ワクチン接種のスピードが株価を左右
要旨
ワクチン接種が日米欧の株価を決定付ける要因に
4月における主要株価指数の騰落率が「米国>欧州>日本」の順になったのは、ワクチンの接種動向を反映した面が大きいと考えられます。大陸欧州主要国では4月に入ってワクチン接種のペースが加速してきており、米国を1カ月強程度遅れて追いかけるような形で接種が進んでいます。
欧州主要国はロックダウン緩和計画を相次いで発表
英国、フランス、イタリアなど欧州の主要国ではロックダウンを部分的に緩和したり、将来の緩和についての見通しを公表する動きが相次いでいます。これらの緩和措置は、一定のペースでのワクチン供給を前提にして、国民の不満を鎮める意図があるとみられます。
変異株によって欧州の感染が再拡大する場合の金融市場シナリオ
欧州については、感染が再拡大するリスクは無視できません。その場合は、米国・英国に株式・債券投資資金が一時的に集まる可能性が高まり、グロース株に対して比較的強いプラス効果が及ぶでしょう。他方、現在の欧州市場において感染が再拡大するリスクが意識されている点は、今後の感染抑制が視野に入る時点で株価上昇余地が残っていることも意味します。
ワクチン接種が日米欧の株価を決定付ける要因に
4月は日米欧の主要株価指数が共に堅調に推移した3月から一転し、これらの地域の騰落率に大きな差が生じました。4月の騰落率は、S&P500種指数が5.2%であったのに対し、欧州STOXX600指数は1.8%にとどまり、日経平均株価はマイナス1.3%となりました。3地域の株価パフォーマンスに大きな差が出たのは、ワクチンの接種動向による面が大きいと考えられます。米国については1.9兆ドルの経済対策法(米国救済計画)に伴う経済効果が相応の株価押し上げ効果をもたらした面がありますが、法案成立が3月11日であったことを考慮すると、財政政策による株価押し上げ効果の大半は3月までに顕在化したと考えて良いでしょう。日本については4月中旬に日米首脳会談が開催されたこととの関連で日中関係の悪化に対する懸念が強まったことが中国関連銘柄の株価押し下げに寄与しましたが、それだけでは欧米との株価パフォーマンスの差を全て説明することは難しいと考えられます。日本ではワクチン接種がG7諸国で最も遅れる中、まん延防止等重点措置の実施や緊急事態宣言の発出が株価の押し下げにつながりました。
OWID(Our World In Data)が収集したデータで各地域のワクチンの接種状況をみると、5月4日時点において、1回でもワクチンを接種した人々の全人口に対する比率は、主要先進国の中では英国が51.3%と突出して高く、米国が44.2%とこれに続きました。ドイツ、フランス、イタリア、スペインにはそれほど大きな差はなく、24.2~29.3%の範囲に入っていた一方、日本は4月29日時点で2.0%と非常に低い水準でした(図表1)。大陸欧州主要国では4月に入ってワクチン接種のペースが加速してきており、米国を1カ月強程度遅れて追いかけるような形で接種が進んでいます。ワクチン接種で大陸欧州主要国の1カ月強先を行く米国において景況感が大きく改善する中、大陸欧州の経済が改善し始めるのは時間の問題ととらえた金融市場参加者が欧州株式に対して比較的強気のスタンスを維持しているとみられます。
欧州主要国はロックダウン緩和計画を相次いで発表
欧州の主要国では、ロックダウン措置を緩和する計画が相次いで公表されています(図表2)。ワクチンの接種が比較的速いペースで実施されてきた英国では、4つのステップでのロックダウン緩和計画に沿って3月8日からロックダウン措置の解除が進められています。4月12日からは第2ステップとして、飲食店の屋外での営業が認められました。今後は、コロナの感染状況の改善に合わせて、第3ステップとして、5月17日以降に屋内での飲食店営業を認めるなどの緩和措置がとられ、6月21日以降には、第4ステップとして社会的制限措置が全て解除される見通しです。フランスやイタリアでも、4月下旬から5月上旬からロックダウン措置が一部緩和されており、今後も感染状況の改善に合わせてさらに緩和される見通しです。EU(欧州委員会)は居民のワクチン接種について、夏の終わりまでに成人の70%への接種を完了する目標を掲げていますが、ブルームバーグによるEUの内部文書についての報道(4月6日付)によれば、ドイツ、フランス、イタリア、スペインでは全人口の55%超が6月末までに必要なワクチン接種を完全に終えることができるとのことです。
これらの緩和措置は、基本的にはワクチン接種率の上昇が見込まれることに伴うものであり、一定のペースでのワクチン供給を前提にして、将来の制限措置の解除を計画として示しています。長引くロックダウンによって欧州各国の国民の不満が高まる中、具体的な解除の目安を示すことで企業や消費者に将来への希望をもたらす意図があると言えます。その意味で、これらの国々にとってワクチンの供給は極めて重要であり、仮に何らかの理由でワクチン供給が計画通りにいかずに遅れる場合には、欧州居民へのワクチン供給を優先するため、欧州からの他国へのワクチン輸出を抑制する措置が講じられる可能性があると言えるでしょう。この点は、日本が欧州製のワクチンを確保するうえでのリスクと言えるでしょう。
ただし、ドイツでは感染問題への対応が逆に強化されています。感染問題への具体的な対応はこれまで州政府が主体となって取り組まれてきましたが、感染拡大にもかかわらず州による対応には差がありました。感染の拡大が止まらないことを受け、感染問題への対応を強化する連邦法が4月に成立しました。この新法の下、人口10万人あたりの週間新規感染者数が3日連続で100人を超える都市・地方にロックダウンが義務付けられました。
変異株によって欧州の感染が再拡大する場合の金融市場シナリオ
ドイツでのロックダウン措置が強化されているからといって、直近における新規感染者数の面でドイツが突出しているわけではありません。欧州主要国の中で人口当たりの新規感染者数が最も多いのはフランス(人口100万人あたり日次で350人程度)であり、ドイツとイタリア、スペインがほぼ同水準(同150~200人程度)です(図表3)。大陸欧州主要国では感染者数が高水準のまま推移しています。感染が速いペースで拡大しているにもかかわらずフランスやイタリアでロックダウンが緩和されている点や、二重変異株がインド等で猛威をふるっている点、一部のワクチンが効きにくい変異株が拡大しつつある点などをふまえると、ワクチンが行き渡るまでに変異株によるコロナ感染が再拡大するリスクは無視できません。欧州で感染が再拡大する場合には、感染収束に近づく米国・英国に株式・債券投資資金が一時的に集まる可能性が高まり、グロース株に対しては比較的強いプラス効果が及ぶでしょう。
他方、現在の欧州市場において感染が再拡大するリスクが意識されている点は、今後の感染抑制が視野に入る時点で株価上昇余地が残っていることも意味します。6月にかけてワクチンの接種が順調に進展し、ロックダウン措置が解除されていけば、大陸欧州の株価にはもう一段の上昇余地があると考えられます。
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