が一般的でした。しかし、感染が世界に拡大し、WHO(世界保健機関)がコロナウィルスをパンデミック(世界的な大流行)であると公表する状況になったことで、V字型回復への希望は消え、景気のパターンはU字型かL字型になるという見方が大勢となってきました。
トランプ米大統領は、3月16日の記者会見において、感染問題が今年の7~8月まで続く可能性があるとの認識を示しました。ただし、これは一つの見方であり、感染が終息するまでの期間は各国の医療体制や感染拡大防止に向けての措置等に影響されることから、現時点で見通しを正確に示すことは困難でしょう。しかし、終息後の景気パターンがどうなるかという点は、今後の金融市場の動きを左右しかねない重要な問題です。多くの金融市場参加者がU字型回復を見通す中で、感染問題終息後も景気が停滞するL字型のパターンとなるリスクが意識されつつあり、それが足元での金融市場の動揺を増幅していると考えられます。
主要各国の中央銀行は、コロナウィルス問題が企業の倒産増加等を通じて経済に長期的な悪影響をもたらすことを防止すべく、金融機関に対して潤沢な資金供給を進めています。3月17日にFRB(米連邦準備理事会)が導入を決めたコマーシャルペーパー(CP)を買入れる緊急措置もその一環です。各国政府も公的資金を活用して企業に資金繰り問題が生じないような対策を実施しつつあります。これらの対策が実施されることで、コロナウィルス問題をきっかけとして企業が連鎖倒産をする事態は回避できると見込まれます。また、各国における景気対策も、感染終息後の景気を支える役割を果たすと見込まれます。日本では、4月に取りまとめる緊急経済対策についての議論が活発化する一方、米国では3月17日にトランプ政権が総額1兆ドルという大規模な景気刺激策の検討を始めたことが明らかになりました。米国の場合は与野党間の考え方に隔たりがあり、大統領選挙を前にしにして与野党間の対立が先鋭化しやすいものの、コロナウィルス問題が国民全体の危機としてとらえられる状況となる中で、何らかの対策が実施される公算が大きくなっていると判断できます。それでも、①株価下落が負の資産効果を通じて景気を停滞させるリスク、➁新興国景気の回復が遅れるリスク、はなお残っており、こうしたリスクが顕在化することで感染問題終息後の景気回復の動きに水を差す可能性があることには注意が必要です。
株価下落による負の資産効果で感染終息後の景気に影響が及ぶリスクには要注意
まず、株価下落が負の資産効果を通じて景気を停滞させるリスク(①)については、これまで世界経済をけん引する役割を果たしてきた米国の消費への影響が重要です(図表1参照)。米国では個人金融資産に占める株式(ミューチュアル・ファンド等を通じた間接保有分を含む)の割合が2019年末時点で35.7%と高めであり、株価の変動による資産効果が大きいとみられます。2000年以降の民間消費と株価との関係について当社で回帰分析を行ってみると、S&P500株価指数が前年同期比で10%上昇(下落)する場合には、民間消費が0.42%増加(減少)するという試算結果となりました。S&P株価指数の3月16日現在の前年同期比下落率は15.5%ですので、これは民間消費を0.7%ポイント程度押し下げるマイナス効果があると試算されます。感染終息後に株価の戻りが遅い場合には、実体経済に対する比較的強いマイナス効果が顕在化するリスクがあります。
感染終息後に、新興国の景気回復が遅れるリスクも
一方、新興国景気の回復が遅れるリスク(➁)については、既に新興国通貨が対ドルで下落する中、過去の経験則に基づくと、下落した通貨が元の水準に戻るまでには比較的長い時間が必要です。通貨安が新興国にとって景気に悪影響をもたらしやすいことを踏まえると、新興国の景気回復には先進国以上の時間を要するとみられます。これは世界経済の回復ペースを遅らせる可能性につながります。特に、今年に入ってから下落している資源価格の回復に時間がかかる場合には、資源産出国の景気回復にも悪影響が及ぶ公算が大きくなります。今後の金融市場をみるうえでは、こうしたリスクについて注意を払っていくべきでしょう。
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