転換点を迎えるグローバル株式市場

要旨
米中暫定合意で米景気の後退懸念が和らぐ
5月12日に米中間で追加関税についての暫定合意が締結されました。これにより、追加関税のインフレ押上げ効果を通じた米国景気への減速圧力は抑制されることから、米国が今後景気後退に陥る可能性はかなり低下したと考えられます。これをふまえると、私は、今回の米中による暫定合意が、グローバル株式市場にとっての転換点となる可能性が高いとみています。
株価が大きく下落するリスクが低下―短期的にはリスクオンの公算
グローバル株式市場では、下値不安感が和らぐ中で、短期的にリスクオンの展開になる可能性が高いと見込まれます。ただ、今後、米国の景気減速を示唆するハードデータやトランプ政権による分野別の追加関税率が公表されるであろうことなどをふまえると、株価が今週にみられたようなペースでの上昇を続ける可能性は小さいとみられます。
3つのサポート材料
それでも、グローバル株式市場では、今後、通商ディールの進捗やFRBによる利下げ、各国による財政出動策が視野に入ることで、トランプ政権の関税政策が想定外に強硬にならない限りは、株価の大幅な下落が回避され、今年後半には株式市場における前向きの動きが強まる公算が大きいと見込まれます。
米中暫定合意で米景気の後退懸念が和らぐ
5月12日に米国と中国との間で追加関税の引き下げについての暫定合意が締結され、5月14日から90日間にわたって双方の相互関税率が115%ポイント引き下げられることで、米国が中国からの輸入品に課す追加関税率が30%に引き下げられました。90日経過後は両国が互いに課す追加関税率がそれぞれ24%ポイント引き上げられますが、90日間に実施される両国の協議で合意が成立する場合には、追加的な引き上げは回避されます。私は、今回の米中による暫定合意が、グローバル株式市場にとっての転換点となる可能性が高いとみています。
それは、今回の米中合意によって、米国が景気後退に陥るリスクがかなり低下すると見込まれるためです。トランプ政権は4月9日に相互関税措置の90日延期を決めた後、関税政策面で柔軟な対応をみせてきました。これらの措置に加えて、今回、中国との間で暫定合意が成立したことで、トランプ政権が今後の多くの国・地域との通商交渉でも柔軟に対応するとの見方が台頭しています。追加関税の総額について試算すると、(1)米国が中国以外の主要国とのディールを成功させ、10%のベースレートを超える相互関税が適用されない、(2)自動車や半導体などの分野別の関税率が25%に設定される、(3)中国からの輸入品への追加関税率が145%で維持される、という前提を置くと、米国が課す追加関税額は年間で9,480億ドルに達します。これは2024年における米国のGDPの3.2%に相当し(図表1のケース2をご覧ください)、輸出国側の企業が関税コストの一部を負担したとしても、米国には関税の増加を通じたかなりのインフレ圧力が生じます。一方、同じ前提の下で中国向けの追加関税率が30%まで引き下げられる場合には、米国が徴収する追加関税総額は6,368億ドルに減額され、そのGDP比は2.2%に低下します(図表1のケース3に該当します)。米中間の追加関税について今回の合意に基づく水準が維持されるのであれば、追加関税のインフレ押上げ効果を通じた米国景気への減速圧力は抑制され、米国が今後景気後退に陥る可能性がかなり低下したと考えてよいでしょう。

株価が大きく下落するリスクが低下―短期的にはリスクオンの公算
米中の暫定合意後、直近(5月14日)までに米国株式市場ではS&P500種指数が4.1%上昇しました。これにより、S&P500種指数の年初来での騰落率は、プラス圏を回復したことになります。S&P500種指数の業種別の動きをみると(図表2)、米中合意後の株式市場では、景気後退に対する警戒感が大きく和らいだことで、一般消費財・サービス分野やエネルギー分野、資本財・サービス分野の株価が比較的大きく上昇しました。これまで出遅れ感のあったテクノロジー関連分野の株価もリバウンドしました。米中間の緊張緩和は米国以外のグローバル株式市場でも前向きの動きをもたらしています。

グローバル株式市場では、下値不安感が和らぐ中で、短期的にリスクオンの展開になる可能性が高いと見込まれます。ただ、今後、以下の3つの理由から、株価が今週にみられたようなペースでの上昇を続ける可能性は小さいとみられます(図表3の左側をご覧ください)。第1は、今後公表される4月分以降のハードデータでは、米国景気の減速を示唆するデータが増えるとみられる点です。第2は、トランプ政権が医薬品や半導体その他エレクトロニクス製品についての分野別追加関税率を公表する見通しである点です。第3は、マグニフィセント7を除く大型株については、2月19日につけた史上最高値の水準に大きく近づき、底値からのリバウンドによる株価上昇の勢いを維持しにくくなる点です。米国は景気後退こそ回避できる公算となりましたが、景気の悪化が引き続き視野に入っています。こうした中で、テック以外の銘柄群の株価が割安とは言いにくい水準に達するのであれば、その株価上昇ペースは減速する可能性が高いと考えられます。
3つのサポート材料
それでも、グローバル株式市場では、今後、以下の3つのサポート材料が顕在化することから、トランプ政権の関税政策が想定外に強硬にならない限りは、株価の大幅な下落が回避され、今年後半には株式市場における前向きの動きが強まる公算が大きいと見込まれます(図表3の右側をご参照ください)。第1が、米国が主要な貿易相手国との間で通商ディールを結ぶことで、米国のインフレ率が大きく上振れるとの警戒感が低下するとみられる点です。締結されたディールによる米国輸出の増加や米国向け直接投資の増加による経済効果が今年末までには徐々に強まるとみられる点も、米国株式市場をサポートするとみられます。第2が、FRB(米連邦準備理事会)の利下げが年内に実施される可能性が高い点です。私はこれまで6月ないしは7月における利下げの再開を予想してきましたが、直近で米中合意などディールの動きが進捗していることや、現段階でFRB高官が利下げ再開に距離を置いた発言を繰り返していることを受けて、今年後半に2回の利下げが実施されるとの見方に変更したいと思います。第3が、米国での減税や欧州での防衛・インフラ支出増加策などの積極的財政政策の発動が視野に入る点です。トランプ関税や米政権とのディールは貿易相手国・地域での景気にマイナス効果をもたらすことがほぼ確実な情勢になってきました。これに対して、欧州だけではなく、日本や中国、その他新興国では財政政策を出動させる動きが強まってくると考えられます。

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