Global markets in focus

ディベート:株式投資家にとって“米国例外主義”とは

ディベート:株式投資家にとって”米国例外主義”とは
〔要旨〕
  • 世界のパフォーマンス:長期にわたる米国のアウトパフォーム期間を経て、他の国々の経済、市場、通貨が米国にキャッチアップし始めると予想
  • 金融政策:ECBと中国人民銀行は大幅な金融緩和を開始したが、米国の金融政策はそれほど緩和的とはならないと予想
  • 財政出動:予算案を閣議了承したドイツを筆頭に、世界各国は防衛・インフラへの支出増を計画
“米国例外主義”をめぐる対話
 

7月4日の米独立記念日は、米国の現状を振り返る良い機会です。今年前半、米国株のパフォーマンスは英国株を下回り1、米ドルは3年ぶりの安値を記録し2、ドイツは防衛・インフラへの支出を通じて財政出動を主導しました。これらは総合的に、”米国例外主義”の持続可能性にどう影響するのでしょうか?

今週は、英国に拠点を置くベン・ジョーンズ(ディレクター・オブ・マクロ・リサーチ)と米国に拠点を置くブライアン・レビット(グローバル・マーケット・ストラテジスト)の両氏に、大西洋の両岸から意見交換してもらいました。

 

“米国例外主義”をめぐる対話

ベン(英国):(7月4日の)独立記念日は楽しく過ごせましたか?

ブライアン(米国):ありがとうございます。数世紀前に離れ離れになったとはいえ、大西洋の向こう側の友人からの言葉はいつだって嬉しいものですね。

ベン(英国):離れ離れになったかもしれませんが、今はどうでしょう。数字の上では同じようなところにきて、再会しつつあると言えるかもしれません。

ブライアン(米国):美しい友情ですね。今年は英国にとって嬉しい年でしょう。S&P500種指数(米ドル建)が年初来6.20%の上昇なのに対し、MSCI英国指数(米ドル建)は年初来で19.26%上昇していますからね1

ベン(英国):まあそんなところです。英国が米国を抑えて正当な地位を取り戻したのを見るのは嬉しいものです。しかし、英国の投資家として自分のポートフォリオを見てみると、2025年上半期のMSCI英国指数(英ポンド建)の上昇率は9.00%に過ぎず、S&P500種指数(英ポンド建)のポジションでは3.05%の損失を被っています3。これは、株式ポジションの為替ヘッジを行っていない前提で、2025年上半期の終わりに米ドルが3年ぶりの安値を記録したこと、また2025年上半期に英ポンドが対米ドルで9.72%上昇したことが原因です2

ブライアン(米国):だからあなたは私よりも、“米国例外主義”の終焉の可能性に注目しているのかもしれませんね。物の見方は、しばしば自身の状況にも左右されますからね。

ベン(英国):感じていることこそがまさに現実です。特に今年上半期の政治的不確実性と米国市場のボラティリティに鑑みれば、S&P 500種指数(米ドル建)が年初来で6.20%上昇したのは、それだけで御の字と思われているのではないでしょうか。

ブライアン(米国):まあ、過去2年連続で25%を超える年間リターンを記録していますからね。それ自体もまだ例外的な水準だと思いますが。「米国例外主義の終焉」というのは何を指されていますか?

ベン(英国):私は「米国例外主義」という表現はあまり好きではありません。今起きていることをしっかり表すには、あまりにも粗い表現だからです。米国株式市場は今年、輝きを一部失ったと思いますが、そもそも2025年に向けた期待が過度に高すぎたと考えています。しかし、米国株が絶対値で下落するとの確信はありません。むしろその他の国々の市場が、米国をアウトパフォームしていくと考えています。これらの市場が、当初の低い予想を上回るパフォーマンスを示し始めているためです。ただし米ドルは、さらに低下していくだろうと強く考えています。

とはいえ、米国は依然として居住し、仕事をし、訪れるのに素晴らしい場所であり続けると私は確信しています。最近テキサスに行きましたが、バーベキューが素晴らしかったです。

ブライアン(米国):私も同じように考えていました。過去2ヶ月間、米国株・債券が上昇したにもかかわらず、見方を維持されていますね5

ベン(英国):はい、私の見方は変わっていません。ご承知の通り、市場は直線的には動きません。私の予想は、長期にわたる米国のアウトパフォーム期間を経て、他の国々の経済、市場、通貨が米国にキャッチアップし始めるというものです。そしてその道のりは、紆余曲折に満ちたバンピー(でこぼこ)なものになると考えられます。

ブライアン(米国):そのような見方は米国に拠点を置く投資家にとってはお馴染みの話ですが、それが2025年上半期にようやく現実に見られ始めたということです。これは、「壊れて動かなくなった時計でも1日2回は正しい時刻を指す」という類の話に過ぎないのか、あるいはより持続的な現象なのでしょうか?

ベン(英国):私は、より持続的な現象となると考えています。これは主に、米国の成長が世界の他の国々に比べて鈍化し、世界の他の国々の成長が予想を上回る可能性があるとの見方によって牽引されています。

ブライアン(米国):米連邦準備理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長でさえ、トランプ政権の課した関税さえなければ、FRB は利下げを行うだろうと示唆しました。

ベン(英国):恐らくそうでしょうね。私はFRB が 2025 年に利下げを行わないとの見方ですがその見方に確信が持てないことも事実です。今のところその見方を維持していますが、労働市場データが悪化した場合は見方を変えるでしょう。独断的な見方に捉われているわけではありませんが、今のところ私は、米国の金融政策は、本来そうあった可能性があるほどには緩和的にならないだろうとの見方を維持しています。しかし、欧州中央銀行(ECB)や中国人民銀行を含む他の中央銀行は、既に大幅な金融緩和を開始しています。

より重要かつ見落とされているのは、ドイツを始めとする世界のその他の国々が動きを見せ、防衛・インフラへの支出を増やしつつあるという点です。先週、ドイツ連邦政府は2025年の予算案を閣議了承しました。今年、防衛とインフラに2000億ユーロ以上を投資する計画で、対国内総生産(GDP)比3%を超える新規債務の追加発行を予定しています。これは国債発行の大幅な増加を意味します。

ブライアン(米国):伝統的に緊縮財政をとってきたドイツにおける財政出動、すごいですね!世界金融危機やパンデミックの時に行われていれば、より役立ったかもしれません。

ベン(英国):そうですね、しかし当時は行われませんでした。米国はそれらの期間中、財政出動を通じて強力に成長を支え、これが“米国例外主義”の維持に役立ちました。現在、財政的モメンタムはドイツから来ています。2025年は歴史に刻まれる年になるでしょう。

ブライアン(米国):それと同時に、米国以外の市場のバリュエーションはより魅力的になっていますね6

ベン(英国):その通りです。私はまた、米ドルが主要な貿易相手国の通貨に比べて過大評価されていると考えています。下落の余地はさらにあるでしょう。

ブライアン(米国):米ドルの下落を牽引している要因は何ですか?外国人投資家の米ドル資産からの資金逃避が原因のようには思われませんが。

ベン(英国):はい、私の見る限り、そのような資金逃避は確認できていません。米国金融資産への信頼は揺らいでいますが、完全な信頼喪失が見られているわけではありません。どちらかというと私の見立てでは、米ドルの下落は外国人投資家が大きな米ドル建てポジションを分散したいと考えていることを反映しており、一部はそれらのポジションをヘッジする選択をすると考えられます。現時点では、上場投資信託(ETF)の資金フローなどから、米国資産の大量売却を示す証拠が多く見られているわけではありません。むしろ、米国以外からの新たな資金が米国以外の市場に流入している状況だと考えられます。米国市場に対する「他に選択肢はない(TINA:There Is No Alternative)」との見方は薄れつつあります。TINAは転換期を迎えています。

ブライアン(米国):外国人投資家が米国資産への信頼を完全に失うシナリオは考えられますか?

ベン(英国):想像はできますが、そのためには米国に対する信頼が大幅に低下する必要があります。疑問は投げかけられていますが、まだその段階には至っていません。米国の金融政策の独立性が機能すると信じなければならないと思います。

ブライアン(米国):それでは、FRB の独立性が今後も維持されることを期待しましょう。

ベン(英国):その通りです。あなたはどうか分かりませんが、私はパウエル議長の立場にはなりたくありませんね。

ブライアン(米国):“米国例外主義”の終焉とは、米国以外の株式、債券、通貨にも分散投資を行うべきとの考え方のように聞こえます。

ベン(英国):そうです。米国は、他の多くの国々とは一線を画す独自の資質を有し続けるでしょう。私は今後も引き続き、革新的な米国企業に投資し、米国の文化に触れ、できるだけ頻繁に米国を訪れるつもりです。私はシンプルに、米国外の資産へのエクスポージャーを増やし、そのポジションを維持していきたいと考えています。そして全く初めてとなりますが、通貨のエクスポージャーをヘッジしています。

ブライアン(米国):私たちの間でこの点をはっきりさせることができて、良かったです。

ベン(英国):私もそう思います。

ブライアン(米国):“米国例外主義”が衰退しているか否かに関わらず、変わらないことが1つあります:大西洋の両側を挟んだ対話の不朽の力強さです。

  • 1.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年6月30日、MSCI英国、米国トータルリターン指数(米ドル)の年初来リターン(+19.26%)及びS&P500種指数の年初来リターン(+6.20%)に基づく

  • 2.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年6月30日、貿易加重通貨バスケットに対する米ドルの価値を測定する米ドル指数に基づく

  • 3.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年6月30日、2024年12月31日から2025年6月30日までのS&P 500種指数の米ドルから英ポンドへの換算後のリターンに基づく

  • 4.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年6月30日、S&P 500種指数はそれぞれ2023年に26.79%、2024年に25.73%の利回りを記録

  • 5.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年6月30日。2025年5月初からのS&P 500種指数のリターン(+11.70%)とブルームバーグ米国債指数のリターン(+0.21%)に基づく

  • 6.

    出所:ブルームバーグL.P.、2025年6月30日、S&P 500種指数の過去12ヶ月間収益に対する株価収益率(26.3倍)と米国を除いたMSCIオール・カントリー・ワールド指数(ACWI)の過去12ヶ月間収益に対する株価収益率(16.9倍)に基づく

当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。

MC2025-076