【臨時レポート】「ブルーウェーブ」の市場インパクト
ジョージア州選挙の結果が金融市場に影響するメカニズム
米ジョージア州で1月5日に実施された米国上院選挙の決選投票で、米主要メディアは民主党が2議席を獲得することが確実になったと報じました。民主党が、大統領府、上下両院の全てを制するという「ブルーウェーブ」が現実となることで、金融市場では次に挙げる3つのインパクトが生じると見込まれます。
第1は、バイデン新政権による財政政策がこれまで見込まれていたよりもやや積極化することで、米景気にプラス効果が及び、株価に上昇圧力がかかる点です。バイデン政権は、財政支出増加策を自由に成立させられるわけではありません。米上院では、どちらの政党も議事妨害(Filibuster)を行うことが可能で、これを防ぐには、60名の議員の賛成が必要です。ジョージア州選挙の結果として、上院では民主党会派が50議席、共和党が50議席を占める見通しであり、カマラ・ハリス副大統領が上院議長として1票を投じることができることで、民主党はかろうじて多数派の地位を獲得します。議事妨害を防ぐには、少なくとも10名の共和党上院議員の賛成を得る必要がありますが、これは容易ではありません。
それでも今回の選挙結果として財政政策がやや積極化すると見込まれるのは、緊急経済対策の審議においては、多数派の反対を押し切って共和党が反対を続けることが困難とみられるためです。民主党は、12月の経済対策で決まった1人当たり600ドルの給付金を2000ドルに引き上げる法案の成立を図るとみられます。共和党は上院指導部がこの法案に反対しているものの、多数党となる民主党が正式に提出した法案に議事妨害で対抗する場合、議事妨害を行う議員は次の選挙での印象が悪くなるでしょう。したがって、民主党としては、次の選挙で苦戦が予想される共和党議員を標的として、それらの議員の地元を利するプログラムを同じ法案に含めるなどの手段で懐柔できる可能性があります。こうした点を考慮すると、今後のコロナ問題の深刻さにもよりますが、バイデン政権は、就任後に5000億~1兆ドル規模の追加経済対策を成立させることができるとみられます。1人当たりの給付金を2000ドルに引き上げるプログラムに必要なコストは4640億ドルですが、追加経済対策のパッケージの中にはこれが含まれる可能性が高いとみられます。財政状況が悪化している州・地方政府を連邦政府が支援する政策が同パッケージに含まれるかどうかは予断を許しませんが、もし含まれるとすると、州・地方政府によるインフラ支出の減少を緩和する効果が見込めます。
もう一つ注目されるのは、2022財政年度(2021年10月~2022年9月)からは2011年予算管理法(Budget Control Act of 2011)で定められた裁量的支出(社会保障以外の全ての支出)に関する法定上限がなくなることです。これは、議事運営で主導権を握ることになる民主党が歳出額を増加させやすくなることを意味します。こうした状況下、大規模なインフラ計画を公約として掲げるバイデン政権は、ワシントンでの人脈を駆使することで超党派での合意を成立させられる可能性が出てきます。
やや積極化する財政政策の経済的なインパクトの試算としては、1人当たりの給付金を2000ドルに引き上げるプログラが立法化される場合、米国のGDPを1.4%ポイント程度押し上げる効果が見込まれます。
1月6日の米国金融市場では、ジョージア州の選挙結果が好感されてS&P500種株価指数が0.6%上昇しましたが、業種別にみると、金融株や素材等の景気敏感株が買われる一方、テクノロジー株が売られる結果となりました。私は、今後半年程度は市場の関心がテクノロジー株から景気敏感株を含むバリュー株にシフトすると考えていますが、今回の選挙を受けてその動きがやや強まる公算が大きいと考えています。
金融市場への第2のインパクトは、やや積極化する財政政策の結果として、米長期金利に上昇圧力がかかるとみられる点です。これまでは私は2021年末の米10年債利回りが1%を少し上回るところまで上昇すると見込んでいますが、今回の選挙を受けて、2021年末に米10年債利回りが1%台半ばまで上昇する可能性が高い、という見方に変更します。また、民主党が超党派的なアプローチによって大規模なインフラ投資計画を立法化させることができる場合は、米長期金利が1%台後半にまで上昇するシナリオも視野に入るでしょう。また、FRB(米連邦準備理事会)は現在のペースでの米国国債の購入を継続すると見込まれます。名目金利が上昇したとしても、それが景気回復に伴うインフレ期待の高まりを背景としたものであれば、実質長期金利が大きく上昇するわけではないため、FRBによる国債購入額の引き上げの可能性はそれほど高くないと思われます。
金融市場への第3のインパクトは、これまでのドル安の動きに歯止めがかかりやすくなる点です。米国財政の積極化に伴う恩恵はグローバルに広がるとみられますが、米国景気へのプラス効果は他国よりも大きいのは明らかであり、その結果として米国と他国の長期金利差がやや拡大することが見込まれます。私は、2021年前半には、昨年までのドル安傾向に歯止めがかかると考えてきましたが、今回の選挙によってその可能性が高まったとみています。
他方、今回の選挙をうけて、金融市場の不確実性が強まる点も見逃せません。米国の連邦予算の作成においては、税制とヘルスケア関連の予算を作成する際、予算調整(Budget Reconciliation)というプロセスを使うことにより、ネットでの増税となるような税制の変更について、上院での議事妨害を回避できるというルールがあります。これにより、民主党議員の支持だけで増税措置を講じることが可能です。コロナ禍による景気への悪影響が残る今年中にバイデン政権が増税を実施するとは思えませんが、株価が今後さらに大きく上昇するような場合には、配当・キャピタルゲインにかかる課税強化策や、高所得者向け増税策が検討される可能性があります。こうした事態が、株式などのリスク資産にはマイナス材料となる点には注意すべきでしょう。
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